第二百七十四話 チャオトン村の爺じと長老
アモールの館、書斎にて。
そこで訪問してきた三眼族のマイと、アモール、私と話していた。
マイの提案で、飛行機に乗ってここから東へ約四百キロ離れたマイの郷チャオトンへ行くことになった。
いつも書斎にいるパティとアイミに私たちの話を聞かれ、彼女らも同行する。
約一時間でチャオトンに到着し、長老に許可を貰うために飛行機を空中停止させたままマイは飛び出した。
マイが着ている服はエリカさんの古着であるシャツとミニスカのため、スケベな長老に見られまいと実家に帰って着替えることにした。
実家に帰るとマイのこれまたスケベな祖父が在宅しており、ミニスカ姿で見つかってしまう。
そしてマイが屈んでスカートが捲れた隙に、Tバックを履いたお尻を祖父に見られてしまうがマイはそれに気づいていない。
三眼族のスケベな老人たちはこの後何をやらかしてくれるのだろうか?
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(マイ視点、第三者のナレーションはマヤ)
マイの実家の奥にある、マイと妹のマオの部屋。
そこでエリカさんの古着から三眼族の服に着替える。
中国の道服に近いが一見寝間着にも見える、そういったシンプルなものだ。
色は白が基本で、黒、茶色、紺色、えんじ色など単色ばかり。
ずっと閉鎖的な生活をしていたので、それほどファッションに拘っていなかったからである。
マオはマイに、箪笥にしまっていた新しい服を出してくれた。
『お姉ちゃんの服はこれだよ。変わった色でいいでしょ』
『わああ! 可愛い色だね!』
マオが掲げている新しい服は、ほんのりピンクがかかった桜色。
集落に一軒だけ服を作って売っている店があり、桜色の服は最近から売り出したらしい。
マイはエリカさんの服を脱いで、黒のTバックだけになる。
『お姉ちゃん! 胸に何も着けてないの!? サラシは?
それに…… 何で紐を履いてるの!?』
『今朝、出先でちょっと運動して汗を掻いちゃってね。
そこで洗ってもらって、これは人間族の友達に借りたものなんだよ。
これは紐じゃなくてれっきとした下着でさ、人間族では流行なんだって』
『人間!? お姉ちゃん、人間族の友達がいたの!?』
『うん。偶然知り合ってね。すごく面白くて強い子だよ』
『ふーん。人間族って変わってるね』
三眼族は人間や他の魔族と比べて胸のサイズが小さい。
マイのCカップでも三眼族の中では巨乳なのだ。
妹のマオはBカップで、このくらいが三眼族の標準である。
そんな時にマイの祖父、爺じはマイの尻チラだけでは物足りず、部屋の障子戸を僅かに開けて覗いていた。
(うおっほー! あの紐は人間族の下着であったか!
何とも羨ましい。わしも人間族の国へ行ってみたいのう!)
人間族のTバックに憧れる爺じだが、二千年以上生きてきても人間の国へ行くことが無かった。
何故ならば三眼族の歴史にも人間族の国へ出掛けた記録が無く、人間族には三眼族の存在がほとんど知られていない。
首都ディアボリでマイと私が出会ったように、人間族と対面することは数十年から百年に一度の希有なことだ。
(どれどれ、もうちょっと上は見えんのか……
むっはー! マイの胸はあそこまで成長していたか!
小さい頃は風呂上がりに裸で駆けずり回っておったのにのう。
しかし五百年前に一度だけ見た人間族の女、あれには仰天したわい。
マイの三倍、いやもっとあったかも知れぬ……
むっひっひ。思い出すのう)
マイの裸を覗き見を楽しんでいる爺じ。
武術の達人だが孫の成長した姿に夢中になっていれば、後ろから何かが近づいていることに気づくはずもない。
トントン
誰かが爺じの肩を叩く。
『なんじゃ今いいところなのに…… ハ?』
『お爺ちゃん! 何こそこそとマオの部屋を覗いてるの!?』
『はわわわわ…… マム!
これは孫の成長を確認しているだけであってなあ……』
『ああっ! 爺じ! お姉ちゃんの着替え覗いていたんだ! スケベ!』
マオが戸から顔だけ覗かせて爺じをなじっている。
『あら、マイが帰ってきてるの?
お爺ちゃん! 孫の裸を見て喜んでるなんて恥を知りなさい!』
ベシッ バシッ ベィィィン!
