第二百五十四話 五百年ぶりの再会
その日の夕食にもアモールは帰ってこなかった。
そう言う日もあるのだろうと、気にしないで皆で夕食を食べる。
ジュリアさんが手伝いパンを焼くようになってから、味が飛躍的に良くなった。
賄い料理にも出され、オフェリアたちにも好評だ。
サキュバスメイドの三人はあれから毎日、深夜になったら私の部屋へ入ってきて私の身体を好き放題に玩んでから去って行く。
彼女らが休みの日だろうが構わず。
そして明るいうちは何事も無かったかのように、機械的ではあるが真面目にお世話をしてくれる。
洗濯物の中にある私のぱんつだって、クンカクンカせずに普通に回収している。
裏ではどうしているのかわからないが……
オフェリアやスヴェトラさんのように和気あいあいと接してくれるわけでもない。
とにかく昼と夜ではスイッチがはっきりと切り替わるのだ。
『ああ…… マヤさんのニオイを嗅ぐと頭がおかしくなっちゃいそう!』
『はひっ お腹の下が熱く疼いてトロけちゃうう!』
『マヤさんの身体で舐めてない場所、もう無いよね。フフフフフッ』
この豹変ぶりである。
耳を両側から舐められるとたまらないよなあ……
って、いやいや。
彼女らも魔法が使えるので、ドアにちょっとした魔法ロックを掛けてもあっさり解除されてしまう。
アモールに頼んで厳重な魔法ロックをしてもらおうと思っても、今度は私が出られなくなる。
毎日三人相手にしてもお陰様でこの身体は耐えられないことは無いのだが、愛が無い行為は豪華な自慰行為に過ぎない。
アモールとじっくりねっとりしていたほうがましである。
まだ三週間は滞在しないといけないので、アモールに相談するしか無いか……
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食事が終わり、パティの部屋で仲良くトークタイム。
彼女との時間を大切にしないと、もし嫌われてしまえば即ちガルシア家とも縁が切れてしまう。
ガルシア家は私がこの世界で生きるためのキーポジションなので、良い付き合いでいたい。
私がガルシア家に対して思うことがあるわけではなく、パティは嫉妬深い。
いや、日本の基準で言えば彼女はとんでもなく寛容だ。
パティが見えないところであれば正式に交際しているエリカさんやビビアナ、ジュリアさん、エルミラさん、マルセリナ様と何をしようが自由なのだから。
モニカちゃんとの付き合いはかなりまずいので、いずれきちんと話す必要がある。
だが今はアモールとサキュバス三人についてだ。
アモールはバリアと認識阻害の魔法を部屋に掛けて近づくことを出来なくしているが、サキュバスたちの場合はこうするようにした。
パティとベッドに並んで座っているときに、そろりと腰を抱く。
当然彼女はとてもいい気分になる。
そこでこっそり闇属性の睡眠魔法を軽く掛けておくのだ。
光属性の力が強いパティは闇属性に鈍感でなかなか気づかないのを利用している。
すぐには眠たくならず、深夜帯のノンレム睡眠を長くしっかり取れるようになる。
パティは快眠でお昼はいつも元気だから良いことずくめ。
悪いのは騙している私なのだ。ごめんよ……
スヴェトラさんとジュリアさんはサキュバスたちについて薄々気づいているようだが、何も言わない。
朝起きたときにスヴェトラさんがお世話をしに来たら、部屋の匂いを嗅いでニヤニヤしている。
ある晩、ジュリアさんがドアの外にいるのを魔力で感知したことがある。
たぶんこっそり聞き耳を立てて、一人で慰めているんだろう。
パティとのトークタイムが終わると、後は寝るだけである。
一度だけその後でビビアナとジュリアさんの部屋へ行ったことがあり、作ったお菓子をご馳走になったりでエッチな展開は無かった。
二人とも両側からベタベタとくっ付いては来たが……
両手に花というのはいいものだ。ぐふふ
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自分の部屋へ戻り、ベッドでごろ寝する。
日が変わる時間までまだあるし、書斎から借りてきた物語の本を読んで眠くなるまでの時間を潰す。
内容は、若いオークの男女恋愛物語……
これ面白いのかな?
