第三話 異世界ネイティシスで目覚める
2026.6.10 全体的に見直し、加筆修正を行いました。
気がつくと、私は一本の木の根元に座っていた。
周りを見渡すと、幾つもの丘が見える広い草原の中に私は一人ぼっち。
所々に木が生えている。日本ではあまり見ない風景だ。
目の前には土の道がある。
田舎の田んぼ道のような轍があり、視界が見えなくなる向こうまで延々と続いているのが見えた。
時代背景がわからないが、この轍は自動車のものではない。
蹄の跡がある。これは馬車の轍だろうか。
女神様が言っていたこの世界【ネイティシス】は、さほど文明が進んでいないようだ。
恐らくこの道は、街と街を繋ぐ街道だろう。
――おや?
私はきちんと服を着ている。
あの白い布のままここを歩いていたら、本当に奇人になるところだった。
服装は、黒い革ジャンに黒いカーゴパンツ、黒のスニーカー。
女神様からのプレゼントだと思うけれど、あまりに黒ずくめでセンスはいまいち。
近所のお店で見たことがあるような気がするが、ブランド物ではなさそう。
安っぽさはあるけれど、そこそこ丈夫そうな物だ。
私は立ち上がると、革ジャンを脱いで身体を弄ってみた。
随分と身体が軽い。しかもお腹が引き締まっている。
うわっ インナーのシャツまで黒い。もしやぱんつも……
――ゴソゴソ
ベルトを外してカーゴパンツを半脱ぎして覗いてみたら―― やっぱり。
黒の前開き無しブリーフか。下着まで黒ずくめとは。
動きやすいのは良いけれど、トランクスかボクサーパンツにしてくれれば良かったな。
その黒いシャツをめくって見ると、お腹がブヨブヨしていないどころか腹筋が六つに割れている。
これって…… ええっ!?
確か、私が十八歳くらいの姿だ。
自分の顔を確認したいが、あいにく鏡を持っていない。
革ジャンやパンツのポケットを漁ってみる――
「うへえ!? 何にも無い!」
誰もいない場所で私は思わず叫んでしまう。
食べ物も無ければお金も無い。
無一文でこれからどうしろって言うのさ。
女神様がせっかく服を用意して身体まで若くしてもらったのに、もうちょっとだけサービスしてくれても良かったのではないか?
――しばらく途方に暮れていたが、ここにいても仕方がない。
街道のどちらかへ進んで行こうと考え、ザッと遠くを見渡す。
きっとこの道の先は街がある。
時間も東西南北もよくわからない。
太陽のような強い光で照らす恒星があるのは地球と共通だ。
それが見える方向がだいたい南と考えよう。
右方向、東は遠くに森があるのが見えたので、左方向、西の拓けた方へ歩くことにした。
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もう一時間近く歩いただろうか、田舎道のせいか誰一人見かけない。
そして街道は森の中へ入っていった。
せっかく木が少ない方向へ進んだのにあまり意味が無かったな……
数キロも歩けば体力不足の私ではドッと疲れているはずだが、不思議なことに全く疲れていないどころか調子がいい。
この若い身体になって、体力が上がっているのだろうか。
そのまましばらく歩き続けると、あちこちの木陰からガサガサと音がした。
すると、急に男たちがぞろぞろと出てきた。
「うわあ…… 俗に言う荒くれ者か? こいつら絶対ヤバいよな……」
姿はどう見ても世紀末の野盗のようで、五人いる。
一応、地球の人間と同じだが顔つきは西洋人風だ。
この世界に来て初めて出会った人間がこんなやつらとはついていない。
こんなに人がいなけりゃ盗る物も無いだろうに、何故こんなやつらがいるのか理解不能。
野盗は斧やサーベルを持っている。
勿論私は武器も何も持っていない。
前の人生では格闘技の経験がなく、喧嘩に強いわけでもなかった。
おいおい。せっかく生き返ったのに早くも第二の人生が終わってしまうのか?
だがこんなことを考える余裕がある。
そのくらい、全く恐怖感が無いのが不思議だ。
「ヒャッハー! おい、兄ちゃんよ。有り金と持っている物をよこしな!」
あいつらが喋っている言葉がわかる。
聞こえてきたのが日本語ではないから、私が言葉を理解出来る力を持っているということか。
それにしても、ヒャッハーってリアルで言っちゃう人がいるとはな。
待てよ? 兄ちゃんと呼ばれたということは、私がおっさん顔ではないということか。
取りあえず、下手に出て様子を見ることにする。
「――いえ、お金も物も何もありません。無一文なんですが……」
「ハアァァ!? なんだこいつ、長い時間待ち伏せていてこれかよ。本当かあ?」
「本当です。何なら裸になりましょうか?」
「は? バカなのかコイツ。なんかムカついた。ヤッちまおうぜ!」
ムカついたら人を殺すんかい!
