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第二百四十八話 苦戦、そして呼ばれてきたのは?

 アスモディアの首都ディアボリの街にある商店街にて。

 その裏にある屋台通りで人間族嫌いのミノタウロス族二人に遭遇し、私たちは因縁を付けられてしまう。

 ビビアナは手掴みで捕まってしまい、オフェリアは押し倒され蹴飛ばされる。

 麻痺の魔法、フリージングインサイドも効かず、魔法耐性が非常に強いミノタウロス族からビビアナを救い出すことが出来るのか。


 周りは見物の魔族すらおらず、屋台もみんないつの間にか畳まれてしまっている。

 そろそろ警備隊が来ても良い頃だが、来る様子が無い。

 だが中途半端な強さの警備隊が来てもミノタウロス族には対抗できないだろうし、ドラゴンが来たら街が消滅してしまう。

 オーガが何十人も来てどうなるかという状況だから、余程稀な大事件なのか。

 それにしたって警備隊が一人もいないのはどうだろう。


 私はビビアナを救うべくミノタウロスの隙を(うかが)う。

 問題は二人いるから迂闊に飛び込めばオフェリアのように簡単に反撃されてしまう。

 しばらくはミノタウロスと睨み合いが続いた。


『さあどうする人間族の男よ。この猫女を取り返してみろ。

 俺たちは紳士だから握り潰すような性分ではないが、いつまでもそのままではどうなるか……』


「うぐっ 痛いニャあ!!」


「紳士なら最初からそんなことするかよ」


 ミノタウロスがビビアナを軽く握りしめる。

 あの距離では回復魔法が届かないし、本当に握り潰されてしまうと取り返しが付かないことになる。

 威力が大きく高速攻撃が出来るライトニングカッターを発動させるため、右手に魔力をため込み準備する。

 狙いはビビアナから遠い肩の下、上腕二頭筋が繋いでいるあたり。

 ミノタウロスはシャツを着ていてもわかる筋肉ダルマみたいな体型だが、同様な体型のムーダーエイプをバラバラに切断できたライトニングカッターであれば大丈夫だろう。


『動かぬのなら叩き付けるか握り潰すか!』


 ミノタウロスが腕を上げた! 今だ!


「でぃえぇぇぇい!!」


 私は強力なライトニングカッターを一発、ミノタウロスの肩の下へ向けて発動させた。

 腕を振り、三日月形状の光の刃が発せられ超高速でミノタウロスに命中する。


『ギャァァァァァァ!!』


 ミノタウロスがビビアナを離し、彼女は地面に落ちていく。

 そこへ私より早くオフェリアがダッシュしてビビアナを受け止め、そのまま先を進んでミノタウロスから遠く離れた。

 何も話していないのに、ナイス連携だ!

 やはりオーガ族は戦闘に長けているのだな。


『人間族がなめた真似をするなああ!!』


 もう一人のミノタウロスが私に向かって猛スピードで突進し、パンチを繰り出す。

 反撃に間に合わず顔面前で腕を組んで防御体勢になったが、私に届く前に目に見えない圧力が私にかかる。


 ズドォォォォォォン!!


「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」


 私はあっさり吹き飛ばされ、道の真ん中に転げ回って倒れた。

 幸い屋台には被害が出ていない。

 大きな空気砲で空気の塊を食らったような……

 風属性の魔法? 

 いや…… 空気の流れがもっと集中している感じがした。

 まさか闘気?

 いろんなアニメのヒーローがよく使っていた技だ。

 私は魔法を覚えるまで闘気を帯びた真空波で戦っていたが、覚えた後は刀と魔法に頼り切った戦闘ばかりをしていた。

 八重桜は折れたままなので持って来ておらず、魔法が効きにくい相手がいるとは想定していなくて苦戦してしまった。

 もう肉弾戦をするしか方法が無いのか。


『ぬううううん!!』


「何いい!?」


 ビビアナを捕まえていたミノタウロスは腕が切り落とされていなかった。

 傷が深かっただけで、回復魔法を使い自分で治療している。

 確かエリカさんはアモールの修行で傷を負わされる度に、闇属性回復魔法のトリートメントで治されていたと聞いた。

 恐らく同じ魔法だろう。

 それにしてもムーダーエイプをバラバラにしたライトニングカッターが、ミノタウロスの皮一枚を切る程度にしかならないなんて!


『ちょいと痛かったぜ。

 まさか魔族に使えない光属性の魔法を使うとはゾッとしたが、どうやらこの程度で済んだようだな。

 ガハハハハハハハハッ!』


 ビビアナは怪我をしないで助かったから良いが、また振り出しに戻ってしまった。

 屋台通りに被害が及ばない範囲で攻撃を仕掛ける方法は限られている。

 人間族が使う程度の魔法では効かない。

 闇属性…… グラヴィティを使ってみるか。

 私自身飛行機等で多用しているので威力は大きくなっている。

 時間稼ぎにしかならないが、やってみる価値はある!


