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第二百七十八話 三眼族の家庭事情

 お風呂場ではマイの家族に胸を揉まれまくって酷い目に遭った……

 と、普通の女性ならば思うところだが私は男である。

 孫娘、母親、お婆ちゃんがみんな不老長寿でぷりぷりの身体。

 そんな彼女らが裸で私の胸をマッサージしてくれたり、反対に私がマッサージしてあげたりで喜んでくれた。

 特にお婆ちゃんのマハさんとお母さんのマムさんには、畑仕事や家事でお疲れだったものだから脚のマッサージをしてあげたらこれが好評だった。

 脚を拡げたときに見えちゃいけないものが見えたりで、私は興奮しっぱなし。

 それを発散させる方法が女になったらとてもやりにくいので困ったものだ。

 何故ならば絶対に声が出ちゃうから。


 今度また村へ行く時、私が男だったらどうなるんだろう?

 当然マハさんたちにはマッサージをさせてもらえそうにないが、まさか爺じやマハさんとマムさんの旦那さんたちにマッサージをしたりされたり何てことになるのか?

 そんな男色は勘弁してほしい……


 ---


 お風呂から上がった私とマイは、パティとアイミが休んでいる部屋へ戻る。

 パティは持参してきた本を呼んでおり、アイミは座布団を枕にしてよだれを垂らして寝ていた。

 テレビが無い世界で、他人の家で時間を潰すにはそうするかおしゃべりしか無い。


「パティ、アイミ。お風呂上がったから、次は入りなよ」


『――んああ? よく寝た気がするが、長風呂だったのか?』


「読書に夢中でしたから時間が経っていることに気づきませんでした。

 何かあったんですか?」


「いやまあ…… マイのご家族も入ってきたから長話になっちゃってね。あはは……」


 お風呂でおっぱいの揉み合いっこしてマッサージしてたなんて言えるわけない。

 マッサージだけだけれど、親子孫丼ってすごいよな。


「マヤ様、それお似合いですよ! とても格好いいですぅ!」


「ありがとう、パティ」


 この道着は三眼族の民族衣装になるけれど、私も気に入っている。

 これを着てカンフースターみたいにアチョーアタタタとやってみたい。


『パティちゃんにも私のお古を貸してあげるからお風呂上がりに着ると良いよ』


「ええ? そうなんですか? ありがとうございます! うふふふっ」


『ただアイミちゃんのはサイズが無くて……

 ウチ、一番若いのがマオだから百年くらい子供がいないんだよ』


『ああ? 私には替えの服など必要無い。

 どれ、マヤ。よく見せてみろ』


 アイミは私が着ている服をあちこち観察している。

 ニヤニヤしてどさくさ紛れに尻を揉むのはやめろ。

 見終えたら、床に置いていた魔女っ子ステッキを持ち出す。


『魔女っ子クルクルパラピレポルンタッペロポップルドレミファでポン!』


「はぁ?」


 アイミはステッキを振りかざし、日本の魔女っ子アニメで使われている呪文のような言葉を発し、身体が黒い霧に包まれた。

 何故そんなことを知っているのかわからないが、呪文のセンスが絶望的に無い。

 昔見ていたミンキーなんとかの呪文は最高だったんだがな。


『ちょ、ちょっと! アイミちゃんって何者? 何が起こるのお!?』


「あっ しまった!」


 アイミには魔法や術をなるべく使うなと言っておいたけれど、もっと強く言っておくべきだったか。

 すぐに黒霧が消え、黒い道着を着たアイミの姿が現れた。

 あー良かった、アーテルシアにならなくて。


『これで良かろう。似合うか?』


『とっても似合ってて可愛いよ!

