第二百五十一話 美味しい夕食/メイドの正体
オフェリアの鼻血まみれになった私の顔を部屋の洗面台で洗う。
私は女の子の鼻血で興奮するような性癖は持ち合わせていないが、口に入ってしまった血の味は人間と同じなんだな…… ははは
『ももも申し訳ございませえぇぇん!!』
オフェリアはまた土下座をしている。
まだはっきりとした恋人同士ではないが、仲良くなるのであればこれは良くない。
「オフェリア、顔を上げて。また鼻血を拭いてあげるから」
『そんな! 私にご面倒を掛けてもいけません……』
「面倒じゃないよ。私たちは今日から対等だから、もう土下座は禁止ね」
オフェリアがシュンとして正座をしている間に、また濡れティッシュで鼻血を拭く。
アスモディアはティッシュが無くて粗末な藁半紙みたいな物しかないから、魔法を使わない部分では文化が遅れているのだ。
ティッシュペーパーをたくさん持って来ていて良かったよ。
ちなみにトイレも魔道具化されており、水洗で温水洗浄付きの優れ物。
濡れたところを藁半紙で吸い取ってゴミ箱へ捨てるようになっている。
当然吸水力は良くない。
『ふがふが 私がこんなにダメなのに、マヤ様は本当にお優しいですね……』
「ん? アモール様や他の使用人たちに酷いこと言われてるの?」
『ああっ いえ、そういうわけではないんです。
普段の仕事はちゃんとやっていますから怒られることは滅多にありません。
ただあくまで他人同士の関係で、家族や友人のように接してくれるのはスヴェトラしかいません。
でもマヤ様たちと出会ったばかりなのに皆さんお優しいですから調子狂っちゃって…… えへへ』
「なるほど…… スヴェトラさんとは仲良しなんだね」
『はい。スヴェトラは私より三十歳ほど年上で、お姉さんみたいに面倒見がいいんですよ。
とても強いし、仕事のこともよく教えて貰いました』
ということは、スヴェトラさんは八十歳くらい。
人間の二十歳過ぎにしか見えないから、人間の物差しでは測りきれないな。
いくら彼女にイスパルへ住んでみようという気があっても、オフェリアを人間の国へ連れて行くためにそんな大事な人と引き離して良いのだろうか。
いや、まだ出会ったばかりで仲良くなろうとしているだけだから、それを考えるのは早急過ぎる。
たくさんは会えないけれど、時間を掛けて彼女の気持ちを見守りながら愛を育もう。
「オフェリアにとって、スヴェトラさんはとても大事な人だということがわかったよ。
スヴェトラさんにはさっきお世話になったよとお礼を伝えておいてね」
『わかりました! うふふ』
「もう休むとするよ。夕食の時間になったら起こして欲しい」
『はい。私は夕方で仕事が上がりますから、夜間のご用や明日の朝はカメリアたちの誰かがお世話しに来ると思いますが……』
オフェリアは何か懸念している表情だ。
カメリアさんたちに何かあるのだろうか。
ああ…… それより疲れて眠い。
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『マヤ様。夕食の時間ですから起きて下さい』
「――う ううん……」
私の肩を揺さぶって声を掛けているのはオフェリアだ。
着替えずにシャツとチノパンのまま。
前屈みになったいるものだから、顔よりもおっぱいに目が行ってしまう。
ああ…… 思う存分にぱ◯◯ふをしてみたいものだが、それはいつになるだろうか。
寝られたのは二時間余りだったが、快眠が出来た。
「あー、よく寝たよ。ありがとう」
『それは良かったです。
私はこれで仕事を終えますから、何かありましたらカメリアたち三人に申しつけて下さい。
ああっ 私はこの館に住まわせてもらっているので、マヤ様ならいつでも部屋に……』
とても可愛い表情で照れている。
お部屋に遊びに来て下さいと受け取っても良いのだろうか。
鼻血放出を解決しない限りエッチな展開は当分無理だけれど、隣同士で座って手を繋ぐところからやってみよう。
あわよくば膝枕なんて。ぐふふ
『私もこれから別の部屋で食事なんです。
ビビアナ様たちが美味しそうなものを作ってらしたので楽しみですね!』
「へぇー 私も楽しみになってきた」
オフェリアが退室した後、軽くシャワーを浴びて準備をする。
このまま彼女がいたら鼻血のシャワーを浴びることになりそう。
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そしてダイニングルーム。
アモール、私たちガルシア家ご一行の五人。
部屋の脇にはカメリアさんたち三人が控えており……
おや?
彼女らの隣で、コックコートを着ている二人はオーク?
オークの女の子だ。
豚っぽい顔だけれど、二人ともつぶらな瞳で可愛らしく女とわかる顔立ちだ。
それにしても、アモールの館はなんで使用人が全員女なんだ?