『痛たたたた!! 痛い痛い!』
マイの母親マムによって、爺じはツルツル頭を強く何回も叩かれ、良い音が鳴っている。
三眼族の男が皆ツルツルではなく、タイランは剃ってるだけで爺じは歳を取ってからのツルツル頭である。
マムは五百歳超えだが見た目はマイと変わらないほどの若さで、村の中でも評判の美人奥様で通っている。
『もう! あっちへ行きますよ!』
『あうう……』
爺じはマイの母親に後ろ襟を引っ張られ、ズルズルと他の部屋へ連れて行かれた。
その間にマイは三眼族の服を着終えた。
『お姉ちゃん、よく似合ってるよ。二百歳くらい若く見えるね!』
『マオったらこのー! あたしはまだ若いってば!』
『アハハハハッ!』
この姉妹は仲良くじゃれ合っているが、三百歳を超えても心が若く保たれている不思議な魔族だ。
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スケベな長老の家。
日本の古民家に近い宅地の中で、一際大きな家だ。
会合があればこの家に村の皆が集まる。
長老の家にも若い孫娘メイファがおり、彼女の案内で長老の部屋へ通された。
『マイ、久しぶりね。お仕事忙しかったの?』
『うん。そもそも警察の仕事ってさあ、面倒事が多いからね。
上司や部下もあたしに依存しちゃって、たまんないよ』
『そっかあ。みんな三眼族の能力に頼っちゃうんだね。
おーい爺ちゃん、マイが帰ってきたよ!』
長老の部屋の前に着き、メイファが障子戸を開けると長老が寝転んでいた。
年寄りらしく暇を持て余しているのだろう。
『爺ちゃんマイが来たぞ! なんかお願いがあるんだってさ!』
『うおっ!? マイだと!?』
『長老、人間族の女の子を三人待たせているんだ。
さっさと起きて話を聞いてくれ!』
長老がグズグズと身体を起こし、あぐらを掻いて面倒臭そうにマイたちを見渡す。
マイとメイファは長老の前で正座をした。
『はああ…… おまえはいつもそれだ。
ちったあ年寄りを敬わんかい』
『あたしはみんな知ってるんだよ。
若い頃はウチのスケベ爺じとつるんでいろいろやらかしてたことを』
『う…… ま、まあ、元気そうで何よりじゃな、マイ。
で、人間族だと?
人間はこの村まで絶対に到達出来ないはずなのに、どうしてだ?』
『マヤって人間の女の子が空飛ぶ大きな乗り物に乗ってディアボリに来ててさ。
それで友達になって、その空飛ぶ飛行機で連れて来てもらったんだ。
すげえよ! ディアボリから一時間で着いたんだよ!』
マイは興奮気味に飛行機のことを長老に話した。
飛行機の中でも子供のように喜んでいたから、長い間生きてきて余程のことだったのだろう。
『なんと! 人間族はそんな高い技術を持っていたのか!』
『いや、そのマヤって子がすごく魔力が高くてね。
どっちかというと魔法の力業で飛ばしてるみたいなんだ』
『ううん…… そんな手強い者をここへ連れて来ていいものか……』
『可愛い女の子でさ、すっごくいいやつなんだ。
あたしたちに敵意は絶対無いよ。あと二人も女の子がいるから』
『なっ 女の子が三人…… そ、そうか。
おまえ程のやつが仲良くしているのならば、彼女らを信じてもいいだろう』
長老は女の子と聞いて、下心丸出しであっさり許可を出してしまった。
しかも三眼族にとって滅多に出会うことが無い人間族である。
是非とも一目見たいことだろう。
私たちがこの後でどういう扱いをされるのかは甚だ疑問が残る。
『やったー!!
それで、広場に空飛ぶ乗り物を一晩置いておきたいんだけれど、いいだろう?』
『うむ。今日明日は使うことが無いし、皆の衆に会わせるのならそこが良かろう』
『ありがとう長老! 早速連れてくるね!』
『ああっ 私も行くよ!』
マイは立ち上がると直ぐさま長老の家から飛び出した。
長老の孫メイファもマイに続いて飛んでいく。
(ムフフ、楽しみだのう。
わしがディアボリで一度だけ見たことがある人間族は男で、しかもおっさん。
女を見るのは初めてじゃ。
我々三眼族と違い、一生が百年足らずで美しくいられるのは僅か二、三十年という。
そんな一日だけ咲いて散ってしまう花のような儚い美しさをこの目で見ないわけにはいかぬ!)
