第二百二十五話 王宮の部屋で
マカレーナから王都マドリガルタへ向けて、グラヴィティと風魔法を使い単独飛行中。
実際には空気抵抗低減と呼吸をしやすくするために複数の風魔法を展開している。
昔見たアニメの空飛ぶ術のように、単純に人が飛ぶようにはなかなかならないのだ。
飛行機は巡航飛行になれば進行するための風魔法一本だけで済んで、あとは揚力で浮かんでくれるからこうして身体一つだけで飛ぶ方が魔力消耗も疲労も大きい。
それが久しぶりだったうえに魔力の使い方が飛行機慣れしてしまっていたことと、魔物がいないので普段から魔法を使っていないので燃費が悪くなってしまった。
体力は毎日訓練していたおかげで十分あるのだが、精神力がマドリガルタまで持つだろうか。
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焦った結果であるが、マドリガルタ上空まで最速の二時間足らずで着いてしまった。
だが精神力と魔力を無駄に消耗してしまい、頭クラクラだ。
王宮の玄関前へ、半分墜落するように着陸した。
バタァァァァ!!
「うわっ なんだなんだ!?」
「魔物の襲来か!?」
痛たたたた……
着陸したときに盛大に転んでしまい、玄関前にいる門番役の近衛兵を驚かせてしまった。
「ああ…… ごめんなさい。毎度お邪魔しております……」
「あなたはマヤ様! どうなされたのですか!?」
「マカレーナから飛んできて、うっかり魔力を切らしてしまいました……」
「そうでございましたか! さあ、私たちの肩にお掴まり下さい」
私は二人の近衛兵に支えられて王宮内へ入った。
頭がクラクラするだけで身体は元気だから、何だか大袈裟ではあるが……
玄関ホールには何人かの給仕係が並んでおり、私を見てざわざわと騒ぐ。
「マヤ様がご到着なさったが、大変お疲れのようだ!
誰か部屋までお連れしてくれ!」
「「マヤさまっ!?」」
具合良いことに、ちょうどモニカちゃんとフローラちゃんが玄関ホールにいたので私の所へ駆け寄ってきた。
二人とも心配そうな顔をして、特にモニカちゃんは青ざめたような表情だった。
「や やあ…… 魔力切れで頭がクラクラしちゃってね」
「今度は私たちに掴まって下さい」
「ごめんね。よろしく頼むよ」
私は近衛兵からモニカちゃんたちに受け渡され、二人に支えられていつもの部屋へ向かった。
身体は自分で支えられるが頭が酷くボーッとして目眩がするから、やはり誰かに掴まっていないとうまく歩けない。
両手に花と言いたいところだが、生憎そんな気分にはなれなかった。
部屋に着くと、荷物を背中から降ろしてもらいベッドになだれ込むように寝転んだ。
「そのままの格好で寝たらダメだってば。フローラ、シャツを脱がしてちょーだい。私はズボンを脱がすから」
「わかったわ」
二人に上半身を起こされ、フローラちゃんはシャツのボタンに手を掛け、モニカちゃんはズボンのベルトに手を掛けカチャカチャと鳴る。
シャツはあっという間に脱がされ、ズボンはズサーッと引っ張られ脱がされた。
「キャッ」
「おっといけないいけない。ぱんつまで脱がしちゃった。ふひひ」
「おーい……」
半分わざとのような気がする。
だがそんなことどうでもいいくらい頭がクラクラぐわんぐわんしている。
モニカちゃんは再びぱんつを履かせ、下着姿のまま布団の中で横になった。
「最初見た時はびっくりしたけれど、思っていたより大したことなくて良かったあ」
「少し眠るとするよ。それでたぶん回復するから……」
「そうして下さい。お昼になったらマヤ様の好きなサンドイッチを作ってテーブルに置いておくから、起きた時に食べてね」
「二人とも恩に着るよ……」
「恩に着られます。うひひ」
「それではマヤ様、私たちはこれで失礼します。ごゆっくりお休み下さいませ」
「ああ…… ありがとう」
モニカちゃんとフローラちゃんは退室し、部屋はシーンと静まりかえる。
普段は女王とシルビアさんしか使わない寝室フロアなので昼間は誰もいるはずがない。
私は目を閉じるといつの間にか眠ってしまった。
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額に何か冷たい感覚があるので目が覚める。
頭がずいぶんスッキリしているのでもう回復しているのか。
冷たいのに温かいぬくもりのような……
子供の頃に熱を出したとき、母親に看病されたときを思い出した。
「あら、起こしちゃったわね」
「――マルティナ様?」
女王が私の額に手のひらを当てていた。
母親かと思ったのはそういうことか。
「ソーバーの魔法を掛けておいたの。魔力が回復するわけではないけれど、気分は良くなったはずだわ。もうしばらくこのまま寝てなさいね」
ソーバーの魔法。確かグロリアさんにも前に掛けられたっけ。
過多の魔力消耗を起こすと脳内の血管が膨張して頭がクラクラすると聞いたので、前に本来は酔っ払いに掛ける魔法と聞いたように人が酒に酔う仕組みに似ているから聞くんだな。
それにしても、ベッドではエッチで好き放題してくる女王から母の温もりを感じるとは。
ヴェロニカは母親である女王を大変慕っているようだし、母親としての愛情を十分に注いだのだろうから一概にダメな母親ではないとわかるが……
「こっちはどうかしら」
「あっ」
女王は急に布団の中へ手を入れ、私の分身君をギュッと握る。
しまったぁ! 朝立ちならぬ昼立ちで元気になってしまっている!
