表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
296/388

第二百九十一話 マルヤッタ、アモールの館へ

 朝から屋台街で私とオフェリアはデートしていたが、二人っきりで屋台街を歩き回ったのは僅か三十分余りだった。

 それは、お腹を減らしてフラフラと歩いていたエルフ族のマルヤッタとオフェリアがぶつかってしまうことから始まる。

 お詫びと何かの縁ということで、屋台で朝市名物のお粥を彼女に御馳走していろいろ話を聞いた。

 何でも人間の魔法と料理を学びに旅をしているとのことで、その途中でこのディアボリへ寄ったというわけだ。。

 マルヤッタをイスパルまで一緒に連れて帰る話になり、それまで屋敷に滞在できるかアモールに承諾を貰うことにする。


---


 アモールの屋敷へ帰る。

 短距離ならばマルヤッタも杖を跨いで飛ぶことが出来るので、お腹いっぱいになった彼女は単独で元気に飛び、私はまたオフェリアの手を繋いで飛んだ。

 マルヤッタは人間族でも魔族でも使われていない無属性の飛行魔法を使っているが、どういう理屈で飛んでいるのかわからないから、後で聞いてみようか。

 オフェリアは手を繋いでいるだけでニコニコしてくれているけれど、マカレーナ行きの件が上手くいくといいな。

 そして私とマルヤッタでアモールの書斎へ入る。

 アモールの魔力を感じるのでそこにいるのはわかっているからだ。

 そこにはいつものようにアイミが変な本を読んでニヤニヤしており、パティは真面目に魔法書で勉強をしていた。


「あら、マヤ様。どこかへ行かれてたんですか?」


「ちょっとだけ朝市へ行っててね」


 二人にはオフェリアと出掛けていたことは秘密なのだ。

 真面目に答えると面倒臭い。


「まあそうでしたの。で、その子はどこのどなたかしら?」


 パティの反応は予想通りで、私の周りはどんどん女の子が増えていくものだから彼女はしかめっ面になっていた。


『お? なんだそのちんちくりんは?』


「おまえが言うな。訳あって、市場で偶然出会ったエルフ族の旅人を連れて来た」


『ほう、エルフとな』


 アイミが、また私が面白いネタを連れてきたと思っているのか、悪い笑いをしている。


「エルフ族ですって!?

