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第二百八十一話 謎の動物アステンポッタを見に行く

 今日はマイたちと、飼育動物のアステンポッタやナムルドを見に牧場へ行くことになっている。

 私たち三人とマイ、それからメイファも付いていくので先に長老宅へお邪魔する。


「うわあ、長老の家も大きいんだなあ」


『五十年前に建て替えた()()()で長老が自慢してたっけなあ』


「ああ…… ()()()、ね」


 マイたちが住んでいる家と同様に古民家風の大きな家屋が石垣の上に建っており、石造りの階段を数段上がるとすぐに玄関だ。

 この村では築二、三百年の家がザラなので築五十年は新しいほうだが、人間基準ではマイが言っていたように建てたばかりではなく、それなりに古びていた。

 だが木材は良い物を使っているし、屋根の(はり)がすごい。京都のお寺かよ。


『おはようございまあす! おーいメイファあ! 来たよお!』


 玄関に入り、マイが 勝手知ったる様子でメイファちゃんを呼ぶ。

 ――数十秒待つが返事が無い。


『メイファあああ!! おーい!!』


 マイがもう一度大きな声で呼ぶ。

 もうしばらく待つと、メイファちゃんが玄関近くの部屋から障子戸を開け、ひょっこり半身を覗かせた。


「うおっ!?」


 なんと、メイファちゃんはタオル代わりの白い布を巻いた半裸状態だった。

 むちむち太股、そして布の下は…… むふふ

 肌と布の境界は、下着のそれとは色っぽさの格が違うのだ。

 男に戻る前に自分でももっと楽しまなければ。


『いらっしゃーい、みんな。

 ごめんねえ。今お風呂から上がったばかりですぐ出掛ける準備するから。

 それまでこの部屋で待っててね』


『そーなんだー、じゃあお邪魔しまあす』


「「『お邪魔します』」」


 皆が靴を脱いでドヤドヤと上がり、部屋に入った。

 八畳の板の間。長老の家でも畳は流石に無いのか。

 部屋の隅に座布団が詰んであるので、メイファちゃんが四枚を床に置いてくれた。

 その時にしゃがんで片膝を立てたときに、太股の間から何か一瞬見えたような見えなかったような……

 いきなり裸になるより、この仕草はエロチシズムの心を掻き立てる。むふー

 女ばかりだから無防備になってるな。


『じゃあ服を着てくるからね』


 メイファちゃんがそう言ってから部屋を出た。

 後ろ姿は、布越しにお尻の割れ目がくっきり。

 ああ、たまらんねえ。


「マヤ様、さっきからニヤニヤして……

 女の子になっているのにどうしていつもそうなんですか?」


「ええ? 男を見てニヤニヤしていたらそれはそれで問題でしょうに」


「そういう話じゃなくて、あ…… もう」


 私はパティの話を聞かず再び立ち上がり、入ってきた方とは別の障子戸を開けてみた。

 おお、縁側か。

 そこから見えるのは程良い広さの田舎らしい庭だった。

 日本庭園と言えるほど整っていない。


「パティ、こっちへ来てご覧よ。ガジラゴがいっぱいいるよ」


「まあっ そうなんですか?」


 少々不機嫌な顔だった彼女の顔はパアッと笑顔に変わり、縁側に出てきた。

 つられてアイミもやって来る。

 マイは見慣れているのか動かず、そのまま肘をついて寝転んだ。


「わああっ 可愛いですわねえ!」


「だろう?」


 庭で放し飼いにされているガジラゴたちがちょこまかと走り回っている。

 本当にデカい(うずら)だな。

