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第二百九十三話 目覚め

 エルフ族のマルヤッタさんと街で偶然出会った翌日の朝、いつも通りに起きてみんなと朝食を食べる。


『いやあ、朝の食事もとても美味しいですねえ。

 このロールパン、バター入りですか?

 何も着けなくてもしっかり味があるなんて。モシャモシャ……』


 マルヤッタさんは幸せそうにパンを食べている。

 バターロールパンなんて日本では当たり前にあるが、東南アジアの国でパンを食べたら本当に味がなくて、何かと一緒に食べないととても食えたものじゃなかった。


『マヤさん、食事が終わったら早速エリカを起こす。

 あなたは書斎で待っていなさい』


「はい、わかりました……」


 ううう…… 何だか緊張する。

 ペンダントから魂が離れて約一ヶ月、エリカさんの身体が消滅してから約一年。

 単純に分かれていた期間は短いが、私やみんなを(かば)って犠牲になった彼女に再び会えるのだから、この喜びは例えようがない。

 実質的に死んだ者が生き返るという、常識では有り得ないことがこれから起きるのだ。


「私も…… マヤ様とご一緒してよろしいですか?」


「勿論だとも」


()()()も見に行くニャー エリカのバカ面を久しぶりに見るニャ」


「ああ、うんいいよ」


 ビビアナの場合、エリカさんとは喧嘩するほど仲が良いというやつだ。

 最初は悪口を言い合っていたが、いつの頃からかそれが減っていった。

 ビビアナが大猪の肉を食べ過ぎて身体が火照った時は、エリカさんが世話をしていたしなあ。(第二十九話参照)


(わたス)も…… いいですか?」


「いいよ、ジュリアさんもおいでよ。みんなでエリカさんを迎えよう」


 結局みんなでエリカさんを書斎で出迎えることにした。

 エリカさんはジュリアさんも好きだし、喜ぶだろう。

 アイミがニヤニヤとアモールに言う。


『私は地下室まで行くぞ』


『いいけれど、邪魔はしないように』


『しない。私は大人になったのだ』


『よろしい。食事が終わったらそのまま着いてきなさい。

 地下室でエリカを起こすのに一時間くらい掛かるから、マヤさんたちはゆっくりしてるといいわ』


「はい、わかりました」


『カメリア、あの子の着替えは用意してくれているわね?

 あなたも一緒に地下室へ来なさい』


『承知しました、アモール様』


 アイミは素直にアモールの言うことを聞いている。

 アモールの方が二百歳ばかり年上なのだが、それより力の上下関係でアイミはアモールから何かを感じているのかも知れない。

 最初に私と、アーテルシアだったアイミが戦った時、彼女はまだフルパワーを出していなかったように思える。

 だがアモールもまた力の底が知れないのだ。


 食事が終わると私たちは一度部屋へ戻る。

 私はチャオトン村で手に入れた道着を着ているので、エリカさんが私とわかりやすいように、最初マカレーナでよく着ていた黒の革ジャンと黒のカーゴパンツに着替えた。

 アモールが説明してくれると思うが、エリカさんは女になった私を信じてくれるだろうか。



(アイミ視点)


 朝食を食べ終えて、アモールとカメリアの後ろに付いて地下室へ行く。

 こいつらのケツ……

 男を誘惑するいやらしい形をしているが、私の尻のほうが良い形をしているぞ。

 マヤが男に戻ったら、私の尻で顔を踏んづけてやろう。


 エリカの新しい身体がある地下室へ着いた。

 前にもエリカの魂をその身体へ移すときに地下室へ入ったが、その時と変わらず部屋は臓腑(ぞうふ)のようなものが張り巡らされている。

 私は五百八十年以上生きているが、このような不気味な部屋は見たことが無い。

 この魔女は一体何者なのだ?


