第二百七十三話 三眼族の村チャオトン
マイとシャワーを浴びた後、部屋の掃除に来たオフェリアに洗濯物を渡す。
そしてアモールにお茶しようと誘われたので二人で書斎へ行った。
『へぇー、すごい本の量だね。まるで図書館だ』
「私も最初、そう思ったよ」
ここへ初めて来たら誰もそう思うだろう。
学校の図書室かそれより広いくらいで、さらにアモール専用の立入禁止書斎が別にある。
いつものようにパティがテーブルの一席に座って魔法の勉強をしており、別のテーブルの席でアイミがニヤニヤ笑いながら何か本を読んでいた。
どうせまたBLかTLの乙女系小説だろうな。
パティは私が痴態を晒した時の機嫌は昨日のうちに直してくれて、今朝からいつものように接してくれた。
だが私とマイが一緒にいるのを見て、ジロッと睨まれる。
マイが来ることは前もって言ってあるのだが、知らない女がいると気に食わないのかなあ。
もっともイスパルの一夫多妻が男に都合が良すぎて、日本の常識だとパティの反応の方が常識且つ寛容なのだ。
私たちの魔力に勘づいたのか、アモールが専用書斎から出てきた。
相変わらずのスリットスカート姿なんだが、他に履く物が無いのかよ。
『あら、それはエリカの服? 似合うわね』
『ああ…… ありがとうございます』
(ねえエリカって誰?)
(私の人間の友達で、アモール様の弟子だよ)
(へえ、弟子を取ることあるんだ)
マイが小声で私に話しかけてきた。
恋人と言わずつい友達と言ってしまったのは、私の下心。
だからといってマイには今のところ恋愛感情が無い。
彼女の方は、一緒にお風呂へ入ろうと言ってくれたり私に対して随分心を許してくれているが、男に戻ったらどう接してくれるのだろうか。
空いているテーブルの席にアモールと私たち二人が座り、話が始まる。
そこへ丁度、スヴェトラさんがやって来てお茶を入れてくれた。
粗雑な印象の彼女であるが、仕事なのでそこは丁寧細やかにやっている。
話の内容は三眼族の村の暮らしや、彼らが使う術の話など。
アモールは直接政治に関わっているわけではないが大帝とも通じている国の要人なので、国民の様子を聞くことも大事なことだ。
村はここから東へ約四百キロの所にあり、山間の閉鎖的な土地柄だそうだ。
マイは数年に一度帰郷しているらしい。
三眼族は、一般の魔族が使っている魔法とうは別に、独特の術を使う。
マイがインキュバスのマツタケに使い、アヘ顔にさせたあの術がそうだ。
『でさあマヤ。あの飛行機ってやつで私の郷まで行くと時間はどのくらい掛かるんだ?』
「うーん…… 一時間ちょっとか、もっと早く着くかもね」
『えええ!? あたしでも三日はかかるよ!
じゃあさあ、これから飛行機で郷まで連れて行ってもらうことは出来るのかな?
忙しくてもう七年も帰っていないんだ』
先ほどの話でマイたち三眼族は闇属性魔法が使えないらしく、グラヴィティやグラヴィティムーブメントで飛んでいけない。
三眼族の術で飛べるが街の中で移動する程度の用途で、走って行ったほうが速いそうだ。
「それは構わないけれど、いくら飛行機が速くても一日じゃゆっくり出来ないよ?」
『実は明日も休みなんだ。マヤも郷に泊まっていけよ』
本を読みながら知らぬ顔で私たちの話を聞いていたパティとアイミの表情がピクッと変わった。
絶対付いていくって言いたげだ。
特にパティは、よく知らない女と私がお泊まり外出となると気が気でないだろう。
『ちょっとマヤ様? 当然私も行く権利がありますよね?』
パティは私が座っている隣に来て、腕を両手で掴んでマイにアピールしてるように見える。
それを見てマイは苦笑していた。
『もちろん歓迎するよ。人間族の女の子が来るのは初めてじゃないかな』
『私も連れて行け! なんか面白そうなニオイがするからな! うひひ』
アイミは自分が座っている席から叫ぶ。
やっぱり食いついてきたか。
トラブルを起こさなければいいんだが、黙って出掛けると後が面倒くさいからな。
こいつがマイより二百歳近く年上だなんて信じられないよ。
『ああ、君も良かったらおいでよ』
「ありがとう、マイ。三人お世話になるよ。
あっ アモール様もいかがですか?」
『やることがあるから私はいいわ。いってらっしゃい』
「わかりました。
みんな、早速出掛ける準備をしようか」
こうして、アスモディア滞在三週間目で初めて飛行機で出掛けることになった。
パティが連れてきたおっぱいプリンたちは三眼族に刺激を与えないためにも、ジュリアさんとビビアナへ預けて行くことにした。
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一泊なので最低限の着替えと、手土産に館の食料庫から野菜類を分けてもらって持って行く。
平地ではないのでそれほど大量に育てられないから喜ばれるらしい。
また、未使用のランジェリーがまだ残っているので、向こうでそれが欲しい女の子がいればあげることにする。
皆も準備が出来たので、早速飛行機に乗り込んだ。
距離が短いので今回はコクピットに私一人だけ。
他の三人は勿論客席に座っているが、マイはエリカさんの古着のままなのでミニスカから覗く太股の間からぱんつがよく見える。むふふ
『ほえー すっごーい!
