第二百五十七話 解放と介抱
私の気功波で裸にされてしまった、大帝の側近ミラさんとザラさん。
大帝に戦闘継続不可能と判断されて、私が勝利した。
でもこれでいいのかな?
ミラさんとザラさんは、胸と大事なところを手で隠しながら王座の間を半泣きで逃げるように出て行った。
あの恥ずかしがりようは、もしかしたらオフェリアより若いのかも知れないな。
スヴェトラさんの堂々たる様はさすが八十歳である。
『マヤよ。よくぞミラとザラを倒した。
よっておまえの力を認めることにする』
『素晴らしいわ、マヤさん』
「はい。ありがとうございます」
『そこでだ。おまえの隠れた力をここで全解放しようと思う。
おまえの中には強く大きな力が入っている壺がたくさんある。
いくつかは既に壺の蓋が開けられ、力が解放されているが……
これから残った壺の蓋を全て開ける。
だが、蓋の上に置いてある重石を取り去るだけで、中身を放出させるのはおまえ次第だ』
前にアマリアさんやエリカさんが言っていた、蓋がされているとか、袋の紐が閉じていることと同じだな。
今でも魔法や気功波なんてすごい力があるけれど、それより遙かに強い力なんて……
シュウシンはこの髭面大男と互角だと言っていたが、私にそんな力があるとは想像が出来ない。
『マヤ、近う寄れ』
「はい……」
大帝の前で跪いていた私は、足下まで近づいた。
目の前には、座っている大帝の股間がある。
ズボンが膨らんだあの感じ……
さすがにオーガの女性でも入らないよな。
『そのまま立っていろ』
大帝は右手を出すと、私の頭に手を当てた。
というより、頭を鷲づかみにされてしまった。
首をもぎ取られそうな気分……
『かなり痛むが我慢しろ』
「えっ?」
『ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅむ!!』
大帝が気を込めると、いきなり私の頭から全身に至るまで激痛が走る。
そんなこと早く言ってくれ!
心の準備も出来ていない!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『マヤさん!!』
「ぐあああああああああがががががああああ!!」
『耐えろ。耐えるのだ!』
酷い…… こんなの無理だ……
アーテルシアやエリサレスにやられた時のほうがましだ。
発狂してしまう。
『大帝!! マヤさんが死んでしまいます! ううう……』
『もう少しだ!』
あのアモールがおろおろと心配して私を見ている。
まだ続けるのか……
もう止めてくれ。
「がっ がっ…… ぐっ…… がはっ……」
もうダメだ…… 死ぬかも……
気が遠くなってきた……
死んだらまたサリ様のところへいくのかな……
ああ…… 立っている力も無くなってきた。
バタッ
『――終わった。こやつ、気絶しおったわ。
アモールよ。連れ帰って、起きたらよく耐えたと言ってやってくれ』
『はい…… 承知しました……』
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『シュウシン…… どうしても大帝と戦うの?』
「あの頑固者には一度、一泡吹かせてやらないとな」
『大帝の強さは桁違いよ。戦えば必ず殺される……』
私は夢を見ているのか……
ここはアモールの寝室?
そこで私とアモールは抱き合っていた。
アモールの見た目が若く、人間の二十歳過ぎであろう初々しさがある。
私のことをシュウシンと呼んでいた。
ということは、私が今見ているのは五百年前のシュウシンの記憶なのか?
その時アモールは二百歳くらい……
でも可愛い!
「死んだら君に会えなくなるから嫌だな。だから無理はしない」
『愛しているわ…… シュウシン』
シュウシンとアモールの熱烈なキスが始まった。
私とシュウシンは一心同体の状態で目で見て触感もあるのに、意志はこちらで制御できない。
その時のシュウシンが見て感じたままを私が体験しているのだ。
舌が勝手に動いている。
シュウシンの何というキスのテクニック……
アモールは完全に逆上せてしまっている。
そのままベッドの上で始めてしまう。
シュウシンの記憶が見えてしまうのは、大帝の術による副作用なのか?
「アモール…… 俺…… もう!」
『いい…… いいわ。シュウシン…… 来て!』
あっ あああ……
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あああ……
ん? 目を開くと、アモールの館で借りている部屋の天井が見える。
何だか股間がムズムズする感覚で目が覚めてしまったようだ。
「あっ マヤ様が気がつきましたわ!」
『だ、大丈夫ですか?』
「あ…… パティ…… オフェリア……」
ベッドの袂にはその二人がいた。
大帝にやたら痛い術を掛けられて気を失って……
いまここにいる。
「俺は……」
『アモール様がマヤ様をディアボリ城から連れ帰って、気絶しているから面倒を見て欲しいと頼まれたんです』
「そうか…… ん? パジャマ?」
『それは私とオフェリアが着替えさせたんだよ。うっひっひ』
『あああううう…… ぱぱぱぱんつは脱がしてませんからねっ ボムッ』
スヴェトラさんが部屋の壁際に立っていた。
彼女も介抱してくれたのか。
オフェリアは顔を真っ赤にして、爆発してしまった。
男の身体は慣れていないのに、頑張ってやってくれたんだな。
本当に健気で良い子だよ。
「ふぅ…… 何だかお腹が空いてきたけれど、今は何時だろう?」
「四時前なのでまだ夕食には早いですね。
ジュリアさんに頼んで何かお菓子でも持ってきましょうか?」
「そうだね。お願いしようかな?」
気を失っていたのは一時間ほどか……
パティの言葉に甘えて、美味しいおやつでも食べよう。
私はベッドから起きて立ち上がる。
ん? この感覚は……
「スンスン…… この匂いはなんでしょう?」
『おお? 大事なところが濡れてるじゃないか。これはもしや……』
『え? どういうことですかあ?』
「まあ!! これがそうなんですの!?」
「へ? あ…… ああああああああっ!!」
やってしまったああ!!