アモールが男嫌いってわけではないし……
『リリヤ、オレンカ。皆さんにご挨拶なさい』
アモールが二人にそう命ずる。
アスモディアは東ヨーロッパ風の名前が多いんだな。
『は…… 初めまして。リリヤです』
『皆様ようこそおいで下さいました…… オレンカです。
この度はビビアナ様とジュリア様に調理のご指導をして頂き、人間族の見たことも無い数々の料理に感服いたしました。
味も香りも豊かで、我々の料理が如何に後進的だったのか恥ずかしく思うほどです。
これから一ヶ月ほどご指導を受けて、至らぬ点があるかと存じますがよろしくお願いします』
二人とも人間目線では顔の区別がよくわからないけれど、大人しい方がリリヤさんで、しっかりしている方がオレンカさんか。
前にセルギウスが、オークは向上心が無いって言っていたけれど、外部からの刺激が無いのであればそうなってしまうのかも知れないな。
「あてしの料理は最高に美味いからニャ。
ビシビシと厳しく教えてやるニャ。ニャッハッハッハ」
「こらビビアナちゃん。失礼だよっ」
ジュリアさんは気が大きくなったビビアナを注意する。
このコンビだとジュリアさんはすっかり抑え役になってしまった。
『とんでもございません。
ビビアナ様は教え方がお上手で、すぐに出来る料理のレパートリーが豊富でそれはもう……
特にお肉の料理はジューシーで、ソースの芳醇な味がたまりません!
ブハーッ ブハーッ』
せっかく可愛いのにここだけ豚みたいになるオレンカさん。
目をキラキラさせながら両手を合わせて頬に当てている。
基本的に食べ物は好きなんだな。
そういえばさっきからカメリアさんたちに私がジロジロ見られているような気がする。
ロクサーナさんだっけ。
彼女はヨダレを垂らしているように見える。
早くご馳走を食べたいのかな。
ファビオラさんなんて餌を目の前にしている犬のように興奮している。
確かに料理は美味しいのだが……
品が無いのでアモールが注意しそうなものなのに、彼女らを気にしないで黙々と食べている。
オフェリアたちに賄い料理があるように、後で食べることは出来るだろう。
『さあ、それくらいにして頂きましょう』
アモールの合図で食事が始まる。
お祈りする習慣は無い。
かつて神とも戦った歴史があるから、神を信仰する理念が無いのだ。
敢えて言うならアスモディアの頂点である大帝だろう。
パティ、ジュリアさん、私はお祈りをする。
耳族も信仰の習慣がないからビビアナもお祈りはしない。
アイミは神そのものだからさっさと食べ始めている。
多様性を理解し受け入れるという大袈裟なものではなく、互いに干渉しないだけの気楽な風潮はネイティシス全般にあるようだ。
ミノタウロスのような一部の例外を除いて。
食卓に並んでいる料理はガルシア家のものとほぼ同じだった。
芋コロッケにアステンポッタのメンチカツ、串焼きはガジラゴのムネ肉で。
ソパデアホというスペイン風のにんにくスープ。
ピーマンや玉ねぎ、きのこを使ったプランチャで、平たく言えば野菜の鉄板焼きを皿に盛ったもの。
そしてマカレーナから持って来た白いライスに、アスモディア産のベリーのワインとジュース!
スタミナ満点で何をしろというのか。
ともかく、とても豪華で食欲がそそるメニューばかりだ。
アモールは相変わらず黙々とすごいスピードで食べて、カメリアさんらはお皿を下げておかわりを持ってくるの繰り返し。
アイミは塩こしょうで味付けしたガジラゴの串焼きが気に入ったようで、バクバク食いまくっている。
パティはいつものようにお行儀悪く食べており、口の周りをベタベタにしながら時々ファビオラさんに口を拭かれている。
若そうなのによく気が利くな。
ああ、魔族だから年齢はずっと上かも知れない……
「このメンチカツ、肉汁がじゅわっと出てきて最高に美味しいですわあ」
ビビアナたちの調理技術もあるが、これは本当に美味しい。
アステンポッタとは一体どんな姿なのか、帰る前に見てみたい。
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皆の食事が進んだところで、オレンカさんとリリヤさんがデザートを持ってやって来た。
ベリーのタルトである。
『ジュリア様に作り方を教えて頂きました。
いつも見慣れているベリーがこんな姿になって、見違えるほど美味しくてビックリです。
さあ皆様どうぞ!』
二、三口で食べられる大きさのタルトが大皿にたくさん並んでいる。
大量に買ってきたベリーがもう無くなっていそうな量だ。
これを見たアイミとパティは子供のように目が星になり、みんな食べてしまいそうな勢いだ。
『おおおお良い香りだのう! 早くよこせ!』
「まああ! いろんなベリーがあって綺麗ですわね! 美味しそう!」
君たちは料理をしっかり食べたのに、まだ食べ足りないのかね。
パティが将来ズドンと太ったら嫌だなあ。
今は胸に栄養がいっているんだろうか。
アモールは無表情だがタルトに熱い視線を送っている。
早く食べたくて仕方がないのだろう。
