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第二百五十八話 キスに夢中

 毎晩のようにサキュバスメイド三人が、私が寝ている間にベッドへ潜り込み好き放題にやってくれる。

 それに耐えられなくなった私はアモールの私室で彼女に相談し、一時的に女へ性転換してみないかと提案された。

 ちゃんと男に戻るならば、自分が女の身体になってみたい願望もあったのでその提案に乗ってみることにした。

 日本には一人のキャラが男女変身する漫画やアニメがたくさんあり読んだこともある。

 そういう影響もあって女の身体になったらどうなるんだろうという好奇心があった。

 平たく言えばただスケベなだけであるが。


「それで、性転換の魔法を掛けたらすぐに女になれるんですか?」


『性転換の魔法【ジーナスムタティオ】は今でも掛けられるけれど、身体の変化が起こるから完了するまで一晩くらいはかかるの。

 臓器から骨格まで変わるわけだから、少し痛みがあるかもしれないわ』


「痛みか…… どのくらい?」


『最後に掛けたのは三百年くらい前だけれど、大帝の術よりずっと緩いはずよ。

 そうね…… 時々お腹がグルグルしたり骨が(きし)むくらいかしら』


 想像が出来そうな出来ないような痛みだな。

 大帝の術は二度とごめんだけれど、性転換魔法の痛みなら耐えられそうだ。


『そう、もう一つあるの。

 同じ種族の異性の体液を口内摂取する必要があるわ。

 例えば血液や唾液、それから……』


「あああ、そのどっちかにします!」


 その先は鼻水とか下半身のどこかの分泌液などと言いそうだ。

 同じ種族だったら、ビビアナやオフェリア、神様のアイミも除外になるから、パティかジュリアさんしかいない。

 DNAが関係あるのかな。

 さて、二人のどちらにしようか……


「じゃあ相手を今ここへ連れてくればいいんですね?」


『そうね。今晩の内に性転換するなら早い方がいいわ』


「わかりました」


 そういうことで、パティかジュリアさんのどちらかを連れてくることにする。

 性欲が強めなジュリアさんだったら体中のありとあらゆる体液を喜んで提供してくれると思うが、今の時間は食事の仕込みをしたりオレンカさんたちに料理を教えてたり忙しいはずだ。

 だから相手はパティしかいない。

 その前にどうして性転換しなければいけないのか説明をする必要がある。

 サキュバスたちに無理矢理あんなことやこんなことをさせられるのが嫌だからとも言えないし、さてどう説明しようか。


---


 書斎へ行くと、パティとアイミがいた。

 パティから少し離れたテーブルの席にアイミがいるが、性転換のことは隠す必要が無いのでこの場で話すことにする。


「あのぅ…… パティ」


「あらっ マヤ様。おおおお着替えは無事に済んだのですね。オホホホ」


「ああ、まあオフェリアが頑張ってくれたから…… あははは」


 着替えがあったのを忘れていた。

 オフェリアとスヴェトラさんさんの前で丸出しになった情けない姿を思えば、パティに見られなくて良かった。


「それで難しい顔をされて、何があったんですか?」


「いやあそれがいろいろあって、女の子になってみようかと思ってる……」


「――ええ!? 話が全然見えません!」


『何か面白そうな話をしているな。女の子になるって? それは興味深い』


 唐突だったから当然パティは困惑している。

 アイミまで聞き耳を立てていたのかこっちにやって来た。


「その…… 毎晩カメリアさんたちが悪戯してきて、彼女らの正体はサキュバスなんだよ。

 アモール様に相談したらそれはサキュバスの本能だから避けようが無いって言うから、斯く斯く云々で一時的に女の子に変身したら近づいてこないからそうしようという話しで……」


「そうなんですか…… 一時的なんですよね?