あの夢なのか何なのか、アモールとのアレの回想の最後に迸ってしまったのが現実でも起こってしまった……
目が覚めたときのあの感覚はこれだったかあ!
早く気づくべきだったああああ!!
パティに匂いを勘づかれてしまうし……
「こここれは見ないでくれえ!!」
私は慌てて股間を手で隠した。
余計にみっともなく見えそう……
わざわざ着替えないで黒いズボンのままだったら目立たなかったのに、青のパジャマではシミがくっきりと。
『人間の男も同じなんだなあ。夢を見た後に出しちゃうなんて。
カメリアたちがいたら大変なことになってるかもね』
「あいや、マヤさまっ お気になさらないで下さいまし!
お母様から聞いたことがあります!
若い殿方は夢を見た後に……
あのあの生理現象で出てしまうことがあるから仕方ないことですよねっ」
『え? マヤさんがどうかされたんですか?』
さすがアマリアさん。
パティにしっかり教育をしてるんだな……
でも十四歳の子に見られてしまうなんて恥ずかしい……
オフェリアは状況がわかっていないようだ。
知らないなら知らないままでいて欲しい…… うう……
何てことを思っていたら、スヴェトラさんがオフェリアに耳打ちしている。
『オフェリア…… マヤさんはゴニョゴニョのゴニョ』
『え…… ええっ!? ボムムッ』
オフェリアはまた顔を真っ赤にして爆発してしまった。
ああ 鼻血まで垂らして。
どんな言い方をしたんだ、もう……
「スヴェトラさん! いらないこと言わなくてもっ!」
『オフェリアにもちゃんと教育をしておかないとだめでしょう。
パトリシアさんだって知ってるのに、身体ばっかり大人で中身はいつまでもお子様じゃあ良くない。
マヤさんがいる機会だからこそ着替えも手伝ってもらったんだよ』
何で俺が怒られなければいけないんだ……
はぁ……
毎晩アモールやサキュバスの三人に搾り取られているのに、何で夢を見た後にもこんなに出てしまうのだろう。
これも覚醒の内なんだろうか。
『さあマヤさん、着替えるよ』
「私は殿方の裸を見るのは十五歳になってからと決めております。
スヴェトラさんにお任せしますのでこれで失礼しますね。
それでは。オホホホ……」
パティはそそくさと退室していった。
彼女に情けない着替え姿を見られたくないからな。
十五歳になってから堂々と愛せるのだ。
それにしても、意外に妬かないであっさり出て行ったな。
『それじゃあ私もこれで失礼します……』
『待てオフェリア。仕事を放棄する気か。おまえは残れ!』
『ひゃいっ!?』
オフェリアもそろりと部屋を出て行こうとしていたが、スヴェトラさんに呼び止められ固まってしまう。
ああ…… とうとうオフェリアにも見られてしまうのか……
しかもぱんつと分身君が汚れた状態で……
ルナちゃんやモニカちゃん、ラミレス家のローサさんなら気にしないでやってくれるはずだけれど、それはそれで女性にこんなことをさせて良いのかと今更ながら思う。
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着替えが終わった。
スヴェトラさんの指導の下でオフェリアが全部やってくれて、これで彼女は経験を積んで大人の階段を数段上がったことになる。
塗れタオルで拭いてくれた時は気持ちよかったな。
鼻血が出っぱなしで、鼻にティッシュを詰めたままであったが。
『ああ…… 男の人…… 男の人…… えへへへへ……』
オフェリアは逆上せて半分目が回った状態でフラフラと踊っている。
ニヤニヤと笑っているので、元々むっつりだったのかも知れない。
五十年生きて異性の大事な場所を初めてじっくり生で見たんだから衝撃的だろう。
『うーむ…… やっぱり急が過ぎて刺激が強かったかな。
まあ荒療治ということでいいよな。ハッハッハッ』
「スヴェトラさんにも見られたし」
『んん? この前私の裸も見ただろう。おあいこじゃないか。ハッハッハッ』
豪快なオーガ女だな。
確かにむっちりとして筋肉が引き締まった裸体は頭から離れない。
心から美しいと思ったらしっかりと胸に刻み込まれるのだ。
『なんだい? 私をじっと見て。
もう一度私の裸を見たいんだったら今から……』
「ええ?」
スヴェトラさんは給仕服の紐に手を掛けスルリと脱ごうとした。
もしパティがいたらすぐ止めに入るだろう。
だが彼女はここにいない。
あっという間に給仕服を脱いで、下着姿になった。
上下グレーで、スポブラと素朴なぱんつ。
だがそれがいい!