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(マヤ視点)
チャオトン付近の山で空中待機している飛行機の中で。
はあ…… マイが飛び出してから、かれこれ一時間。
交渉が難航しているのだろうか。
『おい退屈だぞ。あいつはまだ戻って来んのか』
「そうですねえ。お話が上手くいかないのかしら」
「おいアイミ、村ではアーテルシアには戻るなよ。
面倒臭くなるのは嫌だからな。
あと魔力は出来るだけ抑えてくれ」
『うるさいやつだのう。わかっておる』
「あっ! 誰か二人、こっちに向かっているのが見えますよ!」
「やっとマイが戻ってきたのかな」
私は乗降ハッチを開けてマイを迎える準備をした。
もう一人は誰なのかな。
グラヴィティで移動するより遅いので、視界に入っていてもなかなか近づかない。
平行移動するための空中浮遊というより、上下移動するためなんだろう。
パティが彼女らを発見してから飛行機に到着するまで三分を要した。
おや、マイが着替えている。三眼族の民族衣装なのか?
『やあ! お待たせ! 長老から許可が下りたから早速行こう!
この子は長老の孫であたしの友達なんだ』
『メイファです。あなた、本当に人間なのね? 可愛いいい!!』
「あ、可愛い? あの…… マヤです。
こっちがパティ…… いや、パトリシアで、小さいほうがアイミです」
『小さいのは余計だ!』
アイミはさっきからちょっと機嫌が悪そうだ。
村に入ってから何か面白いことがあれば良いのだが。
『わあああ! パトリシアさん? びっくり!!
まるで絵に描いたような……
そう、とても可憐で女の私でも見惚れてしまうよ!』
「そ、そうですか…… うふふ」
初めて金髪の白人女子を見た田舎の日本人といった反応だ。
パティは顔を赤くして照れている。
このメイファさんは赤毛でやや面長、鼻がスッと長くとても美人。
そんな女の子がパティの容姿をべた褒めしているので気を良くしている。
『アイミちゃん、人間の子供なんだね!
なんて愛らしいの!? 抱きしめたくなっちゃうほど可愛いよ!!』
『ふむ、そうか。私は可愛いからな。うんうん』
メイファさんってたぶん天然でストレートに言うタイプみたいだから、褒めればわざとらしくなくて言われた当人には聞こえが良い。
まあ、パティとアイミもチョロいから余計になんだが。
「じゃあ、飛行機を停めるところまで案内してくれるかな?
このまま飛行機に乗ってくれていいから」
『オッケー! 広場に停めて良いって長老が言ってた!』
こうして私たちの飛行機は、マイとメイファさんも乗せてゆっくりチャオトンの村にある広場へ向かった。
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チャオトンの広場上空十メートルに到着。
集落の家々は日本にある藁葺き屋根の古民家に近いが、サイズが大きい。
どの家も庄屋の屋敷みたいで、白川郷の合掌造りのような家も何軒か見えた。
冬はきっと雪深く厳しいに違いない。
広場には飛行機を停める場所を空けて輪になって村人が集まっており、百人ぐらいはいるだろうか。
恐らく村人の大部分だろう。
何だか私たちがUFOから降りていく宇宙人になったような気分だ。
それか探検隊がジャングルに住んでいる少数部族の村へやって来たような。
人間がこの村に降り立つのは初めてのことらしいし、奇異な目で見られるのは覚悟をしなければならない。
ゆっくり飛行機を地上に降ろし、着地すると村人が歓声が上がる。
三眼族の村だから当たり前だけれど、みんな目が三つあってそれぞれの目が大きく開いてびっくりしている様子だ。
子供たちが何人かおり、警戒しながら好奇心でゆっくり近づいて飛行機を見に来ている。
そこへ乗降ハッチが開き、子供たちはびっくりして一目散に逃げてしまった。
ハッチの階段が降りると、マイとメイファさんが先に降りる。
『長老! みんな! これが人間族の、私の友達が作った空飛ぶ乗り物で、飛行機っていうんだ!
今からその友達を紹介するからね!』
マイがその言葉を述べると、再び歓声が上がる。
うう…… 叙爵式と同じくらい緊張してきたよ。
乗降口正面には、ファンキーな三眼族の年寄りが二人見える。
あのどちらかが長老なのかな?
それにしても、部族の長老と聞けば厳格な印象を持っていたけれど、二人ともニヤニヤしてある意味では危なそうだな……
「マヤ様、どうしましょう? 何だか恥ずかしいです……」
「私もだよ。まあ、マイに任せてなるようになるしかないね」
『私は腹が減った。あいつら何か食わせてくれるのか?』
「何かわからないけれど、村人はみんな元気そうだからきっと良い物を食べているだろうよ」
『そうかそうか。それは楽しみにしておかねばな』
相変わらずアイミは食い意地が張っている。
という私も、ネイティシスに来てからだんだんグルメ通になってきて、三眼族がどんな食事をしているのか楽しみだ。




