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第二十六話 ラフエルの街

2023.10.19 大幅に加筆修正しました。話の進行に影響はありません。

 ゼビリャ区内にあるラフエルの街へ行く日。

 この街にはアマリアさんの実家があり、ご両親が住んでいる。

 つまりパティのお祖父様とお祖母様がいらっしゃるのだ。


 マカレーナから馬車で、実質半日で着くお手軽な距離なのは有り難い。

 今回はパティ、エリカさん、私の三人だけで行く。

 この三人でも盗賊や魔物を倒すには十分な戦力だから護衛はいらないだろうとのガルシア侯爵の判断があったので、そうさせてもらった。

 馬と御者のおっちゃん一人だけ気をつけていればいいだろう。


 朝食を食べてから出発する。

 いつか来る長旅のために、私は御者のおっちゃんに操作を習うことにした。

 長旅の時は基本的に二頭引きの馬車になるが、初めてならば一頭引きだし、今回の旅もそうだからちょうど良かった。

 御者のアントニオさんに挨拶する。


「おー、マヤさん。今日はよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。

 とりあえずお昼の休憩まで操作を教えて頂けますか?」


「わかりました。この馬車は私の隣にも席があるので座って下さい。

 この馬の名前はサナシオンです。可愛がってやってください」


「サナシオン、よろしくな」


「ヒヒーン! ブルルルルル」


 サナシオンは茶色い毛で顔に白い筋があり、よく手入れがされているので毛並みが美しい。

 日本で競馬や牧場には縁が無かったので直接馬を見る機会は滅多になかったが、この世界では当たり前に馬車馬がいる。

 時々ガルシア家の馬小屋を覗きに行ってサナシオンをなでなでしたり、とても可愛いやつだ。

 早速アントニオさんと御者台に座ると、パティとエリカさんが馬車の中で何かを言っている。


「マヤ様が御者台にいらっしゃるのに、ずっとお話が出来ないなんて寂しいですわ」


「マヤ君の馬車の乗り心地を楽しむのも、それはそれで良いんじゃないかな」


「そうですわね。マヤさまぁ! 頑張って下さいねぇ!」


 後ろを振り返ると窓からパティが中で手を振っているのが見えたので、私も振った。

 日本で中高生をやっていたときも、女の子は友達同士で手を振るのが好きなんだな。


---


 スサナさんとエルミラさんに見送られ、出発。

 アントニオさんがサナシオンに声を掛けるごとに加速したり減速したり、馬車馬としては当たり前なんだろうけれどお利口だ。

 駆け足になると意外に速い。

 街の関所を出て街道に入ったら、アントニオさんと操作を代わった。

 自分でもサナシオンが言うこと聞いてくれるので感激する。

 何だか操作が楽しくなってきた。


 ラフエルへ向かう途中までは、私が最初にこの世界へ来たときと同じ道。

 そろそろ魔物が出てきそうだなと思ったら、案の定ゴブリンの集団が現れた。

 私は御者台から直接魔法攻撃をする。


 【フリージングインサイド】という通常の凍結魔法の変則形態で、体内から先に凍らせ早く絶命する。

 十匹足らずだったのであっさり片付いた。


「さすがマヤさんですなあ。

 護衛の騎士数人でもそんなに早く倒せませんよ」


「いやあ、勉強中の身でまだまだですよ」