すごい世界に来てしまったな……
「うるぁぁぁぁぁ!!」
――ヒョイッ
野盗の一人が斧をぶるんぶるんと振り回しながら私に向かって攻撃をしてくる。
だがあっさりと躱すことができた。
あれ? 余裕で野盗の動きが見える。
斧がゆっくり回っているように見えるので、簡単に回避できそうだ。
「むぅぅ? 何で当たらねえんだ!? おまえらもやれ!」
斧を持った太った男、サーベルを持ったモヒカン、シミターを持ったスキンヘッドが一斉に飛びかかってきた。
しゃがんで太った男にキック、回り込んで後ろからモヒカンにチョップ、それを見てスキンヘッドが狼狽えた隙に顔面パンチ。
なんと、まるで勝手に身体が動くように攻撃できた。
正確には戦闘経験があるかのように、脳神経に植え付けられている感覚だった。
太った男は起ち上がったが、モヒカンとスキンヘッドは倒れたままだ。
太った男と残りの二人がまた攻撃してきたが、パンチとキックで倒してしまった。
結果的に全員倒し、五人とも気を失っているだけで死んではいない。
私の戦闘能力は、少なくとも香港映画の拳法家並の強さであろう手応えがあった。
これは元々あった力が目覚めたせいなのか、女神様から与えられた力なのか。
厳しい修行をしていないのにこれだけのことが出来るなんて、本当に頭に植え付けられたような気分だ。
――野盗が気絶しているうちに、懐を漁ってみた。
食べ物は私でも食べられそうな干し肉を持っていたが、こいつらもほぼ無一文だった。
服はぼろっちいし臭いのでいらない。
干し肉だけ頂いていくことにした。
大丈夫かなコレ? 日本人が食べて腹を壊さないだろうか。
武器はどれも汚いし、素手でこれだけ戦えるのならば不要だ。
しかし、またこいつらが人を襲っても良くない。
武器を少し離れた草むらへ隠し、自然に見えるように枯れ草を被せておいた。
野盗襲撃のお陰で、私には体力、動体視力、筋力、素手の戦闘能力、恐怖耐性など、人並み外れた力がついていることがわかった。
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野盗を林の中へ放置して、再び歩み始めた。
半時もしないうちに、今度は人型の小さな何かがたくさん出てきた。
「ぎゃあ! 気持ちわるっ」
漫画やアニメで見たことある。これはゴブリンか!?
スンスン…… こいつらイカ臭い!
女神様が言っていた魔物とはこれのことか。
と思っているうちに、いきなり襲いかかってきた。
十五匹はいると思う。
ほとんどのゴブリンがナイフを持っており、中には弓や槍を持っているやつもいた。
ゴブリン語なのか、言葉とも言えない奇声をあげてくる。
『キー! キー! グルグル―― ギャヒー!』
ゴブリンが一斉に私の方へ向かって攻撃を仕掛けてくるが、難なく攻撃を躱す。
さっきの野盗と違い本当に殺すつもりで、一番最初に向かってきた一匹の首を力一杯にチョップ。
すると頭がちぎれ、コロンと落ちた。
えぐい……
数が多いので無我夢中で攻撃を躱しながらチョップをする。
ゴブリンたちはまるで刀で切ったように身体が真っ二つになったり、身体がバラバラになってしまった。
昔読んだ世紀末漫画の拳法のようだ。
殺気を込めて攻撃すればこういうことになるのか。
――全部片付けるのに何分もかからなかったように思う。
ううう…… 切断面がグロテスクだ。
臓腑や腸も飛び散ってる。
自分でやっていてなんだが、吐きそうなほど気持ちが悪くなってきた。
ゴブリンの死体が道に散らばっているので、通行の邪魔になりそう。
触るどころか見るのも嫌だし、さてどうしたものか……
するとカラスに似た大きな鳥や狼っぽい動物があちこちから集まってきたので、血のにおいを嗅いできたのだろう。
目の前に食べ物があるので、私を襲う様子は無い。
人の通行は滅多に無さそうだし、片付けはそいつらに任せて先へ進む。
狼が来たのに怖くないとは、すごい恐怖耐性だな。
そういえばゴブリンの返り血を浴びたはずなのに、衣服は綺麗なままだ。
傷も無い。
この革ジャンとカーゴパンツは女神様のご加護があるアイテムなのだろうか。
汚れない衣服とは実にありがたい。
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さらに二時間ばかり歩く。
もう十キロは歩いていると思うが街道の両側は森林が続くばかりで、街と街の間の距離がずいぶん長いのか。
時々動物のような鳴き声は聞こえるが、あれから魔物が出る気配は無い。
サリ様はとんでもない田舎道に落としてくれたものだ。
いい加減、腹が減ってきたな……
盗賊から奪い取った何の肉なのかわからない干し肉を食べてみたが、日本で売れていたビーフジャーキーと比べればクソみたいに不味かった。
腹を壊さないかな……
量が少なかったので腹が減ったままだ。
死ぬ前に職場で昼食をとってからまともな食事をしていないので、お腹がグーグー鳴っている。
いくら体力があってもこの腹の減りようでは元気が無くなってくる。
はぁ…… どうしよう。
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空腹に耐えながら先を進むと――
――バサッバサッバサッッ 『ギエェェェェェェッッ』
「やあ! えいやあ!」
という鳥のような鳴き声と、人の叫び声が聞こえてきた。
人がいるのなら、急いで行ってみよう。
走っても身体がすごく軽いし、疲れや息苦しさを感じない。
速さはプロスポーツ選手の全速力並のようだ。
(女神サリ視点)
フンフン、無事にネイティシスへ降りたようね。
なんかプレゼントした服に文句言ってるようだけれど、超高い防御力、汚れもはじいて洗濯不要!
マヤさんのサイズに合うよう日本のファッションセンターしまばらで私が買ってきたものに力を付与した、神の衣なんだからねっ
でもおっさんを十八歳に若返らせたら、なかなかいい男になってんじゃない。
力は彼が元から持っていたものが少しずつ解放されていってるわ。
雑魚の魔物や人間相手ならば余裕に倒せる力になっているからね。
また時々様子をみるから頑張りなよー




