第二十五話 マカレーナ女学院
2022.10.6 文章の見直し、小規模な加筆修正を行いました。
2025.9.2 加筆修正を行いました。
パティが通うマカレーナ女学院の要望で、今日はエリカさんが特別魔法講師として講義と実演を行うことになっている。
何故か私も助手として付いていくことになった。
マカレーナ女学院は日本で言う中学校と高校が一緒になっており、通常は一年生が十三歳で六年生が十八歳である。
だが、パティは九歳で幼年学校を飛び級卒業し、女学院の三年生から編入し、今年が六年生でもう卒業するというスーパー才女なのだ。
この国は十五歳で成人し、飛び級が無ければ十五歳または十八歳になった年で学業が終了し、働きに出る。
十二歳になるまでは基本家族の手伝い以外は労働が禁止で、お金がない家庭の子は十二歳になったら奉公という形で家を出て十五歳までそこで勉強をする。
学校によって学習レベルの格差がとても大きく、このマカレーナ女学院高学年の学習内容は大学相当のレベルのようだ。
女子校は男子がいないからと余計に素をさらけ出してアレとは聞いているが、淑女の学校なら花園のようだと期待してみる。
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受け付けた係のお姉さんの案内で、エリカさんと学院長室へ向かう。
エリカさんの服装はいつものミニスカではなく、膝丈タイトスカートのスーツを着用し、女教師っぽいスタイルでやる気満々だ。
私もこの前ビビアナと出かけたときに買ったスーツを着て、早速役に立っている。
もう授業が始まっているので廊下は静かだが、私が知っている範囲の学校と空気が違う。
決して女の子の匂いのことではないぞ。
「ようこそおいでくださいました、エリカ・ロハス様。私は学院長のアデリナ・バルデスと申します。お会いできて光栄に存じます」
「初めまして、学院長。エリカ・ロハスです。彼は助手のマヤ・モーリです」
「よろしくお願いします」
学院長は六十歳くらいのおばあちゃん先生で、ふっくらとして穏やかそうである。
「こちらこそよろしくお願いいたします。おや、あなたはこの前パトリシアさんと一緒に魔物と戦ってくださっていた方ですね。その節はありがとうございました。パトリシアさんとの素晴らしい魔法の連携、お見事でした」
「いえ、恐縮です」
「私の弟子ですから当然ですよ。はっはっは」
エリカさんはヘラヘラと天狗になっている。
でもこの人はまじですごい魔法使いだから、魔法についてはバカに出来ない。
魔法だけね、魔法だけ。
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講義は女学院の魔法学科全学年全員で、大講義室にて二時限目三時限目を使って行われる。
実演は昼休憩を挟んでグラウンドにて四時限目に。
実はエリカさんから何も聞かされていないのだが、いったいどんな授業になるのやら。
さて、そろそろ時間だ。
教室に入ると、当たり前だが女の子だらけで圧倒する
広い大講義室には魔法学科の一年生から六年生まで全員、約百二十人ほどの女学生が着席している。
女の子がみんなこちらを向いていてなかなか壮観だ
制服は茶系ブレザーに、膝が見える程度の丈である赤いチェックのスカートで、可愛らしく清楚だ。
ミニスカの生徒はいそうにないから、ぱんつはたぶん見ることが無いだろう。
ん? あれは生徒会長のカタリーナさんじゃないか。
彼女も魔法学科だったんだね。
エリカさんは教壇に立ち、私は少し離れた位置に控える。
「皆さん、初めまして。エリカ・ロハスと言います。今日は特別授業としてこの教壇に立たせて頂きました。よろしくお願いします」
