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第二百三十一話 王子の一目惚れ

 マルティナ女王陛下とガルシア侯爵の何年ぶりかの会談を口実に、王宮まで初公務運用の飛行機に乗ってやってきたガルシア家一行。

 久しぶりの顔合わせのために応接室へ案内されたが、最初にやってきたのは愛娘ミカンちゃんを抱いたシルビアさんと世話係のパウラお婆ちゃんという思いがけないゲストに私は大喜びをした。


「はぁぁぁぁ…… ミカンちゃん、どんどん美人になっていくなあ」


「マヤさん、この子はまだ産まれて一ヶ月も経っていませんよ。うふふ」


「ふぉっ ほっほっほっ シルビア様によく似てらっしゃるから間違いなく美人さんになりますよ」


 ミカンちゃんは父親である私の贔屓目(ひいきめ)を抜きにしても実に可愛い。

 シルビアさんの赤ちゃんの時も見たかったなあ。

 するとパティが目をキラキラしながらやってきて、続いてカタリーナ様は緊張した様子でこちらへ来る。


「シルビア様、ご無沙汰しております。パトリシアです。

 こちらは私の友人で、バルラモン伯爵家のご令嬢カタリーナ様ございます」


「カタリーナ・バルラモンでございます……」


 二人ともカーテシーで挨拶をする。

 身分は子爵家のシルビアさんのほうが下なのだが、国王の執事というのは大変な名誉な職であるから二人は尊敬の意を込めている。

 女王の方からは、無名の兵士と恋に落ちて妊娠したという設定を押しつけられぞんざいな扱いにされてしまっているが……


「子供を抱いたまま失礼します。

 パトリシア様、こちらこそご無沙汰しておりました。お元気そうで何よりです。

 カタリーナ様、初めまして。シルビア・エスカランテと申します。

 バルラモン家の建材事業のお話は王都までにも伝わっておりますから、お嬢様にお目に掛かれ光栄でございます」


「まあ! シルビア様が当家をご存じとは恐れ入ります」


 バルラモン家は、前にも話したとおり(第百六十三話)マカレーナ近郊だけであるが建築材料の仕入れと製造所への指導を行っている大きな商家だ。

 その資材の一部はアイミが普段やっている道路整備などの仕事で使われている。


「あの…… シルビア様。(わたくし)たちにも赤ちゃんを見せて頂けますか?」


「勿論です。何でしたら抱いてみられますか?」


「わぁぁぁ はい!」


 パティはミカンちゃんを大事に受け取り、弟のカルロス君やアベル君がいるので手慣れた感じで抱いている。


「はぅぅぅぅぅ!! か か か…… 可愛い!!!!

 私、女の子の赤ちゃんを抱くのは初めてなんですぅ!!」


 そうだろうそうだろう。

 パティは、将来モーリ家奥さん連合の一人になるシルビアさんの赤ちゃんに対して、妬みは無いということか。

 私と血が繋がっていない設定だから断言は出来ないが。


「マヤ様! 私たちも最初の赤ちゃんは女の子にしましょう!!」


「あ ああ…… うん……」


 あんまり大声でそんなことを言うもんだからシルビアさんやガルシア侯爵らは苦笑いしていたが、母親であるアマリアさんはクスクスニヤニヤと笑っていた。

 身内しかいないからそれで済んでいたが、公の場だったらガルシア侯爵から雷が落ちていたかも知れない。

 カタリーナさんだけが何故か顔を赤くしていた。


「シルビア様…… 私もミカンちゃんを抱いてよろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ。うふふ」


 カタリーナさんが恐る恐るシルビアさんに尋ねると、快く承知してくれた。

 確かシルビアさんはお兄さんしかいなかったはずだから、そういう機会はなかなか無かったろう。


「カタリーナ様、どうぞ。

 こうやって…… 腕がミカンちゃんの首の下になるように……」


 パティがカタリーナさんへ丁寧に説明しながらミカンちゃんを受け渡す。

 カタリーナさんは恐る恐る抱き上げ、ミカンちゃんの顔をジッと見つめる。

 シルビアさんの部屋にいるときはよく泣いていることがあるが、こんな大勢の場でずいぶん大人しいということは、将来肝っ玉が大きい子になるかも知れないなあ。

 その時、ミカンちゃんがニイっと笑った。


「なっ! かかかかかかかか可愛いですぅ!!

