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第二百七十九話 カードゲームと夜のトイレ

 食事の後は私たち三人が案内された客間にマイとマオちゃんも集まって五人でトランプモドキのゲームで遊び、寝るまでの時間を過ごした。

 布団は三人分敷いてくれて、まるで修学旅行のよう。


 カードはトランプではなくマーセナルという名らしいが、英語では傭兵(ようへい)の意味になっている。

 その意味がアスモディア語と同じなのかはわからない。


 カードはなんとクィーンの絵柄がアモールで、キングが大帝になっている。

 ジャックの絵は何だろうな。勇者っぽい男が描かれていた。

 ジョーカーの代わりは頭が三つあるドラゴンだ。

 キ◯グギ◯ラまでアスモディアにいるのか……

 強そうだし関わりたくないな。


「ねえマイ。この男は誰なの?」


『ああ、それはシュウシンだよ。

 昔、大帝と戦った人間族の勇者でね、健闘を(たた)えられてマーセナルの絵に使われているんだ』


「へっ? そうなんだあ……」


 私のご先祖様……

 いや、過去世のお人がトランプカードのジャックになってるとはね。

 私もイスパルで何か後世に残していけるものが出来るのだろうか。

 ランジェリーのデザインは時代とともに変わっていくし、せめてアリアドナサルダブランドの創設者として誰かに引き継いでおかなければ。


 それでマーセナルのプレイなのだが、ゲームはババ抜きそのものだった。

 私がアイミのカードを引く番。

 私が一枚のカードを引こうと手を近づけるとアイミは明らかにニヤニヤした顔をし、それをやめてその隣のカードを引こうとしたらとてもがっかりした顔になる。

 こいつポーカーフェイスというのを知らないのか?

 それならば残念顔をしていたカードを引いてやろう。


「じゃあこれをっと…… げ」


『馬鹿め、ひっかかりおったわ。ふっひっひ』


 三叉ドラゴンのカードを引いてしまった。

 姑息な奴め、裏を掻いて表情を逆にしたのか。

 次はパティが私のカードを引く。


「上がりましたわ!」


「ええ? もう!?」


 まわっているカードの分析能力がすごいのか、さすが頭脳明晰のパティ。

 私は力が強いだけで頭は凡人だからなあ。

 結局あれからババは最後まで私のところに残っていて、負けてしまった。


『おまえは作戦も読みも下手くそだな。

 素直過ぎるのがいけないんだぞ』


「う……」


 アイミが煽る。

 確かにこいつの言うとおり、とっくに自覚している。

 特に中高生の時はそれで嫌なやつに揶揄(からか)われて損をしたなあ。


「素直なところはマヤ様の良いところなんですよ。

 だから私はマヤ様のことが好きだし、信じています。うふふ」


「ありがとう、パティ」


『いよっ お二人さんまたまた熱いねえ!』


「マイさんってば照れますぅ」


 パティがフォローしてくれ、マイが(はや)し立てる。

 ごめんよパティ。

 信じてくれているのに、いろんな女性と隠れてエッチなことをしたし、隠し子までいるんだ。

 それ以外のことは君のために報いることにするよ。


『じゃあそろそろ寝よっか。

 三眼族の朝は早いから、そのつもりでね。

 美味しい朝食だから楽しみにしててよ』


『お姉ちゃんは作れないけれど、私とお母さんがすっごい美味しいのを作るからね』


『マオ、それは言わないでよお』


「あはは。鍋が美味しかったし、朝食も楽しみだよ」


 食いしん坊のパティとアイミはマイとマオちゃんの言葉に目を輝かせていた。

 私も気になっているけれど、鍋が出てきたくらいだから朝食も和食風なんだろうなと大いに期待している。


『私はマオの部屋で寝るから、何かあったら起こして良いよ』


「うん、ありがとう。おやすみ」


「おやすみなさい、マイさん、マオさん」


『マオ、頑張って朝食を作るのだぞ。じゅる』


『うふふ、アイミちゃんったらもうお腹空かしてるの?