オレンカさんたちと一緒に料理を作ったビビアナとジュリアさんは、マイペースで楽しくやっている。
ふぅ…… 私はお腹がだいぶん膨れてしまったので一つか二つだけ頂いて、ワインで嗜む。
ワインは、三人の中で一番大人の雰囲気のカメリアさんが入れてくれた。
うーん、美女に入れて貰ったワインは最高に美味い。
柔らかく焼かれたタルトは歯ごたえがとろりとし、甘酸っぱさが口に広がる。
私は日本食に執着しているわけではないので、みんなとこんな豊かな食事が出来るなんて、この世界に来て良かったとつくづく思う。
日本にいた時……
仕事を終えて自宅に帰り、一人部屋でコンビニ弁当を食べて缶ビールで一杯やっていた生活がまるで嘘のようだ。
あれだけあったタルトがすっかり無くなってしまい、食事が終わる。
多くをアイミが食べてしまったが、あいつの胃の中ではデモンズゲートを飼ってるのだろうか。
『美味しかった…… ビビアナ…… ジュリア……
マヤがあなたたちを連れてきて正解だったわね』
ビビアナとジュリアさんはエヘヘと照れている。
笑っても嘲笑や悪い笑いをすることが多いアモールが、優しい微笑みをしていた。
満足してくれたようで何よりである。
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部屋に戻る。
軽く酔ってしまったのでまた眠くなってきた。
魔力回復もまだ十分ではなく程良い疲労感があり、今晩はよく眠れそうだ。
――夜が更けて何時間寝たのだろうか。
あれ…… 分身君がモニョモニョする感覚が……
まさかまたアモールが夜這いに来たのか?
ゆっくり目を開く――
「◎♂※△>♀@$∞℃≠☆*!?」
私はまたも裸にされ、下着姿になっているカメリアさん、ロクサーナさん、ファビオラさんが寄ってたかってベッドの上で私の身体を舐めたり吸ったり匂いを嗅いでいた。
『あらあら起きたのね。うふふふふふふ』
『人間の男…… 最高にいい香りだわぁ~ 魔族の男の比じゃ無い。スーハースーハー』
『私、人間って初めて…… こんなに美味しいなんて…… ペロペロリン』
夕食時の彼女たちの視線、そういうことかあぁぁぁぁ!!
料理を見ていたんじゃなくて、私を見て美味しそうと思っていたんだ!
では正体は…… まさか!?
背中にはコウモリみたいな黒い翼が生えており、頭にはメイド帽で隠れて見えなかった小さな角がある!
翼は服の中へ綺麗に折りたたんでいたのか?
お尻には悪魔みたいな尻尾が生えていた。
「君たちはサキュバス!?」
『そうよ。アモール様もサキュバスの血を受け継いでいるから、その縁で私は二百年ほど前からこの館で働いているの。
その二人は後で私が呼んだ。よろしくね…… ふふふふふ』
カメリアさんが私に覆い被さりながらそう言う。
目の前にある、黒いブラに覆われた白いお餅が美味しそう。
ん? この下着は?
「その下着は私の!」
『あなたからのプレゼントをアモール様から分けて頂いたの。
下着のデザイナーなんですってね。
人間のランジェリーというものはとても美しいわ…… ありがとう』
「ああ…… どういたしまして。ははは……」
アモール向けに持って来た物なので黒と赤しかないが、ファビオラさんだけがレースの赤いランジェリーを着けていた。
サキュバスといえば漫画やコスプレでは黒のイメージがあるが、赤でも最高に雰囲気が出ている。
カメリアさんはレースのエッチなTバック、ロクサーナさんは紐パンだ。
みんな似合いすぎる!
『ランジェリーデザイナーということは、女の身体が大好きということね?
ならば遠慮無くさせてもらうわ』
「え……」
『あああ…… 昨日あなたを初めて見たときからずっと我慢出来なかった……
ハァハァ…… そろそろ始めるわ』
三人は次々と下着を脱いで素っ裸になった。
調整機能があるのか、胸がブラを着けているときより大きくなってる!
催淫効果がある甘い香りがアモールより強い!
これが本家のサキュバスか!!
『ファビオラ、初めて人間を相手にするあなたから始めてみなさい。
美味しすぎてとろけちゃうから。うっふっふっふ』
『いいのカメリア? じゃあ早速……』
『次は私よ! いいでしょ?』
『仕方ないわねえ。いいわ、ロクサーナ』
『ありがとうカメリア!』
こうして私は窓の外が薄明るくなるまで三人にずっぽり吸い取られてしまった。
魔力回復はろくに出来ず……
もしかしてこれ、マカレーナへ帰るまで続くの?
事が終わったら三人はさっさと退出してしまった。
身体は良かったけれど、心は満たされない……
やっぱり愛がある接触がいい……
――明るくなると、カメリアさんが何事も無かったかのように起こしに来た。
私はあのまま素っ裸なのに、何もしないでぱんつまで履かせてくれた。
仕事と夜のオン・オフが違いすぎるよ……
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☆アモールの館にいるオークの調理師
◆リリヤ…大人しい方
◆オレンカ…しっかりしている方
【第七章一部 了】




