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第二百四十二話 アモールの館

 魔女の館、玄関前。

 魔女アモールは、連れてきたアイミの正体に薄々勘付いている。

 アイミは魔力をだいぶん抑えているとはいえ、私と同じくらいだが魔力の波形のようなものが違う。

 わかりやすく言えば、富士山の裾野を大きくハサミでカットしたのがアイミで、私は桜島を同じ高さでカットしただけ。

 ドラゴンほどの上級魔族でもわからなかったのに、さすがにアモール相手ではバレてしまうのか。


『その魔女の子供、何者なの?

 潜在能力は私と同じくらい…… いや、それ以上……』


 アモールは今、魔法か何かで一生懸命アイミの中身を探っているのだろう。

 顔から冷や汗が出てきているのがわかる。

 アイミの力のほうが大きいと悟ったのか、アモールから攻撃を仕掛けてこないのは幸いだ。


「あの、アモール様…… 彼女は……」


『いや、マヤは話さなくていい。私から自己紹介してやろう』


 アイミは澄まし顔で一歩前に出る。

 いつも持っている魔女っ子ステッキをブンと振ると、身体が黒い霧に包まれた。

 黒い霧はすぐに消えて、大きな死神の鎌を持ったアーテルシアが現れた。

 姿は戻れど力は抑えたままなのでここにいない他の魔族には気づかれまい。


『その姿は!?』


『私は色欲の神アーテルシア。

 マヤの力とサリによって破滅の神から【転神(てんしん)】したのだ』


『ア…… アーテルシア…… エリサレスの娘!