「ならばこれならどうだ!」


 ドウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン


 私は魔力集中するために再び両腕を前に構える。

 どうやらグラヴィティが効いているらしい。


『ごぁぁぁぁぁぁ!! 貴様グラヴィティを!』


『ぬぐぁぁ!! 人間族がこれほどまでに強力な重力魔法を使うとは!』


 ミノタウロスの二人は自分の体重が激増していることに耐えきれず、倒れて地面に押しつけられている。

 今は大体十倍の重さになっているはず。

 あの巨体ならば元の体重は一トン近くあって、グラヴィティが掛かって十トンだ。

 それでも潰れないで耐えているミノタウロスはとんでもない強靱な身体なのか。


「しばらくそうしていてもらうぞ」


 このまま体力が尽きて気絶してくれれば良いが……

 飛行機を浮かせるよりも、このミノタウロス二人を重くする方が正直キツい。

 さらに重くして十五倍にした。

 ミノタウロスはまだ意識がある。


『ふふふ…… グラヴィティは俺も使えるんだよ』


「なんだと!?」


 一人のミノタウロスが地面に顔を押しつけられながらニヤリと笑いそう言った。

 闇属性魔法なら魔族が使えても何ら不思議ではない。

 だがグラヴィティをどうやって?


 デュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン


 ミノタウロスがグラヴィティを掛けたようで、二人がゆっくり起き上がる。

 そうか! 自分で軽くして相殺(そうさい)したということか!

 私は魔法使い同士の戦闘経験が少なかったため、そういうことが出来るとは悔しいことに思いつかなかった。

 次はどうすれば……


『グゥゥ…… 頼みの綱もこれまでだ。

 愚かな人間よ、いい加減キメさせてもらうぞ……』


 ミノタウロスたちは立ち上がり、体勢を立て直した。

 そして何か構えようとしていたその時。


『『うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』』


 オフェリアとアモールの館にいたもう一人のオーガメイドであるスヴェトラさんが、ミノタウロスの一人へ後からダブルキック。

 スヴェトラさんはメイド服のままだったからふわりとスカートが(めく)れ、女子レスリング選手のような強靱な太股と素朴な黒いぱんつが丸見えだ。

 あの太股で絞められたら命は無いだろうな……

 彼女はそれを気にする様子もなく、オフェリアとの見事な連携でミノタウロスを倒した。


 もう一人のミノタウロスへはオーガの男性警備兵が五人飛びかかり、猛烈なパンチやキックをお見舞いしていた。

 五人だけだがようやく警備兵が来てくれたか。

 グラヴィティで時間稼ぎをしたことは無駄ではなかった。


『マヤ様! 大丈夫ですか!』


「ナイスタイミングだったよ。でもいつのまにスヴェトラさんたちが?」


『ビビアナ様を助けて、ミノタウロスからずっと離れて安全な表通りへビビアナ様を置いてきたんですよ。

 そこへスヴェトラと警備兵に鉢合わせたというわけです。

 ミノタウロス族が暴れてると通報は伝わっていたんですが、普通の魔族兵ではミノタウロス族に太刀打ち出来ませんから来てもらっても烏合の衆なんですよね。

 それで少ないオーガ族の兵を集めるのに少し時間が掛かったんです。

 スヴェトラはアモール様が魔力感知して応援に来てくれたんですよ』


「そういうことだったのか。助かったよ…… やれやれ」


『いえ、安心するのはまだ早いです。

 私を簡単に()()けたミノタウロス族ですから……』


 見ると、向こうではミノタウロスの二人が、オーガ兵とスヴェトラさんの三人ずつに分かれて押さえ付けられている。

 だがオーガの巨体でもミノタウロス相手では、プロレスラー相手に中学生が寄りかかっているようにしか見えない。


『『ブモォォォォォォォォォォ!!』』


『『『『『ぐぁぁぁぁぁぁ!!』』』』』


『きゃぁぁぁぁぁぁ!!』


 ミノタウロス二人が力任せにオーガたちを吹き飛ばしてしまった。

 これも闘気……

 なんという豪傑さ。

 まるでどこかの世紀末覇者が目の前に二人いるようだ。

 倒せずともせめて追い払う方法がないものか。


 ん? アモールが魔力感知?

