第二百十七話 シルビアさんの実家へ
うう…… 朝か。
ルナちゃんが起こしに来る前に目が覚めてしまった。
枕元にはエリカさんの魂が入っているペンダントが置いてある。
それを布団に中に入ったまま手に持ち、話しかけてみた。
「おーい エリカさんおはよう」
返事が無い。ただのペンダントのようだ。
集中しないとわからないくらいの微弱な魔力を感じる。
まるで家電の待機電力消費並みだ。
エリカさんは今、この中で寝ているのだろうか。
起きていれば私の声が聞こえているだろうから、分厚いガラス越しの部屋にいる人へ話しかけているように叫んでいるかも知れないな。
どうしようもないので、早朝訓練のために着替える。
裸になるだけだったら、もうお互いの身体の隅々まで知っている仲なので見られても良い。
ペンダントをテーブルに置いて普通に着替え、終わったら首にかけ直す。
このままテーブルに忘れたらエリカさんの魂が消えてしまうってことだよな。
今までも気を遣っていたけれど、今後もそうしないとね。
コンコン「おはようございまーす。あら? 今日は早いですね」
ルナちゃんが起こしに来てくれたので、いつもの日常が始まる。
二週間連続のマドリガルタ往復は疲れてきそうだ。
オイゲンさんたちは連日でも良いとはりきっていたけれど、やっぱり適当なときに中休みを貰うとしよう。
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あれから三日後。
今日はシルビアさんのご実家であるエスカランテ家へ挨拶する日だ。
お休みをもらって今日はマカレーナに帰らず、そこでお泊まりすることになってしまった。
プライベート要素が高いのでルナちゃんにはマカレーナで待っていてもらうことにする。
飛行機は順調に飛んでいき、マドリガルタの南部にあるエスカランテ子爵家の屋敷内に直接着陸する。
王宮滞在中に連絡は取り合っていたので、屋敷の玄関前にはお出迎えの人たちが見える。
建物はそれほど大きくないが広場と庭はずいぶんと広いので駐機するには十分だ。
オレンジの農園経営らしい風格である。
あまり玄関ド真ん前はどうかと思うので、玄関から少し離れた場所へ着陸させてもらった。
飛行機から降りると……
おお、お腹が大きなシルビアさんがいる!
あとご両親らしき二人と給仕係が三人出迎えてくれていた。
「お久しぶりです、シルビアさん」
「マヤ様、お元気そうですね。ふふふ」
ミルクティー色の素敵なマタニティーワンピースを着たシルビアさんが、ニコニコ笑顔で応えてくれた。
まだ結婚はしていないが、自分の奥さんという実感が湧いてくる。
「おお…… おお おお! 君がマヤ・モーリ子爵かね!
私はシルビアの父、マクシミリアノ・エスカランテだ」
シルビアさんのお父さんが両手で握手を求められ、ぎゅっと握られる。
半分以上白髪の茶褐色の髪の毛で、鼻髭を生やしている品の良いおじさんだ。
六十代前半だろうか。
「母のパメラです。本日はエスカランテ家へようこそおいで下さいました。
さあさあ、どうぞ中へ」
「マヤ・モーリです。今日はよろしくお願いします」
お母さんも、シルビアさんと雰囲気がよく似ていて歳を取っていても綺麗な方だ。
ご両親には最初から好感を持たれているようで、シルビアさんが良く話してくれたのだろう。
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応接室に案内され、対面の席にご夫婦、横の席にシルビアさんが座っている。
給仕のおばちゃんが入れてくれているお茶は、オレンジティーか。
さすがオレンジ農家だ。
「いやあモーリ子爵! 娘を選んでくれてありがとう!
