第二百四十五話 新しいグラヴィティ魔法
アモールの館にて、用意してもらった部屋で最初の晩を過ごし朝になる。
トイレへ行こうとしたら中にオーガのメイドであるオフェリアが入っており、私はぶん殴られて吹っ飛んだ。
原因はオフェリアが尿意をもよおし、使用人用のトイレに行かず横着して勝手に私の部屋にあるトイレを使ったことだ。
それで男が苦手なオフェリアは私がトイレのドアを開けると衝動で私の顔面を殴り、ハイパワーパンチで私は吹っ飛び鼻血がダラダラと溢れ出た。
彼女は直ぐさま土下座をして謝ったが、かなり痛かったので正直不愉快だ。
だが回復魔法ですぐ治せたし、これから約一ヶ月この館で滞在するのであればお互い嫌な感じで顔を合わせるのは良くない。
ここは大人の対応で、気持ちよくお世話をしてもらいたいためだ。
と考えつつ、こちらが弱みを握っていればという悪い考えもある。ふふふ
身長二メートル以上の大柄な体格で、クラシックメイド服でわかりにくいが巨乳でエッチな体型なのは間違いないだろう。
裸は見られなくても、パンチラぐらいのラッキースケベイベントに遭わないだろうか。
改めて私はトイレで用を足して歯磨きと顔を洗う。
男性が苦手なオフェリアには後を向いてもらい、パジャマから白のワイシャツに黒のズボンという地味な服装に着替える。
「ところで君はこの部屋で何のお世話をしに来たんだい?」
『あの…… マヤ様を起こしに来たのですが……
もうお目覚めになってらっしゃいましたので……
あとお掃除を……
あっ お洗濯物はございませんか?』
うーん、普通だな。
ラミレス家といい王宮といい、今までが至れり尽くせり過ぎたんだよ。
「じゃあこれをお願いしようかな」
私はさっき脱いだパジャマと下着、それからマカレーナを出発した時に着ていた服や下着をオフェリアさんに渡した。
『はい、承りました……
?? えっ? これ…… はわわわわわわわわ!?』
オフェリアさんの顔はやかんのお湯が沸騰したようにみるみる赤くなっていく。
あ…… そうか。
洗濯する物は黒のビキニぱんつを一番上に乗せて、そのまま渡してしまった。
しかしそこまで男に対する耐性が無いとはどういうことだ?
「ああ…… ごめん。ぱんつが……」
『あわわわわわっ すみません!
ここで働き出してから三十年近く、男性のお客様がお泊まりになったのは初めてなんです…… ドキドキドキ……』
三十年! ああ、魔族の寿命か。
見た目は人間でいうと、二十歳前の背が高いバレーボール選手のように見える。
「失礼だけれど、歳を聞いてもいいかな?」
『私は…… 五十歳です』
「ええ!? そんなふうには見えないけれど……」
『人間族と違ってオーガ族は青年期が長くてだいたい二百歳くらいから老化が始まり、寿命は二百五十から六十歳が平均なんです』
ぐはっ 五十歳って私の中身とほぼ同じじゃないか。
それにしては精神が幼い気がするが、心の成長は緩いのかな。
五十年も生きて男性に対してウブな反応な理由は、魔族全体の寿命が長いことを人間や他の動物、鳥類の寿命に換算すると案外妥当なのかも知れない。
人間の三十歳くらいまでがとても長くて、その後の老化の進行は人間とほぼ同じということか……
若い身体で二百年も生きられると、いろんなことが出来て羨ましい。
オフェリアはさしあたり中高生ぐらいの年齢に相当すると思えば、そういう反応でも納得出来そうだ。
「ありがとう。わかったよ。
君もだんだん成長していくのだから、そろそろ男性にも慣れておいた方がいいのかな。
無理しない範囲でちょっと頑張ってみるのはどうだろう?」
『はい! 頑張ってマヤ様のぱんつを洗ってみます!』
健気な女の子が私のぱんつを洗ってくれるって、照れくさいものだな。
ルナちゃんは慣れすぎなのかクンクン匂いを嗅ぐのが普通になっているので、私自身もそれが当たり前になってしまい麻痺してしまった。
もしかしたら魔族の国って意外に普通の日常生活が送れるのかも知れないな。
――そんなことは無いと後で気づくが、もう遅かった。
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朝食はまた皆で集まって食べるが、今朝は魔族の調理係が用意したようで味が無いパンにバターを着ける、塩を軽く振りかけるだけの野菜サラダ、紅茶っぽいお茶のみ。
