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第二百三十九話 スオウミのお菓子がいっぱい

お菓子はフィンランドの物を模してます。

 目を開くと、コクピットの窓が明るくなっている。

 どうやら朝まで熟睡してしまったようだ。

 身体を動かそうとしたら…… 痛たた。

 やっぱり操縦席で寝るのは少々無理があったようだ。

 そう思うとアイミはよくこんなところでケロッと寝られたな。

 さて、皆は起きているだろうか。

 客室へ行ってみた。


「おはようみんな」


「おはようございます、マヤ様。あの……」


「なんだい?」


「外に人が何人もいらっしゃるんです。見た目通りスオウミの人々でしょうが……」


「ええ?」


 客席の窓から外を見てみると、確かに…… ザッとみて五人?

 コクピットの窓からは死角になって見えなかった。

 みんなマルセリナ様のようにスオウミ人の特徴である銀髪だ。

 このまま飛んでしまってやり過ごすのもいいが、もし尾翼に描いてある王家の紋章を知っている人がいたらイスパル王国にとって体裁(ていさい)が悪い。


「パティ、降りて話をしてみようか」


「はい。私、スオウミ語を少し話せますから」


「えっ? そうなの?」


「最近マルセリナ様から教わったんですよ。

 マルセリナ様は赤ちゃんの時からイスパル王国にいらっしゃって子供の時はスオウミ語を話せませんでしたが、何年か前に母国の言葉も勉強されてたんです。

 いつか帰ることがあった時のために……

 今はその気が無いようですよ。うふふ」


「なんだあ。びっくりした」


 スオウミへ帰るなんて私と結婚せずにさよならするのかとビクッとしたが、そんなことはなかった。

 それにしてもパティがスオウミ語を勉強していたとは、知らなかった。

 大聖堂へはよく通っていたからその時だろうけれど、最近になって勉強してもう話せるようになったなんて、さすが飛び級才女だ。


「みんな。外にいる人たちと話をしてくるからちょっと待っていてよ」


『ああ? 早くしろよー 腹が減った』


 アイミは姿が八歳や十二歳相当の子供になっていると、五百何十歳のくせに精神まで以前より子供になってきている気がする。

 まあ、最低限の仕事と自分がやりたいことしかやらないからそんなものか。

 私とパティは乗降ドアを開け、機内から降りた。


---


 飛行機の周りに、スオウミ人が五人……

 男が三人、女が二人。

 いや、小さな女の子が一人いるから六人だ。

 みんな色白の肌で銀髪。

 気のせいかみんなイケメンか美女に見える。


『あの…… おはようございます。

 私たちはイスパル王国からこちらへ休憩のためにお邪魔しております』


『ああっ あんた! スオウミの言葉を話せるのか?

 この大きな鉄の乗り物に外国の紋章が描いてあるから……

 そうか。イスパル王国だったのか』


 返事をしたのは三十歳くらいの男だ。

 挨拶をしているんだろうが何を言ってるのか全然わからない。

 私はサリ様の力でイスパル語が最初からわかるようにはなっていたが、アーテルシアやエリサレスもいきなりイスパル語を話していたのが解せない。

 ブロイゼン国のオイゲンさんたち、エトワール国のエレオノールさん、それからアスモディアのアモールもイスパル語を話しているが、若干(なまり)りがあるので本当にイスパル語を話しているようだ。


 パティは男と話してこちらのことをいろいろ説明している感じだ。

 何かあったらいけないと思って私はパティの側に立っているだけだが、彼らは特に敵意が無いようだ。

 パティの可愛らしく身なりが良い容姿のおかげもあるかも知れない。

 湖の畔に漁船っぽい小舟が三(そう)

