第二百四十九話 ミノタウロスへの刑
街に被害を出したくないため、私は戦う力を存分に出せずミノタウロスにダメージを与えることが出来なかったが、グラヴィティを使い時間稼ぎが出来た。
そのおかげでオーガメイドのスヴェトラさんやオーガの警備兵の応援が来てくれた。
だがそれも空しくオーガたちはミノタウロスの闘気で吹き飛ばされてしまう。
このままでは埒があかないのでオフェリアの言葉をヒントに、私は召喚契約したばかりのアモールを呼ぶことにした。
呼んだのは良いが、なんとアモールの近くにいたアイミまで召喚してしまい、私の魔力は八割近く失われた。
そうなってもアモールとアイミがいればもう安心だ。
その後は二人に任せるが、ミノタウロスはアモールに敵意を持っており流星のようなパンチで攻撃した。
そのエネルギーをアイミはステッキ一振りであっさり霧散させてしまうが、ミノタウロスはアイミを煽り怒らせてしまった。
その行く末は如何に?
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『聞けばそいつらはビビアナを握り潰そうとしていたというではないか。
ビビアナがいないと美味い物が食えなくなるから困る』
『そうねえ…… 困るわねえ……』
『そいつらに同じ恐怖を味わってもらおう。いっひっひっひ』
『何をするのかは知らないけれど……
殺すのはやめてね。
あれでも一応うちの国民だから、うちのやり方で刑を受けてもらうわ』
『そうか。まあお仕置きぐらいにしてやる』
アイミとアモールが話しているが、美味しい物が作れるビビアナはその二人にとってとても重要らしい。
行き着くところ、食い物の恨みは恐ろしいというわけか。
アイミはまた悪い顔をして笑い、ミノタウロスは地面にへたり込んでいる。
それでも今のアイミはアモールが言うことに対して物わかりが良い。
前のアーテルシアならば躊躇無く殺してしまうところだ。
『さて、おまえたちには今まで味わったことが無いような面白パフォーマンスをしてやろう』
アイミは魔女っ娘ステッキを八の字に振ると、大きな黒い霧の塊が二つ現れた。
それが形成され、黒くて大きな手が二つ出来上がる。
この巨人の手だけの物体に握られたら、身長三メートルのミノタウロスがすっぽり入ってしまうほどだ。
『それっ やつらを捕まえろ』
二つの大きな黒い手はミノタウロスに向かって飛びかかり、ギュッと掴み取る。
『『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!』』
『おうおう、無様な姿だのう』
あのミノタウロスたちは自分より大きな魔族と相対したことがないだろうから、ある意味とても新鮮な気分になっていることだろう。
ドラゴン以外に巨体の魔族がいるのかどうかは知らないが。
オーガの兵たちやパティ、他の皆もゾッとした様子で黒い手に捕まったミノタウロスを見ていた。
ただ一人、アモールだけは平然と澄ました目で見ている。
恐らく同じような力を持っているのだろう。
『さてこれからどうしてやろうか。ふふふ』
アイミがステッキを一振りすると、ミノタウロスを掴んでゲンコツになっている黒い手はぐるぐるとゆっくり回転を始めた。
『『ぐぇぇぇぇ! おえぇぇぇぇ!』』
死なない程度の回転速度であるが、平たく言えば拷問と同じだ。
国の重鎮であるアモールの前で、公式的な刑を執行をしているということか。
『そろそろ止めなさい』
三分ほど回したところで、アイミはアモールに言われたとおり黒いゲンコツの回転を止めた。
そしてゲンコツからミノタウロスを解放する。
ボテボテっと落ちたミノタウロスたちはさすがにゲロを吐いて苦しんでいた。
『ううう…… オエー』
『ボヘェッ ウオェェ……』
ミノタウロスたちにちょっと同情してしまう。
子供の時、遊園地でコーヒーカップをぐりんぐりん回しすぎたり、ジェットコースターでも気持ち悪くなったからな。
アイミは黙って冷ややかな目でミノタウロスたちを見ていた。
アモールは右手を前に出し、何か魔法を唱えた。
『レジジェンドゥン ポテスターテム クィンタム』
ゲロを吐いた後に立ち上がったミノタウロスは、ガクンとよろめく。
アモールはどんな魔法を掛けたんだ?
