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第二百五十六話 ミラとザラ

 アモールが私を大帝に会わせようと連れてこられたディアボリ城。

 私とアモールはその玉座の前で大帝に(ひざまず)いている。

 大帝は、立ち上がったら恐らく身長は五メートルはあろう黒髭の巨人。

 とてつもない覇気と魔力が湧き上がっており、私は緊張して背筋が凍りそうである。


 ――種族は何だろうな。

 他にも同じ巨人がいるのだろうか?

 女もあんなにデカいのだろうか?

 と思いつつ。


 アモールは既に私のことを大帝に話しているようだ。

 ならば話は早いだろう。


『はい。マヤさん、大帝にご挨拶を』


「――お初にお目にかかります、大帝。

 マヤ・モーリでございます……」


『何を(おび)えている……

 力はあるのに小さいやつよのお』


「私などまだまだです」


 私の心情と力量までお見通しか。

 マジックエクスプロレーションのような魔法をを使っている様子は無いのに、僅かな気の流れを感じ取っているのだろうか。

 ならば私の正体も……


『顔を上げよ』


「はい」


 言われたとおり顔を上げる。

 ド迫力の髭面巨人である。

 先日のミノタウロスなど比較にならない。

 大帝は鋭い目つきで私を睨み、目が合った。

 目を()らすとまた何を言われるかわからないので、そのまま大帝の目を見る。

 イキって睨み返すわけではないぞ。


『その目…… 魔力の流れ……

 アモールよ。そいつはシュウシンの生まれ変わりか?』


『そうでございます、大帝。

 大帝ならばおわかり頂けると思いました。

 シュウシンが…… シュウシンが…… はぁ はぁ』


 アモールは顔を赤くして興奮気味に話している。

 昔の恋人というより、お母さんが溺愛(できあい)の息子を自慢しているように思えた。


『ふむ。おまえがそう言うなら、間違いないだろう』


 ゆうべのことでアモールは私がシュウシンの生まれ変わりと確信しているが、大帝は顔色一つ変えず応えた。

 親友の生まれ変わりとわかったのに冷静なのは、輪廻転生を不思議と思っていないのでは。

 それだけ長い年月の中でいろんなものを見てきたから、特に驚くことではないということなのか。

 大帝とは、とんでもない魔人だ。


『だが生まれ変わりであって、シュウシンではない。

 内なる秘めた力は感じるがまだ弱い。弱すぎる』


『大帝…… 確かにマヤはシュウシンと性格がまるで反対です。

 ですが以前感じた力より格段に上がっています。

 これからもっと強くなっていくでしょう』


 エリサレスと戦うにはもっと強くなる必要があるけれど、これ以上強くなったら身体がプシューっとパンクしてしまいそうな気分だ。

 正直言うと、戦いよりもランジェリーをデザインしながら気ままに暮らしたい。


『ならばこいつの力量が今はどれほどのものか見てみたいものだな。

 ミラ! ザラ! ここでこの者と戦って見せよ。二対一でな』


『承知しました!』


『オーガ族の威信にかけて人間族に負けていられません!』


 なっ……

 大変なことになってしまった。

 側近のオーガの()が二人がかりで私と力試しをすることになってしまった。

 オフェリアとスヴェトラさんより強そう……


『マヤとやら。シュウシンはこのワシの強さと同格だった。

 成長している途中かもしれぬが、この二人に勝てるぐらいでなければ話にならん。

 見事打ち勝って欲しいものだな。

 そうしたら、ワシがおまえの眠っている力を引き出してみることにしよう』


 力を引き出してくれるって?

 エリサレスを倒せる近道になるのならば、やる意味はある!


「わかりました、大帝。戦います!」


『マヤさん……』


『その意気や良し。この王座の間は大抵のことでは壊れぬ。存分に戦うが良い』


 確かに王座の間は立派で丈夫そうな石壁だが、そんなの強固なのか?