「大丈夫みたいね。じゃあ今晩のお務めをよろしくね。
久しぶりだから楽しみだわ。うふふふっ」
「ああ…… はい」
やっぱりダメな母親だった。
いろいろ良くしてもらっているから断りづらいし、しっとり濃厚で熟練したエッチのテクニックはジュリアさんを超えているから、私は不本意ながら喜んで行ってしまう。
「そうそう。シルビアが妊娠した時期が問題なのはあなたもわかっているでしょうけれど、私も時期尚早だったことは反省しているわ。
あなたに辛い思いをさせるけれど、最初の滞在での行為でシルビアが産んだ子はあなたが父親だと皆に知れたらまずいの。
勇者として有名になった上に、あなたがヴェロニカと結婚するとなるといくら一夫多妻制でも大スキャンダルになるわ」
「――承知してます」
「やり方は粗っぽかったけれど、結果は良かったわね。
シルビアはご両親にこっぴどく怒られたのは知っているから、私がご両親に直接お話したの。
それだけで済んで、あの子はとても喜んでいるわ。
無事に産まれて正式な結婚をしたら、二人目も頑張ってちょうだい。うふふ」
「二人目…… ですか」
私の立場を守る理由なのは女王が言った通りだが、叙爵した直後にシルビアさんとの何度かの交わりのどこかで妊娠したのだから、叙爵しに来たのに女王の執事とエッチなことをしたということになる。それはマズ過ぎだ。
一緒に来ていたパティやエルミラさんの裏切りでもあるし、国民には勿論だが同時期にプロポーズしてきたヴェロニカ本人にも知られてはならない。
「深刻な顔をしているわね。話を変えましょう。
今朝のこと、魔力を使いすぎると死んじゃうのはあなたも知っていると思うけれど、どうしたの?」
「飛行機慣れしていたせいだと思うんですが、久しぶりに単独飛行してグラヴィティと風属性魔法を四つ展開しながらマカレーナから直行したらこうなって……」
「全部で五つ!? 普通の人間なら精々二つなのにあなたは本当にデタラメな身体ね。
それじゃあ頭がオーバーヒートを起こしても仕方が無いわ。
自分の身体は自分でわかっているかもしれないけれど、帰りは休み休みにしなさい」
「はい……」
「魔法も使わないと段々寂れてくるから、時々は鍛錬しなさいね。
魔物がいなくなったから使う機会が無いかもしれないけど、私も時々攻撃魔法は訓練してるのよ。
じゃあ私は戻るから……」
「ありがとうございます……」
「今晩はくれぐれもよろしく…… ふふふ」
女王はそう言って退室した。
よほどお務めが楽しみなのか、今更だが女王の性欲は強い。
今晩はどんなぱんつを履いてくるのだろう。
テーブルへ目をやると、キッチンペーパーのような紙が被せられたお皿と、ポットが置いてある。
ああ、モニカちゃんがサンドイッチを作ってくれたんだ。
ペーパーを取り去ると、美味しそうなトマトとレタスのサンドと、玉子と生ハムのサンドが現れた。
早速頂こう。ああ…… 美味しい。
瑞々しい野菜と、絶妙な塩加減の生ハム。
いつも食べているサンドイッチなのに、何だか涙が出てきた。
前にもこんなことがあったっけ……
そう。パティが大怪我をしてショックで寝込んでいるときに、ビビアナがサンドイッチを作ってくれたんだ。
前世では帰宅したら一人で飲む一杯のビールが楽しみだったけれど、私のことを好きでいてくれる人がいて美味しい物を食べさせてくれるというのは、胸がジーンと熱くなる。
