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第二百六十五話 魔女とサキュバスの恐怖

 館のドレスルームで私の着せ替えショーが行われている中、庭の方で大きな振動と衝撃音があった。

 みんなびっくりして、私もパティのJK制服を着たまま外へ飛び出した。

 小さなクレーターの中にはアーテルシアの兄であるヒュスミネルという神がいて、その上にはそいつが出てきたと思われるデモンズゲートがあった。

 ヒュスミネルがアモールを煽る。

 だがよりによってババァと三回も言ってしまう。

 アモールの使用人たちはヒュスミネルよりアモールに対して恐怖していた。

 私はまだアモールの本気を見たことがないので、力がどれほどのものかも知らない。

 これから何が起こるのだろうか。


『神のクセにずいぶんイキがってるクソガキねえ……

 ああ…… エリサレスのマザコン息子では仕方がないか』


『なっ…… 何いぃぃぃ!?』


『本当に…… 母親とそっくり。

 何も考えず、勢いだけ……

 だから五百年前も、ついこの前も逃げてしまったのよ』


『ババァ! 言わせておけばああ!!』


 アモールが無表情でヒュスミネルを煽る。

 ヒュスミネルはそれを聞いて顔を真っ赤にして激怒した。

 わざわざヒュスミネルを激発させるあたり、アモールはあいつを罠に嵌めるつもりか?


 ああ……  ババァと言うのもう四回目だよ。

 アモールは、ババァと言われるほど老いてはいない。

 肌の瑞々しさと張りこそ人間の十代二十代より失われているが、熟れた肌の滑らかさと柔らかさは極上だった。

 ヒュスミネルは見た目二十歳前後のイキり若造だから、同年代以外は眼中に無いのだろう。

 アーテルシアの兄だから五百歳くらいと仮定しても、熟女の良さがわかるようになるのはあと何百年かかるのか。


 激怒したヒュスミネルは両腕を上に挙げて構えた。

 何かを仕掛けるのか?


『ハァァァァ…… 喰らってみるがいい。千手(せんじゅ)光輝(こうき)滅殺(めっさつ)拳!!』


 その名の通り、千手観音(せんじゅかんのん)のようにたくさんの光る手刀がアモールへ向けて突き刺さる!

 だがアニメみたいに技の名前を口で言ってから攻撃するのは、この世界ではしない。

 私がヴェロニカと対戦したときに雨燕(あまつばめ)と口にした後、ちょっと恥ずかしかった。


 ズァァァァァァァァァ ズダダダダダダダ!!


『フッ……』


 アモールは嘲笑(ちょうしょう)すると、魔法で自分の前に真っ黒で五メートルはあろう大きな盾を出した。

 光る手刀の威力全てが盾に防がれる、というより闇の中へ吸収されてしまった。

 アモールはヒュスミネルが技を発動した瞬間に見抜いて、それに対抗する魔法で防いだのだ。


『そんなバカなっ』


『おまえの技を防ぐことなど容易(たやす)い……』


『ならばこれはどうだ! ハァァァァ!』


 次にヒュスミネルは両手を胸の前で構え、拳を握った。

 するとヒュスミネルの両側に大きな黒い霧の塊が発生する。

 黒霧の塊は大きな(こぶし)の形に形成された。

 あれはアイミがミノタウロスを退治するときに使った技だ!


『あっはっはっはっは! なんて浅はかなの!』


 アモールもアイミが使っていた技を見たので、大ウケで笑っていた。

 勿論ヒュスミネルはそれを知らない。

 後ろでアーテルシアは黙っていたが、呆れた顔で見ていた。

 恐らく両者どちらにも対してであろう。


『何を笑っている!?』


『いいわ。やってみなさい』


『身体をバラバラに千切ってやるか、握り潰してやる』


 ヒュスミネルはそう言うと、黒い二つの大きな手をアモールに向かって蚊を叩くようにバチンと挟み込んだ。

 ありゃ…… アモールは本当に蚊みたいに潰されたように見えるけれど、大丈夫なのか?

