第二百八十七話 セーラー服と空気圧縮砲
私はカメリアさんからセーラー服をプレゼントしてもらい、とても気分が良くなっていた。
マニアなオジサンが着ていることはあるけれど、どうせならば女の子として着てみたいという夢が今叶ったのだ!
現在の身体年齢がもう二十歳になろうとしているのですでに女子高生の年齢を超えてしまっているのだが、童顔なのでまあ良かろう。
ショートヘアで170センチという身長のまま女になったけれど、日本の女子中高生でバレー部やバスケ部で背が高い子もいたからそれに倣ってみようか。
この姿で学校へ通っていたら女の子にモテモテだったろうなあ。むふふ
そしてアモールの館のダイニングルームにて、夕食時。
皆が集まっているところでセーラー服を見せびらかすのだ。
「あら? マヤ様その服は前にアイミさんが着ていた物と同じ……」
「ふふふ、そうなんだ。カメリアさんが作ってくれると言うからお願いしたのが出来上がったんだよ」
私は席へ着く前にくるりと回り、スカートがヒラヒラと広がる。
丈が長いからぱんつは見えないと思うけれど。
ジュリアさんとビビアナ、それからサキュバスメイドたちがやんやと喜んでくれている。
パティは首をかしげているが、何だろう?
「素敵ですわ! でも……」
「でも?」
「色が地味なので、マヤ様には同じデザインで白に水色を加えた方がお似合いではありませんか?」
「そうかあ…… これは私の国では伝統の学生服なんだけれど、言われれば確かにパティの案が明るくて可愛く見えるよねえ」
「ああああの、その濃紺がいけないというわけではありませんよ。
お気を悪くされましたら申し訳ございません……」
「いや、いいんだ。
これから新しくカメリアさんに作って貰うとしても、帰るまでに間に合わないなあ」
『そうですね。今は夏服を作っているところですので…… ごめんなさいね』
「ああっ 急かしてるみたいでこちらこそごめんなさい」
脇に控えているカメリアさんが申し訳なさそうに言う。
こんなに優しいお姉様なのに、ベッドの上での凄い形相とは何だったのか。
「マヤ様は男に戻ってしまいますけれど、ビビアナさんやルナさんたちお屋敷の皆さんに着てもらうというのはどうでしょう?
マヤ様のセーラー服を参考にして、お店に頼んで仕立ててもらうんです」
「それは良い考えだ! 帰ったら早速そうしよう!」
「承知しました。うふふ」
ということは、ガルシア家の新しい制服は白いセーラー服!?
ビビアナ、ジュリアさん、スサナさん、ルナちゃんは年齢なりと童顔だから似合いそうだけれど、エルミラさんはどうかなあ。
その前に、こんなヒラヒラスカートを履いてくれるかどうか。
お嬢様学校の格好いい先輩みたいでいいと思うが、パンツスタイルしたら履いてくれるかな。
『おい、こういうので良いのか?』
アイミが黒い霧を立て、すぐに消えたかと思ったらその白いセーラー服の姿に変わった。
襟が水色で涼しげだ。
大人の姿のアーテルシアでなくアイミのままなので、幼稚園か私立小学校の制服にしか見えないが。
「おお、それだそれだ。よく似合ってるぞ」
『当然だな。私は何でも似合う至高の女神だ。
どこぞのマヌケ女神とは違う』
サリ様のことだよなあ。
マヌケなのは私もそう思うが、まだ対抗心を持っているのか。
そうだ。おだてたらサリ様にもセーラー服を着てもらえるかも知れないから、余分に作ってもらおう。ふふふ
あっ アモールが少々不機嫌そうな目でこっちをジッと見ている。
『もう…… 食事が冷めるわ。
ところで、その服は私にも似合うのかしら』
「――」
この言葉で場の空気が数秒氷結してしまった。
ア、アモールがセーラー服……
ゴフゴフッ
アモール自身は綺麗だけれど、人間で言うと四十路オバサンのセーラー服……
皆もどう反応して良いのかわからないようだ。
「ええ! 勿論似合いますよ! きっと…… たぶん……」
『疑わしい反応ね。まあ、冗談なんだけれど。それでは頂きましょう』
「あ…… そうだったんですか。頂きます……」
皆がホッと胸をなで下ろすような表情をして、食事を始める。
アモールはああいう冗談を言う人だったのか?