 ずっと女の子だったら私困ります!!」


『おーおー、そりゃ困るなあ』


 アイミの()()は自分のことである。

 彼女は性について普段は淡泊だが、たまにアーテルシアに戻ってそういう行動を起こしたときは私の身体でしっかりと発散しているからだ。


「元に戻す魔法があるらしいから、帰る時には男に戻るよ」


「良かったです……

 マヤ様は女の子のままだったら子供が出来ないところでしたわ……

 ――あっ あっ 決してそういうイヤらしいことを考えてるわけじゃないですよっ」


『こやつも案外むっつりなんだな。うひひ』


「ちーがーいーまーすうぅぅ!!」


 アイミが言ってることはあながち間違いではない。

 思春期に入った十四歳の女の子であれば異性の身体に興味津々なのは自然なことであるが、以前からパティは私に対してスキンシップが多い。

 他の男子に対してはダンスで手を繋ぐ程度の最低限のスキンシップで、八方美人でないのが幸いである。

 イケメンのアウグスト王子を見ていたときは少々気になっていたようだが。


「あー、じゃあアモール様の部屋へ行こうか」


「はい! マヤ様がどんな女の子になるのか楽しみです!」


『私も行くぞ。うひひ』


「――付いてくるなと言っても来るよな」


『よくわかってるではないか。ふふふ』


 アイミを見た時から面白半分でひっついてきそうなのはわかっていた。

 機嫌を悪くしたら面倒くさいし、害は無さそうだから好きなようにさせておく。


---


 再びアモールの部屋。

 アモールは部屋に入ったアイミを見つけると呆れ顔。


『あなたも来たの……』


『いいだろ。面白そうだし』


 アモールはそれ以上大して気にもせず、私と同じ理由で構わないようにする。

 子供の姿のせいか、お邪魔虫扱いされることが多い。


『まあいいわ。

 もう一度言うけれど、性転換の魔法を使うための触媒として異性の体液を必要とします。

 使いやすいのは血液と唾液ね。それを口内摂取する。

 パトリシアさん、どっちにする?』


「唾液を口内摂取って…… キスをすればいいんですか?」


『そうよ。血液でも唾液でも少しではダメ。

 ある程度(したた)るくらいの量が必要になるけれど、あなたはそういうヘビーなキスが出来るのかしら?

 無理なら指を切って血をマヤさんに飲ませてもいいのよ』


 アモールがパティを煽る。

 キスの上手(うま)さはアモールと、女王とモニカちゃんもすごかったよなあ。

 まだパティには真似が出来そうにないが、私がサポートする必要があるだろうか。

 でも十四歳の女の子には抵抗がある。どうしよう……


「ううう…… キス…… キスをします!」


『よろしい。私の寝室を使いなさい。

 気分を盛り上げるためにね……』


「「へ?」」


---


 アモールの寝室。

 シナモンっぽい香りがするが、お香でも焚いていたのだろうか。


『なんだ。辛気くさい部屋だな』


 ちゃっかりアイミも部屋へ入り込んでいる。

 魔女の部屋といえば骸骨が並んでいたり不気味な印象があるが、ここはそんなことはない。

 部屋全体が黒や濃い紫の基調で大人の色香が漂っているが、天蓋付きの王様ベッドと多少の調度品が置いてあり、至って普通の豪華な部屋である。

 確かにアイミが言うように暗い感じの部屋だが、私は嫌いではない。

 夢で見た五百年前の白基調だった寝室とは、ずいぶん雰囲気が変わっている。


「こ、こここでマヤ様と…… ドキドキドキ」


『そうよ。ここでマヤさんとじっくりキスをしなさい。

 唾液が入りやすいように、パトリシアさんが上、マヤさんが下ね。

 何だったら最後までいいわよ。ふふふ』


「いやあ、パティとはもう少し先で…… あははは」


 パティは、オフェリアと同じように顔が真っ赤で爆発しそうだ。

 アマリアさんの教育で得た知識で、頭の中では何を想像しているのやら。


『さあ二人とも始めよ。私はここでじっくり見守ってやる』


「「えええっ!?」」


『あなたは私と一緒に向こうの部屋で待つのよ』


『あ痛たたたた! やめろぉぉぉ! 馬鹿力魔女めええ!!』


 アモールはアイミの首根っこを(つか)んで寝室を出て行った。

 さすがにアモールのほうが常識を持っており、適切に対処してくれたのは有り難い。

 彼女は体術らしいことはしていないが、意外に力があるのはベッドの上で確認済みだ。


 さて、パティと二人っきりになったわけだが……

 よくよく見渡すと黒や紫なんて男女の交わりには雰囲気たっぷりの部屋だ。

 アモールの中にあるサキュバスの血がそうさせているのだろうか。


「パティ…… ベッドへ行こうか……」


「はい……」


 パティはあれから顔が真っ赤のままだ。

 キスだけなのに、改まってこのようなシチュエーションでするとなると緊張しても仕方が無いだろう。

 しかも彼女はまだ十四歳の女の子だということを忘れてはいけない。

 緊張を解かしながらゆっくりやろう。


「すごいね。アモール様はこんなすごいベッドで毎日寝てるんだ」


「素敵ですね…… 私には大人っぽくて似合わないけれど……」


「パティだったら可愛くて清楚な白か薄いピンクのベッドかな?」


「まあ! 私もそう思います!