 なんと小さな雛も一、二…… 五羽いる。

 見ていて和むねえ。


『おーおー、あのまるまる太ったヤツは美味そうだな。

 おいパティ、あれを魔法で焼いてくれ』


「ダメですよ勝手なことをしたら……

 でも美味しそうですわね」


「え、ええ……」


 アイミはともかくパティまで食い気のほうか。

 ビビアナは羽がついた鶏のまま買ってきて調理しているくらいだから、この世界では一般の人間が動物を絞めて食べることが普通なのだ。

 しばらく縁側でガジラゴを観賞していると、長老が縁側の向こうから歩いてきた。


『おお、おまえたち来ておったのか。

 今日は何か用かの?』


「あら、おはようございます長老。

 お邪魔しております」


 パティは挨拶をしたが、アイミは無視してガジラゴを見るのに夢中になっている。

 だが長老はそういうことをいちいち気にしていないようだ。


「今日はマイとメイファに牧場へ連れて行ってもらって、見学させてもらおうかと思ってるんです」


『そうかそうか。それでメイファは朝早くから動いておったんじゃな。

 いつまで村に滞在するんだ?』


『あーもう、長老。昨日言ったじゃん。

 あたし明日仕事があるから今日の夕方前には出発するって』


 長老が話しているのを部屋で寝転んでいるマイが聞いて、四つん這いで縁側を覗き長老に言った。


『あーそうじゃったか。

 今日中にディアボリへ帰れるとは、あの飛行機という乗り物はすごいものだのう。

 ということはおまえたちのむちむちボディとも今日でお別れか。寂しいのう』


『はぁ…… 相変わらず長老はぶれないな』


『クンカクンカ…… マヤからとても官能的な甘い匂いがするのう。

 うっへっへっへ スゥーハースゥーハー』


「うへぇ……」


 長老までいやらしい顔をしてそんな反応をする。

 そうだ、ちょっと脅かしてみようか。


「この匂いはアモール様と同じなんです。

 私、そういう魔法を掛けられて男が匂いを深く吸い込んだら頭がおかしくなるって話ですよ。

 マイんとこの爺じも…… ああ、おいたわしや」


『なっ!? あのアモール様の匂いじゃとお!?

 ひいいいいいい!!!!』


 長老は慌てて奥へ逃げてしまった。

 ちょっとやり過ぎたかな。

 だがアモールはサキュバスの血が流れているので(あなが)ち嘘ではないのかも。

 私自身、アモールと接触していた時も頭が変になりそうだった。

 いや、変になっていたかも知れない。

 それに長老のあの慌てっぷりはアモールについて何か知っていそうだ。


『おいおいマヤ、それって本当なの?』


「アモール様の先祖がサキュバスだったという話を聞いたから、そのアモール様に性転換の術を施されたとき、何かそういう性質を組み込まれてしまったのかもね。

 十分の身体を基準に魔法を作ったみたいだからわざとじゃないと思うけれど」


『ええ…… 大丈夫なのか? ちゃんと男に戻れるの?』


「今まで性転換の魔法を掛けた魔族はきちんと元に戻ったそうだよ」


『ふーん』


 マイはそれからこのことに興味を持とうとせず、話は終わる。

 まさか自分がサキュバスの性質を持っているとは思いもしなかったし、もしかしてあのインキュバスが近づいてきたのも私のせい?

 そこへメイファちゃんが服を着て戻ってきた。

 緑色の道着で、対照色の赤毛がよく目立つ。

 三眼族は血筋によって金髪か赤毛、またはその間の明るい赤などの髪の色で、茶髪や黒髪はいない。


『あれ? みんなここで何してるの?