 臓腑(ぞうふ)の塊の中に大きな透明の袋があり、その中は液体に満たされエリカの裸体がへその緒と繋がれて眠っている。

 おっ 未形成だった皮膚が綺麗になっているな。

 身体は出来上がっているから、後はエリカがちゃんと起きるかどうか……

 アモールが透明の袋に手を当て、魔力を込めた。


『エキサイタレ、エリカ』


 そう言った後に中の液体がどこかへ排出されていく。

 エリカは液体の中で浮いていた状態だったので、液体が無くなると袋の底に倒れ込んだ。

 袋が溶けていき、アモールがその中へ入って行く。


『うわっ (くさ)いな。何だこの(にお)いは?』


 とても生臭い。

 エリカは臓腑の中で液体漬けになっていたのだからそれも当然か。

 だがアモールは気にせずエリカの身体をペタペタと触っている。


『ふむ、具合は良いようね。さて……』


 アモールがへその緒を掴むと、だらりと崩れるようにちぎれた。

 エリカのへそは綺麗に収まっていく。

 デベソだったら笑っていたんだがな。

 アモールはエリカの元でしゃがみ、声を掛ける。


『エリカ、起きなさい』


 ――エリカの反応は無く、何も起こらない。

 そんな声を掛けただけで起きるものなのか?


『いつまで寝てるの。早く起きなさい』


 アモールは優しく声を掛けているが、エリカのデカ乳を鷲づかみにして揉みしだき、もう片方の手で鼻を摘まむ。

 なかなか酷い起こし方で少し同情するな……


「――ぶはっ ゲホゲホッ ゲホォォォッ」


『やっと起きたわね』


「あ? う? お、お師しょ様? うぐっ うぷぷっ おえぇぇぇぇぇぇぇっ」


 エリカは口から液体をたくさん吐き出した。

 あいつを包んでいた液体と同じ物が体内に溜まっていたんだろう。


『私を認識して、液体を吐いたのなら身体はちゃんと機能しているようね。聴覚や嗅覚はどう?』


「がはっ がはっ げほっ お師匠さまぁ…… 酷いですよぉ…… なんか臭いし……」


『聞こえてるし、臭うのなら問題無さそうね。今からシャワーを浴びてもらうよ』


 アモールは手を掲げると、エリカに向かって魔法で放水をした。

 湯気がもうもうと立っているからお湯だな。

 まさに手からシャワーが出ているようだ。


「あーちゃちゃちゃちゃちゃ! あちゃぁぁぁぁ!! 熱いいぃぃぃぃ!!」


『ふん、熱もちゃんと感じるようね。こっちはどうかしら』


「ひいぃぃぃぃぃ!! (ちべ)たいぃぃぃぃぃぃ!! うきいぃぃぃぃ!!」


 今度は冷水か?

 目覚めて早々、拷問のようなテストをするとは……

 血も涙も無い、本当の魔女だな。

 私でもゾッとする。


『そっちも大丈夫のようね。エリカ、立ち上がれるわね?』


「ううう…… もう何が何だか…… シクシク」


 エリカは半泣きでゆっくり立ち上がり、よろよろと歩いて臓腑(ぞうふ)の外へ出た。

 そしてアモールも外へ出る。


『カメリア、タオルで拭いてあげなさい』


『はい、アモール様』


 カメリアはエリカの元へ行き、バスタオルで丁寧に拭いてあげていた。


「カ、カメリア…… ありがとう」


『久しぶりね、エリカ。マヤさんたちが待っているわ。綺麗にして再会しましょうね』


「は!? マヤ君が待ってるの!? それならみっともない姿を見せられないわ!」


 エリカはマヤの名を聞くと、急に目をキラキラさせ元気が出た。

 そんなにあいつに会いたいのか。


「ああ!? アイミまでいたの? イヤあねえ……」


『ククク…… 無様な格好だったな。ここにマヤがいなくて良かったぞ。ククク』


「見せられたモンじゃないわよ…… まったく……」


『エリカ、鏡で自分の姿を見てみなさい。魂を入れる前に説明したはずだけれど……』


 アモールがまた手を掲げると、エリカの目の前の空間に長方形の鏡面が浮かび上がった。

 ちなみに私も鏡を出せるぞ。アモールの魔法とは違うがな。


「おおっ!! 十八歳の時の私だ! かぁわいいいい!!

