第二百七十七話 温泉で楽しく
饅頭皿に山盛りだったパオズ【包子】はみんな食いしん坊のアイミとパティに食べられてしまい、私は二個しか食べられず悲しい気持ちになってしまった。
『ああ、仕方ないなあ。お母さんから追加分を少し貰ってくるね』
「ええ? ありがとう!」
その数分後にマイが台所から貰ってきてくれて、菜っ葉と粒餡を二個ずつ、無事に食べられた。
この世界にやって来て二年近く経つけれど、こんなところで日本の味に出会えて感激しすぎて言葉が無い。
『お母さん喜んでたよ。お客さんにこんなに喜んで食べてもらえたから』
「後でお礼を言わなきゃなあ」
あわよくば、小豆を種の状態で貰ってマカレーナで栽培出来ないかなあ。
そうなると米の種籾も欲しい。
饅頭一つ作るのにも大変だ。
『ねえ! これからみんなでお風呂へ入ろうよ』
「みんなってことは、大人数で入れるくらいのお風呂なの?」
『うちは家族が多いから、五、六人だったら一度に入れるんだ。
お湯は地下から沸いて出たのを入れてるから、すごく温まるよ!』
「それって、温泉なの!?」
『オンセン? そういう言葉は知らないけれど、この村の家はみんな湧き湯を引っ張ってお風呂や台所で使ってるんだ』
「すごいすごいすごい! 絶対入るぞ!」
まさしくそれは温泉!
家屋やおやきに続いて、温泉まで日本を感じることが出来るなんて思わなかった。
外を歩いている時に湯気が立ってる家が見えたけれど、あれが温泉だったのか!
ひょっとして…… ひょっとしなくても、源泉掛け流し!?
「あ、あの…… 私はマヤ様と一緒に入るのはまだ恥ずかしくて……
どどどどうぞお先に……」
「あはっ…… そそそうだよね」
私自身もパティの裸を見るのは取って置きにしたい。
女になった私の大事な場所は見られてしまったけれど、男の方はまだ見られてないからな。
『私も後でいい。腹ごなしをしておきたいからな。ゲフーッ』
「おまえ食い過ぎだって……」
アイミは腹をパンパンにして仰向けに寝転がっている。
おやきを勢いよく食っていたあれ、子供の身体に入る量じゃないぞ。
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マイと一緒に風呂場の脱衣所へ来た。
四畳半程の広さで木の香りが漂い、趣がある。
『お風呂から上がったらこれを着ろよ。
今着ているのと同じで、私のお古なんだ。
マヤが着ている服だと爺じがジロジロ見るからな。ハッハッハッ』
「へぇー、ありがとう」
マイから渡されたのは、畳まれている紺色の道着のような服で、今彼女が着ている服の色違いだ。
確かに、爺じに太股や胸を見られていると嫌だからな。
マイは気が利くなあ。
『あとこれは身体を洗うやつね。新しいのだから』
白くてもじゃもじゃしてる物体も渡される…… ヘチマか!
こんなものまで作っているんだなあ。
これで洗うと汚れはよく落ちるし、気持ちいいんだよ。
マイは服を脱いでTバックのぱんつだけになり、それもスッと脱いで全裸になった。
私も急いで脱ぐが、ブラを外すのがまだ手間取る。
『先に入るからねえ』
「ああ、うん」
くそー、ホック無しのスポブラだったら楽なんだが、マカレーナへ帰るまでの我慢だ。
ブラを外し、ぱんつを脱いでマイより少し遅れて風呂場へ入った。
「ひえー! 思っていたより広い!」
『そうだろう? 十年前に作り変えたばかりだから私も前に帰ったときびっくりしたよ』
まるで高級旅館の温泉のようで、壁や床は石のタイルになっていて薄いグレーの色調になっているから明るい。
湯船は黒に近い濃いグレーの色調だ。
五、六人どころかちょっと詰めれば十人は入れそう。
『昔は木で出来ていたんだけどねー
手入れが大変だから思い切って石造りに変えたんだよ』
確かにそうだ。
檜風呂なんて、香りと雰囲気は良いけれど手入れをしてても十年持たないと聞く。
お湯も一日おきに抜いて乾かさないといけない。
マイと私は木製の風呂桶を手に取り、風呂桶からお湯を掬って掛け湯をする。
いきなり湯船に入っちゃダメなんだぞ。
『マヤ、洗ってやるよ』
「わあ。お願いするよ」
マイがヘチマに石鹸を着ける。
手作り石鹸っぽいが、色が白い。もしや?