『力が五分の一になる古代魔法を掛けた。効力は約半年。
それからおまえたちは今後十年間、この街に入ることは許さぬ。
これでもさっきの回転刑があったから緩めたのだ。
ありがたく思いなさい』
『『うぐ…… ぐぅ…… くそ…… あんまりだ……』』
アモールからミノタウロスたちへ即刻裁判が下された。
五分の一の力でも有り余るパワーのことを思えば生活するには問題無いだろう。
十年間もこの街に入れないのは長い気がするが、魔族の寿命を考慮すればそれほどでも無いのかも知れない。
遠くから何か羽ばたいている音がする。
ブオン ブオン ブオン
音がする方を見ると……
あれはイエロードラゴン!
ここへ到着する前に出会った三頭のドラゴンの内に黄色いドラゴンがいたけれど、彼と同一個体なのだろうか。
ズォーン ドシーン!
イエロードラゴンが私たちの前に着陸した。
正直、人間に近い魔族じゃないと、誰が誰だかさっぱりわからない。
ミノタウロスだって二人とも同じ顔に見える。
『アモール様、お呼びでしょうか?』
『フラブムよ、ご苦労です。
そこにいるミノタウロスの二人を、ミノタウロスの村へ捨ててきなさい』
『承知しました、アモール様』
フラブムといえば、やはり先日出遭った彼のことだ。
いつの間に呼んだのだろうか。
恐らく念話みたいなものを使ったのだろうが……
『『ア…… ア…… あわわわわ……』』
彼は軽く飛び上がると、二本の足それぞれで恐れおののいている二人のミノタウロスを掴んでそのまま飛び去ってしまった。
猛禽類が餌のネズミを捕まえて飛んでいくように。
『『ギエェェェェェェェェ……』』
空高く上がるごとにミノタウロスの叫び声がフェードアウトしていく。
かなりのスピードだったので、飛行機の外に括り付けて飛ぶようなものだ。
これも刑の一貫なんだろうか。
魔族の国アスモディア、恐ろしや……
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ミノタウロスの一件が片付いて、各屋台は徐々に開き始め、人通りも元に戻りつつある。
アモールとアイミはふわふわと飛んでさっさと帰ってしまった。
あれがグラヴィティの進化魔法、グラヴィティムーブメントか。
召喚魔法で呼んだ者は召喚魔法で帰れるんだが、残念ながら私には帰せるだけの魔力が残っていなかったからだ。
アモールは前にあなたならば十分と言っていたので、単体で呼んだら帰せるはずと。
もしアイミと召喚契約をしたらどんなことになるやら。
オフェリアに助けられて一時的に表の通りへ避難していたビビアナが戻ってきた。
可愛いビビアナをミノタウロスからいち早く救い逃がしてくれたオフェリアには、後でちゃんと礼を言っておこう。
「マヤさんには二度も助けられてしまったニャ。ふふふ」
ビビアナは私の右腕に纏わり付いている。
勿論ふにょふにょおっぱいを押しつけられて良い感触だ。
最初にビビアナと出会ったときは、ならず者に乱暴されていた時だったなあ。
あれからずいぶん時が経った気がするが、まだ二年経っていないんだよ。
『やあマヤ様。まさかアモール様を召喚するなんて驚きましたよ。
人間族なのに桁違いの魔力をお持ちなんですね』
「ああいや…… ハッハッハッ
私ではどうしようもなくなって、早々と切り札を使っただけなので……」
頭を掻いて誤魔化す。
私に話しかけてきたのはスヴェトラさん。
顔つきは精悍だが可愛らしさもあるオフェリアと違って、彼女はサラサラボブヘアーだけれどいかにもキリッとした女戦士的な強そうな顔だ。
堂々としていて、おっぱいも堂々と大きい。
どうやって召喚契約したんですかと聞かれたらどうしようかと思った。
『それでは皆様、私は館まで戻りますのでどうぞごゆっくり……』
スヴェトラさんはそう言うと、一気にダッシュして館へ帰っていった。
ああ…… あんなメイド服スカートだから、また黒いぱんつが見えてるし。
「さあこれからどうしようか?