 作り甲斐があるなあ。じゃあね、おやすみ』


 マイとマオちゃんは障子戸を閉めて奥の部屋へ行った。

 布団は三人分敷かれており、私が真ん中で川の字に寝ることになる。


「さ、灯り(魔光灯)を消すよ」


「あああの、その前に…… トイレへ……」


「うん? 行っておいでよ」


 パティがトイレに行きたがってモジモジしている。

 だが彼女はそこから動こうとしない。


「マヤ様…… 付いてきてもらえますか?」


「え? 珍しいね。ああ、王宮やアモールの館は部屋にトイレがあるもんね」


「怖いといいますか、何だか不気味な感じがするんです」


『あの(じじい)がワッと出てくるんじゃないか? うっひっひっひ』


「それは無いと言い切れないのがあの爺じだよな。

 いいよ、私もトイレに行こう。アイミも行くか?」


『面白そうだから私も行くぞ』


「そっちが目的かよ」


 私たち三人はそろりと障子戸を開けて廊下に出た。

 魔光灯が薄暗く照らしている。

 幽霊の類いは見たこと無いが、魔物をデモンズゲートから出していた張本人がここにいるしサリ様からの恐怖耐性があるので、怖いという気持ちは無い。

 ただ気配も無しにワッと出てこられるとびっくりするかも知れない。

 そこは注意するとしよう。


---


 トイレは部屋から遠く建物の中の隅にあるが、お昼にも使ったので問題無い。

 パティにとっては見たことが無い木造の和式だったので、マイが親切にも実演してあげていた。

 ズボンは脱いでいないけれどね。

 便器の方向がドアにお尻を向けるようになっているので、うっかり鍵をかけ忘れていたら大きな桃をばっちり見られてしまうアレである。

 そして、汲み取り式なのに不思議にも臭くない。

 トイレに脱臭の魔法でも掛けてあるのか?


 和式のトイレと言えば、小学校時代の怪談でこういうのを聞いたことがある。

 トイレの便が落ちる穴から「カミをくれえ……」と聞こえるから、びっくりして恐る恐る紙を落としたら、「そっちじゃない! おまえの髪だああ!」と穴から手が出てきて引っ張り込まれるという怖い話だ。

 考えてみれば、便まみれの汲み取り槽にお化けがいるというのも滑稽な話である。


「そそそれでは用を足してきますので、お二人はそこにいて下さいね。

 あと…… マヤ様は耳を塞いでいて下さい……」


「わかったよ」


 パティは私たちにそう告げると、パタンとトイレのドアを閉めた。

 お小水ならまだしも、それ以外の音が聞こえたらとてもショックを受けるので耳は必ず塞ぐのだ。

 それで不審な音が聞こえないと困るが、アイミはトイレの音ぐらいでは気にしないのでそのままでいてもらう。

 間もなく、パティがトイレから出てきた。


「お先に失礼しました。次の方どうぞ……」


『私は後で良いからおまえ行け』


「ああ、じゃあ……」


 次に私がトイレに入り、バタンとドアを閉めて鍵を掛ける。

 ズボンとぱんつを下げてしゃがんだ。


 チョロロ……


 女になってしゃがんで用を足すのはこの家に来てから初めてだった。

 便器からおしっこがはみ出さないか身体の向きにちょっとコツがいるけれど、なんとかうまく出来た。


「きゃあ!!」


『わあ!』


 ん? 外で二人の叫び声が聞こえた。

 その直後、ドアがガバッと開く。


『おいマヤ! なんか出たぞ!』


「おおおおい! ちょちょ、ちょっと待てえ!!」


 鍵を掛けたのに、アイミがとっさに解除魔法を使ったのかドアが開いてしまい、私のお尻がアイミとパティに見られてしまった。

 まだおしっこが出ている最中なのにいいいい!!


「パパパパティ! あっち向いて!」


「きゃっ ごめんなさい!」


 兎に角落ち着いて、おしっこを全部出してからぱんつとズボンを履く。

 ああ…… 拭かずに履いちゃったよぉ……

 それより、何が出たんだ?

 トイレから出てドアを閉める。


「マヤ様…… そこでガサゴソと何か動いてる音がするんです……」


『虫っぽかったぞ』


「虫ぐらいでトイレの鍵を開けるなよ」


 うーん、廊下が薄暗くてよく見えない。

 そうだ、光属性魔法の【ライト】を使えば良い。

 これを応用するとライトニングカッターになるが、指先に魔力を込めれば小さな光源が出来て懐中電灯代わりになる。

 私は右手人差し指の先を灯し、廊下の天井から床の隅までを照らしてみる。


「うぎゃあ!」


「ひぃぃぃ!?」


『おおお!!』


 床の隅にいたのは、全長一メートル近くはあろうオオムカデだった。

 この村にはこんなものがいるのかあ!