 パティとエリカさんはおしゃべりに夢中でゴブリンが出てきたのに気づいていない。

 これでは御者のアントニオさんを一人にしたら危ないから、目的地まで御者台に座っていた方がいいのだろうか。

 それからも大蜂や芋虫の魔物が次々現れたが、フリージングインサイドで片っ端から凍らせて片付けた。

 勉強するには大変だったけれど、なかなか楽で便利な魔法である。

 馬車の中の二人は相変わらずおしゃべりに夢中で、一体何の話をしているのだろう。


---


 街道は林の中へ入り、前はヒャッハーの盗賊たちが出てきたところだ。

 木の陰からガサガサと音がする。

 まさか……


「ヒャッハー!!」


 期待通りのヒャッハーだった。

 あの顔は前と同じやつらだ。

 せっかく武器を隠して置いたのに、また手に入れたのか。

 盗賊は私たちの前に立ち塞がり、馬車を停めざるを得なかった。


「なんだあ? 護衛もいない貴族の馬車なんて初めて見たわ!」


「こりゃたんまり金を持ってそうだ。

 このまま誘拐して身代金もらうのもいいな!」


 ならず者の、面白みが無い典型的なセリフを口々に吐いている。

 頭が悪いからこのような盗賊をやっているのだろう。


「――外が騒がしいですわね」


「なあに? マヤ君どうしたの?」


 馬車が停まったので、パティとエリカさんが馬車から出てきた。

 ああもう、降りてこなくてもいいのに。

 盗賊を吹き飛ばしてさっさと片付けようかと思ったけれど、面倒なことになりそう。


「ひゃっほう! 上玉が二人もいるじゃねえか。

 こりゃ楽しめそうだぜ!」


「でも一人は年増だな」


「ん? 黒い服のあいつ、前に見たことあるような……」


 一人が私に気づいたようだ。

 その前に喋っていたやつ、いらぬことを言ってるから……


「誰が年増だってえ!?」


「私たちをどう楽しむ気なんでしょうねえ…… ふっふっふ」


 エリカさんの顔が般若面のように変わる。

 彼女の周りに球電現象のような電気球が次々と出来て、バチバチィっと音を立てている。

 パティまで好戦的な微笑みに変わり、魔法の火球を出していた。

 これでは林が火事になってしまう恐れがある。

 考えもなしに困るんだなあ。


「ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 ま、魔法使いが二人も!」


「おい、思い出した!

 黒服のあいつは前に俺たちがヤラれた相手だ!」


「残念だったね。相手が悪かったようだ」


 エリカさんとパティが暴発したらこいつらが黒焦げになってしまう。

 そうなる前に急いで私は盗賊にチョップで打撃を与え、全員気絶させた。


「あら、終わっちゃったのね。ざーんねん!」


 エリカさんとパティは出来た球をシュウっと収めた。


「パティ。土魔法でそこに穴を掘ってくれるかな?

 こいつらを頭だけ出して、適当に出られるよう埋めておきたいんだ」


「はい! わかりました!」


 パティは土魔法で人が縦に入る穴を五つ作って、私が五人を入れてまた土魔法で埋めた。

 早めに目を覚ますだろうけれど、しばらく反省してもらおう。

 魔物が来ても知らんが。


「こいつら本当に失礼しちゃうね。

 私を女として見てくれるのはマヤ君だけだよぉ」


 エリカさんが抱きつきスリスリしてくる。

 良い匂いだけれど、最近は鬱陶(うっとう)しく感じてきた。

 贅沢言うなって?


