第二百八十話 起床・朝風呂・朝ご飯
ん…… 明るい。もう朝か。
あれから熟睡してしまったんだな。よく寝られたよ。
胸がもぞもそしてる。
あれ? 布団の中に誰かいるぞ。
私は掛け布団をガバッと剥いだ。すると……
「うわあっ! アイミ!?」
アイミが私の布団に潜り込み、上着を開けさせておっぱいをちゅーちゅー吸っていた。
うっ ちょっと気持ちいい……
いやいやそんなことより。
「ふわぁぁ おはようございますマヤ様、どうしたんですの? まあ!?」
私は吸い付いているアイミを引っ剥がす。
ああ…… 隣で寝ていたパティに見られちゃった……
お尻に続いておっぱいも見られて、ほぼ全身の裸を見られた…… シクシク
「おいアイミ! 起きろ!」
『んんん…… ああ? 朝か?』
「おまえ何で俺のおっぱい吸ってんだよ!?」
『ちょっと寒くて夜中に布団へ潜り込んでな。
おまえから良い匂いがして美味しそうだったから、つい』
「へ? 俺から良い匂い?」
私は服や脇の下を嗅いでみたけれど、自分ではよくわからない。
女になってから誰かと一緒に寝るのは初めてだったから、気づかなかった。
性転換してから身体にそういう変異が起こったのだろうか。
「マヤ様、ちょっと失礼します。クンクン……」
「わわっ!?」
布団の上でパティが私の方へ四つん這いで近寄り、私の胸元を嗅いだ。
こういうのってルナちゃんの役だと思っていたけれど、パティがこんなことするからびっくりした。
「この匂い、ほんのりいちごミルクの香りがしますね。
何か香水を着けられました?」
「いや、お風呂に入って石鹸で洗っただけだよ」
いちごミルクの匂いって、アモールの匂いじゃないか。
一体どうなってるんだ?
あの甘い体臭はアモール独特の香りだけれど、性転換魔法の術式にアモールがそうなるように組み込んだとも考えられる。
自分の体臭が女性の香りの代表とでも思っていたのか?
この香りは男女問わず惑わせてしまいそうだから、気を付けねば。
「それにしてもマヤ様のお布団の中、いいにおーい」
「こらこら」
パティまで私の布団に潜り込む。
どうせならパティが夜中に布団へ入ってきて欲しかった……
寝ている間にこっそり…… いかんいかん。
彼女には結婚するまで手を出さないと心に誓っているのだ。
すると廊下でドタドタと歩く音が聞こえる。
『あれれ? 爺じ!? なんで廊下で寝てるんだ? さては……』
マイの声だ。
爺じが廊下で寝てるって?
『いっひっひっひ、馬鹿なクソ爺め。期待通り結界魔法に引っかかるとはな』
「どんな結界魔法だったんだよ……」
『邪な心を持った男が近づくと電気ショックが発生するのだ』
「あ…… そう。さすが神様だね」
部屋の障子戸を開けて廊下を見ると、マイが立っていて爺じがうつ伏せになって倒れていた。
大丈夫なのか?
『あ、みんなおはよう。爺じがどうかしたの?』
「おはよう、マイ。アイミが掛けた結界魔法にひっかかったんだよ。
それで…… 生きてる?」
『見てよこの顔。気持ち良さそうに寝てる』
「まあ、丈夫なお爺さまなんですね」
爺じの顔を見ると、ニヤニヤとよだれを垂らして寝ていた。
これはエッチな夢を見ている時の顔だな。
もしかして私が爺じの夢の中で裸になっているかも知れない。嫌だなぁ。
『私のナイスバディに触れようとは十万年早いな』
アイミ…… それは無いぞ。
それよりも布団を片付けねば。
『替えの服を持って来たから、軽く朝風呂に入ろう。
これがマヤので、これがパティちゃんの。
アイミちゃんはまた術で着替えるよね?』
『ああ、後で元の服に戻す』
マイが道着を渡してくれた。
私に貸してくれる物は真っ青、パティのは真っ赤。
またずいぶん派手だな。
マイが爺じを起こそうと、ツルツル頭をペシペシと叩く。
『おい爺じ! 起きろ!』
『んあああ? ううう…… 今いいところだったのに…… マヤのお尻……』
「うわあ、やっぱり俺のエッチな夢を見ていたのか……」
爺じが上半身だけ起き上がり、とぼけたことを言っている。
結界に引っかかったことといい、どうして予想通りの単純思考なのか。
ああ、男の脳味噌は下半身にあるからわかるよ…… はぁ……
『むう? 芳しい香りがマヤから漂ってくる。むほほ クンカクンカ』
「わわわわわ そんなとこ嗅ぐなあ!!」
『こら爺じ! 朝から変態行為をするな!!』
爺じが私の股間を嗅ごうとしていたので、マイが襟首を掴んで私から引き離してくれた。
『ぷふー いたいけな年寄りを粗末に扱いおってからに……』
『どこがいたいけだよ。ほらもうあっち行って!』
爺じは廊下をトボトボと歩いて奥へ行った。
哀愁漂う後ろ姿を見て、構って欲しいのかも知れないからちょっと可哀想に見えたけれど、パティにも被害が出たらガルシア侯爵夫妻から預かってる身として申し訳が立たないので、ここは毅然とした態度をとる。