 魔封じの建物とはいえ魔力灯が点ってるくらいだから、何か魔法が掛けられているかもしれないが……


 ミラさんとザラさんか……

 胸の部分とミニスカに分かれたセパレートタイプになってる、戦闘向けの軽装備。

 白い着衣がミラさん、黒いほうがザラさん。

 二人ともショートヘアで、良く見たら顔がほぼ同じだから双子なのか。

 キリッと真面目そうな顔に対して、胸の方は暴力的に美しく立派である。

 私たち三人は、王座の間の中ほどに移動して対戦する。


『マヤさん、私たちは全力でいきますよ』


『女だからと遠慮はいりませんからね』


「――はい。よろしくお願いします」


『『では、まいります!』』


 二人は正面から同時にかかってきた。

 あの両手の構えは!?

 彼女らの間にはまるで透明の板か網があるようだ。

 それを持って私にぶつけるつもりか?

 何の技かよくわからないが、あの間に取り込まれるのはまずい!

 上に飛んで避けても罠に掛かりそうだ。

 それでもまともに食らうよりはいいし、様子を見たい。

 私は天井スレスレに飛び上がった。


『そんな避け方では私たちの思うつぼだ!』


 彼女らはすぐに振り返り、飛び上がった私に見えない何かを投げ飛ばすように放った。

 身体の自由が効かない!

 何かに捕まったか!?


「うわぁぁぁ!!」


 私はまるで網に捕らわれた魚や動物のように、見えない何かに捕まって身動きが出来なくなり、床に叩き付けられた。

 あいたたたた……

 気功だけでそんなことが出来るのか?


『ふふふ…… 一分も持たないとは。

 大帝のお手を(わずら)わせることが無くて良かったです』


「それはどうかな?」


『なにぃ!?』


 バシィィィィ!! バシィィィィ!!


 私は気功波と手刀の合わせ技である気功斬で、見えない網を切り裂いた。

 スヴェトラさんに教えてもらった技が早速役に立ったぞ。


『バカな!? 私たちの透明の(トランスペアレント)(ネット)を破るなんて!』


『いや、あの技は見たことがある! 確か我々の……』


 ミラさんとザラさんは動揺している。

 同じオーガ族のスヴェトラさんの技だから見たことあるのかと思ったが。

 ライトニングカッターよりは威力が落ちるが、それでも手刀より遙かに強力だ。


「今私がどこでお世話になってるか、ご存じですか?」


『アモール様がお連れになって……

 はっ スヴェトラか!!』


『くぅぅ…… スヴェトラから伝授されたのならば納得だ……

 それにしても、そんな簡単に習得が出来るはずが無い!』


 この二人も相当な強さだろうに、スヴェトラさんってオーガ族の中でもそんなに強かったのか。

 いやはや私はとんでもない人と修行していたんだな。

 裸になっても堂々としていたけれど。


『ミラとザラよ。それが勇者シュウシンの力だ。

 力が目覚めているのであればそのくらいの技は習得が早いだろう。ふはははっ』


 冷徹な顔をしていた大帝が笑った。

 笑い声がまるで轟音のように王座の間で響いている。


「次はこちらから行きますよ」


 ミラさんとザラさんが動揺をしている隙に二人の元へ高速で駆け寄り、パンチやキックの小技の連続をかます。

 二人は必死に応戦するが、動きが速くリーチが長くても私の体格が小さいぶんパンチは避けやすい。

 それより身長差の性で目の前におっぱいが四つもあり、気になって仕方が無い。


 ミラさんのキックはものすごく、あんな脚でまともに蹴られたら骨折しそうだ。

 しゃがんで躱すと、ヒラヒラのミニスカから白いビキニパンツみたいなものがチラリと見えてドキッとする。

 ああ…… あの太股に挟まれてみたいけれど、そうなったら負け確実だな。


『ぬうぅ! ちょこまかと!』


『何故当たらない!?』


 どうやら間合いが短い方がこの二人は苦手なようだ。

 なかなか決め手が出来ないものの、心理的には効果がある。

 そこで、カンフー映画で見た拳をやってみる。

 あれは子供の時に夢中になって見ていた。

 カンフースターの動きが何故か頭の中へ鮮明に刻み込まれており、まるで身体が覚えているようだ。

 この二人に都合がいいのは、蛇のような動きの拳!