――十分ほど読んでみたが、なかなか面白いじゃないか。
幼なじみの元気な女の子に振り回される田舎者の主人公と、街からこの田舎へやってきた女の子が登場する。
街の女の子が恋敵になりそうだな。
でもみんなオークなんだよ……
絵が無いから頭の中では人間に置き換えられそうだ。
恐らくオークの作家が書いたものだろうが、オークにも文才がいるんだな。
夢中になって小一時間ほど読んでいたら、眠気が増してきた。
もう寝るか……
――ギィッ
そこでドアがそろりと開いて、いつもの服装のアモールが入ってきた。
大帝のお城から帰ってきたんだな。
今日はアモールの相手をしなければならないのか……
でも丁度いい。シュウシンのことを聞いてみるか。
私は起き上がり、ベッドに座る。
『こんばんは。今日は私の相手をしてもらわなくちゃね……
毎晩カメリアたちが来てるんでしょう?』
「そうなんですが…… 毎晩のアレはどうにかなりませんか?」
『どうしようもないわね……
サキュバスにとって、男と交わることは空気を吸ったり食べ物を食べることより大事なの。
だけど大抵の男は耐えられなくなるから、私の館には女しかいない』
「なっ!? それを早く言って欲しかった……」
アモールの館に女しかいないのは、そういうことだったのか……
ということは、オフェリアはともかくスヴェトラさんやオレンカさんたちもみんな知ってて言わなかったのか?
なんか意地悪だなあ……
いや待てよ。私が喜ぶとでも思っていたのか?
やたら肉料理が多かったのもそのせいか。
――まさかね。
『ええ? あなたは四、五回も毎晩三人を相手にして何ともないんでしょ?
普通ならサキュバス一人、オーガの男でも二日連続が限界よ。
大したものね…… ふふふ』
『なあああっ!?』
私の精力は、街で見かけた筋肉ムキムキのオーガよりすごいのか……
この身体はどうなっているんだ?
やはりシュウシンと同じく好色の宿命を辿ってしまうのか。
そうだ。アモールに聞いてみなければ。
「アモール様。シュウシンのことはよくご存じですよね?」
『――懐かしい名前ね。それをどこで聞いたの?』
「偶然オフェリアたちに聞きました。
この国の教科書や歴史書にも載ってるそうじゃないですか。
人間族と和平を結んだと聞きましたが、どういう人物なんですか?」
『そう…… 教科書通りよ。
強く、破天荒な男だったけれど、かつて私が愛した人……』
「――私がその人の生まれ変わりだったとしたら?」
アモールはそれを聞いて表情が硬直した。
私が冗談を言っているようには思っていなさそうだ。
やはり心当たりがあるのだろうか。
『――どうしてあなたがシュウシンの生まれ変わりだと言えるの?』
「前にサリ様から聞いたことがあるんですよ。
五百年前に魔族と戦った勇者の生まれ変わりだって。
私はその時の記憶が無いけれど、力は受け継いで今は徐々に解放されている状態だと」
『なんですって!? サリから……
じゃあこの前ベッドの上で、遠い昔にあなたから覚えがある魔力の流れを感じたのは、まさか……』(第二百四十四話参照)
アモールは、今まで見たことも無いほど動揺していた。
シュウシンのことをかつて愛していたと言っていたが、最初は敵同士だった魔女と人間の勇者が恋人!?
どういう経緯でそうなったのか気になる……
『マヤ…… こっちへいらっしゃい。抱かせて欲しい……』
私はベッドから立ち上がり、アモールの元まで近づいた。
アモールは優しく私を抱き寄せる。
スッと浸透するような魔力を感じるのは……
アマリアさんからも感じたことがある、マジックエクスプロレーション!?