「私は助手のマヤ・モーリです。よろしくお願いします」
――わぁぁぁぁぁ! パチパチパチパチッ
おしとやかな歓声の後、一斉に拍手が沸き起こる。
クラスメイトの容姿レベルは高いが、やはりパティの可愛さは群を抜いている。
「では早速始めましょうか。皆さんはとても優秀な魔法学科の生徒さんですから、学校で習ったことは置いておきます。
今日はなかなか見ることが無い上級魔法や特殊な魔法についてお話と披露をしたいと思います。
私は基本四属性のうち水と風、それから光と闇の魔法ができます。
上級魔法を使うには魔法書で学習することに変わりありませんが、基本的にどの属性でもそれに耐えうる体内の魔力量、魔素吸収能力、精神力、特に頭の中での並行処理能力と経験量のこれら全てを備えていないと、無理して発動をさせようとしたら気を失うどころか死に至る場合もある大変危険なことです。
大気中の魔素を体内で魔力変換する際、つまり身体が魔力を補給している時は……」
という感じで講義が続いてた。
生徒たちは皆熱心に聞いており、カタリーナさんは目をキラキラさせている。
普段アマリアさんからも教えられていたパティは普通に聞いているな。
「……というわけで闇属性の重力魔法グラヴィティの実演をしてみます。闇属性魔法は元々魔族が使っているもので、初めて見る方も多いでしょう。マヤ君、こっちへ来てもらえますか?」
おっと、呆けて聞いていたら呼ばれてしまった。
エリカさんが右手の平を私に向けると…
「うわわわわわっ」
エリカさんの魔法で、私はふわっと教壇から三メートルほど宙に浮いた。
上げ方が適当なので身体のバランスがとれないから、手足をバタバタ動かす。
それを見て生徒達の何人かがクスクスと笑っていた……
「このように、通常では相手に重さをかける魔法ですが、第二章の記述を入れ替えるだけでこのように浮かすことも出来る応用が可能です。さらに、自分自身にかけるとこのように自分も浮かびます。ただ浮かぶだけで移動はできません」
エリカさん自身も背丈ほど浮いた。
皆から歓声があがった。
複数人へ魔法を掛けるのも大変だからだ。
というか、そろそろ下ろして欲しい。
「魔物の襲来があったときに何人かの方は見られたかも知れませんが、ここにいるマヤ君はグラウンドに重力点を一つ作り、魔物にも重力魔法を掛けつつ重力点に集めるという大変高度な魔法を発動させたと聞いて、私もびっくりしました」
浮いたままの私に、生徒たちから羨望の眼差しを向けられる。
いやいやそれほどでも…と、頭を掻いてみる。
やっと下ろしてもらい、引き続き講義が進められる。
結局、講義で私の役目は浮かんだだけだった。
もうね、何なんだと。
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お昼休みになり、私たちも校内で食事をする。
弁当持参の生徒も多いが、数百人が入れる大食堂があってビュッフェ形式で食事が提供され、一度では賄いきれないので学年ごと入れ替えで入場する。
休憩時間は二時間と長く、パティたち六年生に合わせて食事をすることにした。
大食堂へたどり着くまで廊下で「ごきげんよう~」「ごきげんよう~エリカ様」の挨拶の連続で、さすがお嬢様学校だなと思ったけれど、声を掛けられているのは有名人のエリカさんばかりのような気がした。
はい、私はオマケの従者です。
多くの生徒は食事定期券のようなもので入場しているが、一回だけの食事券もあるのでエリカさんと購入して入った。
券が一枚で銅貨三枚って、一食三千円相当なんて学食の値段じゃないよね。
さすがお嬢様学校。
むおぉぉぉぉ!