 だがエリカさんと魔物退治していた時はもっと大きなムカデの大群がいたからそれよりはずっとましだが、もし寝ているときに布団の中や首元を這い回られるとゾワッとする。


「おいアイミ!

 おまえ前にもっとデカいムカデをデモンズゲートから出していただろ!

 なんとかしろよ!」


『出すのは楽しいが、触るのは嫌だ!』


「マヤさまあ……」


 アイミは言うに事欠いてムカデを出すのは楽しいなんて言うから、心を入れ替えたとは言えムカついてきた。

 退治するのに苦労したんだからな。(第三十八話にて)

 パティは半べそを掻いている。

 そこへ足音が近づいてきた。


『なんじゃおまえたち、騒がしいのう』


「あっ 爺じ!」


『クソ(じじい)がまた覗きに来たか?』


『げふんげふんっ 違うわい! で、何の騒ぎだ?』


「これだよ爺じ」


 私はもう一度床にいるオオムカデを照らした。

 そいつはさっきから動かずじっとしている。


『お、ムカデがこんなところに上がり込んで来ておったか。

 こんなものを怖がってるとは、か弱い女の子だのう。うおっほっほ』


 爺じはひょいとオオムカデを手掴みした。

 当たり前にそうしているから私たちはびっくり。

 爺じは頭を持って噛まれないようにし、オオムカデはウネウネと動いている。


『こいつは毒が弱いが、噛む力が強い。

 野ねずみだって捕食するぞ』


「ひええ……」


 パティは私の腕を両手で掴んで隠れるようにしてオオムカデを見ている。

 地球にも南米や東南アジア、沖縄にもオオムカデはいるが、その倍ぐらいのサイズだ。


『これの頭と尻尾を取って、串刺しにして焼いたら美味いんだぞ。

 そうじゃ、明日の朝飯にしよう。うんうん』


 そう言いながら爺じはオオムカデ掴んだままをここを立ち去ろうとする時、オオムカデを持っていない片手で私のお尻をモミモミと揉んだ。


「ひゃい!?」


『人間族の女の子は柔らかさが違うのお。

 怖くて寝ションベンするでないぞ。おやすみ。ほっほっほ』


「ううう……」


 こんどやったらマイみたいに蹴飛ばしたらいいのかな。

 ともあれオオムカデ騒動はこれで片付いた。

 でも部屋に違うオオムカデが現れたらどうしよう。


『今度は私がトイレへ行く』


「ああ、どうぞ」


『マヤ、シーシーしてくれるか?』


「しねえよ!」


 アイミが三歳児みたいなことを言うからびっくりした。

 パティはそのまま腕に抱きついているので胸がふにょんと良い感触だ。うへへ

 すぐにアイミはトイレから出てきたので、部屋に帰る。


---


 やれやれ、これで眠れる。

 だがパティはオオムカデが気になってか目が冴えてしまったようだ。


『あー 虫除けの結界を張っておくか。

 ついでにクソ(じじい)も入ってこられないようにしてやる。いっひっひ』


「おー、そんなことが出来るのか」


 アイミは悪い顔をしていた。

 入ってこようとしたときの罠もしかけるに違いない。

 朝起きたら爺じが廊下で転がってたりしてな。

 アイミがステッキを振りかざすと、目には見えないが力が働いているのを感じる。


「アイミちゃん、ありがとうございます。これでよく眠れそうですわ」


『あの(じじい)がこの横で寝ていたらムカデより気持ち悪そうだからな』


 お笑い番組のコントで「◯なおじさん」てのがあったのを思い出した。

 あれはすごく面白かったなあ。

 イスパルでは喜劇のセンスが古すぎて何が面白いのかよくわからなかった。

 コントをやったらウケるだろうか。

 私は指を()して魔光灯に魔力を当てて薄暗くし、布団に入って目を閉じた。

 眠るまでに面白いコントを思い出してみようかな。


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