第二百十二話 ヴェロニカの部屋へ再び
「今日は私もマカレーナへ帰るぞ」
「いいのかい? 家族水入らずゆっくりしたらいいのに」
「飛行機が完成したらいつでも行けるだろう。その時でいい」
「それもそうだ」
兵士の訓練所でヴェロニカと一緒にいたのは一時間足らずであったが、汗びっしょりになってしまった。
ヴェロニカもそうで、汗まみれのシャツ一枚の下はニップレスおっぱいだなんて興奮するしかない。
それにしてもさっきは明らかに色仕掛けだったし、一泊だけで帰るだなんてどんな心境の変化なのだろうか。
女王に何かそそのかされたのであれば、然もありなん。
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誰もいない自室に戻り、お風呂へ入って汗を流す。
マカレーナの屋敷にケチをつけているわけではないが、部屋に風呂・トイレ完備なのは楽で良い。
早朝訓練と飛行機の操縦、ヴェロニカとの戦闘で朝から疲れてしまった。
ベッドの上で裸のまま寝転ぶ。
――ああ 眠くなってきた……
(フローラ視点)
マヤ様はお部屋へ戻ってらっしゃると別の係から聞き、昼食へ案内するためそちらへ向かってます。
コンコン「失礼します」
――お返事も何もありません。
そろっとドアを開けてもう一度。
フローラです。失礼します。
――お休みなんでしょうか。
仕方がありませんのでお部屋へお邪魔します。
奥へ進むと……
「キャッ!」
マヤ様がベッドで全裸になって寝ておられます。
本当に寝ておられるだけですよね?
ご病気ではないですよね?
近寄ってみます……
「ひぃっ!」
おおお男の子の大事な部分がいきり立っています!
男の人は寝ているときに大きくなると聞いたことがありますが、まさにこれがそうなんですか……
じっくり見るのは初めてです。
不思議な形をしていますが、これがオシッコが出るところでしょうか。
こんなもの…… と言ったら失礼ですが、女の人が赤ちゃんを産むためにみんな受け入れてるなんてびっくりです。
ここに顔の絵を描いたらかわいいですね。ふふ
――はっ
起こしたときに裸ではお恥ずかしいでしょうから、何か掛けておきましょう。
大事なところにタオルを掛けて……
「ふええっっ!」
余計におかしいです!
タオルが小さかったのでキノコの傘みたいになってしまいました!
はわわわわっ
(マヤ視点)
虚ろと目を開けてまた閉じる。どうも眠ってしまったようだ。
さっきからフローラちゃんの声がして一人で騒いでいるようだし、再び目を開けるタイミングがわからない。
分身君に何かふわっとした感触があったけれど、何だろう?
裸だけれどどうしようもない。
以前着替えの時に裸を見せた(第百五十四話参照)ことがあるから大丈夫だろう。
私はゆっくり目を開けた。
「や やあ…… フローラちゃん。お世話になります」
「あひいぃぃぃぃぃぃ!!」
フローラちゃんはびっくりした後ずさりした。
パンチされないだけで良かったよ……
うおっ!? 分身君にハンカチサイズの小さなタオルが掛かっているが何コレ!?
何のつもりかわからないが、丸出しより恥ずかしい……
「あのフローラちゃん。また鼻血出てるよ……」
「えっ? あっ? も、申し訳ございません!」
フローラちゃんが慌てて洗面所へ行っている間にゆっくり起き上がる。
ああ…… もうお昼か。
彼女が来たということは、やっぱりモニカちゃんはお休みかな。
ぱんつを履く間もなく、フローラちゃんは戻ってきた。
「失礼しました…… シュン」
「大して謝ることじゃないよ。
それよりモニカちゃんは今日お休みなの?」
「いえ、給仕長と一緒に外へお使いに出かけました。
ぶーぶーと文句を言ってましたけれどね。うふふ」
「そういうことか…… じゃあ服を着るので新しい物を用意してくれないかな?」
「はい! かしこまりました! ニコッ」
朝のルナちゃんもそんなニコッと笑顔になっていたが、王宮メイドは意志が繋がっているのだろうか。
その間に分身君は萎み、今回のフローラちゃんはぱんつを履かせることから最後まできちんと服を着せてくれた。
さすが王宮の上級クラスメイドだねえ。
最近の私の普段着は白いブラウスに黒のスーツパンツに定着してしまい、王宮の部屋とマカレーナ共にまるでオ◯ケの◯太郎の服みたいに同じ替えの服がたくさんタンスに入っているのだ。
そのままフローラちゃんに案内され、昨日と同じ個室で昼食を取る。
食事は私だけでフローラちゃんは側でニコニコしながら控えている。
彼女と一緒に食事をしてみたいけれど賄い料理を後で食べるだろうし、お世話してもらってるからって誰でも馴れ馴れしくするのは良くない。
ましてあーんなんて……
昨日はこのテーブルを支えにモニカちゃんとエッチなことをしていたなんて、フローラちゃんは想像だにしないだろう。
淫らに乱れているよなあ……
清楚で純粋、目立つようなぱっちりした美女顔じゃないけれど、黒髪お団子頭が似合うフローラちゃんも将来は幸せになってもらいたい。
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食事が終わり、王宮前広場の隅で簡単な飛行機の点検をしていると、早くもヴェロニカは軍人さんが使うようなクロージングバッグを持ってやってきた。
服も私と同じようなブラウスとスーツパンツだし、国の王女様なのに相変わらず適当である。
セレスの屋敷で着ていたドレスはとても綺麗で似合っていたんだがなあ。(第百三十一話参照)