まるで大きな魚の中身をくり抜いて中に入っているみたいだ!』
お腹の中に入っているとは言わない例えがちょっと面白かった。
さて、早速出発をする。
アモールにはディアボリ飛行警備隊のドラコンに連絡を取ってもらい、攻撃しないようにと頼んでおいた。
あの三色信号ドラゴンばかりではないからな。
垂直離陸後、急加速上昇する。
『おおおおおなんだこりゃあ! 気持ちわるーい…… うえっぷ』
『なんだおまえは、強いクセしてだらしないのお』
パティの後ろの席に座っているアイミが、マイを煽る。
彼女は上昇のGを感じるのが初めてだから仕方ない。
それでも戦ってる時に跳んで跳ねたり回転しているのに意外だな。
地球の飛行機ほど高く飛ばないので三分もすれば水平飛行に移り、マイは落ち着いてきた。
彼女は窓に顔をベッタリくっ付けて地上の景色を見ている。
『街がもう見えなくなって、森ばかりだ。
こんなに高く飛べるなんて、マヤの飛行機ってすげえな!』
「そう。私のマヤ様ですから、すごいんですよ」
パティは私のとアピールして、ドヤ顔で自慢している。
そういえば女になってからパティと二人きりの時間を作っていない。
帰ってからでもそうしてあげないとな。
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『ひええ! ここら辺ってチャオトンの近くじゃん! 速すぎるよ!』
間もなくマイの郷であるチャオトンの村へ着く。
大変深い山岳地帯で、森の中に小川と段々畑が見える。
その川下の拓けた場所に、木造の家屋が三十軒ほどある小さな集落があった。
集落から続いている道が見えない。
三眼族が飛んでいく理由がここでわかった。
『あそこがチャオトンだよ。
私が先に降りて長老に話をしてくるから待っててね』
私は飛行機を集落から百メートルくらい離れた空中に停止させ、マイは飛行機の乗降口からぴょいと飛び去って行った。
マイが館へ来たときは見てなかったから、彼女が飛んでいるのを初めて見た。
重力制御とは違うみたいだが、どういう理屈で浮かんでいるのかよくわからない。
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(マイ視点、第三者のナレーションはマヤ)
チャオトンは七年ぶりかあ。久しぶりだよ。
いつもは長くても五年だったのに、このところ小さな事件の処理が多くて長期休暇が取れなかったからなあ。
おっ 通りを歩いているのはタイランじゃないか?
『おーい! タイラン! 帰ったぞお!』
『あっ マイ! え?
ななななっ 何て格好をしているんだ!』
『しまった! 忘れてた! ううう……』
マイはミニスカを履いていることを忘れており、下にいるタイランからはスカートの中身が丸見えだった。
この村の衣服は男女とも中国の道着に近いシンプルなものばかりなので、ショートパンツならまだしもミニスカなど変質者並である。
マイはスカートの前後を手で押さえてヒュルヒュルとタイランの前に降りた。
タイランとはマイの実家の隣の家に住んでいる夫婦の旦那で、マイと同年代である。
ちなみに頭はツルツルだ。
『ああ…… うむ。久しぶりだったな、マイ。
で…… その服は何なんだ?』
『こ、これはアモール様の館に来ている人間族から借りた服なんだよ……』
マイは急に恥ずかしさが増してスカートを押さえたままモジモジする。
着ている服のことまで考えずここに来たのを後悔しているようだ。
『アモール様って国一番の大魔法使いの? 人間族だって?