「さ、さあ時間が過ぎてしまうので出発しよう!」


 進むと、私が最初にいた草原の木が見えてきた。

 あれからずいぶん経ったような気がするけれど、懐かしく思える。

 いつか記念碑を建ててみたいね。


---


 時間もちょうどいいので、ここらで昼食を取ることにした。

 ビビアナの生ハムパン弁当をアントニオさんも一緒に、サナシオンには餌を与え水属性魔法で出した水玉を飲んでいる。


「あの猫娘の子の(まかな)い料理を食べたことがあるけれど、本当に美味いよ。

 ウチの奥さんには言えないけれど、いつも食べてるボカディージョより美味い! うんうん」


 と、アントニオさんは大絶賛。

 マルシアさんのボカディージョも美味しいけれど、たまに違ったものを食べると余計に美味しく感じることはよくあることだ。


「それは良かったです。

 この生ハム玉子のボカディージョはとくに美味いですね」


「――モグモグ ビビアナが作ったものはいつもおいひいでふわあ」


 パティは笑顔になって夢中で食べている。

 本当にビビアナの料理が好きなんだな。

 エリカさんは、食べているときだけは人並みに静かである。


 結局この後も、私は御者台に座って出発した。

 操作はだいぶん調子が出てきて、ほとんど私がやっている。

 しばらくしてまた林に入る。

 前の視界にある木から私たちに反応したのか、緑色の何かベトベトするものが道に落ちてきた。

 アントニオさんに聞いたらこれはスライムらしい。

 某有名RPGのようにちっとも可愛くなく、ただ気持ち悪いだけだ。

 毒持ちもいるということなので、さっさとフリージングで凍らせて片付ける。


---


 先を進むと、次の魔物は人間の骸骨が何体かあちこちからやってきた。

 アンデットの魔物か。となると……


「エリカさん、あれって回復魔法をかけたらダメージを与えられるんですか?」


「そんなことあるわけないじゃない。

 打撃で粉々にするのが一番よ。よろしくねえ」


 これもRPGのようにはいかないようだ。

 うええ……

 人間の骸骨は標本で見たことがあるけれど、実際に骨がたくさん動いているとかなり気持ち悪い。

 手刀でせっせと切り刻んで倒したけれど、これは剣やハンマーで攻撃した方が楽そうだ。

 長旅までに自分用の武器を準備しておかねば。

 サリ様の説では異世界からの魔物ということだから、骸骨はこの世界の人の死体ではないことになるのか。

 本当にどこから湧いてきているのか。


 思っていたほど魔物に遭遇せず順調に進み、景色が変わりだんだんとラフエルの街に近づいてきたようだ。

 このあたり農業が中心で、北海道へ旅行した時に見えたような広い畑がずっと続いている。

 機械が無いのによくやるなと思いつつ、広大な畑を見渡す。


「アントニオさん。

 私の国と違ってずいぶん畑が広いんですが、どういうふうに作業をしているんですか?」


「この国の農業は魔法使いが土属性や水属性魔法を使ったり魔法でいろいろなことに役立てていて、麦や野菜をたくさん作ることが出来るんですよ。

 食糧不足に悩むことないからありがたいことです」


 そういうことなのか。

 確かに、ただ攻撃するだけの目的では魔法が発達しないはずだ。


---


 夕方になる前に、ラフエルの街へ入ることが出来た。

 監視のための門番の詰め所はあるが、開け放しで入村料は不要。

 人口二千人ほどの小さな街で、パティのお祖父さん、つまりアマリアさんのお父さんであるエンリケ男爵が統括している。


 五分ほどで街の中程にあるエンリケ男爵の屋敷に到着。

 ガルシア家の屋敷よりも大きいくらいの、立派な建物だ。

 アントニオさんは毎度なので、厩舎と使用人の詰め所のほうまで勝手知ったるように向かった。

 パティは手紙を出していたから、エンリケ男爵夫妻が待ちかねたように出迎えてくれた。

 そこへパティが駆け寄り、子供のように夫妻の手をしっかり握る。


「お祖父様、お祖母様、お久しぶりでございます!」


「おお、パティ! 久しぶりだねえ。

 誕生日パーティーに行けなくて済まなかったよ。

 近頃魔物が多くなったし、腰を悪くしてしまってね」


「パティ、いらっしゃい。前に会った時よりまた大きくなったわね」


 十三歳って成長期だもんなあ。

 そういえば胸も大きくなった気がする。

 あと二年もしたら大変なことになりそうだ。むふふ


「パティ。

 そちらのお二人は手紙に書いてあったエリカ・ロハス様とマヤ・モーリ様かね?」


「はい。エリカ様とマヤ様です」


「エンリケ男爵、お初にお目にかかります。エリカ・ロハスです。」


「初めまして、マヤ・モーリと申します。」


「おーおー 大魔法使いエリカ様に、パティの命の恩人マヤ様。

 マヤ様、パティの命を救って頂きましてありがとうございました。

 私はヘルマン・エンリケです」


「パティの祖母の、グロリア・エンリケです」


 ヘルマンさんは五十代だろうか。

 髪の色は濃いブラウンで白髪混じり。

 農家のおじさんのような(たくま)しさを感じる。

 グロリアさんもたぶん五十歳前後で、アマリアさんと同じ翠眼で白い肌、髪はブラウン。

 見た目は若くまさに美魔女で私の中身と同年代だが、かなり好みと言える。

 さすがにアマリアさんのように服の胸元は大きくカットされていないが、それでもわかる豊乳は家系なのだな。