未婚のままどんどん歳を取っていくので心配していたら、よくわからない男との子供が出来たと聞いたときはどうしようかと思っていた。
まさか王都を魔物から救ってくれた勇者が気に入ってくれたなんて夢のようだ!」
「お嬢様、いやシルビアさんはとても素敵な方ですよ。
王宮ではとてもお世話になったし、憧れていたんです。
そんな女性と共に生きられるなんて光栄です」
「ああ…… 娘のことをよく見ていてくれたんだね。
陛下の執事をやらせてもらっている娘だから私も誇りにしていた。
なのに若い兵士の子を身籠もって、その男は魔物に殺されてしまうなんてこの子は不幸のどん底へ落ちた。
そこへ君が…… ああ、なんと女神サリ様はこの子をお救いになった!」
シルビアさんは苦笑いで自分の父親の話を聞いていた。
お父さんの言い草では相当怒られたんだろうな。
作り話でご家族を不安にさせ、シルビアさん一人悪者として被ってもらい、とても申し訳なく思う。
ちなみにサリ様はこの件について何も関わっていない。
あれから連絡がないけれど、きっとエリサレス対策で神界を東奔西走してることだろう。
時々、エッチなことをしているときに覗かれているかも知れないが。
「お父さん、ご安心下さい。シルビアさんは絶対に幸せにして見せます」
「もう私のことをお父さんと呼んでくれるんだね。
いやあ、君なら娘を任せても安心できるよ。
今日はめでたい。本当にめでたい。こんな嬉しい気分になるのは久しぶりだ」
「お父様ったら…… うふふ」
ご両親もシルビアさんも笑顔で場の空気はとても和んでいた。
そうだ。シルビアさんからも言ってるはずだが、私からもあのことについて釘を刺しておかないと。
「あの、生まれてくる子には私が血の繋がった本当の父親だということにしておいて下さい。
ご家族ご親戚の他に、周りの従者にはくれぐれも気を遣ってもらうように」
「ああ、勿論だとも。生まれてくる子にとって一番の幸せを考えよう」
お義父さんが良い人でよかったあ~
ガルシア侯爵や女王も変だけれど基本的には良い人だし、ビビアナやジュリアさんの家族も良い人たちばかりで恵まれている。
マルセリナ様は元々身寄りが無く、エルミラさんはこの国北部出身だが何故か家族のことをあまり話したがらない。
ルナちゃんも含め訳ありの女の子は少なくない。
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そのままの良い雰囲気で昼食、ティータイム、夕食までご馳走になった。
ご兄弟は独立して別の館に住み、農園管理の仕事をしているそうだ。
ティータイムには、オレンジパイとオレンジケーキ、オレンジプリンが出てきた。
リーナがいたら大騒ぎで喜ぶだろう。
だがここでガルベス家の身内の話は控えておいた。
シルビアさんのお祖父さんを毒殺したベラスケスの親玉はガルベス公爵とも疑われている。
親玉だったとしてもベラスケスが勝手にやったことかも知れないし、犯罪における真犯人は一番利益を得る者と言われていても何にしろ確証が何も無い。
ご両親ともゆっくり話せて親密になれたし、シルビアさんとも久しぶりに長い時間を過ごせた。
就寝はシルビアさんの寝室で。ご両親の勧めもあった。
もう臨月なのでエッチなことは出来ないのに、ご両親の表情はニヤニヤしていたかのように見えた。
「マヤ様、ベッドの上でこうやって二人で座るのも久しぶりですね」
「もうすぐ夫婦になるんですから、そろそろ様付けはやめましょうよ」
「そうですね、マヤさん。うふふ」
それでもお互いは当分敬語のままだった。
いいじゃないか。
私にとって素敵なお姉様なのだから。
「お腹…… 見せてもらってもいいですか?」
「はい。どうぞ」
シルビアさんは躊躇無く、薄いピンクのワンピースパジャマのスカートを捲った。
おお、相変わらずふんどしショーツを履いてくれている。嬉しい。