警察は偉い人に関わる仕事もあって大変だねえ』
『仕事って訳じゃないんだけれど……
それでさあ、その人間族の乗り物でここまで連れてきてもらったんだ。
ほらっ あれだよ!』
『なに!? あ……』
マイは私たちが乗っている飛行機に指した。
タイランは空中に静止している物体を見て固まってしまう。
地球に来たUFOみたいなものだから当然の反応だろう。
『長老はいるんだろ?
人間族の女の子三人も連れてきたんだ。
みんな友達でさ。今晩だけ泊めてもらおうと許可をもらいたくてさ』
『ああ…… そうなのか。
長老はいるから家に行ってみるといい』
『わかった。ありがとう』
あたしはタイランと別れ、村の中心にある長老の家に向かうことにするが、その前に私の家に寄って着替える。
長老はスケベだからこんなの見たら何をするかわかんないよ。
でもウチの爺じもスケベだから、どっかへ行ってたらいいのになあ。
と思っているうちに小さな村だからあっという間に家に着いた。
変わらないなあ、この家は……
もう百年以上このままだけれど、そろそろ直すところを直さないと潰れちまうぞ。
『おーい! ただいまあ!』
『あ! お姉ちゃんだ! おかえりぃ!』
部屋から玄関に飛び出てきたのは妹のマオでもうすぐ百歳になる。
健気でとても可愛くて、家事全般そつなくこなすしっかり者だ。
三眼族は百歳ぐらいで成長が止まってその後千年以上はこのままの姿でいられ、あとは寿命までゆっくり歳を取る。
マオと七年会わないうちに少し成長して、あたしに似てきたな。
『やあマオ。元気そうで良かったよ。
七年ぶりだからすっごく綺麗になったね!』
『そう? うふふ。それで七年ぶりのお姉ちゃんの格好は何なの?
いつもよりなんかエッチぃよ?』
『これはいろいろ事情があって…… あはは
爺じに見つからないうちに着替えるから! あっ……』
『マオや、誰かいるのか?
おおっ!? マイが帰ってきたか!』
爺じが居たか……
ドタドタと玄関にやって来る。
はぁ…… 前にショートパンツで帰ったときでも孫相手にエロい目で見てきたのに、こんな短いスカートじゃどんな顔をするやら。
『ばふううううっ な、なんじゃその履いてるものはあああ!!??
爺ちゃんは知ってるぞ。
昔、街で見かけたスカートっちゅうものだろ。
しかも、見たことも無いほど短い…… うひひ』
やっぱりだらしないエロい顔であたしを見ているが、これが無ければ良い爺じなんだけれどなあ。
爺じはもう寿命の二千歳を超えているけれど、まだ死にそうにない。
三眼族の歴史では三千歳まで生きた者が何人かいるから、爺じもそのくらい長生きしそうだな。
マオはそんな爺じをとても残念そうな顔で見ていた。
『爺じ! 孫が帰ってきてから早々そんなエロブサイクな顔しないでよね!』
『じ、爺ちゃんは昔、男前だったんだぞ!』
『それ何回も聞いたしもういいよ、着替えるから……
マオ、服はいつもの箪笥に入ってるかな?』
『うん! 年に一回は出して洗ってるから大丈夫だよ!
あっ 今年作った新しいのもあるからそれを着てみたら?』
『やったあ! ありがとう!』
爺じは放っておいて、普段はマオが使ってる部屋へ行く。
今は嫁いでいないお姉ちゃんと、マオが産まれる前は二人で使っていたんだ。
仲良しで並んで寝てたっけ。懐かしいなあ。
『つれないのぅ…… おおっ!?』
マイの爺じ、三つの目が大きく見開いた。
彼は日本の古民家によくある玄関の式台に座っており、マイが玄関土間から足を掛けて上がる。
上がり框の段差が高いので、その上の取次(玄関の廊下)に手をついて屈んだ時の、マイの後ろ姿を見てしまった。
Tバックのお尻が丸出しになってしまったが、マイはそれに気づいておらず、マオと一緒にスタスタと奥へ行ってしまう。
『今のは夢か幻か、冥途の土産か…… ええもん見させてもらった……
マイもいい女に成長したのう。これでいつでも黄泉の国へ行けるわい』
『爺じ、なんか言ったか?』
『ウンにゃ、何でも無い』
マイの爺じは玄関で座ったまま、満面の笑みで孫の成長を喜んでいた。
脳裏に焼き付いた彼女のお尻を思い浮かべながら……