この魔法を掛けられたのは久しぶりだけれど、やっぱり中身を覗いて確かめられているのか……
『あああ…… シュウシン…… シュウシンだわ…… ううう……』
アモールの目からボロボロと涙が出ていた。
普段は無表情か嘲笑しかしていないアモールから涙が。
あのアモールが私に抱かれて泣いているのだ。
「あの…… アモール様。私はそんなにシュウシンと似ているんですか?
姿も違うだろうし、記憶も無いのに……」
『この魔力の流れ…… あなたはシュウシンそのものよ。
また会えるなんて…… 夢にも思わなかった…… うううっ
シュウシン…… シュウシン……』
アモールは自分の体重を私に預けるように崩れてしまった。
私はアモールにとって、五百年ぶりに再会出来た恋人。
彼女はどんな思いなのか、前世を含めてたかだか五十年余りしか生きていない私など想像だにしない。
そのままベッドに座ると、私はアモールに押し倒される。
結局そういうふうになるのか。
『愛しているわ、シュウシン……』
トロンとした表情で見つめられる。
ゆっくりと顔が近づき、濃厚なキス。
すごい…… ぐりゅぐりゅしている。
意識が飛んじゃいそうだ。
さっきからシュウシンとしか呼ばれていないけれど、いくら生まれ変わりとはいえ魔力の流れ以外は全く別人なのだから、とても複雑な気分だ。
愛しているのはシュウシンであって、私ではない。
だがアモールにとっては五百年ぶりに会えた恋人なのだ。
今晩くらい、アモールに合わせよう。
アモールに、あっという間に服を脱がされて彼女も裸になる。
前は攻めが多かったアモールだが、今回は受け身が多い。
まるで大好きな彼氏の全てを受け止めるように……
『シュウシン…… ああ…… シュウシン…… 素敵よ……』
初めてアモールを可愛いと思ってしまった。
行為のほうも、サキュバスの三人よりずっと快感を得ることが出来た。
そしてアモールとシュウシンの、愛の時間が終わる……
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ベッドの上でピロートーク。
アモールは私の頭を優しく撫でてくれている。
『ごめんなさい…… あなたはシュウシンでなく、マヤだものね。
でも嬉しいわ…… 何も言わずにシュウシンとして私をを受け止めてくれた。
人間の寿命は短いけれど、あなたが死ぬまで私は全てを捧げる。
いつ召喚してもいい。何でも言ってちょうだい……』
全てを捧げるとは……
シュウシンはどれほどアモールに愛されていたのか。
だが結婚することとは意味が違うようだ。
私が死ぬまでの契約みたいなものだろう。
召喚契約は終えたことだし、いつどこでエリサレスが現れても強い味方が出来たのだ。
『あなたがシュウシンの生まれ変わりとなると、大帝にも会ってもらったほうがいいわね』
「ええ? 大帝に!?」
『大帝とシュウシンはかつて互角に戦い、僅かにシュウシンの拳が速くて勝てたの。
和平の後は戦友、そして親友として仲良くしていた。
あなたと会えば大帝もきっと喜ぶと思うわ……』
大帝か……
どんな姿をしてるのだろう。
大男なのか、それともアニメの設定によくあった幼女なのか。
アスモディア一強いとなると、ネイティシスで一番強いんだよな……
俺、チビッちゃいそう。
『さて、二回戦目をしましょうか。うふふふふふ』
「ひぇぇぇぇ!?」
『五百年ぶりよ。あれだけで終わるわけがないわ』
さすがサキュバスの血を引いているだけのことはある。
やはりアモールは攻めのほうでじっくり私の身体で楽しんだ。
サキュバスたちよりアモールのほうがましと思ったのは訂正した方が良いのかも知れない。