今すぐにでも胸の谷間か股間に飛び込みたい。
『ああ! スヴェトラったら何やってるのーー!!』
いつの間にか正気に戻ったオフェリアが私の後に飛び込んで、目を塞ぐ。
せっかくの目の保養が見えなくなって残念だ。
目を押さえ過ぎ。痛いってば。
『あー、冗談だって』
『また冗談って。スヴェトラの冗談はほとんど本気なんだから』
『オフェリアもマヤさんに本気になってみなよ。
いつまでもアスモディアにいるわけじゃないんだからさ』
『だああああああスヴェトラ!!』
「あいたたたたた!!」
オフェリアは私の目を後ろから塞いだまま締め付ける。
今日はろくなことが無いな……
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私の目を馬鹿力で締め付けたオフェリアは土下座をして謝っていた。
もう止めろと言ったのに相変わらずである。
そしてアモールの私室兼寝室。
彼女は心配しているらしいので、目覚めたことを知らせに自ら出向いた。
アモールは部屋のデスクで何か考え事をしていた。
『マヤさん…… 早く気がついたのね。良かった……
大帝もよく耐えたと仰ってたわ』
「俺の身体は思っている以上に頑丈のようです」
この部屋、夢で見た部屋の面影があるような無いような。
館はかなり古めかしいので建物自体は同じかも知れないが、さすがに五百年前と全く同じなわけはなく、リフォームされているようだ。
「さっき、夢を見たんです。
私がシュウシンになっていて、この部屋であなたを抱いていた」
『まあ! そうなの!? やっぱりあなたは…… 嬉しい……』
アモールは涙が出そうなしんみりした表情になる。
このところすっかりアモールの印象が変わってしまったな。
イスパルにやって来た時の冷徹な雰囲気とえらい違いだ。
最愛の男の生まれ変わりというのは、彼女をそこまで変えてしまうのか。
「これはシュウシンの記憶が大帝の術の影響で俺の心に蘇ったから?」
『そうね…… そう考えるべきかも知れないわね。
大帝がおっしゃられたように、壺の蓋の上に置いてある重石は全て取り払われた。
この先も何かの拍子でシュウシンの記憶が再生されるかもね』
「そうですか……」
また若いアモールとのエッチな夢だったら歓迎なんだがな。
大帝と戦ってる時のような痛い思いをする夢は勘弁して欲しい。
「ここに来たのは別の用事もあるんです」
『なあに?』
「毎晩のようにサキュバスの三人がベッドに潜り込んでくるのはもう耐えられません。
本当にどうにかなりませんか?」
そう、前日もアモールに言ったばかりだが我慢出来ない。
身体よりも精神的に耐えられないのだ。
これ以上だと彼女らのことを大嫌いになってしまう。
嫌いになるどころか、私のほうから危害を加えてしまうかも知れない。
それは避けたいのだ。
『うーん…… カメリアたちが男を欲するのは強力な本能だから仕方がないの。
あなたも喜ぶと思ったからそのままにしていたんだけれどねえ……
止めさせるには、この館へ帰って来られないくらいあの子たちを遠くへ飛ばすか、あなたがイスパルへ帰るか、締め上げて地下室へ閉じ込めるか……』
「いや…… そこまでしなくても。エリカさんを連れて帰りたいし。
どうにかして諦めてもらう方法はないですかね?
強力な結界を張ってもらうとか」
『あの結界は私がいないと出来ないの。
それとも毎晩私が一緒にいたほうがいいかしら。
歓迎といきたいところだけれど、夜に出掛けることがよくあるからそうもいかない……』
アモールはしばらく無言で考え込む。
ふと顔を上げ、難しい顔をして口を開いた。
『それじゃあ…… 一時的に性転換してみる?』
「ということは、女になればカメリアたちは諦めるってことですか?
そんなことが出来るんだ!」
『そう。性転換の魔法を掛けて、男から女へ。
幻術で見せかけの性転換も出来るけれど、それではカメリアたちには効かない。
エリカが戻って、イスパルへ帰る前に男へ戻れば問題無いでしょ?』
「そうかあ。それならお願いしようかな。
女の身体になってみるのも、とても興味があるし。ぐふふ」
『私は残念だわ。あなたと愛し合うのは男の身体のほうがいい。
シュウシンも女好きだったけれど、あなたはちょっと違う方向ね』
性転換!
日本でもお湯を被ったら可愛い女の子になるとか、そういう漫画がたくさんあって女の子になることに憧れていた。
まさかそれが現実になるとは!
自分がどんな女の子になるのか、今からとてもワクワクしてきた。




