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第二百十四話 好きすぎて泣いちゃった

 ヴェロニカは自身に対して、私とエルミラさんが愛し合っている行為と同じ事をして欲しいと言う。

 今晩私をこの部屋へ呼んだ理由は、結論として男女の行為を済ませたいということか。

 ファーストキスをしたばかりで、そのすぐ後に初体験をするカップルはいるかもしれないけれど、ヴェロニカの場合は彼女の心情を考えると少々無理がある。

 真面目な話、キスをする前から感情が高ぶり過ぎて心に負担が掛かっている気がする。

 キスをした後に()()ヴェロニカが泣き出すなんてびっくりした。

 ヴェロニカにとって『人が好き』という感情はどれ程のものだろうか。

 誰よりも深い愛を持っているのかもしれない。


 私とエルミラさんが愛し合っている行為について、やっていることは彼女の性的な感覚に合わせているので、極々ノーマルなプレイだと思う。

 せいぜい私からいろんなところをペロペロしているだけだ。

 他の女の子たちのプレイ内容を知ったら卒倒するだろう。


「ヴェロニカ、本当にいいのかい?

 君と私は裸になって抱き合い、そこから先は君が知ってる以上の事かも知れないんだよ。

 何も今からじゃなくても、ゆっくり進んで行けばいいんだ」


「――くどい」


 はぁ…… 言い出したら聞かないヴェロニカだ。

 反応を見ながら、無理そうなら途中でやめるしかない。


「じゃあ君の覚悟を見せてもらおう。

 下着だけになるんだ。私も一緒に脱ぐ」


「で…… では…… お互い背を向けて脱ごう……」


 私たちは立ち上がり、背を向けて上着を脱いだ。

 ヴェロニカのほうから聞こえてくるゴソゴソという音にそそる。


「私は脱いだよ。君からまたベッドへ腰掛けてこっちを見るんだ」


「ああ……」


 ヴェロニカが座った音が聞こえたら、私もヴェロニカのほうを向いて腰掛けた。

 ――がっちりとした肩、女性らしい滑らかな腹筋の割れ方だ。

 おっぱいは言うまでもないが、タンクトップで訓練していることもあるので胸の谷間は見慣れたものである。

 そして下着は、薄いピンクで縁が黒いスポーツブラ。

 それと同じデザインのレディースブリーフ。

 縁に白い文字でロベルタ・ロサリオと書いてある、私がデザインしたものだ。

 ヴェロニカにはとても似合っているがそれもそのはず、スポーツタイプの下着はヴェロニカ、エルミラさん、スサナさんを妄想…… いや、イメージしてデザインしている。

 偶然私も同じ、薄い緑に黒いラインのボクサーブリーフだ。


「とても綺麗で、健康的だよ」


「エルミラのようにしなやかではない」


 今更両腕で胸を隠してしまった。

 半分照れて、半分ブスッとした表情だ。

 そういうコンプレックスを持っていたのか。

 確かにエルミラさんはスレンダーで筋肉の付き方が美しく、背も高いので女性から見ても憧れるからパーティーで毎度のように淑女に囲まれる。

 それにしても、ショートパンツを脱いだことで太股の美味しそうなむちむちが全て露わになり、今すぐにでも顔でスリスリしたいくらいだ。

 個人的にはエルミラさんよりヴェロニカの体型の方が好みである。


「下着も似合ってるね」


「こ、これはエルミラと一緒に買いに行ったのだ。

 おまえがデザインした物だということも知っている……

 つ…… 着け心地は良いぞ」


「それは光栄だ。ありがとう」


 気に入っているみたいで良かった。

 女子同士で楽しいショッピングも出来て何より。

 さて、次の段階に行こうか。


「もう一度抱き合ってみよう」


 ヴェロニカは無言でコクッと(うなず)いた。

 私たちは腰掛けるのを止め、ベッドの上で中腰になって抱き合った。

 片方の手で腰を抱き、もう片方で肩を抱く。

 肌を直に触ると、がっちりしたヴェロニカの上半身でも華奢(きゃしゃ)に感じてしまう。

 やっぱり女の子の身体なんだなあ……

 しっかり胸を押さえているスポブラでもヴェロニカの柔らかい感触が伝わってくる。


 スー スー スー


 私の首元でヴェロニカはまた呼吸が少しずつ荒くなってきた。

 緊張しているには変わりないか……

 このまま無言で抱き合い、時間が過ぎていく。

 ヴェロニカは今、何を考えているのだろう……

 そろそろブラには退場してもらうとするか。


「このままブラを外すね」


「え? え? え? ちょっと待て!」


 ホックが無いスポーツブラなので、ヴェロニカが考える間もなく指を引っかけて上に挙げ、一気に脱がしてしまった。

 自分がデザインしたブラだから当然作りはわかるので、脱がせるのはたやすい。

 すばらしい美巨乳がぷりんと現れるが、ゆっくり観賞することもなくすぐにまたヴェロニカを抱いた。

 ジロジロと見るよりは恥ずかしさが抑えられるだろうと考える。

 私の胸が、ヴェロニカの胸にふわりむにゅと包み込まれてしまう。

 何というパラダイス。

 大きな胸を生で感じるのはこの上なく幸せを感じる。

 小さな胸も好きだけれど、抱いてみるとどうしても大きな胸の女性に軍配が上がってしまうのは男の(さが)だろうか。



(ヴェロニカ視点)


 え? えええ??