もっとも、あのエリカさんと修行で八年も付き合えたのだから、影響はあったのかもしれないな。
食後のデザートには、お土産に持ち帰ったアステンポッタの牛乳プリンが振る舞われた。
魔道具の冷蔵庫でしっかり冷やしてある。
ディアボリでは一風変わった竹製の容器にアモールは興味を持ったのか眺めていたが、食欲の方が勝り僅か数秒で口に入れてしまう。
『あら、美味しいわね』
ペロッと舌なめずりが一々(いちいち)エロい。
食欲と性欲も繋がりがあるというから、サキュバスの血を引いているとなると余計に表に現れるかも知れないなあ。
カメリアさんたちサキュバスは使用人なので同じ場所で食べることはないけれど、彼女らはどんな食べっぷりなのか興味がある。
ともあれ、プリンを気に入ってもらえて良かった。
「んんん!! 美味しいでスぅ!」
「ふおおお!? こんなのどうやって作るのかニャ!?
あてしも行けばよかったかニャあ?」
「たぶん片栗粉を使えば簡単に作れると思うけれど、素材の牛乳が違いまスよね!」
ビビアナとジュリアさんも笑顔で美味しく食べてもらえた。
やっぱり女の子は笑顔が一番良いよね。
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三日後のお昼過ぎ、カメリアさんにお願いしたセーラー服の夏服が出来上がったとのこと。
私の部屋に、カメリアさんの他にパティも呼んだ。
白のシャツで襟とネクタイは濃紺、スカートは濃紺で膝が見えないスカート丈だ。
それを早速着て、姿見でセーラー服姿の自分をみる。
『いかがですか? マヤさんの注文通りに出来ていれば良いのですが……』
「――」
「マヤ様、どうなさいました? 震えてらっしゃいますが大丈夫ですか?」
「ぬっくっく…… これは…… これは……」
『あら…… お気に召さないようでしたら、すぐに直しますよ』
「凄すぎるぅぅぅぅぅぅぅ!! 感激しましたああああ!!!!」
私が大声で叫ぶものだから、カメリアさんとパティがびっくりした顔になる。
セーラー服のデザインと私がショートヘアというのも相まって、まさにあの映画の女優さんにそっくりだ!
この世界には機関銃が無いのが残念である。
そうだ! 代わりに魔法を!
『あああ…… それなら良かったです……』
「あら!? マヤ様! どちらへ行かれるんですか!」
「外だよぉー」
二人はどこか呆れ顔だったが、私はセーラー服のまま部屋から飛び出して玄関へ向かう。
「うひょぉぉぉぉ!!」
『あれ? マヤさん? あ…… 行っちゃった……』
『急いでいたけれど、なんかあるのかねえ?』
「マヤさまあ! お待ちくださああい!!」
玄関ホールを掃除していたオフェリアとスヴェトラさんがいたけれど、私は素通りして外へ出た。
この二人と、カメリアさんとパティが私を追って、広い庭の真ん中に出る。
「よし。いつもオフェリアたちと訓練しているここなら大丈夫だろう」
私は庭の真ん中に立ち、右腕に魔力を集中させる。
そして右手を空に向け、風属性魔法で小さな圧縮空気を連続で発射させた。
ズドドドドドドドドドドォォォォン!!!!