高級ホテルのビュッフェのようで、これでは三千円でも安いように思う。
サイコロステーキ、キッシュ、ピザ、野菜のテリーヌ、エッグベネディクト、小さめのサンドイッチ、スープ、グリーンサラダ、ポテトサラダ、玉子サラダ、各種カットフルーツ、デザートは小さなケーキ、プリン、ババロアなどざっと見ただけでも目移りするほどたくさんの種類があった。
ここで今欲しいメニューだけを取って、欲張って最初からたくさん取りすぎるとかえって食欲が減退し食べきれなくなるから、お腹の様子を見ながらまた取りに行くのが正しい食べ方だ。
「マヤ様~! エリカ様~!」
向こうでパティが呼んでいる声が聞こえたのでそこへ行くと、ドリルカールのカタリーナさんもいた。
「マヤ様、エリカ様、この席で頂きましょう」
「ははっ 初めまして…… 私、生徒会長をやっておりますカタリーナ・バルラモンと申します。エリカ・ロハス様の講義を受けまして、終始感激いたしましたわ!」
カタリーナさんはエリカさんへやや恥ずかしそうに挨拶をしたが、その後は目がキラキラと推し込むようにしゃべっていた。。
「存じております。彼女のパーティーにいらっしゃってましたね」
「まあ! 偉大な大魔法使い様に覚えて頂けているなんて光栄ですわ! 当日お姿が見えずお話が出来なくて残念でした」
「ああ、ちょっと早めに抜けたからねえ」
ドリルカールお嬢様がエリカさんに夢中だ。
私はオマケと自覚し、食事に専念するとしよう。
うーむ、このテリーヌはとても優しい味だ。気に入ったよ。
歳を取ったらこういうのが美味しいのだ。
この身体は十八歳だけれどね。
「マヤ様、こちらの学食はいかがですか?」
「パティ、ここの食事はすごく美味しいよ。毎日通いたいぐらいだね」
「マヤ様なら先生になれそうですよ。でしたら毎日食事できますね。うふふ」
「パティがもう卒業してしまうから、やっぱり寂しいなあ。」
「まあマヤ様ったら ニコッ」
私は結局カタリーナさんと話す機会が無く、おかわりをしながらパティと他愛ない話をして昼食を終えた。
「カタリーナお嬢様は良く喋るなあ。ちょっと疲れたよ。はっはっは」
「ぐいぐいといっちゃうタイプのようですね」
あのエリカさんがそんなことを言っている。
カタリーナさんのことは嫌いではなさそうだけれど、ちょっと苦手そう。
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さて、午後の実演がグラウンドで始まるので外へ出た。
グラウンドには講義と同じく生徒の百二十人ほどが校舎側へ三日月状に集まり、エリカさんと私が三日月の中で実演を行う。
「まず水属性の氷結魔法の実演を行います。
これは最も基本的な【ウォーターボール】の魔法です。
空気中の水分を断熱膨張の理論に基づいて液体化するのは皆さんも知ってますね。
これをこのまま凍らすのが【フリージング】。ここまでは学校で習う範囲です。
上位になると、空気中の窒素を液体化し固体へと変化させます。
窒素は空気中に約78%も存在しているので魔法の材料として申し分ありませんが、窒素は沸点が-195.8℃、融点が-210℃とと大変低いもので危険を伴いますがそれだけ威力があります」
異世界アニメとか見ていて、聞いたような魔法名がこの世界でも存在してる。
アクアエクスキューションとか、もっと格好いい名前にすれば良いのに。
魔法名を詠唱しないのは、口を塞がれてても魔法が発動出来るから良いね。
「ではゆっくりやってみます。
まず空気中から窒素を分離する魔法…、それから200気圧ほどの高圧を掛ける魔法…、これで窒素の塊ができました。
これが【ナイトロジェンアイス】の魔法です。
これを空気中の酸素でも同じ理屈で可能ですが、爆発しやすいのと酸欠になるのでやめておきましょう。
なお、絶対零度も理論上は可能ですが、冷えすぎてもあまり意味が無いので使う人はほぼいません」
ほぼいないということで、前にエリカさんから聞いた話ではエリカさんの師匠は使えるらしい。すごいな。
生徒たちは歓声をあげながらも真剣に見ている。
「次は風属性の応用魔法の実演です。
【エアーコンプレッションウォール】といって、空気を圧縮して壁を作ります。
これで敵の攻撃からの防御壁になります」
エリカさんが魔法を発動させると空気の流れを感じた。
「ではマヤ君、生徒の方向に向かってパンチキックの連打をしてみて下さい」
おお、初めて助手っぽいことをするぞ。
では、何も無いところへ向かってパンチの連打を……
ズダダダダダダダダダダダダダ!!!!
おお、見えない風船のような反動がある。
左右十メートルくらいの空気の壁が出来ているようだ
「あまり見本にならないわね…… マヤ君、跳び蹴りしてちょうだい」
そんなとしたら吹っ飛ぶよね?