 マヤが私のブラをあっさり脱ぎ取ってしまった!

 早すぎないか?

 ああああああマヤに胸を見られた!

 いや、今日の私は最後までマヤと愛し合うと決心したのだ。

 前にも胸は見られたし、気にする必要は無い。


 ――これが男の…… マヤの胸か……

 なんて(たくま)しく、広い胸なのだろう。

 これが厳しい戦いを乗り越えてきた男の身体……

 私はマヤに包まれている……

 ああ……

 好きだマヤ……

 この男にずっと寄り添いたい。

 うううう……

 きゅうぅぅぅぅん!



(マヤ視点)


「うぐっ ううっ うっ うっ……」


「どうしたヴェロニカ!?」


「マヤ…… マヤ…… 好きだ! ぁぁぁぁ…」


 抱くのをやめると、ヴェロニカの顔はすぐにでも号泣しそうだった。

 涙がぽろぽろぽたぽたと溢れ、落ちていく。

 やはりヴェロニカの涙は『好き過ぎて泣く』というやつか。

 外面では普通通りだったのに、いつの間にか心の中では私に依存していて彼女自身もそれに気づいていなかった、と察する。

 それにしても……


「ううっ うっく うっく ひっく ううううっ」


 嗚咽(おえつ)になってる。こりゃいかん。

 ベッドタイムは中断せざるを得ないが、さてどうしようか。


「ヴェロニカ、今日はもうやめよう。また今度ゆっくりすればいいさ」


「どこにも行かないでくれええ! うっく うっく……」


「わかった。今日はこのまま一緒に寝よう」


 ヴェロニカは嗚咽を続けながらも(うなず)いた。

 ――私たちはお互いぱんつだけで、上半身裸のまま布団に入った。

 シャツぐらい着た方が良かったかなと思いつつも、ヴェロニカの肌に触れられるのは心地よい。

 ああ…… 吸ってみたい。

 手を繋いで、ヴェロニカの頬は私の肩に寄り添う。

 嗚咽(おえつ)はしなくなり、落ち着いてきたようだ。


「ありがとう、ヴェロニカ。好きになってくれて」


「う…… ん……」


 私はヴェロニカの頭を優しく撫でた。

 子供みたいな優しい笑顔になっている。可愛い……

 今はこれ以上言葉を交わす必要無い。

 ゆっくり目を閉じた……

 でもこの先ヴェロニカの心が心配だ。

 女王……、いやエルミラさんへ正直に話してみようか。

 彼女なら親身になって相談に乗ってくれるはず……


---


 朝になった……

 ああ、もうルナちゃんが起こしに来る頃だ。

 もぬけの殻になっている部屋のベッドを見て驚くだろう。

 それより、ヴェロニカは……


 スー スー


 まだ寝ている。

 彼女も早朝訓練をすることになっているし、今まで寝坊なんてしたことが無かったからゆうべはなかなか寝付けなかったのかな。

 私はそっと身体を起こすと、ヴェロニカはそれに反応したように目が覚めたようだ。


「ヴェロニカ、おはよう」


「ああ…… うう……」


 そうか。事は無かったにしても、ヴェロニカと初めての朝チュン。

 まだ寝ぼけているみたいで、おはようと言ったことも理解出来ていないようだ。

 しばらくして、状況が理解出来たら布団の中へ潜ってしまった。


「ヴェロニカ…… 訓練はどうするんだ?」


「きょ 今日はやしゅむ(休む)……」


「わかった」


 布団から出ようとしたら、私の分身君がガンガンに元気なのに気づいた。

 こんなのをヴェロニカに見られたら幻滅するのか、興奮するのか…… まさかね。


「あの…… 服を着るからしばらくこっちを見ないでね」


「うみゅ(うむ)……」


 私は膨らんだ股間を何とか収めてズボンを履き、ブラウスも着た。

 ズボンからも膨らみがわかりそうなので、ヴェロニカの方を向くのはやめよう。


「じゃあ、ごゆっくり…… 食事には出てこられるといいね」


「ん……」


---


 ヴェロニカの部屋を退出したその時、ドアの前には……


「あ」


「ああ…… ルナちゃん」


 我が専属給仕係のルナちゃんが偶然に通りがかった。

 こういうこと前にも誰かとあったよな。

 パティっだっけ?