 パトリシア様のお気持ちがよくわかりますわ…… はぁはぁ」


 カタリーナ様はボムッと爆発するように顔が赤くなる。

 彼女まで赤ちゃんが欲しくなったのか。

 これはカタリーナ様の結婚願望が大きくなりそうだ。

 私はカタリーナ様から好意を持たれているのは知っているが、あくまで友達目線だ。

 これ以上嫁が増えても大変だし、誰か良い人が見つかればいいね。

 そろそろ女王たちが来る時間になりそうなので、カタリーナさんはシルビアさんにミカンちゃんを返す。

 私も久しぶりだから後で抱かせてもらおう。


 コンコン


「国王陛下と、アウグスト王子殿下がおいでになりました」


 ノックが鳴りドアが開くと執事のロシータちゃんが先に入り、続いて女王とアウグスト王子がいつもの感じで入ってきた。


「皆さん、マカレーナから遠路はるばるようこそお越し下さいました。

 レイナルド、アマリアさん、お久しぶりですね」


「いやああ陛下! 大変ご無沙汰しております!

 何年経ってもますますお美しくなられて、小生びっくりいたしました!

 アウグスト王子殿下もご立派になられ、感服です!」


 なんて挨拶をしながらガルシア侯爵は女王のおっぱいの谷間に目線が行っているのがまるわかりだった。

 アマリアさんとローサさんのもっとプリプリしたおっぱいを好き放題出来るのに、まったく男は際限なくスケベなのだ。


「うふふ。レイナルドは相変わらずね」


 アマリアさんがガルシア侯爵をジト目でジロッと睨み、彼女も挨拶をする。


「陛下、お久しぶりでございます。

 可愛らしかったアウグスト王子殿下はすっかり男前になられましたね。うふふ」


 アマリアさんはカーテシーをしながら、アウグスト王子に向かってニコッと微笑んだ。

 ガルシア侯爵に対してささやかな仕返しにも見える。ブルブル……

 アウグスト王子の顔が急にポッと赤くなるのがわかった。

 うんうんわかるぞ。アマリアさんほどの妖艶(ようえん)な女性に見つめられるとドキッとするよな。

 アウグスト王子も私のようにアマリアさんのおっぱいの谷間を見たのかな。


「ア…… アマリア様、恐縮です……

 あの…… 初めての方もいらっしゃるので改めてご挨拶を。

 イスパル王国第一王子、アウグスト・サムエル・アルバレス・イ・バーモンテです。

 今は陛下から政務の多くを任されて忙しい毎日ですが、時間が取れこうして皆さんとお会い出来たことを嬉しく思います」


 アウグスト王子も長い名前だけれど、本当はもっと長いはずだから省略してるな。

 パティは意外に平然とした表情をしていたが、カタリーナさんはポーッと顔を赤くして王子を見つめていた。

 王子様でイケメン、そして同年代ならば憧れて当然だろう。

 その後は個々に挨拶したり雑談を行っていた。

 私はシルビアさんの所へ行きにミカンちゃんを抱いて、パティとカタリーナさんもキャッキャとミカンちゃんを可愛がっていた。

 女王はガルシア侯爵夫妻と雑談していたと思ったらミカンちゃんを見に来たり、アウグスト王子が大好きなヴェロニカは彼と再会を喜んでいた。


---


 次は昼食会があるので女王と王子が退室しようとしていたとき、私はアウグスト王子に呼ばれた。


「マヤ殿、ちょっとこっちへ来てくれますか?」


「ん? はい」


 何か密談をしたいのか、私も部屋を出て廊下の陰に連れて行かれ、女王はスタスタと先に帰ってしまった。

 ヴェロニカとエルミラさんも王宮の自分の部屋まで行ったようだ。

 どうしよう。このパターンってビビアナやモニカちゃんにチューされたことがある。

 アウグスト王子って実は男に…… そんなわけないよね。


「マヤ殿。一緒におられた二人の女性のうち一人はパトリシア嬢かと思いますが……」


「はい、そうです」


 うわっ どうしてアウグスト王子はパティのことが気になるのか?

 パティが私の婚約者だということはたぶん知っていると思うが、まさか王子はパティの成長した姿を見て惚れてしまった?

 そりゃ困る。こんな完璧超人みたいな王子に惚れられたら、パティが心変わりをしてしまうと私など太刀打ち出来ない。

 どうかパティが王子に乗り換えませんように……


「もう一人、私と同じくらいの歳に見える女性はどういう方なのでしょう?」


「え? ああ…… パトリシア嬢の友達で、バルラモン伯爵ご令嬢のカタリーナ様です。

 歳は確か…… そろそろ二十歳になられる頃ですかね。

 家はマカレーナで建築材料を扱う大きな商会を経営しておられます。

 地元の学校では生徒会長を務めてらっしゃいました、とても優秀な方です」


「おおっ そうですかっ」


「それで…… 彼女のことが何か?」


「うーん…… あの…… 何というのか…… 一目惚れ…… してしまいました」


「え? えええっ!?」


「ちょ…… シーッ 声が大きいです……」


「ああっ すみません……」


 パティじゃなくてカタリーナさんかあ!