 本で読んだことしかなかったのに、まさかここで会えるとは思いませんでした……

 旅のお方なんですね。でもどうしてマヤ様が?」


「パティ、君にはこの子について後で大事な話をしたい。

 その前にまずアモール様に話をしなければ……」


「わかりました」


 マルヤッタをマカレーナへ連れて行くにあたり、パティの協力が不可欠だ。

 パティは私がまた女を拾ってきたような誤解をしている気がするが、マルヤッタは私に対して恋愛感情を持って付いてきたのではないし、丁寧に説明しておきたい。


『はは初めまして、マルヤッタ…… です……』


 マルヤッタは緊張しながら名乗る。

 何と言ってもここはアスモディア最強である魔女の館なのだから、そうなってしまうだろう。

 アモールは魔力を抑えているとはいえ、奥の個室から魔力をぷんぷんと感じる。


『あの、あああのマヤさん。なななんですか、あの子供は……

 禍々(まがまが)しい妖気のようなものを感じます……』


 マルヤッタは震えながら指摘する。

 アイミのことだ。そうだ、コイツもいたんだ。

 同じく魔力を抑えているが、妖気とは言い得て妙だな。

 確かにアイミは人間や魔族の魔力とは別で、邪神だった名残がある。


「まあ…… 害はないから安心してね。

 この子はアイミといって私の仲間なんだけれど、詳しいことはまた追々とわかるので…… ははは」


『ひっひっひ、よろしくな』


 話し方がまるで魔法使いの婆さんみたいである。


「それからこっちの女の子はパトリシア嬢」


『よろしくお願いします……』


(わたくし)はガルシア侯爵家長女、パトリシア・ガルシアと申しますの。

 マヤ様とは一心同体の清く麗しい仲なんですよ。オホホホ」


『は、はあ……』


 と、パティはカーテシーで挨拶をした。

 私との仲をアピールしているが、日本で最近流行の悪役令嬢にはならないで欲しいぞ。

 それはそうと、アモールにマルヤッタのことをお願いせねば。

 するとアモールが個室から出てきた。


『何事? 珍しい魔力を感じたけれど、誰か連れて来たの?』


「アモール様。市場で偶然旅のエルフ族の子と知り合って、訳ありで連れてきたんです」


(はわわわわ…… あれが、お爺ちゃんが言っていたアモールなんだ……

 わかる…… わかるよ…… 直接外からじゃわからないけれど、身体の中に立ちこめている恐ろしいほどの魔力を隠している。

 あんなのと戦ったら絶対に勝てるわけがない……)


『エルフか…… あなた、お名前は?』


『マルヤッタ…… です……』


『今いくつなの?』


『百八十三です……』


『ふーん…… 戦争を知らない世代か。で、何しにこの街へ来たの?』


『に、人間の国へ魔法と料理を学ぶために途中で寄っただけです……

 それでマヤさんに偶然お会いして、お話を聞いて人間の国へ連れて行って下さると……』


『魔法ならば私たち魔族の…… ああ、あなたは闇属性を持っていないのね』


『人間はとても便利な生活魔法がたくさんあると聞きましたので、それを……』


 マルヤッタはアモールの目をまともに見ることが出来ず、目線を少し下にずらしている。

 彼女の能力でアモールの何か感じているのだろうけれど、蛇に睨まれた蛙のように動けないようだ。


「私たちと一緒にイスパルまで連れて帰って彼女の希望を叶えるつもりです。

 それまで彼女をこの屋敷に滞在する許可を頂けませんでしょうか?」


『そう…… 閉鎖的なエルフ族が外国で勉強したいというのも、時代が変わったのかしら。

 昔のこともあるが、それはいいでしょう。この屋敷に滞在することを許可します』


「ありがとうございます。良かったね、マルヤッタ」


『ありがとう…… ございます……』


 アモールがあまりにあっさりと許可をくれたから拍子抜けた。

 もっとも、アイミがいるくらいだからかつての敵だったエルフ族でも取るに足らないと言うことか。

 それからアモール自身が丸くなったのと、私のことを信用してくれているのだろう。

 ベッドの上で身体を張った甲斐もあったということだ。うへへ


『部屋を用意させるからそこを使いなさい。食事も私たちと一緒で構わない』


『ありがとうございます……』


「マルヤッタ、早速人間族風の料理が食べられるよ。

 連れてきた私の仲間が二人、料理が上手でね。

 この屋敷のオーク族に料理を教えてるんだよ」


『ええ!? そうなんですか? 楽しみですぅ!』


 緊張していたマルヤッタは料理の話を聞くと、顔が急にパアッと明るくなった。

 余程私たちの料理を期待しているのか。

 夕食はビビアナたちに、いつもより変わったメニューを用意してもらおうかな。


『あの…… その…… こんなに良くしてもらっていいんですか?

 何か見返りが必要ではないのですか?』


『正直に言おう。エルフ族に見返りを求めようにも、欲しいものなど無い……

 おまえたちは頭が硬く、魔法も威力ばかり大きくて古臭い。興味が無いの。

 人間の魔法のほうが面白いわ。

 それ故にあなたは人間の国へ行ってみたいと思ったのかしら』


『――』


 図星だったのか、気を悪くしたのか、マルヤッタは何も言い返せない。

 日本にある閉鎖的な田舎の集落みたいなものか。

 魔法の威力が大きいのは気になる。

 古臭いというのは古代魔法が中心なのか?