 マヤと戦ってから行方不明になったかと思っていたが……』


『あの戦いからサリに天界へ連れられしばらく時を経て地上へ戻り、マヤたちと普通に生活をしていた。

 こいつ(マヤ)と一緒にいると面白いことがたくさんあるからなあ。ふっふっふ』


 それを言い終わったとたん、私の身体が勝手に動いてアーテルシアの片腕に抱えられ強制的にぱふ◯ふさせられた。


「おおおおっ むぐぐぐぅ」


 それを見た魔女アモールが「マヤは私の物だ」と言わんばかりにムッとする。

 同じくパティの顔は、般若のように豹変している。

 そういえばアーテルシアは色欲の神になりながらも性欲の権化というほどにはなっていない。

 私とのエッチも月に二度あるかどうかで、一人で行動をしているときも男を性的に貪っている様子も噂も無いようだ。

 何のために色欲の神になったのか本人にもわからないようだからサリ様に聞こうにも、アーテルシアが帰ってきてから以降は忙しいのか天界へうまく念話が繋がらない。


『それでエリサレスはどうした?』


『知らん。天界のどこかでエリカにやられた傷を治しているのだろう。

 それがいつ治るのか、何年かかるのかもわからん。

 いずれまたこの世界を襲ってくるだろうが、母親であっても家族ではないから会うことも無ければ何を考えているのかも私はあずかり知らぬことだ』


 五百何十年前のアーテルシアの生い立ちは私もよく知らないが、エリサレスが子育てをしていた訳ではないようだ。

 いつの頃からか邪神として何百年か生きて、私に出会い私の謎の力で浄化され、天界で何故か色欲の神になってしまったという経緯(いきさつ)だ。


『私自身は今ここで戦ったり破壊行為をする気は無いから安心せい。

 さっきも言ったようにこいつ(マヤ)といたほうが面白いからだ。

 いつかこいつ(マヤ)が歳を取って死ねば……

 いや、今は考える必要無いな』


 などと言いながら私の顔はアーテルシアのおっぱいに押しつけられたままだ。

 術を使っていないのに独特の甘い香りがして脳がとろけそう。


 そうだ。アーテルシアはこの先何百何千年と生きるだろう。

 私が死んだ後はどうするのだろうか。

 また邪神に戻ってしまうのだろうか。


 アーテルシアは私を放し、大鎌を振るうとまた黒い霧に覆われる。

 次は八歳児の姿になったアイミだ。


『これでいいだろう。警戒するやつもそういまい。

 子供の姿の時はアイミの名でやっている。覚えておけ』


『わかったわ…… 何もしないのであればマヤの連れとして迎えよう。

 さあ、みんなも中へお入り』


 こうして私たちは魔女の館へ入ることが出来た。

 それぞれ一人一室部屋を宛がわれたが、ジュリアさんとビビアナは彼女らの希望で二人仲良く同じ部屋に入る。

 魔女の館は主人であるアモールだけのもので、他に住んでいるのは全員使用人らしい。

 さっきいたメイドの女の子三人はエリカさんがいた時からも姿が変わらずずっといるそうで、さすが魔族の不老長寿といったところか。

 ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男はいなかった。残念。


---


 持参した食材と館にある物を使い、早速ジュリアさんとビビアナが館の厨房を借りて腕を振るいパエリアを作ってくれた。

 アモールと皆が館のダイニングルームへ集まり、遅い昼食。


「あの…… お口に合いまスでしょうか……」


 アモールは前にガルシア家で食事をしていた時のように、静々と食べながらも食事のスピードは速い。

 美味しそうな田舎風の鶏肉パエリア……

 だが私たちは肉なんて持って来てないはず。

 微妙に鶏肉っぽいのは何の肉なのかわからず、不安になってくる。


『ええ、美味しいわ。あなたお名前は?』


「ジュリアといいまス……」


『ジュリア…… あなたは闇属性を持っているわね。

 闇属性を持って産まれてくる人間は時々いる……

 遠い先祖に人間と交配できる魔族がいて、それが先祖返りとして現れることがあるの。

 エリカは勿論、マヤ…… あなたもきっとそうね』


 おいおい、それは私も初耳だぞ。

 魔族が先祖? やはり私の今の身体は、地球の人間の身体ではないのか?

 矛盾しており、訳がわからん……

 だがジュリアさんが闇属性を持っている理由がわかった。


「えっ!? そうなんでスか? 初めて知りました……

 元々持っていなかったんでスが、マヤさんにフルリカバリーをかけてもらったときから闇属性があることがわかったんでス」


『マヤの力の影響で、潜在的なものが引き出されたのでしょう。

 マヤ自身もサリの力で、強い力に目覚めているのだから。

 だがイスパルで魂だけ転移しただけの時と違って、こうして直接会ってみるとマヤの力を鮮明に感じる……

 もっと詳しく知りたいわ…… ふふふ……』


 アモールが微笑むと、背筋がヒュッと凍り付く。

 何かありそうだと覚悟はしてきたけれど、避けられそうにないな……

 拷問じゃなさそうだからいいけれど…… って、いいのか?


 私の祖先も魔族とアモールは話してしまったが、パティを始め周りの子たちは私が何でも有りだからいいやという風潮すら出てきている。

 特にパティやアイミは食欲を満たすことに一生懸命で、聞いてすらいない。

 そのアイミだが、突然アモールにむかって口を開く。


『おい魔女よモグモグ…… おまえの館にも図書室ぐらいあるだろう?

 何か面白いものを見せてくれモグモグ……』


『私の書斎だ。いいけれど…… 禁書を読みたいなら無いわよ』


『どこにあるのだ?』


『教えない…… 探そうとしたらエリカがおまえの母を退治した禁呪を使うよ』


『ちっ まあいい。書斎の本は勝手に読ませてもらうぞモグモグ……』


『好きにしなさい……』


 アモールをおまえ呼ばわりするアイミもすごいが、一応神だからな。

 禁書はどこかにあるんだ……

 アイミが面白半分に使うと面倒くさいことになるからなあ。

 禁呪を使うと脅しているくらいだから、よほど危険なものだと察する。



(エリカ視点)


 ひいぃぃぃ……

 お師匠様の大きな書斎には小部屋が隅っこにあって、そこに禁書があるんだよぉぉぉ。(第百七十四話参照)

 その部屋は今、魔法で私がいた時以上に厳重なロックがされているはずだから、アイミとて絶対に開かないようになっているはず。

 ロックが緩いときに私が開けて禁書を読んだら、裸で玄関前に吊されたからなあ。

 普段はお師匠様も書斎にいることが多いからアイミを入れることに許可をしたんだろうけれど、なるべく入り浸りさせないようにマヤ君にはよく言っておかなくっちゃ。


---


(マヤ視点)


 食事が終わり、暇を持て余しそうだ。

 アイミは早速書斎へ行ってしまったが、アモールも一緒にいるので大丈夫だろう。

 ジュリアさんとビビアナは飛行機に残っていた食材を降ろし、厨房へ持って行った。

 今晩の食事も彼女らが作ると張り切っており、料理に関してはアモールの機嫌が良くなるので二人に頑張って貰おう。


 私とパティは玄関横に駐機してある飛行機からリンゴを降ろす。

 そう。セルギウスを呼んでお土産を食わすためだ。

 早速召喚してみることにしよう。


「おーい、セルギウスうぅ~」


 ぼわわわわ~ん


 白いユニコーンの姿が白い煙に巻かれて現れた。

 イスパルで呼ぶより使用魔力が随分軽い感じだ。

 呼んでくる先からの距離が関係あるのだろうか。


『おー 何か久しぶりだからびっくりしたぜ。

 おおっ!? ここはアモール様の館じゃねえか!