買い物を続けるか、もう帰ろうか……」
「マヤ様、また改めてここへ来ましょう。
皆さんお疲れでしょうし、特にマヤ様はたくさん魔力をお使いになってますから早めに帰っておやすみになったほうが……」
「そうか…… 他のみんなは?」
「滞在期間は長いでスから、わたスもまたにスまス」
「あてしもまた今度でいいニャ。
あの牛野郎に捕まって、今日は気分が冷めたニャ」
『私は…… 何もお役に立てず申し訳ございません……
弱いし、ご迷惑を掛けてばかりで……』
オフェリアは酷く落ち込んでいるようだ。
部屋で出会ったときから感じていたように、自分に自信が無い娘なのだろう。
ここはフォローしておかないと。
「そんなことないよ、オフェリア。
君が急いでビビアナを助けてくれなければ、彼女は地面に叩き付けられていたのかも知れない。
だから本当にありがとう」
「そうだニャ。オフェリアはあてしの命の恩人だニャ」
オフェリアは顔を真っ赤にして照れていた。
みんなも笑顔でオフェリアを称えている。
とても良い雰囲気だ。
『あの…… パトリシア様とビビアナ様をまた抱えて帰るわけにはいきませんから、どうしましょう?』
「それなら心配無用だよ」
オフェリアがそのことを心配していたが、あいつを呼べばいいじゃないか。
この前はパティを乗せて仲良しになったあいつだ。
あいつを呼ぶために使う魔力は少ないので、何十回でも呼べる余裕がある。
みんなまとめてグラヴィティで飛んで帰っても良いけれど、パティの短いブリーツスカートではぱんつが見えそうだ。
「おーい、セルギウスぅ~」
ぼわわわわわああん
『おっ 今度は街中じゃねえか。
なんか美味いものでもご馳走してくれるのか?』
「パティとビビアナを館まで乗せて帰ってくれないか?」
『あ…… ああ…… いいけどよ。おまえの用は運び屋が多いよな。
たまにはこう、敵をバキーンとやっつけてみたいぜ』
セルギウスはやや不満げな表情……
って、馬の表情なんかわからないよ。
確かに戦うことを目的にセルギウスを使った機会は少ない。
使いどころかちょっと難しいというか……
「まさにさっき、ミノタウロスをやっつけたところなんだよ」
『あっ ズルいぞ。どうして俺を呼ばなかったんだ?』
「おまえが暴れるとこの街が滅茶滅茶になるだろ。そういうことだ
帰ったら残ってるリンゴをやるからさあ」
『おまえは俺にリンゴさえ食わしていればいいと思ってるよな』
「まあまあ。私はセルギウスさんの背の上が素晴らしいことがわかってますよ。
その乗り心地がまた味わえるなんて、とても楽しみですわ」
「あてしもすごく楽しみだニャ」
『そ、そうかい。嬢ちゃんたちがそう言うなら……』
セルギウス、チョロいな。
パティのフォローはとても有り難い。
私はグラヴィティでパティとビビアナをセルギウスの背に乗せた。
前がパティで後がビビアナ。
わっ パティはまた直ぱんつで座ってるけれど、肝心な場所に背骨が当たってどうにかなってしまわないだろうか。
ビビアナは後からパティを抱っこして座っている。
「きゃっ ビビアナさんったら……」
「ごめんニャ。ちょっとよろけて掴みやすかったニャ」
ビビアナは少しバランスを崩して、思わずパティの胸を掴んでしまった。
私だってまだちゃんと触ったことないのに、羨ましい。
二人とも私の背に直ぱんつで乗ってもらうのもいいな。
ビビアナだったら脱いでくれるかな。
ああ…… ますます変態思考になっていく。
『では失礼しますね』
「バイバイにゃ~」
『じゃあ私はセルギウスさんに付いていきますね』
セルギウスたちと、オフェリアは先に出発した。
駆け足くらいの速さなら館まで三十分くらいはかかるだろう。
私とジュリアさんは、三つの荷物を浮かべて手を繋いで空を飛んだ。
シューティングゲームで二人プレイしてオプションまで付いている、そんな感じだ。
「マヤさん、私たちもゆっくり帰りましょう。うふふ」
「うん、そうだね」
ジュリアさんは可愛い笑顔になってとても嬉しそう。
私がなかなかジュリアさんとデートする機会を作らないし、彼女は文句も言ってこない。
ジュリアさんの溢れ出る性欲を解消できるように頑張っているからこそなのかも知れないが、性欲の捌け口ばかりでは可哀想だ。
貪欲的にエッチなこと以外はとても健気で素直な娘だから、ずっと大事にしたい。