『ごめんね。マヤたちが来てからはしゃいじゃって、いつもはこれほどじゃないんだよ』
「うーん、まあ私やアイミはともかく、パティに手を出さないならいいよ」
『おい、私を何だと思っているのだ?』
「おまえはゲンコツで潰すから逆だよ」
『それは言えてるな。クックック』
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この後、パティとアイミが先に風呂へ入り、後で私とマイが入る。
寝汗を流せていい気持ちだ。
途中でマハさんが入ってきた。堂々と前を隠さずに……
姉御って呼ばせて欲しいほど綺麗で格好いい。
『あ、お婆ちゃん』
『ああ、おまえたちだったのかい。
マヤさん、爺じが済まなかったねえ』
「いえ、大丈夫でしたから」
『そうかい? 後でキツく言っておくからね』
私とマイが湯船に浸かった状態で、目の前で腰に手を当てて立っているから目のやり場に困る。
マハさんは片膝をついてしゃがみ、掛け湯をしている。
ああ…… 丸見えだ。
太股が色っぽすぎる。
『ん? 私がどうかしたのかい?』
「あいや、三眼族の女性はスタイルがいいなあって……」
いかんいかん。
下半身をガン見し過ぎたので適当に誤魔化しておく。
『みんな武術の鍛錬をしているし、畑とか力仕事が多いからねえ。
ああそうだマヤさん!
ちょっとだけでいいからさあ、またマッサージをしておくれよ』
「え? いいですよ」
『お婆ちゃん、朝ご飯に間に合わないよ』
『五分、いや三分でいい。マイもやってもらいなよ』
結局二人にマッサージをすることになる。
まず湯船に入ったまま、マハさんの肩を揉む。
『ああああ はぁぁ…… あふぅぅぅ 気持ちいい……』
ややドスがきいた喘ぎ声を出すのでビクッとする。
私の中身は男のままなのに、こうして今やっていることは爺じより変態なんだよなあ。
はわわわわ…… うなじが色っぽくてペロペロしたい。
『ハイもう終わり! 次はあたしね!』
『ええ…… もう三分経ったのか…… ざんねーん』
マイの肩を揉む。
よく動いてる娘だからそんなに強張っている感じはしないけれどなあ。
ちょっと関節の方を揉んでみよう。
『ああそこそこ。とてもいい所をついてるよ。
マヤはマッサージの天才だなあぁぁ…… あはっ はふぅ……』
マイも色っぽい喘ぎ声を出す。
まったくこの家の女性ときたら、爺じのことを言えたもんじゃないよ。
『さて、私もやらしてもらおうかねえ』
『ええええっ!?』
私がマイの肩を揉みながら、マハさんが私の後ろにまわりベタッとくっついて胸を揉む。
ま、またモミモミされてるうぅぅぅ!
「あひっ あっ くふぅ……」
『いいねえ、人間族の胸は柔らかくて』
あああああ耳元で囁かれるとゾワッとするぅ!
マイとマハさんに挟まれて、女同士で肌と肌が触れ合うというのは…… うくっ
繊細な感じでいいもんだなあ……
『あらっ この子逆上せちゃうよ』
『おおおいマヤ! 大丈夫か!?』
「ふにゃあ……」
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本当に逆上せて倒れるほどではなかったが、すぐにお風呂から上がり二人に肩を担がれ脱衣所で解放してくれた。
マハさんが膝をついて私を抱きかかえている。
やや控えめなおっぱいが頬に当たってて最高……
マイが手から風を当ててくれているけれど、魔法じゃなくて気功波の使い方の一つだな。
気の調整が難しいから私には出来ない。
『あああ悪かったねえ。ちょっと調子に乗ってしまったよ』
「うん…… 大丈夫です。軽く目眩がしただけですから」
『そうか、マヤには刺激が強すぎたんだよ。本当は男の子だから』
「ああっ!?」
あああああ何でそこで言っちゃうの?
マハさんにぶっ飛ばされそう……
『え? どういうことなんだい!?』
『アモール様の魔法実験で、男の子だったのに女の子にされちゃったんだって』
『まあっ! ディアボリではとんでもないことが流行ってるんだねえ?』
『いやいや、アモール様が特別なだけだから』
『だったら爺じを婆ばにしてもらいたいよ。
スケベが治るかもねえ。あっはっはっはっは!』
あれれ? 二人で勝手に話が進んで、マハさんはえらく反応が軽い。
本当は実験じゃなくて女体化は私からのお願いなんだけれど、そういうことにしてくれたのか。
私の身体が完全に女だし、ここで男だと言われても実感が湧かないのだろう。
あの漫画みたいにここでお湯がかかって、ボンと男に戻っていたらどうなっていたのやら。
「まあそういうことで、男なんです…… あはは……」
『どこからどこまで見ても女の子なんだけれどねえ。そこも』
マハさんが丸出しになっている私の下半身をチラッと見る。
恥ずかしいいいいい!