 腕をコブラに見立てて攻撃をする。


「シャァァァァ!!」


 そんな叫び方をする必要はないのだが、雰囲気なのだよ。うん。

 ミラさんがパンチを繰り出すも、蛇が腕に巻き付くように(かわ)す。

 ザラさんがキックをすれば蛇のようしなやかに(かわ)し、低い姿勢になったら黒いパンツが丸見えだ。


『なんだその気持ち悪い動きは!』


『まるで森にいるワームのようだ……』


「違う! 蛇だってば!」


『ヘビ? そんな生き物は知らないぞ!』


 蛇の拳が、ミミズと思われて悲しい。

 この世界に蛇はいないのかな?

 そういえば見たことが無い。


 私は執拗に蛇の拳で攻撃をする。

 今度はにょろにょろと噛みつくように。


『ひぃぃぃ!!』


 ミラさんには変態を見るような目で見られている。

 私はそういう気がないのでショックだ。


『ハッハッハッ マヤ! なかなか面白い戦い方をするのお!』


『あの子、体術はあんなことするの? あまり格好良くないわねえ……』


 大帝やアモールには、何だか道化のように見られている。

 格好いいカンフーなのに、この世界では理解されないようだ。

 それでも私は蛇のように噛みつく。


『あっ……』


 ザラさんの体勢が崩れた拍子に、右胸をガブッと掴んでしまった。

 ごつい体つきでもここが柔らかいのは共通だな。


『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 バゴォォォォォォン!


「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 私はザラさんの胸を掴んで気が緩んでしまい、パンチを思いっきり食らった。

 大帝やアモールがいるところまで吹っ飛ばされてしまう。


「うう…… いたたた……」


『マヤよ。もう終わりか?』


「いいえ、まだ戦えます」


『そうこなくてはな』


『さすがシュウシンね。ポッ……』


「――」


 やはりアモールが愛しているのはシュウシンで私ではないのが何故か悔しい。

 いや、アモールに愛されたいわけでなく、私が、マヤが認められていないのだ。

 それよりも……

 ここまで飛ばされてしまって、ミラさんとザラさんと離れている。

 この間合いを利用するなら今しか無い!


「だりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は気功波の一つ女神拳を二人に向けて撃った。

 私の背後にサリ様が見えたというあの拳である。


『ああ…… 彼の後ろに見えるアレはなんだ!?』


『白い…… 女!? うわぁぁぁ!!』


 ミラさんとザラさんは既に体勢を立て直していたが、あっさり吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。

 これだけではまだ反撃されそうなので、さらに気功波を発し続ける。


『『うああああああああ!!』』


 壁に貼り付いたまま、だいぶん苦しんでいる。

 そろそろ()めた方がいいか……


『むう? マヤの後ろにいるのはサリか!?』


『サリ? どうしてここにサリが? 天界にいるんじゃないの?』


 大帝とアモールにも見えているのか。

 私の後に見えるサリ様は、たぶん私のオーラが具現化したようなものだと思う。

 だからサリ様本人ではないのだ。


『『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』』


「しまったああああ!!」


 ミラさんとザラさんが着ている物がビリビリと破れ、あっという間にすっぽんぽんの裸になってしまった。

 スヴェトラさんの時といい、なんでそうなるんだよ!


『ああ……

 マヤさんったら、そういうところが特にシュウシンとそっくりなのよねえ……』


『ワーッハッハッハッハッハッ

 これではあの二人、もう戦えんなあ! ハッハッハッ』


『うぇぇぇぇぇぇん!! 大帝ぃぃぃ! 笑ってる場合じゃないですうぅぅ!』


『ふぇぇぇぇぇぇ…… 人間の若い男に裸を見られるなんて……』


 ミラさんとザラさんは胸を両腕で隠して床にへたり込んでいる。

 悪いことをした……

 近づいたら命は無さそうだな。

 そもそも衣装が半裸みたいなものだったから、戦闘中でもずいぶん目の保養をさせて貰った。

 仲良くしたいけれど、向こうは私のことを嫌いになったかな……


---


 ☆大帝の側近

 ◆ミラ…オーガ族 双子の姉 ショートヘア 白いセパレートの衣装

 ◆ザラ…オーガ族 双子の妹 ショートヘア 黒いセパレートの衣装


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