 マヤ様はやっぱり私の好みをよくご存じなんですね!」


「出会ってからもう二年になるんじゃないかな。

 それだけずっと一緒にいたらわかるさ」


「うふふ……」


 ベッドの前でパティは自然に私の腕に掴まる。

 私は彼女の腰に手を添えて、一緒にベッドへ座った。


「ベッドがふかふか」


「ほんとですね。人間のベッドでもかなり高級な物になりますね」


 他愛ない会話でパティの緊張が(ほぐ)れてきたようだ。

 私の方はいつもよりドキドキしている。

 アモールが待っているのであまり時間は掛けられない。

 その隙にパティの手をそっと握った。


「――マヤ様」


「最初は軽くキスをしてみようか……」


「はい……」


 私はパティの肩を寄せ、軽く唇に触れる。

 それは一度目……

 二度目はしっとりとした唇の感触がわかるほどに。

 三度目。唇同士でハムハムと挟むように。


「ン…… ふぅ……」


「パティ、愛してる」


「私も愛しています。どうかずっとこれからも……」


「勿論だ」


 私はベッドの上に寝転んだ。

 そろそろ本番のキスを始める。

 パティの表情はとろんとしており、もういつでも大丈夫だろう。


「パティ、私の腰の上に座るんだ」


「アモール様に言われた通りにすればいいんですね」


「うん」


 パティはゆっくりと私の腰に跨がり、腰を落とした。

 完全に私の分身君の上になっているので、非常にまずい体勢である。

 分身君は元気にならないよう自重(じちょう)してくれるだろうか。


「おいでパティ……」


 私は両手をパティに向けて差し出すと、彼女はコクッと(うなず)く。

 そしてゆっくり身体を前に倒し、抱きしめた。

 フワッと香る髪の毛の匂い。

 そしてボリュームたっぷりになってきた彼女の胸が、私の胸を包み込むように。


「パティ、好きだ。どうしよう。好きすぎて胸がキュッと締め付けられる」


「ハァ…… はふ…… マヤ様…… 大好きです……」


 私も気分が高揚し、パティのことが(いと)おしくてたまらなくなってきた。

 ただキスをするだけなのに、こんなに身体も心も火照(ほて)ったのは初めてだ。

 私はパティの頬を両手で添えて、キスを始めた。


 無言で、唇が弾ける、口の中で舌や頬の粘膜の音だけが聞こえてくる。

 二人で夢中になってキスをする。

 もう何も考えられない。

 頭の中が真っ白だ。

 ただ、ただ、無心になって口を動かしてキスをする。

 パティは意識をしてくれているのか、唾液が多く出ている。

 私はそれを一生懸命飲み込んだ。

 美味しいかどうかなんてどうでも良かった。

 パティとこうして口と口で繋がっていることが何より嬉しかった。


 キスが止まらない。

 もう勢いでどこで()めていいのかわからない。

 でも()めたくない、いつまでも繋がっていたい気持ちもあった。

 パティも同じ気持ちになっているだろう。

 だがもういいだろう。

 パティの唾液は十分貰った。

 彼女の肩を抱いていた両手を再び頬に添えて、彼女も気づいたようでゆっくり顔を離した。


「はふ…… はふ…… はふ……」


「今まで一番たくさんキスをしちゃったね……」


「はふっ…… マヤ様っ…… そうですねっ…… はふっ……」


 私はそのまま上半身を起こして、パティを抱きしめた。

 キスの余韻を感じるように……

 相手がモニカちゃんみたいに胸の大きい女の子であれば、ここで胸をこねくり回しているだろう。

 でもパティの胸の感触はしっかり自分の胸で感じておいた。


「マヤ様…… 私の…… 唾液…… 大丈夫でしたか?」


「しっかり受け取ったよ。ありがとう」


「うふふ」


 君の(つば)は美味しかったよ。もっと飲みたい。

 なんてことを言うのは気持ち悪いだけだからやめておく。

 分身君はいつの間にか、痛いほど元気になっていた。

 ビキニパンツとジーンズのカーゴパンツでしっかり締めてあるので、パティにはわからないだろう。


---


 アモールの私室に戻る。

 アモールは何か魔法書を一生懸命読んでいたが、アイミは暇そうに椅子でボケッとしていた。


『あら。思っていたよりゆっくりしていたのね。

 何だか()いちゃうわ。

 これなら十分な量の唾液を摂取出来たわね。フフフ……』


「ええ、まあ…… ははは」


 私は頭を掻いて誤魔化す。

 パティは照れて(うつむ)いた。

 この表情も、とても可愛い。


『ずいぶんと盛り上がっていたんだな。

 本当にキスだけか? うひひひひ』


「キ、キスだけですぅ!」


 アイミが煽る。

 女児の姿だけに、そういう言われ方をすると相変わらず不気味だ。


『さて、早速始めましょうか。

 性転換の魔法【ジーナスムタティオ】は、私が五百四十年前に作ったの。

 今、魔法書を読んで確認したから、術式は間違いないわ』


 なるほど。さっき読んでいたのは性転換の魔法書か。

 アスモディア一、ということは世界一の魔法使いだからいろんな魔法を開発してんだな。

 何の目的だったのかすごく気になるし、何百年か前に使ったって言っていたけれど誰に使ったんだか。


『――スンスン。この匂いは……』


 アモールがそう言うと、パティに近づいて耳打ちをしている。


(あなた。下の方がどうかしているようだけれど、そっちを使ったのかしら。フフフ)


「ひいっ!?」


 アモールが何を言ったのかわからないが、パティはびっくりして叫んだ。

 うーむ……

 きっとろくでもないことだから、いらないことを吹き込むのはやめてほしい。


『冗談よ。フフフ』


 パティはまたも爆発するような真っ赤な顔をしている。

 本当にアモールは何を言ったんだ?


「パティ、何かあったの?」


 バチィィィン!!


「あ痛たたたた!」


 彼女は私の背中を手のひらで思いっきり叩いた。

 大帝の術、オフェリアの目潰し、パティの背中叩き、そしてこれから性転換の魔法の魔法で痛みがあるだろうから、今日は痛いことばかりだ。トホホ

 パティとのキスで全てが帳消しになるほど良い思いをしたと言われれば否定しない。


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