第二百六十四話 ヒュスミネル襲来
ようやく展開が変わります^^;
アモールの館にあるドレスルームで、女になってしまった私にみんなが持ち寄ってくれた服を着せ、合う服を選ぶ企画だったが……
案の定、着せ替え人形遊びのようになってしまった。
エリカさんの古着であるギャルっぽい服装や、憧れのメイド服まで着ることが出来たので、慌ただしい着替えであったが私自身も一応楽しむことが出来た。
そしてパティのJK制服のような衣装を貸してもらい、今はそれに落ち着いているところだ。
アイミは、私のJK制服姿を見て自分も着たくなったんだろうか。
彼女は手にしている魔女っ娘ステッキを振り回す。
『フフッ 見ているが良い。きっとおまえがアッと驚く衣装だ。それっ』
制服でアッと驚く?
想像がつかない……
ギャルのミニスカ制服しか頭に浮かばないのは、私の心が汚れているのか。
アイミが声を掛けると、彼女は黒い霧に包まれる。
やはりアーテルシアに戻るのか……
『えーっ!? なに?』
『あの娘何者なの!?』
オフェリアやファビオラたちはアーテルシアがアイミの姿に化けていることを知らないので、状況を把握できず戸惑っていた。
そうしているうちに黒い霧が薄くなり、アーテルシアの姿が見えてくる。
アッと驚く◯五郎じゃないが、思わず……
「アッ」
と言ってしまう。
まさにあれは…… あれは……
「セーラー服!? なんでアーテルシアが知ってるんだ?」
イスパルでは王都やマカレーナ、各都市でもセーラー服の学生はいなかった。
港へはなかなか用がないので水兵がその格好をしているのは見たこと無いが……
『何十年前だったか。
ある星に降りてこういう服を着ている女たちがいてな。
そこがおまえの故郷だったのを思い出した。
本当にアッと驚くとは思わなかったぞ。ハッハッハッ』
昭和の日本でよく見られた紺色のセーラー服に白のソックス。
アーテルシアは白肌で前髪パッツンのロングヘアーだからあまりに似合いすぎる!
彼女は昭和末期の日本に行ったことがあったのか……
日本で大きな破壊行為が行われた事件は無かったから、悪さをしてなくて良かった。
憧れのセーラー服!
しかもせっかく私が女になったのだから、一度着てみたい!
でもこの世界に機関銃なんて無いから、快感…… といって遊べない。
ショートヘアだからちょっと似てるかもと思ったのに。
アイドルが集団でその服を脱がさないでと歌っていて、すごく流行ったんだよぉぉ。
「おお…… おおおおお!!
俺にそれを着させてくれえ!!」
「それは無理だ。
私の服は身体の一部のようなもので、それを変化させているに過ぎない」
「な…… がっかり……」
私は落胆し、肩を落とした。
そういうことだったのか。
そもそも簡単に小さくなったり大きくなったり、物理法則からしてアイミはいろいろデタラメなことをやっているからな……
『マヤさん。何でしたら私が作りますよ』
「え? 本当!?」
そう言ってくれたのはカメリアさんだった。
早速彼女はアーテルシアに近寄ってセーラー服をあちこち調べている。
アーテルシアはウザったい顔だ。
『それでは大きくなったアイミさん、失礼します。
ふむふむ…… ここはこうなっているのね。
こっちはどうかしら』
『な、なんだおまえは!?』
『マヤさんがこの服を着ているのを見たくはありませんか?』
『それは…… 是非見てみたいな。ふふふ』
なんてチョロいのかと思ったが、そんなに私のセーラー服姿が見たいのか。
まてよ…… あの謎の笑い。
まさか私が男に戻ったときに着せようなんて考えていないだろうな?