出された物はせっかくなので食べるが、不味いと文句をたれるほどではないにしても美味しくない。
これは魔族の中でも公爵に相当する家の食事ではないな。
味の無いパンは前世で東南アジアへ旅行しに行ったときに食べたことがあるが、本当に味が無くてびっくりした。それと同じである。
皆はモソモソと食べているが、アイミは不機嫌そうな顔になっておりジュリアさんは皆の顔色を窺っていた。
「あ…… あの…… スミマセン……
今日は街へ行って食材を見に行きたいのでスが……
魔族のどなたか案内を…… お願い出来ませんか?」
そんな中、ジュリアさんが恐る恐る話しかける。
大人しいジュリアさんがこの場で言うのは、余程魔族の料理事情に耐えかねてのことだろう。
「アモール様。一緒に街へ行ってみたいので私からも」
『そうね…… オフェリア、午後からおまえが案内してあげなさい』
『はい! 承知しました!』
ダイニングルームの脇に控えていたオーガ娘二人のうち、アモールがオフェリアに命令する。
午後からなのはたぶん掃除をしたり私のぱんつを洗わなければいけないからだと思う。
いや、私のぱんつだけじゃなくてみんなの衣類の洗濯もするはず。
昨日いた三人のメイドは、今朝は見かけない。
おやすみなのか交替制なのかわからないが、そうであればアモールの館の労働基準は現代的と言えよう。
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お昼まで時間があるので、今のうちにアモールに例のお土産を渡しておかなければいけない。
そう、アリアドナサルダで用意したおぱんつである。
スーツケース一杯に詰め込んだセクシーおぱんつを飛行機まで取りに行き、アモールが
いる私室へ行く。
エリカさんがまだペンダントの中にいるときに聞いたのだが、アモールは時々大帝がいる城へ赴いたりすること以外で普段は寝室も兼ねているその私室か、書斎の中にある秘密の小部屋のどちらかにいて魔法の研究をしていたり書き物をしていることが多いという。
魔法書の著作で大きな収入を得ているが、数百年過ぎたジェネリック的なアスモディアオリジナルの古い魔法は著作フリーで人間の国へ流れている魔法はそういったものばかりだ。
グラヴィティはエリカさんがアスモディアから魔法書を持ち帰ったもので、古い魔法だからタダみたいなものだがそもそも闇属性魔法だから人間で使える人は殆どいない。
私室ではアモールがデスクで書き物をしていた。
仕事をしているアモールを見るのは初めてで、あのエロいスリットスカートと胸パックリの衣装で仕事をしてる姿は滑稽に見える。
「アモール様。さっき言ったお土産を持って来ました」
『それね。このデスクで開いて見せてちょうだい』
私は言われたとおり、スーツケースを開けて中に入っているぱんつを見せた。
アモールはいつもノーブラなので多くがショーツなのだが、上下セットのものは仕方が無いのでバストサイズに合わせたものを持って来ている。
私のロベルタ・ロサリオブランドの他にアリアドナサルダオリジナルブランドも揃えてきた。
アモールはショーツを二つ、手に取って目の前に掲げている。
赤と黒の、透け透けレースおぱんつだ。
私の特別デザインで、前に女郎蜘蛛の刺繍がしてある。
『まあ…… 素敵。こんなの初めてだわ……
これはマヤがデザインしたの?』
「はい。アモール様をイメージして作ってみました」
アモールはうっとりしながらジッと眺めている。
そんなに気に入ってもらえたのなら作ってみた甲斐があったものだ。
実際に作ったのはアリアドナサルダのおばちゃん職人なのだが。
『次のベッドで、履いてみるわね…… ふふふ……』
「楽しみにしておきます」
まさかアモールの下半身があれほど綺麗でエロいなんて想像していなかったので、私の中にいる悪い性欲神はウッシッシと薄ら笑いをしている。
『もし好みが合わない物があればカメリアたちにあげても良いかしら?
オフェリアたちにはさすがにサイズが合わないが……』
「それはもう、ご自由に」
『そう。あの子たちは人間のランジェリーは初めてだから、何でも気に入ると思うわ』
おお、あの三人はみんな可愛かったから履いてくれると嬉しいぞ。
でも下着姿を見る機会があるのだろうか?