もう臨月なので赤ちゃんが動く胎動はあまり無いらしいが、たまにあると本当に痛いそうだ。
今は落ち着いているようである。
「わあ…… 本当に大きい。
いつ見てもここに生命が宿ってるなんて不思議に思います。
もし予定日より早まって産まれてきたらどうしよう……」
「給仕係の中には産婆の経験がある者もいますから、いつでも大丈夫ですよ。
あと近くの病院の先生も来てもらえる手筈になってますから」
「それなら良かった……」
スカートを下げ、肩に手を回し私たちは自然にキスタイムへ移る。
唇同士が吸い付き、舌を舐め合うディープキスがいきなり始まった。
何も考えず、お互いが動きを合わせるようにして長い長いキスを楽しむ。
ああ…… シルビアさんの口の中が気持ちいい……
「あっ」
「キスだけでこんなに元気になるなんて、マヤさんらしい。ふふふ」
シルビアさんからキスをやめたと思ったら、手で股間を掴んできた。
彼女が言うように分身君はパンパンに腫れていた。
キスは盛り上げると、性的興奮が前戯より高まることがあるのだ。
「私はまだ出来ないから、すみませんけれどこれで我慢してくださいね」
シルビアさんは私のズボンのチャックを降ろし、分身君がコンニチワと挨拶。
手で処理をされ、あっという間に果ててしまった……
やっぱり自分でするより何倍もいいもんだな。
「あの…… 着替えたいんです。
恥ずかしいんですけれど、私も下着を汚してしまって……」
「じゃあ自分が手伝いますよ」
こんな言葉がすぐ出てしまったが、何言ってるんだろ俺…… と、強く思ってしまった。
だが重たいお腹だから少しでも助けになりたい。
「ではあのタンスの下から三番目の引き出しに替えの同じ物がありますので、お願いします」
「はい」
言われた場所の引き出しをズッと引くと、大量におぱんつが入っていた。
あまり派手な物は無く、ベージュや白、薄いピンクなどが中心でデザインもノーマルだ。
その隅にふんどしショーツがいくつも入っていた。
女性の部屋に入って下着が入っているタンスの引き出しを見るなんて初めてだから興奮して見入ってしまった。
女王とかモニカちゃんの引き出しはすごそうだよな。
「あ…… 恥ずかしいのでそんなに見ないで下さいまし……」
「ああっ すみません! 今新しいのを持っていきます」
私はその中の一枚を取り出し、引き出しを仕舞う。
そしてシルビアさんのスカートをたくし上げた。
「お願い…… します……」
シルビアさんは少し腰を浮かせて下着が脱げやすいそうにしてくれた。
私は両手でスルッとふんどしショーツを降ろす。
わっ…… すごい。大洪水になった跡がある。
ここでぱんつを嗅いだり何かしたら本当の変態になりそうなのでやめておく。
「それはそこの洗濯かごに入れておいて下さい……」
シルビアさんは顔を真っ赤にしながら、麦わらで編んである籠を指さした。
「おお、これか」
私はふんどしショーツをポイッとそこへ入れた。
そして新しいふんどしショーツをシルビアさんに履かせた。
これでばっちり。
「もう寝ましょうか。夜更かしは身体に障りますから」
「はい……」
私はパジャマを持って来ていなかったので、上着を脱いでシャツとパンツだけになった。
さっき収まったのに、また半分元気になっていた。
ペンダントを着けているのが癖になっていて、今やっと外してシャツで隠した。
エリカさん、これもみんな見てたんだよね……
もういいや。
「私のパジャマをお貸ししましょうか? ワンピースしかないですが……」
「あ…… いや、このままでいいです……」
「うふふ そうですよね ふふふ」
シルビアさんも冗談を言うようになったな。
私の影響かな?
シルビアさんのベッドはワイドキングサイズなので、私は寝相が悪くないが念のために少し離れて寝れば大事なお腹を痛めることが無いだろう。
さっきスッキリしたこともあって、私たちは朝までぐっすり休むことが出来た。