『私が一番興味あるのはそこにいるマヤだ。

 何故かはそのうちわかるだろう。ふふふ……』


 それを言い終えると、アモールは個室へ戻っていった。

 マルヤッタは私の顔を見上げる。

 うーん、私のことを彼女にどう話せば良いのやら……


「そうですかそうですか。

 マルヤッタさんをウチへ招かれると言うことですね」


 パティが明らかに作り笑いで私に言う。

 察しが良いのはいいが、やはり私が女の子をどんどん連れてくることに思うことがあるらしい。怖い……


「そういうわけです……

 マカレーナで彼女に魔法と料理を勉強してもらおうかと思って。

 パティも魔法の勉強をお願い…… 出来るかな?」


「はっ…… いいですわ。

 エルフ族の方にお勉強を教えて差し上げることなんて、そんな機会は一生無いですから」


「それでもう一人なんだけれど……」


「今なんと(おっしゃ)いました?」


「もう一人…… オフェリアも連れて帰りたいんだ」


「あ…… ああ…… ――オフェリアさんはどうしてですの?」


 パティは額を押さえてクラクラしている。

 ここにオフェリアがいなくて良かった……

 どうしてかと本当のことを言えば私に好意を持っているからであるが、今は適当な理由を付けておこう。


「彼女も人間の国を見てみたいんだってさ。

 興味本位じゃなくて、文化を知る向学のためだよ」


「そうですか…… わかりました。

 帰ったらお父様や(じい)にお願いしてみます。

 マヤ様が女性になってしまいましたから、一気にいろんなことが我が家に押し寄せて混乱してしまうでしょうね。うふふ」


『あの、なんかすみません……』


「ご心配なさらずに。

 何てったって我が家にエルフとオーガが住むことになるんですから、それは恐らく我が国初でしょう」


 マカレーナへ帰ったらガルシア家がパニックになることは想像に容易(たやす)い。

 部屋が足りなければどこか家を借りないとなあ。


「ありがとう、パティ。またお世話になるよ」


「どーんとお任せ下さい! (わたくし)はマヤ様の第一夫人になるんですから!」


 パティはドヤ顔で、胸を右手の平で押さえる。

 とても頼もしいぞ。


『え? 第一夫人って、マヤさんとパトリシアさんはご結婚なさるんですか?

 ということは、もう第二夫人候補もいらっしゃるんですか?』


「あっ まだ説明してなかったけれど、私たちが住んでいる国イスパル王国は一夫多妻制なんだよ。

 第二がヴェロニカで第三がマルセリナ様、第四が…… 何人いたっけ?

 それにはまず男に戻らないと何も出来ないんだけれど…… あはは」


『ひえええっ 人間の男って絶倫ですぅ!

 エルフ族は原則、伴侶は一生に一人なんです。

 子供は何十年に一人産むかどうかで……』


「絶倫って……」


 一夫多妻制でなくとも奥さんが一人で何人も産む子沢山は、エルフ族には理解に苦しむようだ。

 それだけエルフ族は、長寿で死亡率も低いから少数でも滅ぶことがないんだな。


『うひひ、面白い話をしておるのう。

 それでエルフ族は何か美味いものを作れるのか?』


 しばらく黙っていたアイミが口を開く。

 コイツはますます食い意地が張ってきたな。


『エルフの村では野菜や米を育てて、煮込んで食べたりすることが多いです。

 お肉はあまり食べませんが、時々小動物を狩って食べます。

 基本的に素朴ですね。

 だから人間の美味しそうな料理を学びに行くんです』


『ほー、三眼族みたいなものか』


『だから荷物には鍋を持って来て、旅の途中で野草を調理して食べてました』


「なるほど。それで大きな荷物になってるんだ」


『はい。私の大切な道具たちです』


 イスパル国内での旅は、宿場町が点在しているので基本的に野営は不要だ。

 サバイバルをしながら、このアスモディアで女の子の一人旅をしていたのだから流石だな。

 野蛮な種族にも出遭うことがあったろうに、魔法は相当な実力者に違いない。

 一先(ひとま)ず話は一旦終え、カメリアさんたちが用意してくれた一室でマルヤッタさんを休ませることにした。

 彼女はアモールについてまだ思うことがあるようだが、とても疲れていたようですぐに眠ってしまった。


 その後、オフェリアのイスパル行きについてもアモールに許可をもらいに行くと、一年までという期間限定でOKが出た。

 今まであまり長期休暇を取っていなかったので、勤続何年だかのご褒美らしい。

 アモールの館はなかなか良い福利厚生で、ホワイトな職場とは意外だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