「マイ、その石鹸は何で出来てるの?」
『ああ、これね。アステンポッタの乳から作ってるんだよ』
「へぇー、アステンポッタかあ!」
地球の牛乳製石鹸みたいなものだな。
香りは金木犀に近い香りで、これも間違いなく天然だろう。
なんて良く出来た石鹸なんだ。
マイがヘチマで私の背中をゴシゴシと洗ってくれる。気持ちいい……
『よしっと! 背中を洗い終わったから私の背中を洗ってよ』
「うん!」
二人とも方向を変えて座り、私がヘチマでマイの背中をゴシゴシと擦る。
この背中が三百十五歳だなんて信じられないほどきめ細やかで綺麗だ。
傷一つ無いのが不思議だけれど、人間より肌の再生能力が優れているのだろうか。
こんな間近で女の子の肌を見てると興奮してくる……
そうだ、あの手があった!
「今度は手で洗ってあげるよ」
『え? 手で洗うなんて初めて聞いた。それでどうなるの?』
「すごく気持ちいいから、まあリラックスしててよ」
ふふふ。アマリアさんにエステをして培った腕が鳴る!
私の手に石鹸を馴染ませ、マイの身体にたっぷりと着ける。
背中を優しく優しく撫で回すように、そして肩から腰までマッサージ……
『ああ…… ふう…… 何これぇ……
気ん持ちいい…… あはぁぁ……』
マイが色っぽい声を出すからドキッとした。
喜んでもらえてるようなら、もっといいことをしてみようか。むひひ
彼女の背中に私の胸が当たるくらい寄り添って、マイの身体の前の方を手でマッサージする。
『ううっ ふうっ マヤったら、そんなふうに触られると……』
こうしてると、ラミレス家のおもてなしを思い出す。
今は私がアナベルさんとロレンサさんの立場になって、マイにサービスだ。
(爺じ視点、ナレーションはマヤ)
広場で爺じと戦っている時に、爺じが私の胸を触ったためマイが跳び蹴りでぶっ飛ばしたのだが、その爺じが帰宅していた。
マイと私が風呂場へ向かっている間、パティとアイミが休んでいる部屋へ爺じが障子戸から覗き込む。
『おや、君たちはここにいたのか。
マイともう一人のおっぱいぼいんぼいんちゃんはどこかのう?』
「お、お爺さま…… マイ様とマヤ様はお風呂へ行かれましたよ」
『ほほう、そうかそうか。わかった、ありがとう。
ゆっくりしていくがよいぞ』
爺じはそれ聞くと、廊下をスタスタと歩き家の奥へ向かう。
パティはその性格の良さで、風呂に入っていることをバカ正直に言ってしまう。
この後爺じがどんな行動を取るのかも知らずに。
(うっひっひ。人間の女の子の裸が見られるまたと無い機会じゃ。この時を逃すものか)
爺じは勝手口から一旦外へ出ると、風呂場がある屋根へ忍者のようにひょいと上がる。
そう。温泉施設の屋根には必ずある湯気抜きのための隙間があり、この風呂場も例外ではなかった。
爺じは風呂場の上からマイと私を覗こうとしているのだ。
(ふふふ。十年前に風呂場を改築する時に、わざと隙間を大きく作らせて見やすくしたのだ。
大工には換気をもっと良くするためと理由をつけたがな。
時々マムやマオをこっそり覗いておったがもう飽きた。
だが十年かかってとうとうこの湯気抜きの本領を発揮するときが来たのだ!)
爺じはウキウキニヤニヤして隙間から覗く。
隙間なんてものじゃない。
顔がすっぽり入れられるぐらいの天窓になっている。
(むほおおおおおお!? あやつらは何をやってるのだ?
人間の娘が後ろからマイの胸を揉んでいるだと!?