「お部屋にいらっしゃらないと思ったら、そういうことでしたか。

 ええ、主人のプライベートに従者が口を挟むことではありませんから。ぷんっ」


 どうもルナちゃんは近頃私に対してキリキリとしているから……

 ああ…… ずっと構ってあげてないからな。

 お金をたくさんあげて喜ぶような子じゃないし……

 そうだ。


「急だけれど、今日はルナちゃんが飛行機に乗って王宮まで付いて来て欲しい」


「え? あ、はい!」


「じゃあ八時に出発するから、支度(したく)をしてきてね」


「かしこまりました!」


 急に笑顔になって、わかりやすい。

 ルナちゃんは慌てて自分の部屋がある方へ走って行った。

 あれ? 私のお世話は……

 今日はマドリガルタで特に用事が無いので、休憩して食事をするだけだ。

 ああ、着いたらルナちゃんの食事も頼んでおかなくては。


---


 一人で着替えて、早朝訓練のために屋敷の庭へ。

 エルミラさんとスサナさんはもう来ていた。


「あれれ? ヴェロニカ様はどうされたんですか?」


「ああ…… うん。少し調子が悪いみたいで休むって。大事は無いよ」


「あー! なんでマヤさんがそんなこと知ってるんですかあ? にひひ」


「こらスサナ。王女殿下と一応子爵様だから下品な想像は良くないぞ」


「はぁい」


 ()()子爵様か…… 確かに私は貴族として威厳が無いからなあ。うう……

 私たちはいつも通りの訓練を終えて、解散しようとしていた。


「エルミラさん、ちょっと待ってくれないか?」


「なんだい?」


「あの…… さっきのことで少し話があってねえ」


「ん?」


 私はエルミラさんへ正直に、ゆうべのヴェロニカとのことを斯く斯く然々(しかじか)と話した。

 茶化さず真剣に聞いてくれるエルミラさんは有り難い。

 だからヴェロニカもエルミラさんのことを気に入っているんだな。


「そうかあ…… とうとうヴェロニカ様は……

 わかった。今日話し合ってみるから、心配しないで」


「ありがとう。ちなみに……

 お風呂でエルミラさんとヴェロニカが一緒だった時のことを話に聞いて……」


「ええ!? ヴェロニカ様はそんなことも君に(おっしゃ)ったの?

 は…… 恥ずかしいなあ……」


「まあ、そういうこともしていたという前提で、エルミラさんに話したので……」


「あ…… ああ、わかったよ。とにかくヴェロニカ様に話してみる」


「よろしくね。エルミラさんは頼りになるなあ」


「任せておいて!」


 特殊な案件なのに妙に自信を持っているように見えるから、何だか不安だ。

 エルミラさんて空気読めないところがあるからなあ。


---


 ガルシア家のみんなと朝食の時間。

 ヴェロニカも無事に出てきたので良かった良かった。

 だが席に掛けても、顔を真っ赤にして(うつむ)いている。


「王女殿下、如何なさいましたかな?

 顔色がすぐれないようですが」


「ぃ、ぃゃ…… 何でもなぃ…… 大丈夫だ」


「そうですか……」


 ガルシア侯爵が不思議そうな顔をしてヴェロニカに尋ねていた。

 パティもそんな顔をしている。

 アマリアさんはニヤッと微笑み、ローサさんまでも顔を赤くしていた。

 どうして、人妻は察しが良い!

 いやいや! もう事後のような空気になっているが、私はまだぱんつを脱がしてないし脱いでもいないし、おっぱいも揉んでないぞ!


 当のヴェロニカはさっさと食事を済ませ、ご馳走様をして私と目を合わさずすぐに退席してしまった。

 たぶん自室へ戻ったんだろうが、エルミラさんフォロー頼むよぉ。

 アマリアさんたちは野暮なことを聞かず流してくれたので良かった……


---


「マヤ様! 準備出来ました! いつでも大丈夫です!」


「よし! 行こうか!」


 着替えは終わってるし荷物はほとんど無いので出発の時間まで部屋でくつろいでいると、ルナちゃんが元気よく部屋へ入ってきた。

 日帰りなのに大きなカバンを持っていて、何が入っているんだろうな。

 服装は勿論いつもの給仕服である。

 基本的にルナちゃんは私が給金を出して雇っているただ一人の従者なので、今日のマドリガルタ行きも私のお付きの仕事という扱いだ。

 ガルシア家での仕事は給仕係みんなのお手伝いである。

 ビビアナとジュリアさんはガルシア家所属なので私があまり勝手なことは出来ないが、いずれ私が独立したら雇うつもりだ。


 さあ、ルナちゃんを背負ってラウテンバッハに向かうとするか!


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