 確かオフェリアはそう言っていた。

 アモールは私やミノタウロスが魔力を高めているのに気づいてスヴェトラさんを派遣してくれたのか。

 ということは概ね事情をわかっているはず……

 最終手段だけれど、せっかく覚えたのだから使ってみるか。


「おーい、アモールさまぁ~ おーい!」


『アモールだあ? ここにいないのに何を言っていやがる!』


『え? アモール様? マヤ様何を??』


 私の前に黒い霧の渦が現れた。

 セルギウスの時と感じが随分違う……

 うわっ 魔力量がすごい勢いで減っていくのがわかる。

 ううう…… 目が回る……


「はぁ…… はぁ…… はぁ……」


『ちょ ちょっとマヤ様大丈夫ですか!?』


 私は気分が悪くなって地に膝と手をついた。

 一気に八割近く魔力を持って行かれたが、契約したときより酷く消耗感がある。

 アモールを呼ぶといつもこんなことになるのか?


「マヤさまぁぁぁぁ!!」


「マヤすぁぁぁぁん!!」


 パティとジュリアさんが私の元へ駆け寄ってきた。

 まだ危ないのに……

 霧がだんだん消えていくと、アモールの姿と……

 あれ? アイミ?

 なんでアイミが一緒に召喚されてしまったの?


『ふぅ…… マヤ……

 あなたなら全力出せばミノタウロスぐらい倒せたろうけれど……

 まあこんな場所じゃやめたほうがいいわね……』


『あーっはっはっはっ 何か知らんか私も召喚されてしまったぞ!』


『書斎にいたら、たまたますぐ近くにいたアイミまで連れて行かれたの。

 契約もしていないのに召喚されてしまうなんて、今まで生きて聞いたことないわ……』


『それだけ私とマヤは親密だからかのう? うっひっひっひ』


「ええ……」


 確かに私とアーテルシアでは何度も親密な関係になっているが、浄化もされているし何らかの力が作用してしまったのか?

 魔力量の異様な減り方も、恐らく強大な力を持った二人を召喚したせい……

 もしかして、アーテルシアとも正式に召喚契約をしたら単体で呼べるのか?


 パティはアイミが言っていることを聞き、不審そうにジト目で私を見つめている。

 普段はアイミの姿にしかなっていないからベッドの関係のことは想像していないと思うが、知られたらまずい。

 それでも浄化したアーテルシアの気が変わらないよう、私は世のために時々そうしているのだ。


『とにかく、事情を説明してもらえるかしら』


 私はミノタウロスと遭遇したときから今までの経緯(いきさつ)を話した。

 そのミノタウロスたちはアモールたちが突然召喚されたことに驚き、固まって唖然としていた。


『ふーん。まあ暴力はいけないわね。

 それにしてもミノタウロス族がこんな所まで出てきてるのは珍しいわね』


『ア…… アモール! 俺たちがどこへ行こうが勝手だろ!

 国の偉いやつが差別をするな!』


『はっ…… 毎度のよう火の気が無い所にわざわざ火種を持ってくるおまえたちが悪い。

 どれだけ皆が迷惑がっているか、誰もわかっていることだが……』


『うるせえっ!!』


 バゴォォォォォォォォォォン!!


「キャァァァァァァ!!」


 ミノタウロスの一人が連続の闘気猛烈パンチを繰り出す。

 まるでナントカ百◯拳とか、ナントカ流◯拳のように。

 いかん! パティとジュリアさんを(かば)わなければ!!


 ブワァァァァァァン……


 ミノタウロスのパンチエネルギーが霧散していった。

 アイミが魔女っ娘ステッキを一振りしただけで……

 やはり神の力は桁が違う。

 よく私はアーテルシアと戦ったものだと自分で感心してしまう。


『何だあの牛男は。腹が減っているから牛鍋にでもしてやろうか。

 おいジュリアよ。今晩の料理はアレで作れ』


「あああああいやその…… あんまり美味(おい)スくなさそうでスが……」


『はぁぁぁぁ まあそうだな。アステンポッタのほうがマシか』


 アイミがとんでもないことを言っていたが、彼女が言うとシャレにならん。

 ミノタウロスを解体するなんて考えたくもない。

 それに硬くて不味そう。


『あ…… あのガキ……

 俺が放った渾身(こんしん)の拳をあっさりかき消した…… 何者だ?』


『聞きたいか? 聞いたら後悔するぞ?

 しょんべんチビるだけでは済まされないぞ。いっひっひっひ』


 アイミはいつもの悪い顔で薄ら笑う。

 近頃言葉も悪くなってきているが、変な本の読み過ぎだろうか。


『ひいぃぃぃ! 気持ち悪いガキだ!』


『はぁ? 牛ごときが、私を気持ち悪いだと? こんな可愛い私をか?』


 余計なことを言うからアイミのスイッチが入ってしまった……

 アイミがミノタウロスたちをギロッと(にら)んだだけでやつらは(おび)える。

 こんなに小さな身体になっていても見えない威圧感がすごいので、ミノタウロスたちはそれを感じ取ってしまったのだろう。

 願わくば肉塊(にっかい)にされないことを祈る。


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