 ああ、ガジラゴ見てるんだね。みんな美味しそうでしょ』


「そ、そうだね……」


『あの太ったヤツを持って帰っていいか?』


「ダメだってば、アイミ」


 やっぱりペットじゃなくて食用としか見ていないんだなあ。

 確かに放し飼いにしていれば運動が出来て美味しくなるに違いないが……

 それから私たちは外に出て玄関前に集まる。


---


『じゃあ出発するけれど、みんな飛べるんだよね?』


 メイファちゃんが言う。

 パティだけが自力で飛べないのだ。

 グラヴィティムーブメントの練習も兼ねて、私がパティを連れて行くことにする。

 スピードは出ないけれど、風属性魔法を使わないので土埃が舞わないのは良い。


「パティは飛べないから私と一緒に行くよ」


「よろしくお願いしますね。うふふ」


『うん。二十分ぐらいで着くからあたしに着いてきてね』


 マイが言う。

 高速飛行ではないので二十分というと牧場まで十キロってとこか。

 私はパティと手を繋いだ。

 マイとメイファちゃんを先頭に、私たち五人はゆるりと浮かび上がりチャオトン村を目下に空中散歩がてら牧場まで向かった。


---


 三眼族はあまり高く飛べないので谷に沿って進む。

 それでも五十メートルから百メートル上空。

 うーむ、飛行機からも見えたが地上は見渡す限り山と田畑ばかり。

 道が一切無いのは空を飛べる種族が住んでいる地域ならではの光景だろう。


「マヤ様、こんなに険しい谷間にも畑があるんですね」


「イスパルは平野部がとても広いし、高地がなだらかだからね。

 私が生まれた国も険しい山々にこういった畑がたくさんあったんだよ」


「平地よりも作物をとても大事に育てているのがわかります。

 お野菜がびっくりするほど美味しかったですよね」


「山は土地が肥沃(ひよく)だし、寒暖差もあるから野菜が美味しくなるんだよ」


 パティとそんな話をしながら山間(やまあい)を飛んでいった。

 それからしばらくすると、山を(ひら)いた土地が見えてきた。

 おおっ 何か動物が何頭も放し飼いにされているのが見える。

 あれがアステンポッタなのか?


『さあ牧場に着いたぞ。隅に家と畜舎が見えるだろ。そこへ降りるよ』


「わかった」


 確かに一軒、立派な家がある。

 その隣には大きな畜舎があるので、そこに住みながら飼育しているのかな。


---


『ふふっ あいつはデカくて食べ甲斐がありそうだな』


 畜舎の前に降りて、アイミの一声がこれである。

 どこまで食い意地が張ってる神なのだ。

 色欲の神から食欲の神に転向したほうがいいんじゃないか?

 そのあいつはすぐ手前で地面の草をもしゃもしゃ食べており、他に何頭もいるのが見える。

 地球の野牛(バイソン)に似ているが、もう一回り大きいと思う。


「ねえ、あれがアステンポッタなの?」


『そうだよ。乳を搾ったり食肉にもするけれど、ここは乳を搾る牧場だからアイミちゃん食べたらダメだぞ』


『なんだつまらん。だったら乳を使った食べ物はあるのか?』


『うん。少しだけれどチーズやヨーグルトも作ってるよ』


『なに!? 食わしてくれ!』


 マイが言う通りここは搾乳牧場のようだ。

 あんな野牛(バイソン)の牛乳って美味いのかな?

 アモールの館では牛乳なんて飲んだことなかったし、それを使った料理は……

 そうだ。クリームシチューみたいな料理が出てきたことがあった。

 あれは濃厚で美味かったな。


『それはちょっと聞いてみないとなあ。

 ちょっと畜舎を覗いてみるか』


 マイは畜舎の入り口から大きな声で呼ぶ。


『おーい!! おっちゃーん!! いるかあああ!?

 タイラーン!! おーい!!』


 すると畜舎の中で手を振っている男がいた。

 頭を剃っているのかツルツルである。


『あっ タイランがいた。行ってみよう』


 私たちは五人揃ってぞろぞろと畜舎の中へ入っていった。

 地球の牧場同様に、夜になるとアステンポッタが休む場所になっていると思うので中は何もいない。

 さすがに臭うな……

 パティやアイミは大丈夫だろうか?