でも教育のためには身体を張ってやろう。
ブォンッ―― スタッ
私は見えない壁に跳び蹴りすると、案の定反動で大きく跳ね返り吹っ飛んだが、なんとかうまく着地できた。
生徒からは歓声と拍手が湧き上がったが、私に対して拍手をしている子はいるんだろうか。
「これは敵が多くて手が回らないときなどに使い、大抵の打撃や一部の魔法も防げます」
これで空気壁魔法の実演は終わりかな。
「よし終わり。解除っと…… あっ しまった」
エリカさんがエアーコンプレッションウォールを解除した途端、圧縮空気が拡散して強風が吹き荒れる。
ブワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
「「「「「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」」」
これは神風の何かだ!
こんなすごい光景を現実に見られるなんて思わなかった!
何と生徒たちのスカートが捲れて、ぱんつの横列がずらーっと並んでいる。
やはり白とピンクが多い。黒や柄物がちらほらだ。
あれはカタリーナさんの白いぱんつ!
だが大人のせくしーぱんつだ。
パティは奥の方なのか見えない。
「きゃー! 殿方に見られてしまいましたわ~!」
「殿方に見られるなんて私初めてで……シクシク」
「責任取って頂かないといけませんわぁ!」
向こうの方でそんな声が聞こえるんだが、ぱんつが見えたぐらいで責任取りたくないよ。
「いやー、皆さんごめんなさい。解除するときに空気の流れを制御する魔法を仕掛けるのを忘れてしまいました。本当にごめんなさい!」
エリカさんは平謝りしているが、生徒たちの視線は私に向けられている。怖い……
これは知らんぷりすべきか……
うーんそういうのも往生際が悪いか。
「あ…… 皆さん、ぱんつを見てしまってごめんなさい!」
「ばばばんつを見てしまって!? マヤ様は正直ですわね。で、でも…… 仕方ありませんわ。事故ですから。誇りあるマカレーナ女学院の生徒がそのようなことで気にしても良くありませんわ。よろしいですわね? 皆様」
「「「「「はい!」」」」」
おお、さすが生徒会長。何とかまとまって収まりそうだ。
皆には謝ったが、内心ではラッキースケベで良い気分である。
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その後、エリカさんは電撃魔法の応用実演をして、無属性系と闇属性系両方の麻痺と眠りの魔法の違いを実演し、また私は実験に利用されてしまった。なんだこれ。
これで午後の魔法実演も終わり、今日の全ての行程が終了した。
帰りに学院長先生に挨拶する。
「エリカ様、マヤ様、今日はありがとうございました。生徒たちはとても喜んでいて私も嬉しいですわ。また機会があればよろしくお願いします」
「喜んで頂いて何よりです。私もやり甲斐がありました」
今日、私が良かったのは食事と神風のぱんつだけだったな。
ぱんつはともかく、また学校へ行ける機会があったら良いな。
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帰りはパティも一緒に三人で馬車に乗って帰った。
「マヤ様、風が吹いたときはニヤニヤしてらして。私のも見てたんですか?」
「いや…… 見てないしパティはどこにいるのか見えなかったし……」
「そ、そうですか。マヤ様は下品な男どもとは違うのを知ってますから、もし見られていてもいいですけれどね」
見られてもいいですと!?
恥ずかしそうにそう言った、パティの大胆発言だった。
でも十二歳の女の子の下着を、いくら偶然でも喜んで見るというわけにはいかんよ。
「マヤ君はぱんつをたまたま見ることだけが好きだからね。はっはっは」
「エリカさん、パティの前でそういうこと言うのはやめてくださいよ……」
「も、勿論わざと下着をお見せすることは出来ませんよ? お見せ出来るのはいつかマヤ様と…… いえ、何でもありませんわ」
「あ、ああ…… うん」
パティは照れながら意味深なことを言いかけた。
いつか、ねえ。
私はずっとこの世界にいるのだろうか。
もっとも、日本の生活には未練が無い。
――その晩、エリカさんの部屋へ呼ばれることはなかった。
そういうわけでカタリーナさんのぱんつを思い出して、ベッドの上で一人悶々(もんもん)した。