 アモールの魔力を感じないし、まさかね……


『ハッハッハッ ざまあないな!』


 ヒュスミネルは得意になって腰に手をやり笑っていた。

 まさに天狗の状態。

 ただこういう展開だとそれで終わらないのがパターンで、オフェリアたち使用人は心配そうに見ているが絶望に満ちたような顔をしていない。

 神を相手に余裕で笑っていたアモールなので、過去に何かあってオフェリアたちはそれを知ってるからこその反応だろう。


 ヒュスミネルが笑っているうちに、大きな黒い手の甲の真ん中が霧に変わっていく。

 そして手の甲に穴が開いて、挟まれたはずのアモールの姿が見えてきた。

 アモールは穴からスタッと降りる。


『おまえが作った黒い霧など、とっくにお見通しよ。

 瞬時に中和して溶かしておしまい』


『そんなデタラメなことがあるかああ!!』


 ヒュスミネルはかなり狼狽(うろた)え、大声を出していた。

 確かにデタラメだ。

 アモールにとってはすでに対策済みの技だったのか。


『アーテルシアも……

 その前に五百年前にエリサレスが使っていた……

 何故今更おまえが使うのか、私が不思議に思ったわ……

 おまえの母上とやらはヌケてるんだねえ。オッホッホッ』


『なっ ぐぁぁぁぁぁぁ!』


 穴が開いた黒い拳は霧散し、ヒュスミネルは声を荒げた。

 子供の癇癪(かんしゃく)にも見えるが……


『はあ…… もうこいつはつまらない……

 さっさと片付けるわ』


 アモールは両腕を拡げると、光の輪が片腕に二つずつ、合計四つが現れる。

 それを投げ輪のようにしてヒュスミネルに向けて放った。

 まるでウル◯ラ◯ンみたいな技だな。

 四つの輪はヒュスミネルの両腕両足に一つずつ架かり、空中で見えない十字架に張り付けられたようになった。


『なあっ! 動かない! ぐうぅぅぅぅ!!』


 両腕両足四点を留められただけだが、ヒュスミネルはまるで身体が麻痺したように動かない。

 恐ろしく強力な拘束魔法だ。

 アモールは後ろへ振り返り、カメリアさんたちサキュバス組に言い放つ。


『カメリア! ロクサーナ! ファビオラ!

 滅多に味わえない神の精力よ。

 全部吸い取ってしまいなさい!』


『『『心得ました!』』』


『何をする気だぁぁぁぁぁぁ!!』


 アモールの言葉でサキュバス組は返事をし、三人ともニヤッと表情が変わる。

 ヒュスミネルは青ざめ、声を上げた。

 精力を全部吸い取るだってえ!?

 それはベッドの上でするようなことではないのか?


 サキュバス組は、背中からバッとコウモリのような大きな羽を出して広げた。

 顔の形相がグワッと変わり、獲物を狙う猛禽類のような……

 いや、悪魔そのものの顔になってしまった。

 私とベッドの上でいろんなことをしていたときは情欲にまみれたエロい顔だったのに、今のあの顔が本性なのか。

 なんて恐ろしい……


 悪魔化したサキュバスたちは拡げた羽を羽ばたかせ、猛スピードでヒュスミネルに襲いかかる。

 そしてヒュスミネルが着ている服をビリビリに破いてあっという間に裸にしてしまった。

 あれって神の衣とかそういうので、簡単に破れないんじゃないの?


『うわっ! わっ! わっ 何だおまえらああああああ!!』


 細マッチョでなかなか良い身体をしてるな。

 やや褐色のその身体をサキュバス組は、吸ったり舐めたりもっとすごいことをしている。


『ふあっ ああっ ああっ ぎゃああああああああ!!』


 あれは愛撫されている声じゃないぞ。

 外で何てことをしているんだ!


