表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
302/388

第二百九十七話 オーガの角の秘密

 ディアボリ城から戻り、再びアモールの館。

 マイは出発の準備をするために一度自宅へ帰った。

 彼女にとって思わぬマカレーナ行きになり、支度(したく)する時間は掛かるだろうと出発は明日にした。

 女王に頼まれているアスモディア滞在期日の限界だ。

 私たちが帰国した後、女王は国内や外国への外遊の計画があるという。

 飛行機の製造費用を多くを出してくれている国の手前があり、これ以上延びると迷惑がかかる。

 遅れたらペナルティがあるわけではないが、女王や大臣に叱られるのは私だ……


 オフェリアとスヴェトラさんはアモールに書斎へ呼びつけられる。

 二人とも何事かと不思議な顔をしていた。


『アモール様、何でございましょう?』


『オフェリア、あなたの休みを一ヶ月から一年間に増やすわ。

 その代わり人間の国で見聞を広め、マヤさんに付いて修行なさい』


『いいいいい一年ですかあ!?』


『オフェリア、良かったな。あんたがいない分は私が頑張るからさ』


『もし帰ってこなかったら他のオーガ族を雇おうかしら。フフフ』


『あああアモール様冗談きついですよ…… 帰って来ますから…… ううう』


 そうしてオフェリアはアモールから、イスパルにて一年間の滞在を命ぜられる。

 一年後にはアスモディアへ帰らなければいけないが、オフェリアの私に対する気持ちはその後どうなるのだろうか。

 次に呼びつけられたのはエリカさんだ。


「あー、何ですかお師匠様…… お腹が空いて仕方が無いんですけどぉ」


 まだお(かゆ)しか食べさせてくれないエリカさんは少々機嫌が悪い。


『我慢しなさい。消化が悪い物を食べたら胃に穴が空く。

 あと三日経って便通が良ければ野菜を普通に食べても()い。肉は一週間後だ』


「はぁ…… で、そんなことを言いに呼んだんじゃないですよね?」


『マヤさんが男に戻らないから、あなたには男に戻る魔法を作り直して欲しいの』


「は…… はええ!? マヤ君が男に戻らないなんて初耳ですよ!?」


 私が女になったことも、わざとなのかアモールはエリカさんに伝えず再会して驚かせ、男に戻らないことも翌日の今日になって言う。

 エリカさん自身は復活したばかりでいろいろ混乱しているはずだから、負担を掛けないようにした理由があるかも知れないが……


『私の解除魔法では人間に通用しないようだ。魔族相手には完璧なんだけれどね』


「それじゃあ、どうすればいいんですか?」


『これが性転換とそれを戻す魔法書よ』


 アモールはエリカさんに魔法書を手渡す。

 まるで、ホッチキスで留めた小学校の文集のようである。

 それを見たエリカさんは難しい顔をする。


「――魔法書って…… どう見てもメモ紙を綴じただけにしか見えませんが」


『この魔法は売り物にしていない、ただの写本だ。

 それをおまえが解析をして、人間用に作り変えるしか方法が無い』


「それだけならお師匠様がやったほうが良いんじゃないですかあ? ブツブツ……」


『恐らく触媒に人間の男の体液が必要になる。

 人間の男はアスモディアに存在しないし、私はあまりここを離れられない。

 マヤさんに体液を採取させ、おまえが作り直した新しい魔法を唱えるのよ』


「たたた体液って…… 可愛いマヤ君に男の◯◯を…… うきゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 エリカさんは頭を押さえ、床でジタバタ転げ回っている。

 体液を何のことだと思っているのだろうか。


『女になるときはパトリシアさんの唾液を多量に与えた。

 だから唾液が望ましいわね。ダメなら◯◯か血液しか無い』


「け、血液でやってみます……」


『それをやってくれる男を探すのが大変ね』


「身内…… パティちゃんの父親のガルシア侯爵なら受けてくれると思いますが……」


『そう、いいわ。あなたたちに任せる。頑張って魔法を作り直しなさい』


「元はと言えばお師匠様の魔法が欠陥なのに…… ブツブツ……」


『何か言った?』


「いっ いえ! 一生懸命やらせて頂きます、はい!」


 こうして、アモールが発端の性転換魔法で元の性に戻らない問題は、エリカさんに丸投げ…… いや、託されたのだった。


---


 出発を明日の朝にしたので、準備した荷物を飛行機に載せる。

 マルヤッタさんにはまだ飛行機を見せていなかったので、荷物を載せるついでに見学してもらうことにした。


『え? 荷物を載せる? 馬車で行くんですか?