 着替えが出来る魔法が使えるなんて初めて見たよ。

 アイミちゃんってすごいんだねえ!』


『うむ。私は天才だからな』


 マイがそれで納得したようで助かった。

 魔族の国に長らく住んでいればそういうものなのかも知れない。


『じゃあ私が風呂場まで案内するから。

 もしかしたら爺じがまた覗きに来るかも知れないから、そのまま見張っててあげるね』


「え? 爺じはマハさんとマオちゃんがお仕置きしてくれたはずじゃ?」


「ええ…… 怖いです……」


『もしあの(じじい)が来たら今度こそゲンコツで……』


「アイミやめなさい」


 パティはとても嫌そうな顔で不安がってるし、アイミはミノタウロスを酷い目に遭わせたゲンコツ魔法を使おうとしてるからたまらない。

 マイならばきちんと見張りをやってくれると思うけれど、不安が残る。

 パティの裸を(じじい)なんかに見られてたまるか。


『部屋に放り込んで今は伸びてるはずだけれど、爺じの回復力はデタラメにすごいから安心できないよ。

 だから脱衣所で見張ることにする。

 もし見つけたら身内だろうが今度こそ本当にぶちのめすからね』


 さすが、責任感と正義感は警察官をやっているだけのことはある。

 ぶちのめすとは物騒だけれど、そこまでしてもどうせ後になるとケロッとしてるんだろうなあ。

 あんな丈夫な生き物って、神以上ではなかろうか。

 年齢だって二千歳であれば神の域だし……


「それじゃあマヤ様、お風呂行ってきますね。うふふ」


『マヤ、今度私と風呂に入るか? いっひっひ』


「ええ……」


 アイミのままで風呂へ一緒に入るといろいろ倫理的にまずいぞ。

 私は幼女を可愛いと思っても、そっちの()は無いからな。

 パティたちはマイに付いて風呂場へ行ってしまい、部屋は私一人になった。

 しばらく退屈だな……

 ん? 机の上に置いてあるのは、さっきまでパティが読んでいた本だ。

 ちょっと読ませてもらおう。

 タイトルは…… 『白百合の(しずく)と黒百合の芳烈(ほうれつ)』とアスモディア語で書かれている。

 アモールの館にある書斎から借りてきた本だな。

 何だか不安になってくるタイトルなんだが、取りあえず読んでみるか。

 アモールの言語変換魔法が効いているので、見た物がそのまま脳で変換されて理解が出来るようになっており、とても都合が良い。


 ――あああ うーん、これは百合の小説でそれも結構重たい。

 白百合、つまり可愛い女の子が黒百合のいけないお姉様に深く激しく愛される物語だ。

 パティはこんなものを平然とした顔で読んでいたぞ?

 女性同士の愛も興味があるのか……

 カタリーナさんとはすごく仲が良いから、二人っきりの時はすごいことをしてるのか?

 ぐへへへ…… いかん。いけない妄想をしてしまった。

 いや、待てよ?

 まさか女になった私を意識してなのではあるまいな?

 パティの性的意識が変な方向へ行ったら困る。

 ――そんなわけない。

 私はあともう少しで男に戻るのだから、それは考えすぎだよね……

 それにしてもアモールの書斎はBLから百合の小説まで、何て本を置いてるんだ!

 いったい誰の趣味なんだ?

 BL本はサキュバス組として、百合本はまさかオーガ組かオーク組?

 それともアモール自身?

 女同士を好む感じには見えないがなあ。


---


 数十分後、パティとアイミがお風呂から帰ってきた。マイはいない。

 二人とも顔を真っ赤にしてホカホカ。


「はふうう マヤさまあ。

 お風呂があんなに気持ちが良いと思ったのは初めてでした。

 すごく温まって身体が(ほぐ)れたようです。

 お肌も何だか触り心地が良いですね」


「それは良かった。

 その道着、すごく似合ってるよ」


「うふふ、ありがとうございます」


 パティは白い道着を着ていた。

 パジャマにも見えるけれど、そのままの格好で寝るみたいだから良いのか。


『ほっほっほお 気持ち良くて肩が軽くなった。

 何だか百年くらい若返ったようだな』


「――」


 温泉上がりの婆様かよ。

 マイが見張りをしている甲斐があり、パティたちは爺じに覗かれなかったらしい。

 後で爺じの部屋へ行ってみたら伸びたままだったとか。

 一先ず今日は安心だが、明日の朝に風呂へ入るならばまた心配が出てくる。

 ま、明日は明日で何とかなるだろう。


 パティはまたあの本の続きを読み始めている。

 真面目な顔をしているから魔法学術本か伝記物などを読んでいるようにしか見えないが、パティにとって百合とは真剣なことなのだろうか。

 心理学として参考にしているのならば有りかも知れないが。


『みんな、晩ご飯が出来たからおいでよ』


「まあ! 楽しみにしてました!」


『おお、ちょうど腹が減ってきたところだ』


 マイが部屋へ呼びに来た。

 パティとアイミは待ってましたと言わんばかりの表情だ。

 あんなにパオズを食べたのに、君たちの胃はブラックホールなのか。

 私はパオズをあまり食べていないのでまだお腹が空いており、どんな料理が出るのか期待したい。


---


 マイに付いていくと、広い板の間にはすでに家族が大勢集まってガヤガヤとしていた。

 そして真ん中には囲炉裏(いろり)と大きな鍋が吊ってある!

 すごい!

 日本でも実物を見たことが無かったのに、この村には昔の日本の姿がいくつもあって感激してしまう。


『おまえたち、今日は歓迎するぞ。

 これがチャオトン村での食事の基本じゃ。

 たくさんあるからたーんと食べるが良い』


『うちで採れた大根が入ってるから、とても美味しいですよ。うふふ』


『ガジラゴの肉も入ってるからな』


「ありがとうございます。御馳走になります」


『そこの空いてるところへ座ってね』


 爺じとマムさん、マイが私たちに声を掛け、マイが藁の座布団三人分の場所へ案内してくれたので並んで座る。

 私はマイとパティに挟まれた位置で、上座は勿論爺じ。

 パティとアイミは鍋を見て目がキラキラしていた。


「まあ! 私、このスタイルで食事をするのは初めてです!