サンドイッチを食べ終えると、女王に言われた帰りのことをふと思い出した。
大事を取ってどこかで一泊はしたほうがいいのかな。
せっかくだからセレスのラミレス家でお世話になろうと、セシリアさんへ手紙を書いてモニカちゃんにでも頼んで出してもらおう。
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「マヤ様! 起きて下さい! ご飯だから! おーきーてー!」
モニカちゃんの声がして身体をゆさゆさと揺らされている。
サンドイッチを食べてお腹が膨れ、手紙を書いた後にまた睡魔が襲ってきて寝たんだっけ。
「ああ…… もう暗くなってる。よく寝たなあ」
「本当によく寝てましたよ。目覚ましに軽くシャワーを浴びた方が良さそうですね。
ああっ! 股間はいつも元気! うっひっひ
それじゃあちゃっちゃとシャツとぱんつを脱ぎましょー!」
「あい……」
私がベッドから立つと、シャツをパパッ、ズボンをズサーっと降ろして一気に裸にされてしまった。
テントになったぱんつも引っかからないようにうまく降ろしてくれる。
この感じは…… ああそうか。
今朝もルナちゃんに起こされたときに慌ただしくパパッと着替えたんだっけ。
マドリガルタとマカレーナを離れていても私の扱いが似てきているのは、二人とも私に対しては単純だからこれいいんだと思われてしまっているのだろうか。
何だか釈然としないぞ。
裸のままもそもそとトイレに行ってからシャワーを浴びる。
上がると、台車から移された料理がテーブルに並べられていた。
「賄い料理ですみませんけれど、軽いものがいいと思って。
でもめちゃ美味いんですよ、このカルドッソは!
一緒に食べましょう!」
どどーんと、器に野菜たっぷり入ったスペイン風の雑炊が二つ並べられていた。
時間が経ってちょっと冷えてそうだけれど、食欲がそそる。
さっさと服を着させてもらい、モニカちゃんと対面ではなくすぐ隣にべったりと座る。
食べにくいんだが……
「はい、あーん」
「あーん」
モニカちゃんはスプーンで雑炊をすくい、お花畑カップルのようにあーんで私に食べさせる。
ご飯にしっかり味が染みてて美味しい。こりゃトマト雑炊だな。
玉子が入っているともっと美味しそうな気がする。
「ねえねえ! 私にも私にも!」
「あーん」
「あー…… あっ! 何で私のを食べるの!? イジワル!」
「はははっ ごめんごめん」
モニカちゃんにもあーんして食べさせようとして私が食べてしまった。
本当にお花畑カップルだ。
ムズ痒くなってくるが、案外楽しいもんだな。
次はちゃーんとあーんして食べさせ、モニカちゃんはニコニコ顔。
それを数回繰り返して、後は普通に食べた。
「あー美味しかった。マヤ様は明日からしばらくシルビア様のご実家に滞在されるんですよね? 寂しいなあ……」
「うん。時々は顔出すよ」
「でも私と都合が合わないかも知れないですよ。それじゃあ意味ないから……」
「どうしたらいいのかな?」
「ねえ…… 今から……」
モニカちゃんはスッと立ち上がると、スカートをたくし上げてぱんつをズリ下げた。
そして私の前にぱんつを片手で掲げる。
あ…… ロベルタ・ロサリオブランドだ。
大事なところ以外はレースで、黄色いハーフバックのちょっとセクシーなぱんつ。
「うーん…… 今晩は疲れてるから遠慮してもらえるかな……」
「疲れているわけないでしょ! あんなテントを張っちゃって!