 これならマヤ君は私に夢中だわ!」


『自分で可愛いって言うな。ああ、マヤは…… いや、何でもない』


「え? マヤ君がどうしたって?」


『後でお楽しみだ。ククク……』


 アモールもカメリアも何も言わないようだし、マヤのことは黙っておこう。

 エリカがどういう反応をするのか楽しみだ。うぷぷ


「なんか(かん)(さわ)るわね。まあいいわ。着替えはあるの?」


『ここに一式持ってきてありますよ』


「ありがとおカメリアあ! 早くマヤ君に会いたいわあ!」


『その前に髪を乾かしましょう』


『あっ よろしくう!』


 カメリアは手から温風を出す魔法でエリカの髪の毛を乾かす。

 エリカは気持ち良さそうにしているが、恥ずかしげも無くすっぽんぽん全裸だから見ていて滑稽(こっけい)だな。


 髪の毛を乾かし終えると、カメリアは着替えをエリカに渡した。

 白いハイヒールまで用意しているのか。

 そんなものよく魔族の国にあったな。

 ああ、マヤが持って来た物か……

 だとすると下着も凄いやつだな。ククク……

 エリカは早速ぱんつを履いてブラを着けている。


「紫のTバック…… マヤ君のブランドね。相変わらずエッチぃぱんつ。ぷぷぷ」


『前が透け透けじゃないか。おまえいつもそんなのを履いているのか?』


『私も履いているわよ』


『私もマヤさんに頂きました。とてもセクシーでワクワクしますね。ふふふ』


「なっ…… お師匠様やカメリアまで!? 何てことなの……」


 ああ、マヤがお土産にこいつらへ自分がデザインしたぱんつを渡してたな。

 女へのプレゼントにぱんつをあげる習慣が、マヤが昔住んでいた国ではあったようだ。


『私も履いてるぞ。うひひ』


「マヤ君ったらこんな子供にもエッチな下着を履かせてるのお!?」


『嘘に決まっておろう。私が今履いているのはクマさんぱんつだ。

 何でもマヤが昔いた国では流行っているらしい』


「あ、そう……」


 エリカはそそくさとスカートを履いて上着も着た。

 上下紺色のミニスカスーツってやつだな。

 マヤが喜びそうな服装で、再会したら早速わざと胸チラとパンチラをする気だろう。

 だがマヤは…… うぷぷ


『前にも言った通り、あなたは今日から魔族よ。

 新たに生成した身体の寿命は最低でも数百年以上、うまくいけば二千年は生きられるかも知れない。

 潜在的な魔力は人間だったときとは比べものにならないくらい上がっている。

 徐々に慣らしていけば強力な魔法を発することが出来るでしょう』


「この身体が…… へぇー」


 エリカは自分の両手の平を眺めて、力が上がったことに驚いている。

 ふっ 私ほどではないだろうがな。


『これも言ったけれど、おまえの身体をベースに作ったとは言え、人間との子供が出来る保証は無い。

 おまえの卵子も取ったから理屈では大丈夫だと思うけれどね……』


「嫌なことを思い出させないで下さい……」


『そうそう、おまえが十八歳だった身体から作ったわけだから、また処女ね』


「本当ですかあ! やったあ! またマヤ君に破ってもらえる!」


『はぁ…… 露骨だなおまえは』


 こいつはエロさを通り越して変態だな。

 ま、私が知ったことではないが。


『私とカメリアはここを片付けるから、エリカとアイミは先に帰りなさい』


「はい! アイミ!! 行くよ!」


『お、おう……』


 エリカはウキウキしながら出口に向かうが、アモールとカメリアは本当にマヤのことを黙ってやがる。

 しかもエリカの反応を自分で直接見ないで、想像をしてから後でエリカを揶揄(からか)うつもりなのか。

 私より悪いやつらだな。

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