 するってえとマヤ! おまえはアスモディアへ来たってことか!』


「そうだ。久しぶりだなセルギウス」


「ご無沙汰してますセルギウスさん。うふふ」


「おお、嬢ちゃんも一緒か。いい女に成長したな!」


「いい女だなんてそんなあ~ ふふふふふふ」


 パティは馬に褒められて両手に頬を当てて腰をくねらせている。

 セルギウスを呼んだのは王都から馬車旅でマカレーナへ帰った時以来だ。

 もう随分経っているから、エリカさんが死んだことも知らないはず。


『おいセルギウス! 相変わらずやってるな!』


『お? え? エリカの声がマヤのほうから聞こえるが、どこにいるんだ?』


『ここだ。マヤ君の胸に架かってる』


『まさか…… そのペンダントか! 身体はどうしたんだ!?』


『あー…… 死んじゃった。あはは』


『死んじゃったっておい!!』


 エリカさんは、死んじゃったってえらく軽く言うからセルギウスは困惑してる。

 私が代わりに経緯(いきさつ)をセルギウスに話しておく。


『なるほどそういうことか。それでアスモディアへ来たってわけだな。

 おまえに似合わず無茶しやがって……』


『だってえ。マヤ君が死んだほうが嫌だし』


『そりゃお熱いことで。で、俺を呼んだのは何か用があるのか?』


「用って程じゃ無いけれど、お土産を持って来たんだよ。リンゴやニンジンを」


『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! そうかそうか!!

 ありがとなマヤ!! 心の友よおお!! ヒヒヒヒーーーーン!!』


 セルギウスは前脚を挙げて喜んでくれている。

 どこかのガキ大将が言う言葉を前にも言っていたが、軽々しく言うものじゃない。

 まあ、セルギウスならいいか。

 彼がいなければ無事にマカレーナへ帰ることが出来なかっただろう。


『むしゃむしゃむしゃ…… うめええええええ!!

 やっぱり人間の国の果物は最高だな!

 どうしてずっと呼んでくれなかったんだ?』


『深い意味は無いけれど、忙しかったというか……

 用が無かったというか……

 ほら。さっき話した空飛ぶ乗り物を作ってもらっててテストをしたり大変だったんだよ』


『おー、あれか。おまえもいろいろあったんだな。

 でもつれねえよな。ちょっと呼んでくれるだけで良かったんだ』


『ああ…… うん。それで今食ってるリンゴの芯に種があるだろう。

 それを集めてリンゴの木を育てるんだよ』


 実はセルギウスのことをほぼ忘れていた。

 ミカンちゃんのこともあったし。

 リンゴの種の話にすり替え誤魔化す。


『で、実がなるまで何年かかるんだ?』


『四、五年。たくさん実がなるまで十年ってとこだな』


『十年…… トホホ。いくら俺の寿命が長くても待ちきれないぞ』


『まあ植えるだけ植えておくよ。

 この館の庭とか土壌は良さそうだし、他にどこか良いところがあれば……』


 土地だけあってもしょうがないので、まず面倒を見てくれる魔族を探すのが先だ。

 あのメイドの子たちはやってくれるのだろうか?

 野菜はアスモディアでも作っているので、どこか農園に委託したほうが良いか。

 それには街へ出て市場へ行ってみたいな。

 怖い物見たさもあるが、楽しみになってきた。


『マヤ……』


 アモールが玄関前に出てきて、私の名を呼ぶ。

 何事だろうか?


『ああ…… セルギウスが来ていたのね……

 マヤとエリカ。話があるから中へいらっしゃい。

 ちょっと準備していたことがあってね……

 おまえたちがここまで来た目的のことよ』


『お師匠様……』


「わかりました。じゃあ行ってくるから。パティ、セルギウス、ごゆっくり」


『お、おう……』


「ああ…… マヤ様……」


 本当にエリカさんの身体が何とかなるのか?

 一体どのようにして?

 禁呪を使ってエリカさんの身体は霧のように消えてしまったから、遺体も何も残っていないのに身体は復活させることなんて出来ない。

 ロボットみたいな身体に魂だけ植え付けたりして。

 ――それじゃエッチなことが出来ないからエリカさんのほうががっかりしそう。

 いや、大事なところはオ◯ホみたいに似せて作るのかも知れない。

 うーん…… それもどうかな。


 (たたず)むパティとセルギウスを庭に残し、私は魔女アモールに付いていく。

 アモールのお尻……

 スカートぴっちぴちでヒップラインがはっきりわかるな。むふふ


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