第二百五十五話 大帝と謁見
アモールと愛するシュウシンが再び結ばれた……
いや、アモールに私がたっぷりしっぽり玩ばれてしまった晩が明け、その日の午後は早々にアモールに連れられて大帝のお城へ行くことになった。
過去の私が大帝と親友だったということで、アモールは私を大帝に会わせたいという。
アモールは朝まで私とベッドの中でスヤスヤと幸せそうに寝ていた。
裸のまま、私の胸に抱きついて。
だが明るくなり始めると、スッと起きて私の頬にキスをしてから部屋を出てしまった。
私はうつらうつらとし、二度寝してしまう。
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『マヤさん、おはようございます』
「あ…… ああ」
私の肩を揺らして起こす声がする。
――サキュバスメイドのファビオラだった。
他の二人は黒髪で大人っぽいが、彼女だけは童顔美少女。
金髪サラサラのセミロングヘアーが美しい。
それでもオーガの二人よりずっと年上だとか。
『スンスン…… この匂い……』
明るいうちは最低限の話しかしない彼女たちだが、今朝は珍しくそんなことを言う。
匂いって、もうわかってるだろうに。
『ゆうべはどうしてもこの部屋に入れなかった……
やっぱりアモール様があなたの部屋にいたのね』
「それがどうかしたのかい?」
私は上半身を起こしながら、開き直ってそう応えた。
ゆうべもやっぱり性欲を満たそうとやって来ていたのか……
『ふーん……』
ファビオラはニヤニヤと笑い、ベッドに座り込む。
そして上半身裸になっている私の胸板を、手のひらでグルグル回して擦った。
百年以上生きているとは思えないほどの、傷一つ無い白い手の甲だ。
「――あぁ」
『んー フフフ。私たちと五夜連続、ゆうべはアモール様と……
人間なのにここまで平然としているなんて、さすがねえ。
何者なのかしら……』
色目を使いながら手のひらでベタベタと私の身体を触っている。
手慣れた手つきで、触られるだけでも気持ちいい……
いやいや待て。
『ここはどうなってるのかな……』
バサッと掛け布団を剥がされてしまった。
朝になって元気になっている分身君が現れる。
日本にいた中高生の時でも毎朝こんなに元気になっていることは無かったのに、近頃は元気を通り越してイキリ出している。
まさかこれも力の解放ではあるまいな。
『ああ…… 素敵。いい匂い……
はぁ はぁ スゥゥー ハァァー
美味しそう…… 我慢出来ない!』
ファビオラは分身君に飛びかかりそうになるが、彼女の頭を手で押さえアイアンクローをくらわす。
両手をバタバタさせて藻掻いている姿が滑稽だ。
『があああ! あいたたたたた!』
「俺は今その気分じゃない。
このままシャワーを浴びてくるから、着替えを用意しておいてよ」
『ああ! だったら一緒に!』
「いらん」
私は裸のまま、ファビオラを放ってスタスタと浴室へ向かう。
毎晩同じ女の子三人で百二十分コースみたいなことをしていると、この子らに対してちっとも有り難みが無くなってくる。
テクニックは最高クラスなんだがなあ。
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シャワーを浴び終えると、ファビオラは私のビキニパンツを持ってニコニコしながら待機をしていた。
まあ、履かせてもらうぐらいならいいだろう。
あの表情じゃ何か良からぬことを考えている気がするが……
『さあマヤさん。おぱんつを履きましょう』
他の二人はいつもこんなにノリノリではないのだが。
ファビオラがしゃがんでぱんつを広げ、私はぱんつに足を入れる。
『クンクン…… やっぱり洗う前の芳醇な匂いのほうがいいなあ。あーん』
「ああもうっ」
大口を開けて今にもカポッと食べられそうだったので、自分でサッとぱんつを履いてしまう。
ダメだろ綺麗にしておかなきゃ。
いやいやそんなことじゃなくて。
「あー 君らは普段どうやって性欲を満たしてるんだい?
毎晩じゃなくてもそっちで良かろうに」
『えー たまに娼館でアルバイトしてるけど、ほとんどオークだし、なんか臭いんだあ。
オーガが来ても大きすぎて入らないからつまんない。
普通の魔族はだいたい魔族同士で仲良くやってるから、お客として少ないからねえ』
プロのお姉さんだったのかよ。
それじゃあ、オフェリアは人間の男だと物足りないんじゃなかろうか?