私、見たんです。お昼過ぎに陛下がこの部屋へ入って行かれるのを」
「うっ そうか……」
「出て行かれるときは、ものすごい機嫌が良さそうなお顔でしたよ。どうしてなんでしょう?」
「さあ、どうしてだろうねえ。陛下は魔法で私に治療をしてくれただけだよ」
ルナちゃんと(第二百十六話参照)、もっと前にモニカちゃんからも(第百五十七話参照)、私と女王の噂があると聞いたことがある。
二人とも某家政婦ドラマのようなことをしてあらいやだと言ってるのだろうか。
「陛下とシルビア様のお部屋、私も掃除をしているんですよ。
ルナもフローラもロシータも給仕長もみんな知ってます」
「――」
ルナちゃんも言っていた通りだ。
この棟に入れる給仕係の待遇は良いから、秘密を漏らしてクビになるのは嫌だから守ってくれているそうで。
「今、迸っちゃうのはマズいってだけですよね。陛下には逆らえない。
じゃあマヤ様はいいですから、私をいっぱい気持ちよくしてくれたら許してあげる」
「わかったよ」
モニカちゃんはスルスルと給仕服を脱いで素っ裸になり、ベッドへ寝転んだ。
私は舌を使ってたっぷりサービスし、彼女は五回も昇天してしまい満足して自分の部屋へ帰っていった。
口が疲れちゃったよ。
女王も舌で攻撃されるのが大好きだから、またしなきゃいけないのか……
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女王が指定する時間に部屋へ向かった。
彼女は下着姿のまま、ベッドの上で退屈そうな表情で本を読んでいた。
「やっと時間になったわね。仕事が早く終わったから、もっと早い時間にすれば良かったわ」
「それなら呼んでくれれば良かったのに」
「あなた、モニカとお楽しみだったんでしょ。お邪魔したら悪いと思って」
「ああ……」
夕食の直後だったから、そんなに早く仕事が終わったのか……
ドア越しに声が聞こえちゃうからメイドを連れ込んでエッチなことをしてるのがバレたわけだが、咎められるわけではなさそうだ。
「あの子と楽しむのはかまわないけれど、私と楽しむためにあなたが燃えてくれないと困るわ」
「そう思って、口だけしか使ってませんよ」
「あっはっはっはっ いい子ね……
ということはモニカも私たちの関係を知っているわけね。
どうせ明日はあの子がこの部屋を掃除するのだからいいけれど、わざわざ直接言うことではないから放っておいたの」
「本当に大丈夫なんですか?」
「給仕長は信用できる。それで彼女に素直なあの子たちを選ばせたというわけ。
だから心配ないわ。給金額も良くすることを保証してる」
「給仕長さん、ちょっと怖そうですけれどすごいんですね」
「彼女がいるからいろいろ助かってるわ。シルビアのことは知ってるかどうかわからないけれど」
「ルナにだけは話しておきました。いずれ知られるだろうし、もし私に何かあった時に産まれてくる子が私の子だという証人を増やしておきたかったので」
「そう…… わかったわ。魔物がいなくなったしあなたが簡単に死ぬようなことは無いかも知れないけれど、でもエリサレスは死んでいないのよね?」
「はい。逃げ帰っただけなのでまたいつ襲ってくるか……
今のところその気配は無いです」
「承知しました。また来る可能性があるので、私たちは訓練を怠らないようにしましょう」
「はい」
女王はぱんつとブラのままベッドの上で、私はパジャマでベッドの前に立ち、密談をしていた。
女王が着けているのもロベルタ・ロサリオブランドだな……
上下ともワインレッドで、レースのひらひらを多めにあしらって肌の露出部分を抑えている年相応のものだ。
「ああっ! これも聞くのを忘れていたわ!
早くお楽しみがしたいのに…… で、ヴェロニカとはうまく出来たの?」
「出来たって…… 何を?」
「ベッドの上でのことよ。あの子は無事に純潔をあなたに捧げられたのかしら?」
やっぱり女王が唆していたのか!
でもあの時のヴェロニカの様子を考えると、何か思うことがあって心配しているとしたら……
私は、事細かくではないが一回目はヴェロニカが嗚咽するほど泣いてうまく出来なかったこと、二回目はエルミラさんと一緒にマッサージ形式で始めてから事を行い、何とかうまくいったということを話した。
「そう。結果としてうまく出来たのね。良かった……
あの子はね、私の夫、つまり亡くなった父親とアウグストが特に大好きでね。
小さな頃はいつもあの二人にくっついていたわ。
でも時々感情のコントロールがうまく出来なくて、一緒にいてとても嬉しいはずなのに泣いちゃうことがあったの。
その父親が亡くなった時、アウグストが落馬して大怪我をした時は悲痛なほど大泣きしていたわ。
あの子はあなたのことも本当に好きよ。
だからどうなるか知りたくてけしかけてみたの」
「けしかけたって……」
そういうことか……
好きすぎて泣いてしまうという私の予想は当たっていた。
ただ父と兄が大好きなのは、恋愛感情とは違うはず。
ヴェロニカが私のことを好きなのも恋愛感情からではない?
いや、彼女のあの感じは他の女の子と同じように恋愛感情から来ているはず。
家族愛と異性愛のどちらでも特別に愛する相手に対して反応が出るということか。
私は心理学の勉強をしてきたわけではないから、実際ヴェロニカに何が起きているのかわからない。
ヴェロニカと愛し合うときは慎重になろう。
「ねえ…… そろそろ始めましょう。
あなたはいろいろ疲れているでしょうから、私に任せてちょうだい。ふふふ」
私はベッドの上に寝転び、女王に身を任せる。
童顔で、四十過ぎとは思えぬきめ細やかな白肌、とある声優さんのような可愛い声、豊満なおっぱいとお尻、そして舌技ですっかり骨抜き状態にされてしまった。