あいつなら十分そう考えるだろう。
私はそういう趣味を持っていない。
『終わりました。数日で出来上がりますから楽しみにして下さいね。うふふ』
「ありがとうございます……」
『マヤ。マカレーナへ帰ったら着てみろ!』
「やっぱりそれか! もぉぉぉ!!」
帰った時は男じゃねえか。
はぁ…… アイミが面白半分なのは何度も言うように今に始まった事ではないが、変態にはなりたくない。
え? インファンテ家で象さんぱんつを履かせられたのとどっちが良いかって。
アレは本当に内輪だったし、アリアドナサルダを起ち上げるきっかけの一つだったから許せる。
私は小心者だから笑いものになるのは耐えられないのだ。
「マヤ様、あの服とても素敵ですね。
出来たら私も着させてもらえますか?」
「勿論だとも。パティは何でも似合うからなあ」
「そんなあ。照れますぅ」
パティを褒めるといつものぶりぶりが始まる。
彼女のセーラー服姿も見たいが、それより……
「セーラー服はジュリアさんがすごく似合うかも知れないぞ」
「わ、わたスですか!? そうなんですか…… フフフ」
地味子に三つ編みとくればセーラー服ではないか!
ついでにそばかす眼鏡なんて最高だ!
学級委員長みたいに、「ちょっとあなたたち!」って言ってもらおうか。
ジュリアさんは、私がそんなことを考えていることなどつゆ知らず。
ドドドォォォォォォォォォン!!
「「「キャァァァァァァ!!」」」
「何だ何だ!?」
館の庭に何か落ちたような、とても大きな地の振動があった。
同時に大きな魔力量も感じた。
『すごい魔力量ね…… もしかしてあれはエリサレス!?
こんなところにどうして!?』
あのアモールが動揺している。
彼女はエリサレスと言っているが、実際に対戦した私からすると大きく違う。
力はアーテルシアのほうに近い。
『来てしまったか……
私がこの姿に戻ったタイミングだろうが、今になってどうして?』
「アーテルシア。あれは何だ?」
『私の兄妹の誰かが来たんだ』
「何だと!?」
魔力の質がアーテルシアに似てるから察しは付いていたが、兄妹か……
元に戻った彼女の魔力を辿ってきたんだろうが、ここへ来た目的は?
それを確かめなければなるまい。
『あんまり歓迎したくないお客さんのようね。
とにかく確認しなければいけないけれど、あれだけの力を持っているなら館に隠れていてもあまり意味が無さそう。
それでも見に行きたい人は来なさい』
つまり館の周りが丸ごと消え去るくらいの力が少なくともあるということだ。
勿論、神だからそれだけじゃ済まされない。
「ああああ何だニャぁぁぁ どうすればいいんだニャぁぁぁ」
「ううう…… 怖い…… 怖いでス……」
ビビアナが目に涙を溜めておろおろしている。
この中で彼女は一番力が弱い。
ジュリアさんも座り込んで頭を抱え怯えている。
アーテルシアやエリサレスの恐ろしさを知っているからだ。
絶対守ってやらなければ。
「大丈夫だよビビアナ、ジュリアさん。
俺も、みんなも強いから心配しないで」
「そうですよ。この前はとても厳しかったけれど、今は状況が違います。
だから怖くありませんわ」
パティは状況を把握しているようで落ち着いている。
なんせアモールとアーテルシア、いざとなれば大帝がいる。
アーテルシアを察知したのならば、これほどの強者がいるのに何故彼女の兄妹とやらがやって来たのだろうか。
オフェリアやカメリアさんたちも落ち着いている。
強大な神だというのに、魔族というのはそういうものなのか。
大帝の底知れぬ強さ、アレはヤバい何てものじゃない。
それを知っているからこそなのかも知れない。
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『おい! 早く出てこい!! いるのはわかってんだ!
出てこなければあと五秒でこの建物を吹っ飛ばしてやる!
一、二、三、四……』
館の玄関前。
何かとんでもないことを大声で言っている若い男が庭に立っていた。
その男の十メートル程上ににあるのは、見覚えがある縦割れの黒い穴。
デモンズゲートか!?
やはりあれはアーテルシアの兄か弟?