 ゆうべは薄暗くなって気づかなかった。


 パティが一旦話を終えて私に説明をしてくれた。

 この人たちは朝になって湖で漁をしようとしたらこの飛行機を見つけて、家族も呼んで見に来たらしい。

 すぐ近くに三件だけの集落があり、今ここにいるのは夫婦が二組にその代表でしゃべっていた男の娘が一人、嫁を家に置いてきた旦那が一人。

 あの小舟で漁をするんだな。

 集落は森に隠れて見えなかったのか……


「パティ。驚かせてしまったお詫びに、ジュリアさんが作って持って来てくれたお菓子をあげようと思うんだけれど、いいかな?」


「んー、そうですね。仕方が無いですわ」


 きっとパティが後で食べようと思っていた物だから、残念そうな顔をしていた。

 イスパルのお菓子ならここでは珍しいだろうから、きっと喜ばれるだろう。


「じゃあジュリアさんに言ってもらってくるから」


 私は機内へ戻り、待機しているジュリアさんに頼んでお菓子を用意してもらった。

 チュロスと、ビスコッチョというカステラ、ポルボロンという口溶けほろほろのクッキーである。

 するとアイミとビビアナが私に文句を言う。


『おい! 私のおやつをどうするんだ! あいつらにあげるのか?』


「えーっ もったいないニャ!」


「アスモディアに着いたらまたジュリアさんに作ってもらえばいいだろ。

 ここを穏便に済ますために我慢してくれ」


 二人ともふてくされているが、渋々引き下がってくれた。

 アイミはどうしようもないが、ビビアナまで食い意地が張ってるなんてなあ。

 確かにジュリアさんが作ったお菓子はすごく美味しいが。

 飛行機から降りて、パティにこれを皆さんに差し上げると言ってもらう。


『皆さん。お詫びと言っては何ですが、イスパルのお菓子はいかがでしょう?

 とても美味しいですよ』


『そうですか…… どれ、味見を……』


 私ははお菓子てんこ盛りのトレーを差し出すと、最初に話しかけた男がポルボロンを試食をする。


『おおっ こんなに美味しいお菓子を食べたのは初めてだ!

 トゥーラ! アウリ! みんな! 食べてみろ!』


 他の五人がぞろぞろ集まってきて次々にお菓子を食べ始める。

 みんな透き通るような白い肌で美男美女なのは、世の中の不公平さを感じてしまう。

 八歳か九歳くらいの娘さんが美少女過ぎて(まぶ)しい。


『あら本当ね。このお菓子、口の中でとろけるわ』


『パパ、ママ! 美味しいよ!

 ありがとう! お兄ちゃん、お姉ちゃん!

 珍しい南の国のお菓子が食べられてすごく嬉しい!』


 何を言っているのかわからないけれど、みんな口々に喜んでいるような言葉のように聞こえる。

 パティがニコニコ笑顔になってるから実際そうなのだろう。


「マヤ様、皆さんとても喜んでらっしゃいますわ。

 最初は警備隊に通報しようか迷っていたらしいのですが、駐在所まで遠くて面倒だし、こんな美味しい物を食べさせてくれるし、私のことすごく可愛いんですって。

 絶対悪い人じゃ無いだろうからその必要無いねとおっしゃってますよ。うふふふふ」


「そっかあ。それは良かった」


 お菓子の山はトレーごと美人奥さんに差し上げた。

 天使の顔をした悪いやつってたくさんいるからそれで信用されてしまうのは返って心配してしまうけれど、こういう人が少ない場所柄、純粋で適当な人たちなんだろうなあ。


『こんな美味しい物は後でゆっくり食べましょ。

 そうそう。代わりに昨日私が作ったアレをこの方たちに食べてもらいましょうか』


『おお。そうしてあげるといい』


『そうだね! ママが作ったルーネベリタルトは世界一美味しいからね!』


 奥さんだけお菓子を持って集落がある方向へ帰って行った。

 パティは皆と楽しそうに話しているけれど、言葉がわからない私だけ待ちぼうけ。

 危害を加える心配は無さそうだし、先に機内へ戻ってしまおうかと思っていた時に奥さんが戻ってきた。

 トレーごと渡したお菓子の代わりに、別のお菓子がたくさん載っている。


『パトリシアさん、これ良かったら皆さんでどうぞ。

 スオウミ国の伝統のお菓子でこれはルーネベリタルト。

 それからこのクリームのパンはさっき作ったばかりのラスキアイスップラ。

 このぐにゃぐにゃとしたのはティッパレイパ。

 あと少しですけれど、シナモンロールもありますよ』


『わああ! こんなに頂いていいんですか!?』


『勿論です。イスパルの方のお口に合うといいんですけれど……』


 パティの目から星が一杯出てくるかのようにキラキラし始めた。

 どれどれ。美味しそうだな…… ごくり

 このぐにょぐにょな脳みそか白子っぽいのもお菓子なのか?