空気なので何も見えないけれど、圧縮空気が実際の銃よりも大きな音を立てている。
うーん、快感だ……
あの映画とは似ても似つかないが、気分は出たぞ。
『おーい! マヤさああん!!』
「マヤさまあ!!」
しまった……
庭まで来たオフェリアやパティが呼んでいるような気がするけれど、大きな音で鼓膜がピーンと鳴ってしまい声が聞こえない。
「ああごめん。今耳がおかしくてよく聞こえないんだ」
『はぁ…… 何やってんだかねえ』
「マヤ様は時々おかしな行動をするんですよね」
『私がセーラー服を作ったばかりに、マヤさんがおかしくなったのですか?』
『マヤさん、もしかして真性のアホなのかな?』
皆が口々に言いたい放題言っているような気がするけれど、まだ聞こえない。
何を言っているのだろう?
日本でホテルの支配人をやっていた時は、部下に何を思われているのかビクビクしながら仕事をしていた。
毎日顔を合わせているとは言え、仕事仲間であって気が合うから付き合っている友達ではない。
所詮は上辺だけの付き合いだ。
中には親身になってくれる人もいるが、僅かである。
パティはともかく、オフェリアたちは出会って三週間ちょっとだから信用されているのか正直なところ不安である。
アモールの屋敷のみんなは特異ではあるけれど純粋だし、意地悪でいじめるような性格ではないことはわかっているのだが……
初日から、ビビアナとジュリアさんは厨房でとても良くしてもらっているそうだ。
オーク娘のリリヤさんとオレンカさんは控えめで、ビビアナたちからから教えてもらっているイスバル風の料理をどんどん吸収し上達しているのが食卓の料理で理解出来る。
私が信用してあげねば何とするか。
余計な勘ぐりはやめよう。
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その日の夕食前、アモールに書斎まで呼びつけられた。
私一人だけである。
『間もなくエリカが復活するわ』
「え!? とうとうエリカさんが……」
『あと四、五日ってとこね。
身体は完全に出来上がってるけれど、もう少し様子見したいの。
あなたはまだ見ちゃダメよ。
再会の楽しみが無くなるから』
「そうですか……」
『再会する時は女のままじゃあの子はびっくりするし、がっかりもするでしょう。
それでね。今から男に戻る術を施そうと思うのだけれど、思い残すことはもう無いかしら?』
いよいよ女の身体とおさらばする時が来たのか。
今日とは思わず急だったけれど、そろそろ分身君に恋しくなったし、セーラー服も着られたし、ベッドの上で一人遊びは十分出来た。
もういいだろう。
「はい。いつでもどうぞ」
『じゃあこっちへ来なさい』
私はアモールの元へ近づく。
やっぱりいちごミルクの香りがする……
いい匂いだなあ。
おっぱいの谷間は相変わらず綺麗だ。
『あなたは女でも相変わらずエッチなままなのね』
「あいや…… ははは」
目線ですぐバレた。
私のムッツリスケベは治りそうにないよな。
それに構わずアモールは、前に性転換魔法【ジーナス ムタティオ】を掛けた時と同じように、私の下腹部に右手の平を当てた。
男に戻るだけだから、パティの唾液をもらった時のように触媒はいらないのか。
『コルプス エイウス ア フェミナ イン マレム トランスフォルメット』
アモールの右手に魔力が集まり、私の下腹部が温かくなる。
十秒くらい手を動かさず当てた状態で、それから何故か擦ってくる。
少しムズムズするし、なんかエロい。
『終わったわ。明日の朝になれば男に戻っているでしょう』
「ありゃ、もう終わりですか?」
『ちゃんと男物の服に着替えて寝なさいよ。
でないと、朝起きたときに自分の姿を見たらとても残念な気分になるから。オッホッホッホッホッ』
「はい、そうします……」
そう言って、アモールは去って行った。
私はそのまま残り、一人で感慨にふけっていた。
そうか…… このおっぱい、このお尻、そして……
セーラー服のスカートをチラッと捲って今日履いている黒いぱんつを見た。
「楽しませてもらったよ。Bye Bye」
下腹部がムズムズしたままなので、部屋へ帰って最後に一人でめちゃくちゃ楽しんだ。
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夕食で、みんなに明日から男へ戻ることを報告した。
「えーっと、皆さん。
さっきアモール様から男へ戻る魔法を掛けてもらったから、明日の朝には男に戻ってるよ」
「ええっ!? そうなんですか? 良かったですわあ!