 カタリーナさんのほうが王子を一目惚れしてそうかと思っていたのに、その逆とは。

 確かにカタリーナさんであれば容姿・品格・教養は申し分ないだろう。


「それでマヤ殿にお願いがあるんです。

 昼食会の後に少しだけ…… 少しだけでいいんです。

 カタリーナ様と二人だけでお話をしたいと、彼女にお伝え願えますか?」


「そういうことでしたら、承知しました。必ずお伝えします」


「ありがとう! では後ほど…… 必ずですよ必ず!」


「はい……」


 何だか念を押されて、そのまま帰ってしまったが……

 カタリーナさんすごいぞ! 王子様を一目惚れさせてしまうなんて。

 もし上手くいってご成婚されたらいつかアウグスト王子が国王になって、カタリーナさんは王妃様になるの!?

 これは早速伝えねば!


---


 応接室へ戻ると、モニカちゃんとフローラちゃんは昼食の準備に行ったようで室内は疎らになっていた。

 パティとカタリーナさんはまだミカンちゃんと遊んでいた。

 すっかり赤ちゃんにベタ惚れのようだ。

 それよりもっとすごいことをカタリーナさんに伝える。


「あら、マヤ様。王子殿下にお呼ばれされてましたが、何かあったんですの?

 まっ まさかっ 王子殿下からマヤ様へ愛の告白ぅ? かぁぁぁぁぁ……」


「いやいやそんなわけないから」


 パティは頬を両手で押さえて赤くなっているが、BL小説の読み過ぎじゃないか?

 カタリーナさんまで顔を赤くしてしまって…… まったく。


「それでカタリーナ様。昼食会が済んだらアウグスト王子殿下がカタリーナ様と二人だけでお話ししたいそうです」


「――あのマヤ様。今なんと?」


「王子殿下がカタリーナ様と二人っきりになりたいそうです」


「「「――ええ? ええええええ!?」」」


 側にいたシルビアさんとパティも一緒になって驚いていた。

 さすがにミカンちゃんは小声だが泣き出してしまったのでシルビアさんがあやす。

 離れた場所にいるガルシア侯爵らは、何事かとこちらへ振り向く。


「どどどどどどどどどどうしましょう!?」


「カタリーナ様! 是非お話しなさいませ! きっとすごいチャンスですよ!?」


 パティがカタリーナさんを煽っているが、王子がカタリーナさんに一目惚れしたということは黙っていよう。

 きっと二人きりになって王子から告白をするのかも知れない。


「カタリーナ様は将来の王妃様!? そうしたらミカンちゃんのような可愛い赤ちゃんが産まれたらいいですわね!?」


「なっ…… (わたくし)が王子様と赤ちゃんを…… ううっ ぶふぅっ」


「ありゃ! カタリーナ様、鼻血が!」


「あら大変」


 後ろに立っていたパウラお婆ちゃんが、慌ててティッシュをカタリーナさんへ差し出した。

 さすが産婆の経験があるだけあって備えが良い…… って、関係あるのか?


「ふがふがっ ありがとうございまふ……」


「ダメだよパティ。まだ何も決まっていないのにそんなふうに煽っちゃ」


「すみません……」


「いいいいえ、大丈夫でふ……」


 きっと自分がアウグスト王子との赤ちゃんを産む妄想をしてしまったから鼻血を出すなんて、案外カタリーナさんもムッツリスケベなんだな。

 ガルシア侯爵夫妻とフェルナンデスさんは、騒いでいる若いもんは蚊帳の外という感じで何か大事なことを話しているように見えた。

 女王との会談が控えているのでそういう真面目な話だろうが、フェルナンドさんの次に歳を取ってる私がはしゃいでいるのは何だか恥ずかしくなってしまった。


 しばらくすると昼食の準備が出来たと、フローラちゃんが案内に来た。

 突然、カタリーナさんの人生の勝負時がやって来るとは思わなかったが、上手く出来たら良いね。

 昼食会の時にはエリカさんのことを話そう。

 本当はさっき応接室で話そうかと思ったけれど、ミカンちゃんが可愛すぎて話しそびれてしまったよ。


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