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第二百三十四話 魔族の国へ行く人選

 女王へのお務めが済んで部屋へ戻ると、アイミは変わらず爆睡中。

 間もなく日が変わろうとしているが、夕方前からよくもまあこんなにぐっすり寝られるとは羨ましい。

 起きてるときはうるさいが、寝顔はとても可愛く見える。

 ――ああ

 寝るか。


---


 うあああ…… く、苦しい。

 身体が大蛇に巻き付かれている……

 顔をチロチロと舐めるなあ!

 あっ 下半身が急に締め付けられる感覚がっ

 ううっ 何故か抜けたような、喪失感がある気持ちよさを感じた……


 ――ああ 夢か。

 何だか腰の上が重いんだが。

 目をゆっくり開くと、透き通るような白い肌を露わにした女が私の腰に乗っていた。


「アーテルシアか……」


『やっと目が覚めたか。寝ていてもここは元気なのにな』


 その分身君がアーテルシアの中に隠れていた。

 夢で蛇だと思っていたのは、アーテルシアが元の姿に戻って私が寝ている間に好き放題していたというわけか。

 パジャマは脱がされて裸になっている。

 脱がされるのに気づかないほど私も爆睡していたのか?


『ふぅ…… 楽しませてもらったぞ』


「ナニ?」


 一人で散々楽しんでおいて、私が起きた途端もう終わりかい!

 アーテルシアに隠れていた分身君がヌルポンと登場し、彼女は可愛い魔女っ子ステッキを使ってさっさと神力(じんりき)で十二歳の魔女っ子コスチュームに戻ってしまった。

 久しぶりだからもっと楽しみたかったのに……


 コンコン「おはようございまあす! あっ アイミちゃんおはよう!」


『うむ。おはようさん』


 こいつ一応女神のクセしておっさんかよ。

 それにしても、モニカちゃんがもう部屋に来てしまうとは。

 ああ、こんな時間か……

 アーテルシアが早めに元の姿に戻ってくれて助かった……


「あれれ? なんでマヤ様は裸なんですか?