ラッキーパンチラぐらいは拝みたい。
『マヤ、これを渡しておく』
アモールはデスクの横に置いていた本を私に差し出した。
片手で十分持てる厚さで、どうやら魔法書のようだ。
「これは……」
『グラヴィティムーブメントといって、グラヴィティと風属性の魔法を使って移動するより効率が良い魔法だ。
これを使えば空中でもっと機敏に動くことが出来る。
当然風が出ないし静かだ。
新しい魔法だから、帰るまでに勉強していくといい……』
「ありがとうございます!」
私はグラヴィティムーブメントの魔法書を受け取った。
この魔法の理屈なら、翼を使わない空を飛ぶ乗り物が出来るかも知れない。
そうしたら機械の身体をもらいに行く宇宙列車のように空中を飛ぶ列車を作ってみようか。
まだ魔法書を読んでもいないので気が早いが、夢が膨らんでくる。
『ちなみにこの本は買うと高い。
五十万クリ…… イスパルの通貨だと白金貨一枚じゃ足りない。
ああそうだわ……』
クリとはこの国の通貨だ。
何かいやらしく思うのは私だけだろうか。
本一冊で百万円もするなんてとんでもないボッタクリと思うかも知れないが、パソコンソフトでも業務用はそのくらいするのが当たり前なので不思議では無い。
次にアモールはデスクの引き出しをゴソゴソしている。
『このお金で食材を買いなさい。
二十万クリある。人数が多いから一ヶ月分で足りるかどうかわからないが取りあえずそれでやって欲しい……
少しくらいはお小遣いとして使ってもかまわない……
その代わり美味しい物を作りなさい』
「はい、承知しました」
二十万クリも受け取る。
イスパルのように高額でも貨幣でなく、紙幣だ。
一万クリ紙幣が二十枚で、紙幣の肖像画はなんとアモールだった。
地球では歴史上の偉人が紙幣の肖像に使われていることが多いが、今と変わらない顔でその本人が目の前にいるのが不思議でたまらない。
アスモディアの偉人なのか……
高度な印刷魔法で紙に焼き付けて、偽造防止の術も埋め込まれているらしい。
金額は大きいが六人分が一ヶ月と、オフェリアたち使用人にも少しは食べて貰いたいのでギリギリかも知れない。
足りなくなったらまた聞いてみよう。
その場合、何か性的な要求をされそうで怖いが……
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アモールはそのまま仕事を続けるので邪魔しないように早めに退出する。
書斎に行くと、アイミとパティが籠もっていた。
この二人は頭が良いからな……
ああ、魔法書とは限らないか。
アイミの顔を見たらまた子供に似合わない表情でニヤニヤとしている。
公序良俗に反する本がいったいどれだけあるんだ。
パティは真面目に澄ました顔で本を読んでいる。
私は彼女らと離れた席に座り、早速借りたグラヴィティムーブメントの魔法書を開いてみた。
……………… ぁぁ……
凡人中学生が大学レベルの微分方程式の本を読んでいる気分。
これどうするの。
アモールに直接教えてもらうか、ジュリアさんと一緒に勉強するか……
パティは闇属性を持っていないから無理を言えないし、アイミは神通力で空を動けるのでそもそもこの魔法は不要。
ジュリアさんは魔法学について私と同程度か少し良いくらいの学習力なので、やっぱりアモールに教えてもらうしかないか。
まあ、出来るだけやってどうにもならなかったら聞こう。
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昼食はジュリアさんとビビアナが魔族の調理係に教えながら作った物らしい。
何の肉なのかわからない肉団子に、ピストというスペイン風の野菜と豆の煮込み料理、それから食べ慣れているスペイン風オムレツのトルティージャだ。
肉団子は牛肉っぽい味だったので一先ず安心して食べられたし、他はマカレーナでいつも食べているメニューなのでとても美味しかった。
朝は不満顔だったアイミは笑顔でガツガツ食べているし、パティは言うまでもない。
アモールもいつものようにモソモソ上品ながらすごい勢いで食べていた。
調理係はまだ見たことないけれど、どんな魔族だろうか。
食事を終えて小一時間ほど休憩した後、街へ出掛ける。
オフェリアの案内で、ジュリアさんとビビアナ、パティも行きたいと言うので私を含めて五人でぞろぞろと行くことになった。
オフェリアはシャツとチノパンのようなズボンの簡素な格好だ。
ヴェロニカ以上の筋肉質で、おっぱいがすごいデカいっ!
ちょうどショートヘアだし、是非あのスゴイデカイシャツを着て欲しいものだ。
ジュリアさんはブラウスにロングスカート、ビビアナはシャツにショートパンツで可愛らしい。
パティは白いシャツの上にベストとブリーツスカート。
JK制服そのものだが魔族の国の中では派手すぎやしないだろうか。
『野菜の煮込みと玉子の料理、私も頂きました!
人間族はあんな美味しい物をいつも食べているんですね!
羨ましいですぅ』
「それは良かった」
オフェリアは分けてもらった私たちの料理をを食べて上機嫌だった。
私のぱんつは無事に洗えたのかな?
「ここ街までどのくらいの距離なの?」
『だいたい七キロくらいですよ』
「え? そんなにあるんだ。
私やジュリアさんなら空を飛べるからいいけれど、馬車は見当たらないしどうやって移動するの?」
『お二人は空を飛べるんですか! 人間族なのにすごいですね!
じゃあ私はパトリシア様とビビアナ様をお連れします!
マヤ様とジュリア様は付いてきて下さい!』
「えっ?」
「ニャ!?」
オフェリアは二メートルオーバーの巨体でパティとビビアナを一人ずつ片腕で抱え、猛ダッシュで走り去っていった。
ズドドドドドドドドドドドドドドド!!
「きゃああああああああああ!!!!」
「ギニャアアアアアアアアア!!!!」
パティとビビアナは叫んでいるが、あっという間に聞こえなくなる。
こうしちゃいられない。
「ジュリアさん! 私らも急ごう!」
「はい!」
私はジュリアさんを手を取り、風属性の魔法を威力をプラスしてグラヴィティで飛ぶ。
下からジュリアさんのぱんつが見えないかな……
彼女の顔はそういうことを気にしていないのかニヤニヤしているけれど、こうして二人で飛ぶことがなかなか無かったからデート気分だね。