すすすすすごいものを見てしまった……
ううう…… 二千年生きててこれほど刺激的な光景を見たことがあったろうか。
しかし人間の娘の背中と尻しか見えんな……
くそっ こっちを向かんかい!)
その時、朝から畑へ出掛けていたお婆ちゃんのマハと、短時間手伝いに行っていたマオ
が空をフヨフヨと飛んで家へ帰って来たところだった。
マハは七百歳を超えているが、やはり三眼族は不老長寿のため見た目はマイと変わらない若さで、美しい金髪を後ろでお団子にしている。
爺じの奥さんはマハではなくマハには同年代の夫がおり、爺じはマイから八代上の超曾お祖父さんなのだ。
『お婆ちゃん、汗をたくさん掻いたね。早くお風呂に入りたいよ』
『そうだねえ。ご飯作らないといけないし、すぐに入ろうかね』
『うん! あれ……? お風呂の屋根に爺じがいる!』
『屋根の修理をしてるのかしら?』
『そういう感じには見えないと思うけれど……
そうだ! マイお姉ちゃんが帰って来てて、人間の女の子たちも連れて来たって言ってたから……
もしかしてもしかすると……』
『え? そうなのかい? だったらそのもしかしてだよ!
あのスケベ爺! 覗きをしてるな!?』
マハとマオは気配を消して爺じに近づく。
二人とも武術は達者なので、私たちの裸に夢中になっている爺じの背後を取ることは容易である。
マハとマオも爺じの後ろから風呂の中をチラ見する。
(お婆ちゃん、やっぱりマイお姉ちゃんと人間の女の子がいるよ。
二人で洗いっこしてて楽しそう)
(マイとお友達なんだねえ。後ろを向いてるから顔が見えないけれど)
『くううう…… 人間の娘、早くこっちを向かんかい!
わしに生のぼいんばいんを見せておくれ!』
『それは残念だったねわえ』
『うむ…… あの娘と戦った時にぼいんばいんが触れたときは天に昇りそうじゃった。
生で見ないと気が収まらんわい…… は!?』
『じゃあ天に昇ってもらいますか』
ようやく背後にいるマハとマオの存在に気づいた爺じは後ろを振り返る。
彼女の姿を見て爺じは青ざめ、屋根に片手をついて震えている。
マハは両方の拳を組んでパキポキ鳴らし、今にも爺じに殴りかかりそうだ。
『待てマハ! せめて冥途の土産に儚い命である人間の娘の生まれたままの姿をしっかり目に焼き付けたいだけなんじゃ!』
『それがどうかしたのかえ!? でやあああああ!!』
『ぎゃああああああああ!!』
マハは爺じに連続パンチをお見舞いした。
当然爺じは屋根から落ちてしまうが、ダメージは少なく猫のように着地した。
『マオ、さっさと片付けたいからアレを爺じにやってあげなさい』
『いいの!? よおおおおし!!』
マオがマハに習った大技だ。
マオは屋根から飛び上がり、爺じに向かって高速ドリル回転キックを食らわす。
『な、なんじゃ!?』
『うりゃあああああ!!』
『どべべべぐぎゃごごごぐふうううっ!!』
爺じはマオの予想外の技と高速の動きで避けきれずを、技を正面からまともに受けてしまいあっさりぶっ倒れた。
『ぐっ…… がはっ 今日はよくやられる日だな……』
『大丈夫爺じ?』
『そのうちケロッと起き上がるから放っておけば良いよ。
あっ でもこのままだとまた覗き見をするといけないね。
仕方ない。爺じの部屋へ連れて行くか……』
マハは爺じを肩に担いで勝手口から家の中へ戻っていく。
『爺じ、もうこんなことしちゃダメだよ』
『ぐふう…… ぐへへ』
爺じはどさくさに紛れて、担がれたままマハのお尻を片手でさわさわと触った。
何百年も武術や畑仕事で鍛え上げた、弾力あるお尻である。
『爺じ…… ここまで恥知らずだったとは、わたしゃ悲しいよ』
『うっ……』
マハは怒りを通り越して呆れ果てていた。
怒るととても怖いマハを知っている爺じは、彼女が静かな物言いをしてるほうがよほど怖いと感じ、部屋へ放り込まれるまで無言で微動だにしなかった。
(マヤ視点)