「マヤ様、お祖母様がどうかなされましたか?」


「いえ、グロリア様を見ていたら亡くなった母のことを思い出しまして」


 大嘘だ。私は君のお祖母様のおっぱいを見ていたんです。

 私のムッツリ病は永遠に治らない。


「あら…… それは大変でしたわねえ…… 

 マヤ様、こっちへいらして下さい」


 私はグロリアさんの元へ行くと、両手を差し出しやさしく抱いてくれた。

 アマリアさん同様に背の高さが私と同じくらいで、豊乳がふにょんと私の胸に感じる。

 そしてとても暖かい魔力を感じ、すごく落ち着く……

 涙で目が少しウルッとしてしまった。

 この人も魔法使いなんだな。

 アマリアさんの暖かさもグロリアさん譲りなのか、抱かれると本当に包み込まれるような母性を感じた。


「あ…… ありがとうございます。

 落ち着きました。

 まるでアマリア様のお姉さんのようですね」


「まあまあ、嬉しいこと(おっしゃ)って。

 今日の夕食は私も作りますから、たくさん食べて下さいね」


「それは楽しみにしています」


「マヤ様! お祖母様の料理はすごくすごくすごく美味しいんですよ!」


「パティが言うのならば間違いなさそうだね」


 お婆ちゃんの料理、と言うにはグロリアさんはまだ若いから変だけれど、彼女がそこまで言うのなら期待したい。

 この国へ来てから美味しいモノだらけで、日本料理のことを忘れてしまいそうだ。


---


 夕食が出来るまで私たちに用意してくれた部屋へ、若いメイドさんが案内してくれた。

 その途中の廊下で、エリカさんが小声で話しかけてくる。


「マヤ君、あなたどんだけ年上好きなのよ。

 欲情なんてしてないでしょうね?

 ま、まさか親子孫三代そろって……」


「な、何をバカなこと言ってるのかなあエリカさんは。ハハハッ」


 でもちょっと本当。

 日本でも近頃は綺麗な五十代の姐さんが多くなってたからなあ。


---


 夕食の時間になったので、さっきのメイドさんが部屋まで呼びに来た。

 ダイニングルームのテーブルにはズラッと色とりどりの料理が並んでおり、とても美味しそう。

 そこにはエンリケ夫妻の他に、若い男性が待っていた。


「あ、イサーク兄様! お帰りになったんですね!」


「おお、パティ! また一段と可愛く綺麗になったねえ!」


「イサーク兄様ったら、うふふ。

 ご紹介しますわ。エリカ・ロハス様とマヤ・モーリ様です」


 イサークさんはアマリアさんの弟で、二十代半ばぐらいのちょっと暑苦しそうな好青年。

 農家のあんちゃんの雰囲気が出ている。


「エリカ・ロハスです」


「初めまして。マヤ・モーリです」


「私はエンリケ男爵長男の、イサーク・エンリケです。

 マヤ様はパティの命の恩人と聞いております。

 本当にありがとございました!」


「いえいえ、とんでもございません」


「イサーク兄様は農場のお手伝いへよく出かけられていて、土属性魔法と水属性魔法が得意ですから農業に役立ててらっしゃるの。

 兄様のおかげでマカレーナでも美味しい野菜がたくさん食べられますわ」


「ラフエルの新鮮な野菜は美味しいですよ。

 母が料理に使ってますので、たくさん食べていって下さい!」


 なるほど、野菜を使った料理を中心に並んでいる。

 ピーマンやなすがはいったトマトがベースの煮込み、ガスパチョ、野菜のパエリア、エスカリバーダというパプリカやなすを使った焼き野菜、ポテトサラダなどテーブルいっぱいに並べられてとても美味しそうだ。

 食前の簡単なお祈りをして頂く。


「さあどうぞ。腕を振るって作りましたのでたくさん召し上がってくださいね」


 うーむ。煮込み料理はトマトの酸っぱさと野菜の甘みのバランスが絶妙にバランス良く、とても美味い。

 パティはいつものように夢中でパクパク美味しそうに食べているけれど、全然太らないのはやはり頭と胸に栄養がいってるのか。

 にんにくマヨネーズのポテトサラダが旨すぎてハマってしまった。

 ビビアナに今度作れるか聞いてみよう。


「マヤ様の食べっぷり、お気に召したようで嬉しいわ。

 パティはいつもこんな調子で食べているから、太らないか心配してるのよ」


「お祖母様ってば、マヤ様に笑われちゃいます!」


 楽しい食卓は、食事もより美味しくなっていいものだ。


---


 食事が済んで、夜風に当たろうとパティと一緒にバルコニーへ出た。

 地球とは違う何の星座なのかわからない満天の星空を一緒に眺めて、パティはこう言う。


「マヤ様のお母様はお亡くなりになっていたのですね。

 私で良ければいつでも抱いて差し上げますから」


 パティは私をそっと抱きしめてくれたので、私も抱きしめて頭を撫でた。

 胸がキュウッと締まり、とても愛おしい。

 ――パティは今、どんな気持ちになっているのだろうか。


「キス、してもいいかな」


「ええ。うふふ」


 私はパティの唇にゆっくり合わせた。

 ――毎日一緒で慣れているはずの彼女なのに、キスはとても緊張する……

 プルッとして柔らかい。

 さすがに若い()の唇は違う。


「ありがとう、パティ」


 パティは可愛く照れながら、無言でまた抱きしめてくれた。

 ――そのころエリカさんは、私がいないので一人部屋でスンスンと()ねていた。


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