オフェリア自身がそれをわかってないんだったら、私の分身君を見たらびっくりするかもな。
「インキュバスはいないの?」
『淫魔族は元々数が少なくて、インキュバスはもっと少ないの。
身内以外ではカメリアのパパと息子がいて……
はぁ はぁ 二人とも最高だったわあ……』
「ああ、そう……」
すごい世界だな。
同僚の父親と息子まで食ってしまうとは。
いや、食われた方かも知れない。
数が少ないのは子供が出来にくいからだろう。
「とにかく、明るいうちは普通に仕事をして欲しい。
カメリアさんたちはそうしてくれているから」
『ということは、晩はいつでもおいでってことだよね?』
「――」
来るなと言っても来るだろうに。
エリカさんが復活するまで身体が持つかなあ……
三人ともハイテクニックなうえに、綺麗で可愛いから全面的に不許可って言えないのが私のダメなところだ。
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スヴェトラさんが休みみたいなので、午前はオフェリアと二人っきりで存分に気功波の練習が出来た。
うんうん。彼女はいつものように健気で、女の子はこうあって欲しいと思ってしまう。
誰も同じ性格だとつまらない世の中になるだろうが、私はオフェリアのような健気で一生懸命な娘が好きだ。
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お昼ご飯を食べたら、アモールと大帝のお城へ出掛ける。
どうやって移動するのかと思ったら、やっぱり飛んでいくらしい。
街で時々飛んでいる魔族は見えたけれど、人口に対して僅かのようだ。
『じゃあついてらっしゃい』
「はい」
館の玄関前で飛び上がり、アモールについていく。
高速で飛んでいるのにアモールのスカートはビラビラしていない。
セクシーぱんつも見えない。
完全に空気抵抗を遮断している魔法を使っているのだろう。
私はグラヴィティムーブメントがまだ使えないので、グラヴィティプラス風属性魔法で進む。
飛行機からも見えたが、丘にそびえ立つ大きなお城のすぐ近くまでやって来た。
街の名前と同じ、ディアボリ城と言う。
広い、というよりデカい!
一階部分は扉から何までイスパルの王宮の数倍はある印象だ。
その扉の前に、魔族とオーガ族の近衛兵たちが何人もいる。
二メートル超のオーガでも、この扉の前では小さく見えるほどだ。
私たちは扉の前に着陸した。
『開けなさい』
『ははっ』
アモールは近衛兵に向かって開扉の命令をする。
顔パスで、近衛兵らは何人もかけて扉を重そうに押し開けた。
魔法大国なのに、手で開けないといけないのは意外にローテクのようだが、何か理由があるのかも知れない。
それにしてもデカい入り口だ。
二車線道路のトンネルより大きく、新幹線のトンネルが高さ七メートル超あるからたぶんそのくらいの大きさだろう。
例えるなら熱海駅や新神戸駅のホームからすぐトンネルが見えるのでわかりやすい。
私があんぐりと口を開けて入り口の天井を眺めていると、アモールが声を掛ける。
『何を驚いているの? これで驚いていたら後で大変よ。ふふふ』
「ええ?」
アモールが先を行くので、後ろをついていく。
エッチなお尻を眺めて、アモールの身体からほのかに香るいちごミルクの匂いを嗅ぎながら……
という気が起きることもなく、歩きながらキョロキョロと周りを見回す。
魔王城という雰囲気らしく少し暗めで石造りの天井が高い通路が続いており、分かれている通路はどれも同じように天井が高かった。
途中にショッピングモールのような吹き抜けがあり各階へ上がる階段も見えたが、階段と二階から上の天井は何故か普通サイズだった。
階段の段差がメートルサイズだったら困るがね。
通路では女の子の近衛兵やメイドも見かける。
人間のお城と違ってみんな若いのは、魔族は身体が若い期間が長いせいだろう。
私が珍しいのかみんなジロジロ見てくる。
アモールがいなかったら突っかかってきそうだ。
通路のサイズが大きいから、距離までやたら長く感じる。
かれこれ何分歩いたのだろう。
そんなに長いなら飛んでいけばいいのにと思ったら、どうやら魔力封じの術が掛かってるようだ。
だから扉を手動で開けたのか。
なのに通路の魔力灯は煌々(こうこう)と点っている。
ずっと奥へ進むと、一際立派な扉が見えてきた。
この扉の前にもやはり両側に近衛兵が数人いる。
ここは屈強なオーガの兵ばかりで、アモールの顔を確認したら何も言わずに一生懸命扉を開け始めた。
ガガガガガゴゴゴゴゴ ドォォォォォン
『ここが大帝の、玉座の間よ』
「ほえぇぇぇ……」
幅十メートルはあろう赤い絨毯があり、その先の玉座に巨人が座っている。
あれが大帝なのか……
玉座の両側には二人のオーガの女近衛兵が控えていた。
武器は持っておらず、オフェリアたちと同じく拳で戦うのだろう。
『ォォォォォォォォォォ……』
大帝が小さな声で唸っている。
小さいといっても、まるで猛獣が威嚇しているような唸り声なのでビビってしまう。
アモールが静々と前へ進むのでそのまま後ろをついていく。
大帝の元へ着くと、アモールが跪いたので私も真似をして跪いた。
デカい…… すごくデカい……
若いときに世紀末漫画で見た某獄長に雰囲気が似てるが、それよりデカいかも知れない。
なるほど…… 扉や通路が大きいのはそういうことだったのか。
目つきは鋭く、顔の下半分を覆っている黒髭はきちんと整えられている。
黄金の兜に、軽いプロテクターのような衣装で肩パットや胸部、腰回りも黄金だ。
魔力も、アモールほどではないがとんでもない大きさだ。
魔法は魔封じで発せられないが、魔力だけは感じられる。
『アモールか…… 昨日来たばかりなのに、何用か?』
『はい、大帝。ここにいる、マヤという人間族の男を連れて参りました』
『うむ。前におまえから聞いた男はそいつか』
ひえええ…… 猛獣の唸り声がそのまま言葉になっている声質だ。
声も姿もまさに魔王らしさを醸し出している。
サリ様から授かった恐怖耐性の力があっても、背筋が凍る思いがする。
これから大帝と話さなければならないのか……
緊張して吐きそうになってきた。