 はっ!? まさかアイミちゃんを…… あわわわわわ」


「あいや、これは……」


『マヤが勝手に脱いでいるだけで、私は夜中に外へ出掛けていたからな。

 マヤと同じように空を飛ぶことが出来る。

 夜の空を散歩するのもなかなかいいぞ』


「そうだったんだー でもアイミちゃん、男の人の裸を見ても動じないんだね」


『パパやお兄ちゃんの裸を見るのと同じようなものだろう。そういうことだ』


「へー マヤ様のことを家族みたいに思ってるんだね。そういうのもいいなあ」


 何だかよくわからないが、アイミが上手いこと取り繕ってくれた。

 アイミのことだからストレートに言うものとばかり思っていたが、私を(かば)ってくれるとは善神の自覚が芽生えてきているのだろうか。


---


 滞在二日目の今日は女王とガルシア侯爵との公式会談が行われた。

 フェルナンドさんは当然ガルシア侯爵に付き、アマリアさんは強力な魔法使いなので護衛を付けずに、王宮の給仕係を付き人として付けてもらって馬車で街へお買い物。

 パティとカタリーナさんも昨日に続いて街へ繰り出す。

 ヴェロニカとエルミラさんの脳筋コンビは朝から真面目に兵士訓練所で訓練を。

 アイミは一人で外へ適当に出掛けたり、王宮図書館で籠もったり。

 私はエスカランテ家へお邪魔してミカンちゃんをいっぱい可愛がり、それぞれ思い思いに王都での一日を過ごした。


 レイナちゃんたちやリーナ、エレオノールさんにはしばらく会えてないので久しぶりに会ってみたいところだが、今回は滞在が三日間だけなので控えておく。

 今はシルビアさんとミカンちゃんとの時間を大事にしたい。


---


 滞在三日目。午前中にはマカレーナへ帰ってしまう。

 元々ガルシア侯爵の都合優先のマドリガルタ行きだからだ。

 馬車を使うならば往復で一ヶ月近くは掛かるのでおいそれと領主の仕事を空けるわけにはいかないが、三日間であればさほど影響が無い。

 ガルシア侯爵は普段から忙しい人なのだ。


 カタリーナさんは王子に告白され、興味本位で王都マドリガルタへ行ったことで思わぬ課題が出来てしまった。

 帰ってからご両親にどうやって話すのだろう。


 ヴェロニカもマカレーナへ帰る。

 言うまでもなくヴェロニカがエルミラさんと一緒にいたい理由からである。

 また三人でエッチなことが出来るのかと妄想が(はかど)ってしまう。


 この親にしてこの子ありでアマリアさんとパティはたくさんの買い物をしており、荷物室に入りきらず客室後部にも荷物を押し込んだ。

 ちょっとした家具や食器まであるからかさばってしまい、グラヴィティでするすると機内へ入れることが出来るが効率よく積むのに出発時間ギリギリまでかかってしまった。


 帰りの飛行機操縦は全てアイミにやらせた。

 テスト飛行で何度も操縦してもらっているので問題無く、神様だけあって私より豊富な魔力量で安定し、且つ高速で飛べているのは何とも悔しい。

 交替で操縦士の仕事もやってみないかと尋ねたら……


『マカレーナでやってる道路を整備する仕事は悪いことをした詫びとしてやっているが、それ以上拘束されるような仕事はお断りだ。

 そもそも私は神だ。人間に使われるようなことはしたくない。

 何百年も自由奔放に生きてきた私が考えを改めてこれだけ譲歩をしているのだ。

 面白いと思ったことはやるが、面倒なことはやらん』


 だそうだ。

 人間を超越した神という存在。

 神から見た人間は、人間から見た牛や豚のような家畜と同じなのかも知れない。

 昔のアーテルシアは無差別に人を殺生していたが、シャチや熊も獲物を食べるばかりでなく面白がって殺すことがあるという。

 殺された人間からすれば理不尽だろうが、アーテルシアの行為も自然の摂理なのか。


---


 お昼前にマカレーナの屋敷へ無事に到着。

 ガルシア侯爵は昼食を食べた後、早速仕事へ出掛ける。


「いやあ~ たった三日間、いや、実質二日で王都へ行けて陛下とお話が出来たなんて夢みたいな事だよ。

 陛下は各地の領主を集めて会議をしたいと(おっしゃ)っていた。

 マヤ君、その時は頼むよ。ハッハッハッ」


 えー、飛行機で各地をまわって領主様全員をお迎えに行かなければいけないのか。

 イスパル王国は十七の領地に分かれているから、王都とマカレーナを除いても十五人もの領主様をお迎えしに行く。

 飛行機の定員を考えると、最低二回はぐるっと各地の領主様を拾っていく必要がある。

 電話なんて無いから、何時何分に迎えに行くから準備しておいて下さいというわけにはならないので、領主様の屋敷に着いたところですぐに乗ってもらえそうにない。

 その前に手紙を飛行機で各地へ届ける方法しかなさそうだ。

 二重の手間になるが仕方がなかろう。


---


 その晩、ガルシア家の皆を集め、アスモディアへ連れて行く人員選出をする会議を応接室で始めた。

 その前に、私たちがマドリガルタへ行っている間に留守番をしていたスサナさんやビビアナたちにエリカさんのペンダントのことを話した。


「ニャニャニャ!! おまえそんな姿になってしまったのかニャ!」


『久しぶりだねえ。でも相変わらずアホっぽいね、あんたは』


「口だけは減らないニャ。こうしてやるニャ」


 私がペンダントを掲げているときにエリカさんがいらないことを言うものだから、ビビアナは私からペンダントを奪い取り、グルグル振り回している。


『やめろぉぉぉぉぉぉ!! おえぇぇぇぇ気持ち悪ううぅぅぅ!!』


「ニャッハハハハッ」


「おいビビアナ。それくらいにしてあげなよ」


「マヤさんがそう言うならやめてやるニャ」


 ビビアナはそう言うと私にペンダントを返してくれた。

 エリカさんが喋れる状態じゃないと話が進まないのだが、気持ち悪がって沈黙してしまったので治るまでに数分を要した。


『ううう…… 酷い目に遭った……

 アスモディアへ行くには魔力を持っている人じゃないと、生きていくだけでもとても厳しいの。

 だからエルミラさん、スサナさん、王女殿下は遠慮してもらうしかないわね』


「なんだと!? クッ…… どんな強者(つわもの)と戦えるか楽しみにしていたのに……」


「ヒノモトへ行く時は必ず連れて行くよ。なんてったってあそこは剣士の国だから」


「そ、そうだな。その時は頼むぞ」


 魔力持ちでないとアスモディアでは生活ができないのは初耳だった。

 あの国全員が魔力持ちなのだから、それを基準に国が出来ていれば容易に想像が出来る。


「あの…… それじゃあ私もダメってことですか?