これで安心してマヤ様と…… あら、イヤですわ。うふふ」
パティはニヤニヤとしながら恥ずかしがっている。
そんなに男の私とイチャイチャしたいのか?
この早熟娘めえ。
「わたスも嬉しいでス…… うふっ うふふっ」
ジュリアさんまで……
まあ、性欲真っ盛りの彼女なのにしばらくお預けだったからなあ。
「えー、女のマヤさんともうちょっと遊びたかったニャあ。
もうずっと男のままなのかニャ?」
「そうだよ。女のままだと誰とも結婚出来ないし」
マイペースなビビアナはけろりとしてそう言った。
女になっている時、ビビアナとはジュリアさんとたまに彼女らの部屋でおしゃべりをするぐらいだったからなあ。
滞在中は外でオフェリアたち、書斎でパティとアイミとで一緒にいることが多かったから、構ってあげる時間が少なかった。
『フッ またおまえのバカ面が見られるのだから楽しみだ。
おっと、今もバカ面だかな』
「おまえ、ここに来てからすごく口が悪くなってないか?」
ガキんちょ姿のアイミが言いたい放題なのでムカつく。
まあ、親しみを込めてというのがわかっているから、それだけで済んでいる。
『私たちもそろそろ…… いえ、何でもありませんわ。ふふふ……』
後にはサキュバスメイド三人が控えている。
カメリアさんがそんなことを言ってるが、パティたちは彼女らサキュバスが私を何度も襲っていたことを知らないから言葉を濁している。
え? ヒュスミネルから精気を十分吸収したからもういいって言ってたのに、そろそろって?
私は心の中で身構えた。
オフェリアとスヴェトラさんは午後から休みだったから、ここにはいない。
後で言っておこう。
『人間に性転換魔法を掛けたのは初めてだったけれど、上手くいって良かったわ。
戻す時も良い反応だったし、問題無さそうね。
でも念のため、今晩もパトリシアさんはマヤさんと一緒に寝なさい』
「はい!」
パティは秒で快諾し、目をキラキラさせ両手の平を合わせてクネクネさせている。
これは何だろうなあ。
下心がありそうに見えるけれど、男と女のどっちに対してだろうか。
それよりも、最後にもう一度一人遊びをしようと思ったのに、パティが一緒じゃ出来ないや…
パティが先に眠ったら出来るかな。
眠りの魔法をかけたらすぐバレるし、自然に眠るまで頑張って起きているしかない。
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私の部屋。
お風呂に入ってから、男物のパジャマに着替えてパティと布団の中にいる。
まだ声は変わらず、お風呂へ入っているときに確認しても身体の変化も無い。
寝ている間にゆっくり戻っていくことだろう。
「マヤ様、おしゃべりしましょうよ」
枕元ですぐ近くにパティの顔がある。
キスは何回もしているのでそれほどドキドキするほどではないが……
こうして見ると成長著しいせいか、初めて会ったときから急に大人っぽくなったよなあ。
ああ、良い匂いだ。
私のいちごミルクの匂いより断然良いじゃないか。
「うーん…… すごく眠たくて……」
「そうですか…… 仕方ありませんね。私も眠ることにしますわ。
お休みなさい。ふわぁぁぁぁ……」
私が眠いというのは嘘である。
パティが寝たら一人遊びをするぞ!
手を入れやすいようにトランクスを履いている。
パティの真横で一人お遊びをするのもネタとしては最高に盛り上がることだろう。
むふ、むふふっ
ふぁぁぁ…… ねむっ zzz