 日本で一時流行っていたマリトッツォのようなパンもある。

 この奥さんも相当にお菓子作りが好きなんだな。


 パティから説明を受けると、カヌレっぽい形のクッキーはルーネベリタルトといって、クッキーをベースに白いアイシングの上にはラズベリージャムが載っている。

 マリトッツォみたいなパンはラスキアイスップラで、恐ろしく大量の生クリームがパンで上下からサンドされている。

 脳みそみたいなお菓子はティッパレイパで、これが一番気になったから最初に食べてみたらドーナツみたいな素朴な味だった。

 シナモンロールは言うまでも無いか。

 これをあいつらに見せたら喜ぶぞ。


「パティ。アイミたちを呼んでくるよ」


「はい、わかりました!」


 私は急いで機内へ戻り、アイミたち三人を呼んでくる。

 シートで退屈そうにごろ寝しているアイミと丸まって完全に寝ているビビアナを起こし、荷物の整理をしていたジュリアさんと三人を連れ出した。


『ああ? なんだあ? 早く朝飯食わせろよな』


「うニャあ……」


「ビビアナちゃん起きて! 美味しい物を食べさせてくれるそうよ!」


 アイミは気怠(けだる)そうに歩き、ビビアナは目を擦りながらジュリアさんに手を繋がれて歩いている。

 パティが、ゆうべ作っておいた硬い土のテーブルにお菓子を用意してくれていた。


『いつの間にこのテーブルが。これはあんたが作ったのか?』


『ええ。ごめんなさい、魔法で勝手にこんなものを作って……』


『いや、いいんだ。すごいな…… 魔法が使えるのか。

 後でこれを私たちが使ってもいいのか?』


『それはかまいませんが、硬く作ってあっても土ですから雨が降るとだんだん崩れていってしまうんです……』


『そうか…… それは残念だ。

 他に魔法は…… もしかして身体の病気を治せることも出来るのか?』


『はい。全てではありませんが、よくある病気なら大丈夫だと思います』


『おお! そうなのか! おいサロモン!

 おまえのかみさんの病気をパトリシアさんが治せるかも知れないぞ!』


『何だって!? それは本当か!?』


 パティとスオウミの人たちで何か話が進んでいるようだが、とりあえず美味しそうなお菓子を朝食代わりに食べさせてもらうことにしよう。

 やはりボリューム感あるナントカアイスップラにしよう。


『おおおおおおおお!! なんだこのお菓子の山は!? 食っていいのか?』


「ああ。でも全部食うなよ」


 アイミは舌をペロリと出しながら、某お菓子メーカーの女の子キャラか、ギャク漫画の食いしん坊少女のような顔をして私に尋ねてくる。

 面白すぎだろ。


「うニャー!! 見たことも無いお菓子がいっぱいだニャ!」


「心して食えよ。二度と巡り会うことが無いかも知れないからな」


 ちなみにビビアナは料理を作ることは得意だが、何故かお菓子はあまり作らない。

 今度チビにゃんたちに何か作ってやれよ。


「素敵でス…… まさかスオウミのお菓子が食べられるなんて。

 これはどういうふうに作るのかスら。わたスにも作れるかな?」


 ジュリアさんは脳みその形をしたティッパレイパを手にしていたが、似たような物なら沖縄のサーターアンダギーを作ってくれてもいいぞ。

 やはり見た目が一番美味しそうなナントカアイスというクリームパンをみんなが手にした。

 アイミとビビアナは口の周りをクリームでベタベタにしながら美味しそうに食べている。

 私も食べてみたが、おお……

 クリームの中にこぼれそうなくらいビルベリーのジャムがたっぷり。(※フィンランドのベリーはビルベリー)

 ああ、パティの分も取っておかないと、アイミの勢いではみんな食われてしまう。

 そのパティはスオウミの人たちと深刻な話をしている。

 なんだなんだ? 新たな問題が出てきたのか?


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