『オフェリアああ。見ちゃだめだよおぉ』


「パ、パトリシア様いけません! 見たら精神に差ス障りまス!」


 スヴェトラさんは後ろからオフェリアの目を塞ぎ、ジュリアさんは同じようにパティの目を塞いだ。


「ニャニャニャニャ!?」


「ビビアナちゃんも見ちゃダメ! あっちを向きなさい!」


 さらにジュリアさんはビビアナに注意する。

 オークの二人も自分で目を塞いでおり、アーテルシアは額を手で押さえていた。

 自分の兄があんなことされていて、彼女はどう感じているのだろうか。

 ロクサーナとファビオラは先にぱんつを脱いでしまっている。

 ここでは表現できないほどエグいのだ。


『さあ、帰るわよ。後はあの()たちが処理してくれるわ。

 ああ、アーテルシア。後で残りかすは処分して頂戴』


『あ…… あ…… わかった……』


 残りかすって…… 残酷だな。

 アーテルシアはアモールの凄惨な力を見せつけられ、自分より恐ろしい悪魔めいた様子に驚きを隠せなかった。

 皆は庭の方を振り返らず、アモールに付いて館へ戻っていく。

 後ろからはヒュスミネルの悲鳴とサキュバスのうめき声が聞こえている。

 平静でいるのはアモールとスヴェトラさんだけで、他の娘たちはブルブル震えながら館の玄関へ歩いて行った。


 結局私の出番は何も無かった。

 せっかくのJK制服が汚れなくて良かったけれど……


「アーテルシア…… 何というか…… 一応、お兄さんなんだろ?」


『私は母上やヒュスミネルと仲良く育ったわけではない。

 ヒュスミネルとはほとんど会ったことがないのだ。

 伯母(おば)のアパテルシアに育てられた。

 欺瞞(ぎまん)の神で、誤魔化したり(だま)したりする』


「そ、そうか……」


 アーテルシアの性格は伯母さん神の影響を受けていないのか。

 (ひね)くれているがどちらかと言えば純粋だ。

 反面教師だったのかも知れない。


---


 その後数時間に渡り、ヒュスミネルはサキュバスたちから折檻(せっかん)のようなエロい仕打ちを受けていた。

 悲鳴もそのうち聞こえなくなり、窓からチラ見したらまるで三匹の女郎蜘蛛が架かった餌を食うような様だった。

 恐ろしすぎて、この後あの三人と何て接すれば良いのだろうか。

 女に変わって良かった……


 セーラーアーテルシアは、アイミの姿に戻った。

 カメリアさん、あの姿を見たら本当にセーラー服を作ってくれるのか心配になってきた。


 昼食の後、玄関ホールにて。

 外から戻ってきたサキュバス三人と鉢合わせ、姿がいつも通りになってケロッとしている。

 いつも通りではなかったのは、お肌がとても艶々(つやつや)になっていた。


『あー! 美味しかったねえファビオラ!』


『神の精気を吸えるなんて普通じゃ私たちの一生でも絶対無いよ。

 アモール様は太っ腹だねえ!

 ここで仕事してて良かったあ!』


『ホントにそうだよねえ!』


 ロクサーナとファビオラは二人で大変機嫌良くワイワイと話しながら外から帰ってきた。

 あの無邪気さを見ていると、とてもさっきまで女郎蜘蛛だったとは思えない。

 私たちが食事中の時も彼女らはヒュスミネルの精力を吸い続け、食事を終えて満腹感を身体中で表しているようだった。

 サキュバスにとって精力を吸うのは食事より大事なことなのだから。


『あっ マヤさん!

 一年分の精気を一度に吸った気分だから、もうしばらくはいいや。

 女にならなくても大丈夫だったんじゃないかな!?

 あっはっはっはっは!』


「えっ えええ……」


 ファビオラが今更そんなことを言う。

 まあ結果論だし、女になって悪い気はしていない。

 エリカさんが復活する前の日までに男に戻れば良いと思う。

 それまで女の身体でエンジョイしよう。うっひっひ


 ファビオラたちの後ろからカメリアさんも戻ってきた。

 やはり彼女もニコニコご機嫌で私に近寄る。

 そしてわざわざ耳打ちするように話しかけてきた。


『はふぅ…… セーラー服はちゃんと作りますから楽しみにしてて下さいね。

 あはぁ…… はぁ……』


 ヒュスミネルとのアレの余韻がまだ残っているのか、耳のすぐ(そば)で息を吹きかけ妖しい声で言うものだから全身がゾクゾクッとした。

 耳は弱いんだ……

 カメリアさんから、女性の強い香りが鼻をくすぐる。

 私が女になっているのに何故そう感じるのだろうか?

 やはり完全な女ではないのか。


---


 自分の部屋に戻った。

 後でアイミから聞いた話で、アモールに言われたヒュスミネルの処分のことだ。

 サキュバスの三人が戻って庭に残っていたのはミイラみたいに干からびたヒュスミネルで、それでもちゃんと生きていた。

 神だから簡単には死なないらしく、まだ空に存在していたデモンズゲートに干からびたヒュスミネルを魔法で浮かせて投げ入れ、穴を塞いだそうだ。

 何とも兄を粗雑に扱うもんだと思ったが、天界へは戻れるらしい。

 しかしあれだけダメージを受けていたら、復活するまで何十年か百年以上はかかるとのこと。

 当分ヒュスミネルが襲ってくる心配は無いが、まだ兄妹(きょうだい)神がたくさんいるらしいのでそれらがやって来る可能性は大いにあるということだ。

 やれやれ……

 アモール狙いなら何とかなりそうだけれど、神殺しの呪文は復活したエリカさんも使えるからマカレーナへ神が来たら、エリカさんが狙われてまた大変なことになる。

 その対策を考えておかないといけない。

 エリカさんがこのままアスモディアへ残れば大丈夫かもしれないが、彼女はそれに納得してくれるだろうか。

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