 マヤ様のお世話をしたいんですが……」


『ごめんねルナちゃん。あなたの身体のためには、あの国は良くないの。

 代わりにジュリアちゃんを連れて行こうと思うんだけれど』


「あっ はい! わたスですか?」


『そう。あなたが何故闇属性を持っているのか、わかるかもしれないわ』


「そうでスよね! わたスも自分でズッと気になってまスた。

 是非連れて行ってもらいたいのでスが、お仕事(スゴト)のこともあるのでマルシアさんと相談してからにしまス……」


 ジュリアさんが何故闇属性に目覚めたのか未だ不明なので、謎を解くには良い機会だろう。

 ルナちゃんは残念ながら連れて行けないので、シュンとしていた。

 ジュリアさんに対して妬くことはしない子なのでいいけれど、本来私専属の給仕係として雇っているのだから、長期間離れてしまうと申し訳なく思う。


『それからビビアナ。あんたも行きなさい』


「は? なんでニャ?」


『前にお師匠様が、あんたの料理を大変気に入っていた。(第五十五話参照)

 アスモディアの食べ物は基本的に不味いから、お師匠様へのご機嫌取りのためよ。

 それにあんたはお師匠様が魔法を使えるようにしてあるんだから、丁度良いでしょ』


「そ、そうかニャ。そんなにあてしの料理が気に入ったのなら仕方ないニャ」


『ずっと魔法の勉強をサボっていたんだから、お師匠様にしごいてもらおうかねえ。いっひっひ』


「おまえ…… 悪い魔女ニャ……」


 ビビアナはブルブル震えていた。

 魔女アモールのご機嫌取りのためなら引きずってでも連れて行くぞ。

 それに私たちがアスモディアで滞在中の食事も作ってもらわなければいけないから、ビビアナの仕事についてもマルシアさんと話しておこう。


「パティはどうするの?」


「勿論! マヤ様が行かれる所ならばどこへでも!」


『こわ~い魔族だっているんだよ。治安はイスパル王国より悪いわねえ。

 ほとんどの魔族は人間族や耳族と同じように生活しているけれど、人間族の野盗とは比較にならないほど魔族の悪党は凶暴よ。それでも行くの?』


「それなら私が守ればいいだけさ。パティ、ずっと私の近くにいるんだよ」


「はい! マヤ様ぁ。頼りにしてますわ。うふふ」


『はー お熱いことで』


 パティは私に寄りかかって腕を抱きしめるように(つか)む。

 おほっ 胸が当たってる。またまた胸が成長していないか?

 あれだけバクバクと食べて、栄養がみんなお胸に行っちゃってるのね。

 まだ少女のように愛らしいパティだが、身体はもう立派な大人である。


『それでアイミちゃんもアスモディアへ行くんだったよね?』


『ああ、面白そうだからな。理由はそれだけだ』


『あなたの母親であるエリサレスは、その昔に魔族と戦った大敵よ。

 その子供がアスモディアへ行って正体がバレたら面倒なことになるわ。

 出来れば行かない方が良いけれど、絶対大人しくしていて欲しいの』


『わかっておる。姿もこの幼女のままで行く。

 だがもし向こうから襲ってくるならば、力でねじ伏せてやる!』


 それが一番懸念していることだが、面白いことが好きなアイミが私に興味を持っているうちならば、滅多なことはしないだろう。

 アイミはマカレーナに到着してから、十二歳の少女から八歳の幼女の姿に戻っている。

 だいぶん力は抑えているが、魔女アモールにはバレてしまうかも知れない。

 始めから正体を話しておいたほうが良いだろうか。


 斯くして、魔族の国アスモディアへ行くメンバーは、ジュリアさん、ビビアナ、パティ、アイミ、そしてペンダントになっているエリカさんと私の六人となった。


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