マイと私は対面になって洗いっこしている。
程々な大きさの綺麗なおっぱいを存分にマッサージ出来て幸福この上ない。
「今叫び声が聞こえたけれど、爺じっぽい魔力を感じたよ?」
『もしかしたら、爺じがどこかで覗いていたかも知れないよ。
でもお婆ちゃんとマオが退治したみたいだから大丈夫』
「ひえええ。爺じのスケベ心は貪欲だなあ」
うう…… マイといちゃいちゃしてるところを見られたかなあ。
あの爺さん、私はともかく孫の裸まで見ようとしていたなんてどうかしているよ。
日本だったら絶対に家族から縁を切られそうだけれど、三眼族は寛容だね。
洗いっこは終わり、石鹸をお湯で流してから湯船に入る。
「ああああ ふあああっ 気持ちいい……」
『やっぱりウチの風呂はいいなあ。ディアボリではシャワーばかりだからね』
温泉に入るのも、日本で地元の日帰り温泉へ通っていた以来だな。
しかも可愛い女の子と一緒に入っているなんて昔じゃ考えられない。
この世界に来てから周りが女の子だらけになってそれが当たり前になっているけれど、サリ様の神通力か知らないが有り難いことだ。
ん? 脱衣所の方からガヤガヤと女の人の声が聞こえる。
『あっ お母さんたちも入りに来たんだ。
うちは家族の人数が多いから、女はまとめて早めにお風呂へ入るんだよ』
「ええっ?」
ということは…… 当たり前だけれど、みんな裸だよね?
あんな可愛いお母さんの…… ドキドキドキ……
『まったく…… 爺じったらどうしようもないよ』
『そうねえ。またお説教しないといけないかしら』
『あっ お姉ちゃん! その娘が人間の女の子なんだね!』
あわわわわ。三人の三眼族の女性が入ってきた!
みんな前を隠しもしないですっぽんぽん!
しかもスタイル良過ぎ!
真ん中の女性はさっき台所で会ったお母さんで、今私のことを叫んでいたのは……
『ああ、紹介するよ。
左が妹のマオで、真ん中がお母さんのマム、右がお婆ちゃんのマハね』
マオちゃんとマムさんが可愛らしくて、マハさんはちょっとだけ歳を取った綺麗系。
胸の大きさはみんなマイと変わらなくてCカップくらいだけれど、マハさんはやや筋肉質で腹筋が割れている。
今男だったら分身君がバキバキに元気になっているはずだが、彼はいない……
でも下半身が何だかムズムズしてきた。
『おや、マイの人間のお友達だね。とても可愛らしいじゃないか。
――え? 人間ってあんなにおっぱいが大きいのかい!?』
『爺じが夢中になるのも仕方がないわね……』
『本当だ! お姉ちゃん! その娘のおっぱい触らしてもらってもいいかな?』
三人とも私の胸が興味津々で気になっている様子。
思わず両腕で隠してしまった。
「あははは…… あの…… 初めまして。マヤといいます……」
『マオ、勘弁してあげてよ。恥ずかしがってるから』
『ええ? 女同士だから気にしなくて良いよ。私のも触って良いから』
マオちゃんは私の右腕を引っ張って自分の胸にベタッと私の手を当てた。
マイよりちょっと張りがあって、触り心地はいいな…… うん。
『じゃあ今度は私ね!』
「わあっ!?」
マオちゃんが両手で私の両胸を組んず解れつで揉みしだく。
最初は荒っぽいと思ったが、意外に気持ちいい……
『あははっ マヤ。
三眼族は女の家族同士で胸をマッサージする風習があるんだよ。
だからねっ みんな形がいいだろう?』
『そういうことなんだよ。うふふ』
「そそそそうなの? あふうっ」
マイがアモールの館で一緒にシャワーを浴びていたとき、あまりに自然とベタベタしてきた意味がわかったよ……
『あらあら。次は私がマッサージしてあげましょうね』
『その次は私がしてやろう。お客さんには最大限のもてなしをしないとねえ』
「ひょえええ!?」
――爺じや長老たちといい、なんかとんでもない村へ来てしまった気がする。
私はともかく、パティたちが心配だなあ。