 異国へ来た実感が湧きますね!」


『ほう、鍋料理か。スンスン、良い匂いだあ』


『へえー アイミちゃん子供なのによく知ってるね』


『ふふふ…… 昔、見たことがあるからな』


 うわっ こんな場所で口を滑らせるな。

 爺じがジッとこっちを見ている。


『え…… さっきの着替えもだし、アイミちゃん本当に何者なの?』


『世の中には知らない方が良いこともあるから、深く聞かないほうがいいぞ』


『そ、そうなんだ…… あははは』


 その話はそこで終わったことになり、食事が始まる。

 爺じは何か気づいたのか、じーっと見つめたままだったが。


「あの…… これはどうやって使うんですの?」


「そうか。パティは箸を使うのが初めてだったんだね。

 こうやって持つんだよ」


 私は自分の箸を持ち、パティの前で開いたり閉じたり動かしてみた。

 アイミは勝手知ったる感じで箸を使い、お椀に大根や芋、ガジラゴの肉を取ってバクバク食っている。

 こいつはアーテルシアだった過去にどこでどうしていたんだろうな。

 よく見たら自然に正座をしているからびっくり。

 パティはぺたんと座布団にお尻を乗せて女の子座りをしている。


「まあ…… なかなか難しいですのね」


「パティの分は私が取ってあげるよ」


「お願いします。マヤ様はお優しいですね。うふふ」


 私はパティのお椀に野菜や肉を取り、渡す。

 とても熱そうで湯気がたくさん出ている。


「熱いからふーふーして食べるんだよ」


『ほっほっほ。熱いのは鍋ばかりじゃなくておまえさんたちも熱々じゃな』


「いやですわお爺さまったら……」


 爺じに言われてパティは照れ顔。

 マイの家族はそれを微笑ましく見ていたので、妖しい百合の関係には思われていないだろう。

 さっき読んだ、パティが持って来た百合本のせいで私の方が変な思考になっているだけなのか?


『ああそうだ。マヤたちに家族の紹介をしなきゃね』


 マイが、食事をしながらそう言い出す。

 マハさんら女性と爺じ以外に、この部屋で初めて見たのは男性が二人。

 たぶん旦那さんと思うが……

 でも家族の人数が思っていたより少ないのは何故だろう?

 爺じとマハさんの世代が大きく離れているのでその間の人たちは?


『みんな知ってるけれど、まずはどスケベの爺じね』


『どスケベとは失敬な』


『だってホントのことじゃん。

 爺じがこの家の家長をずっとやっていて、七代後のお婆ちゃんがここに残っているんだ。

 それまでの大お爺ちゃんと大お婆ちゃんたちやその兄弟はみんな分家して他の村へ行ったり、この村で別の家を建ててるよ』


 人数が少ないのはそういうことだったのか。

 納得したけれど、この家の大きさではそんなに分家しなくても良さそうなものだけれど、家庭の事情があるのだろう。


「この家が本家なんだね」


『そうなんだ。お婆ちゃんから本家が女系になっちゃって、本当のお爺ちゃんと、お父さん婿に来ているんだ。

 それでこっちがお爺ちゃんのセンキョウ、お父さんのリュウホウだよ』


 二人とも若いし、優しそうな顔だ。

 センキョウさんは髪の毛ふさふさで綺麗にセンター分けでセットされているけれど、リュウホウさんは剃ってるツルツル頭だから顔が優しい天◯飯みたいだ。

 そういえば広場で見た三眼族の男性はツルツル頭の人が何人もいたけれど、三眼族は流行なのだろうか。


『センキョウだ。よろしく』


『リュウホウです……』


 二人ともやや緊張気味なのは私たちが珍しい人間族だからなのか、パティの美貌でそうなっているのかどっちだろうか。

 マハさんは綺麗だしマムさんも可愛いのになあ。


『マヤはもう知ってるけれど、お婆ちゃんのマハ、お母さんのマム、それから妹のマオだよ。

 上のお姉ちゃんは他の村へお嫁に行っちゃったけれど、マオとは二百歳以上年が離れているから私の子供みたいで、すごく可愛いんだあ。うふふ』


『お姉ちゃんったら恥ずかしいよ』


『ほほっ うちもお熱いのお』


 爺じがマオちゃんを揶揄(からか)う。

 マイとマオちゃんどころかマムさんの若さはほとんど変わらないように見えるけれど、三眼族の視点からだと違って見えるのか?

 マハさんは綺麗なお姉さん系だし、今でも十分に子供が産めそうな姿だから小さな子供がいてもおかしくない。

 マイやマオちゃんにもし子供がいて、お婆ちゃんのマハさんにもっと小さな子供がいるという不思議なことが起きていそうだけれど、そういうふうには見えない。

 すでに分家して自立しているのか、三眼族の生殖能力が人間よりずっと小さくて何十年か百年に一人しか産まないとか、三眼族なりの事情がありそうだ。

 そう思いつつ、大根と芋などの野菜、ガジラゴの肉、なんとお餅まで入った鶏ガラスープの鍋をつつき、マイの家族と和気あいあいで楽しい時間を過ごした。


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