『それにしてもあんたからすごく良い匂いがするけれど、人間族の女はそんな匂いがするのかい?』
「そういうわけじゃなんです。私の匂いみたいで……」
『ふーん。人間族の女の子をこんなに間近で見るのは初めてだけれど、寿命と第三の目以外は私たちと同じだね』
第三の目。気になっていたけれど聞きそびれていた。
この機会に聞いてみるか。
「その第三の目って、何か役割があるんですか?」
『三眼族は基本的に動体視力がいいんだよ。
第三の目のおかげで見える範囲も広い。
術を使うようになると第三の目に作用して魔力が高まる効果があると、爺じの先祖の時代にわかったんだ』
「なるほどお。だからインキュバスと戦った時にマイの目が光ったんだね」
『ちょっと待ちなよ。あの淫蕩なインキュバスと戦ったなんて初耳だ。
マイ、ちゃんと勝てたのかい?』
『ああごめんお婆ちゃん。
気持ち悪いやつらだからあんまり思い出したくなかったんだ。
でも快楽気功を使ったらあっさり勝てたよ』
『あー、秘術を使ったんだね。
アレなら大抵の男は腑抜けになる。ハッハッハッ』
「秘術?」
『うん、三眼族の女に伝わる秘術なんだ。
千年以上ずっと昔に亡くなった爺じの奥さんの大婆ばはその術の天才だって爺じは豪語していたけれど、爺じはその術にやられていたってことだから恥ずかしい話だよ』
そうかあ。それで三眼族は淫魔族の天敵ってカメリアさんが言っていたんだね。
ということは、男の三眼族も秘術を持っているのか?
もしそれがあって爺じが使ったらヤバいな……
『すっかり話し込んじまった。
もう朝ご飯の準備が出来ている頃だけれど、マヤさん具合はどう?』
「はい、もう大丈夫です」
『それなら良かった。美味い朝ご飯が待ってるからね』
『そうだよ。三眼族は昼にご飯を食べないから朝たくさん食べて力を付けるんだ』
「へぇ、楽しみだなあ」
マイとマハさんの裸体をチラチラと観賞しながら服を着た。
分身君がいたらさぞ元気になってることだろう。
マハさんは女性向けの元祖ふんどしぱんつとサラシだった。
格好いいな。お尻の形が良いから尚のこと。
私はマイから借りた青い派手な道着を着た。
マイは緑でマハさんは紫だ。
規模が小さい三眼族なのに、染め物はすごい。
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ゆうべ晩ご飯の鍋を食べた部屋へ。
丁度皆が集まりだしてきたところだった。
鍋の中は…… おおっ お粥だ!
芋を中心に野菜が入ってる。本当に美味しそう……
マイとマハさんが言った通りだった。
「マヤ様、随分ごゆっくりでしたのね」
パティの顔はやや不機嫌そう。
また焼き餅かな。でも君とはまだ一緒にお風呂へ入れないでしょうが。
『マイと仲良しをしてたんだなあ。ひっひっひ』
またアイミが煽る。
マイどころかマハさんとも仲良ししていたけれど、言わない。
「違うって。ちょっと熱くて逆上せたから介抱してもらってたんだよ」
「まあ!? その様子だともう平気なんですよね?」
「うん」
「それなら良かったですぅ。びっくりしました」
三眼族の食卓では「いただきます」の挨拶やお祈りをしない習慣で、準備が出来たら銘々で鍋からお椀や皿に取って食べていく。
お祈りを欠かせないパティでも、合わせているのか単に忘れたのか私と話を終えるとさっさとお椀にお粥を取って食べていた。
勿論アイミはもっと先にバクバク食べている。
「はふはふはふっ 熱いでしゅうう でもおいひぃぃ」
『そうじゃろうそうじゃろう。
そこにあるガジラゴの玉子を掛けて食べるともっと美味いぞ』
「本当ですの? では早速頂きますわ」
鍋の前に置いてある、籠にたくさん盛ってあるガジラゴの玉子を私も取る。
カンカン パリリ とろーり
玉子を割って、前もってお粥に穴を開けた所に掛ける。
最初は混ぜずにレンゲで掬って食べた。
「美味ーい!」
「まろやか美味しいですう」
マイの家族七人と私たち三人で、大鍋にいつもより多めに作ってあったと思われるお粥はあっという間に空になってしまった。
朝早く起きてご飯を作っていたマムさんとマオちゃんは作り甲斐があったとニコニコ顔で喜んでいた。
このネイティシスに来てからというもの不思議と暖かい家庭ばかりにお邪魔できて、サリ様には感謝するしかない。