それにしてもたった五秒とはせっかちなやつである。
きっとベッドの上でもそうなんだろう。
そして女の子に「え? もう終わり?」と驚かれるのだ。
あと一秒遅かったら何かやってたかも知れないが、アモールがこの屋敷に何も対策をしていないとは思えない。
大事な魔法書もたくさんあるのでそれが燃えたりしたら大変だ。
『ん? 出てきたかアーテルシア。
わざわざこのヒュスミネルが来てやったぞ!』
『ヒュスミネル兄さんか…… ふん』
庭には小さなクレーターのようなものが出来ていた。
そこ立っているのは、やんちゃ風だがキリッとした眉毛と目で顔立ちが整っており、文字通りイケメンである。
ただ格好は、兜こそ被っていないが古代ローマかギリシャの兵士みたいで古くさい。
そいつがヒュスミネルという名で、兄だからアーテルシアに似ているのか……
ギリシャ神話が好きでいろいろ読み物を漁ったことがある知識の中だと……
女神エリスにはたくさんの子供がいたというが、アーテに当たるのがアーテルシア、ヒュスミーネーという女神に当たるのが男のヒュスミネルなのか。
ヒュスミーネーは戦いの女神だから、ヒュスミネルも戦闘好きだろうか。
『ほほぅ。男ね』
『そうね、カメリア。男だよ』
『いい男…… ムラムラくるわ。格好はダサいけれど』
後ろでサキュバス三人組がひそひそとそんなことを言っている。
神とか強大な強さだとかそんなことより、性欲の方が勝ってるらしい。
サキュバスの攻撃力がどれ程のものか知らないが、ベッドの上ではネイティシス最強だと思う。
厨房のオーク組までびっくりして出てきたし、オーガ組は私たちの横で臨戦態勢になり拳を構えていた。
だがヒュスミネルは私たちを意に介さずアーテルシアだけを睨んでいる。
『おいアーテルシア! なんだそのおかしな格好は!
いや、そんなことよりおまえ……
色欲の女神に変わったそうじゃないか!
男に縁が無かったおまえが色欲?
大笑いを通り越して呆れたわ!』
『私は愛に目覚めたのだ。それだけだ』
アーテルシアは落ち着いた様子で応えた。
由緒正しいセーラー服がおかしな格好とは不愉快だな。
アーテルシアが色欲の女神になったのは私と愛し合った影響だ。
天界でサリ様の助けもあって破滅の神から変わったのだ。
ただ面白半分の対象が、多数の人間から私へ変わっただけな気がするが。
『母上は人間の女が使った神殺しの呪文にやられて未だに復活できん!
ならばその神殺しの呪文が唯一使える魔女を始末せねばならん。
その魔女というのはどいつだ?』
ヒュスミネルは母親であるエリサレスの代わりにアモールを潰しに来たのか。
神殺しの呪文【デウスインテルフェクトル】が使える者がいると知っててやって来たのだから、何か策があるのかも知れない。
アモール、危険だから黙っていてくれ。
『――私よ』
あちゃあ…… あっさり言ってしまったよ……
そんなに勝てる自信があるのか?
それにヒュスミネルはあれほど大きな魔力を放っているのに、外から兵が駆けつけてくる様子が未だに無いのが不自然だ。
あのドラゴンたちも飛んでこないのだ。
外からわからないようにヒュスミネルが結界を張っている様子も無い。
まさかアモールだけで片付けられると、アスモディアの魔族たちは思っているのか。
『ほう、おまえか。随分なババァだな。
こんなババァの魔法で美しい母上がやられてしまったとは、ババァらしい悪辣な魔法だぜ!』
ババァと三回も言ってしまった。
アモールは冷ややかな目でヒュスミネルを睨んでいるが……
『あわわわわわ……』
『ひ、ひえぇぇぇ……』
サキュバス、オーガ、オークの使用人たちはガクガク震えていた。
ヒュスミネルではなく、アモールに対してである。
これからどんな恐ろしいことが起こってしまうのか。