 私、歩いて行くのかと思いました』


「いや、付いてきてもらえばわかるよ」


 飛行機は館の庭の陰に駐機しているので、正面玄関からは見えない。

 私はマルヤッタさんをそこへ連れて行った。


『な、な、何なんですかこれは!? まるで(いにしえ)のアーティファクト!?』


(いにしえ)じゃないし。私が考案して人間の国の工場で作ってもらってつい最近出来上がったばかりなんだよ」


『ひえぇぇぇ!! あなたもしかして天才なんですか!?』


 私は昔作った模型飛行機を思い出して真似て簡単に設計しただけなので、本当に凄いのはラウテンバッハの人たちなんだけれど。


「まあいろいろあってね。魔力を大量に消費するから私ともう一人アイミだけしか動かせないんだ」


『ああ、あの変な魔女っ娘ですか。何者なんですかあの子は?』


「ちょっと変わった子だけれど、害はないから。あははは……

 で、君の荷物は最初から持ってるそのリュックの中身と杖だけでいいんだね?」


『はい』


「じゃあ中の荷物室でいいか…… 中へ入ろう」


 私は飛行機のタラップドアを下ろし、二人で乗り込む。

 マルヤッタさんは得体の知れない乗り物に恐る恐るとタラップを上がり機内へ入っていった。


『わあああ! 広い! それに随分豪華な作りなんですね!』


「イスパルの王室も使うからそういうふうに作ってるんだ。

 さて、マルヤッタさんの席は…… 三番目かな」


 最前列と二番目はパティやビビアナたちが使うので、復路で新たに増える搭乗者のマルヤッタさん、オフェリア、マイはその後ろに座ってもらう。

 機内後部にはすでに荷物がたくさん積まれていた。

 ほとんどパティの物だ。

 本が何冊も入った箱があり、きっと街で買ってきた魔法書やBL本だろう。

 マルヤッタさんの荷物と杖をそこへ置く。


『うひょー! ふかふかの椅子!』


 荷物を置いたマルヤッタさんは早速座席の柔らかさを堪能してる。

 女王も座る特製の座席だからなあ。随分金が掛かってるよ。


『あっ マヤさん。やっぱりここにいたんだね』


 そこへ給仕服姿のオフェリアが荷物を持って機内へ入ってきた。

 後で案内するつもりだったが、丁度良かった。


「おお、オフェリア。荷物はそれだけでいいの?」


『私、あんまりたくさん服を持っていないからこんなものですよ』


 彼女は円筒状の大きなバッグ…… というか袋を一つだけ持っていた。

 給仕服以外、プライベートではいつも軽装だったからなあ。

 長期滞在になるから、オフェリアの服を新たに何着かオーダーメイドで作るしかないか。


「じゃあ、奥に荷物を置いたらこっちへおいでよ」


『はぁーい』


 オフェリアが荷物を置くと、狭そうにしてこちらへやって来る。

 そりゃ身長二メートル越えじゃなあ……


「オフェリアは四番目の席を使ってよ」


『わああ。すごい椅子ですけれど私がここに座ってもいいんですか?』


「他には操縦席しか無いから、いいんだよ」


 オフェリアが座席に座り、キョロキョロと物珍しそうに喜んでいる。

 機内の高さは彼女の大きな身体では十分とは言えないが、座る分には快適そうだ。

 身長百八十センチのガルシア侯爵がゆったり座れるように座席間隔を拡げて設計している。


 このまま遊覧飛行と行きたいところだが許可を取っていないので、赤黄青ドラゴン以外のディアボリ飛行警備隊に見つかったら面倒なのでやめておく。

 アスモディアの国内をもっと自由に冒険でもしてみたかったんだけれど、如何せん魔法の勉強やランジェリーデザインの宿題もあったり、中でやることが多すぎた。

 唯一、チャオトン村へ出掛けたのが息抜きになったので、また行ってみたいね。


 ――前の席に座っているマルヤッタさんはすっかり気に入ったようで……

 あれ? スヤスヤと寝てる!


「おーい、マルヤッタさん!」


『ぁぅ…… ああ…… あ? すみません、あんまり気持ちよくて…… えへへ』


「こんな豪華な椅子を作ってもらった甲斐があったよ」


『私、どこでも寝られますからこんな素敵な椅子だとあっという間に寝ちゃいますね、フフン』


 何故か得意げに話すマルヤッタさん。

 でも私は寝付きが悪いので羨ましいな。

 あれ、オフェリアが静かだな。

 顔を覗くと…… えっ…… 寝てるし……

 この座席はそんなに寝心地がいいのか?

 私は操縦席ばかりだから、誰か変わってくれないかな。

 アイミは宙返りして遊びそうだから不安である。


『このオーガ女もどこでも寝られるタイプなんですかね』


「かもね。おいオフェリア、起きろ」


 私はオフェリアの頭にある二本角の片方を握ってゆさゆさ揺らす。

 確か角に触るのは初めてだ。


『んやんっ!?』


 びっくりした。何という叫び声で目が覚めるのだ。

 するとオフェリアは顔を真っ赤にしてこう言う。


『ままままマヤさん! エッチです!』


「ええええっ!?」


『オーガ族の角は触られると感じやすいんですぅ!』


「知らないよそんなのお!!」


『あ、私聞いたことがあります。オーガ族の角は付け根に神経が集まっていて、触るとムズムズ感じるんだそうです』


 マルヤッタさんがそう説明する。

 なんだろう、脇の下や足の裏みたいなものかな。

 こちょこちょしたらどうなるんだろうか。よし。


 ――こちょこちょこちょ


『あふんっ ああっ はぁぁぁん!』


「あら……」


『マヤさん酷いですぅ…… うぅ……』


『ダメですよマヤさん。オーガ族の角はそういうくすぐりの感じ方とは違うんです。

 太古の昔、魔族と戦争をしていた時に私たちエルフ族はオーガ族の弱点を研究して、【角をムズムズさせる魔法】を使って撃退した歴史があるくらいなんですよ』


「そ、そうだったのか…… オフェリアごめんね」


 完全に性感帯じゃないか。

 ましてオフェリアだと慣れてなさそうだから悪いことしたな。

 しかしエルフの【角をムズムズさせる魔法】って変な魔法があるんだな。

 ディアボリ城にもいた屈強なオーガ男もあんなふうになるのだろうか?

 想像はしたくないが…… エルフはオーガ族の天敵ということになるのかね。

 マルヤッタさんがオフェリアを直接嫌ってるふうには見えないが、昔の話だしこの魔族に国へ旅をしてきたのだから露骨に嫌というわけではないのだろう。

 ただ飛行機に荷物を載せるだけでいろいろ発見があったよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