 見るとやはり二人とも我慢しているような顔だった。

 マイとメイファちゃんは慣れているのか顔色一つ変えていない。


『あー、牛のう●ち臭いなあ』


 と、アイミが鼻をつまみながらぼやくので、私は……


「当たり前だろ、畜舎なんだから。人間のう●ちよりは臭くないぞ」


「マヤ様、貴族の女性が下品なことをおっしゃるのはやめて下さいまし」


「ああ…… ごめん……」


 パティに注意されてしまった。

 女になってからそういうことが多くなった気がする。

 男へ戻るまで半月も無いのに、淑女の真似事をするのは意味ないって。

 いや、男でも貴族であれば人前でう●ちって言うのは良くないんだが……


『タイラーン、来たよお!』


『おお、マイとメイファか。

 そちらはもしかして……』


『うん、私の友達で人間族のマヤ、それからパトリシアちゃん、アイミちゃんだよ』


『そうかあ、よろしく。俺はタイランだ。

 マイの隣の家に住んでいるが、仕事はうちの爺さんとこでこうして働いてるんだ』


「初めまして、マヤです」


「パトリシアです。よろしくお願いいたします」


『アイミだ。よろしくな』


 パティは道着でもカーテシーの格好で挨拶をした。

 アイミは何かを期待しているようにニコニコと挨拶をしている。

 このタイランさん、ツルツル頭で三ツ目って……

 人間で言えば見た目は二十代半ばで、どこかで見た武闘家のようだ。

 緑色の道着を着ているから余計に似ている。


『それでおまえたち今日は何しに来たんだ?』


『マヤたちにアステンポッタとナムルドの見学をさせたいと思ってさ。

 あとねえ、チーズの試食をしたいんだけれど』


『ナムルドの畜舎は爺さんがいるから直接行くといい。

 チーズの試食か…… 婆さんに言っておくから、ナムルドを見に行った後に家に寄ってくれ』


『わかった! ありがとうタイラン!』


『それで…… あ、あの服はどうしたんだ?』


『あの服って?』


『人間族から借りたって言ってただろ……』


『あー、あれね。爺じがエロい目で見るからすぐ着替えて洗濯してマヤに返したよ』


『そ、そうか……』


 タイランさんは残念そうな顔をしている。

 マイにエリカさんの服を貸していた時にタイランさんと出遭(であ)ったんだな。

 普段この道着を着ている人たちしか見ていないから、身体の線が出るシャツとミニスカはさぞ衝撃的だったろう。ククク


『ははーん、タイランも爺じと長老に毒されたのか?

 ファーリンさん(※タイランの嫁)に言ってやろうっと』


『やややめてくれ! 作ってあるチーズプリンと牛乳プリンも用意しておくから!』


 タイランさんは慌ててマイを制止しようとする。

 メイファちゃんは苦笑い。


『へぇー、プリンぐらいじゃ足らないけれどまあいいや。

 じゃあよろしくねぃ!』


『はぁ……』


 タイランさんは肩を落としてがっくり。

 プリンまであるとは意外だった。

 日本のコンビニでよく買って食べていたけれど、あれと同じだろうか?

 私たちは畜舎を出て、マイに付いて隣にあるナムルドの畜舎へ向かう。


『チーズプリンと牛乳プリンだと? 早く食べたいのう!』


「どんなプリンなのでしょう?

 新鮮なお(ちち)で作ったら絶対美味しいに決まってますわ!」


 アイミとパティはワクワク笑顔。

 アステンポッタとナムルドを見に来たはずなのに、目的が変わってしまった。

 パティがお乳なんて言ってたけれど、私はパティのお(ちち)の成長が気になって仕方が無い。

 来年には結婚出来るんだ!

 それからは…… むふふふふ。

 妄想が(はかど)るなあ。


「マヤ様、また変な顔をされてますね。

 女の子になってから何故かそういう表情をされるのをよく見かけますが」


「あいやあ、私もきっとプリンが美味しそうだなあと…… あははは」


「へー、そうなんですか。そういう顔には見えませんでしたが」


 パティはジト目で私を見ている。

 もう二年の付き合いだと私のことについてだいぶん把握されてしまってるな。

 良い意味では私のことをいろいろ知ってくれて嬉しいけれど、悪い意味では簡単に見透かされているということだ。

 後者について近頃多くなってきているから、パティを怒らせないように気を付けなければ。


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