「マヤ、もう出発してもかまわんぞ」
「点検をしているから少し待ってくれ」
「わかった」
ヴェロニカはブスッとしていないが機嫌が良い表情ではない。
緊張しているような、何か思い込んでいるように見えた。
点検が済むと早速操縦席に乗り込み、数人の近衛兵だけが見送ってくれて離陸した。
離陸し五分ほどで巡航航行になったとき、それまで無言だったヴェロニカが口を開いた。
「おい、マヤ。マカレーナへ帰ったら、今晩十一時に私の部屋へ来い。大事な話がある」
「わかった。ここではダメなのか?」
「大事な話と言ったろう。操縦中に話すことではない」
「そうか。それは悪かった」
それからヴェロニカはまた口を閉じてしまい、何だか気まずい空気になってしまったので航行速度を速め、二時間弱でマカレーナのラウテンバッハへ到着した。
そこからまたヴェロニカを背負ってガルシア家の屋敷へ帰ったが、それからも最低限の言葉を交わすだけだった。
心なしか、ふんわりおっぱいから背中へ速い鼓動が伝わってきた。
(ヴェロニカ視点)
どうしよう……
ついに、マヤに言ってしまった。
だが後には引き下がれない。
――うううううう 私はどうなってしまうのだ。
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屋敷ではガルシア家のみんなといつものように夕食。
ヴェロニカは相変わらず表情を変えずに、静々と食事をしていた。
「王女殿下、陛下や王子殿下と久しぶりにお目にかかれて如何でしたかな?」
「ああ…… まあ…… うむ。久しぶりで良かった」
「そ、そうですか。ならば良かったです……」
ガルシア侯爵がそう質問したがヴェロニカの素っ気ない応答に困り、苦笑いをしていた。
私がフォローして飛行機のことや王宮の様子をガルシア侯爵の他家族みんなに話したら喜んで聞いてくれた。
その後パティの部屋でお茶会をして、彼女から主に自分のことを一生懸命報告してくれた。
大聖堂で行われている勉強は捗っているようである。
頭がいい子なので魔法記述の最適化もしており、将来が楽しみだ。
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午後十一時の十分前。
身体はお風呂で綺麗にしたし、ナニがあっても大丈夫。
こんな時間なのでパジャマのままで行こうかと思ったけれど、無難にいつものブラウスと黒ズボンでヴェロニカの部屋へ行くことにした。
大事な話ってなんだろうなあ。
いよいよ結婚のことについて本腰を入れるのだろうか。
それだったら王宮にいるときに女王とヴェロニカと私の三者で話せば良いこと。
わからん……
(ジュリア視点)
今晩もマヤさんと楽スい楽スい運動会。むふふ
下着は白いメッシュのシースルーだから、マヤさん喜びそう。
あああああ~ 今からうずきますぅ。
あれ? マヤさんが部屋から出ていっちゃいまスた!?
あれれれれれ? 今晩の私との運動会がああああ……
おトイレじゃないようでスね……
ついて行っちゃいます。
――あっちは王女殿下のお部屋がある方向。
あわわわわわ マヤ様が部屋へ入っちゃいまスた!
そんなあ…… 今晩はアレが無スでスかあ……
周りは誰もいませんよね……
ドア越しにちょっと聞いてみましょう。
――よく聞こえませんが、お茶会でしょうか。
マヤ様はいつもパトリシアお嬢様とお茶会をされているようでスが、今度は王女殿下ともでスか。
忙スいですねえ。
仕方ないでス。今晩はお一人様運動会をしまス。
(マヤ視点)
何かエッチな魔力を感じた気がする。まあいいや。
またヴェロニカの部屋の前に来てしまった。
よし、行くぞ。
コンコン「マヤです」
「入れ」
「失礼するよ」
ヴェロニカは前と同じく、小さい丸テーブルがあり椅子に腰掛けて脚を組み本を読んでいた。
お団子を解いて長い髪の毛を降ろしているのは初めて見る。
それに着ているものは、くすんだ黄緑色のシャツに、白いショートパンツだった。
脚はテーブルの陰になってはっきり見えないが、彼女の生足は初めて見るはず。
この前はブラウスとズボンだったのに、何故?
「あの……」
「な…… 何をジロジロ見ている。そうか、この格好か。
いつも寝るときはこれだ。夜にエルミラたちとお茶を飲むときもだ」
「ああ……」
なるほど、パジャマ代わりであれば不思議なことではない。
ビビアナもショートパンツと、半袖フリルトリムのかわいいシャツを着ている。
エリカさんなんて部屋ではパンツとブラだけが当たり前で、全裸になってることもしょちゅうだった。
「マヤ、お茶を入れてくれ。
そこの棚にカップとポット、カモミールの茶葉がある」
「味は期待するなよ」
私は魔道具のポットでお茶を沸かし、カモミールティーを入れる。
ポットの魔力が減っていたので、補充しておいた。
前はアマリアさんかパティが全体的に補充していたが、今はジュリアさんが補充することが多い。
お茶の点て方と入れ方はルナちゃんに少し教えてもらったけれど、基本的にパティやレイナちゃんたちの見よう見まねで覚えているだけだ。
だいたい誰かがお茶を入れてくれているから、一人の時にお茶を入れる機会なんて数えるほどだったので味の保証は無い。
「どうぞ」
「うむ」
――ヴェロニカはカップに口をつけ、音を立てずにスィッと飲む。
いくらヴェロニカががさつでも一応王女なので、お茶を飲む姿は優雅に見えた。
一口飲んだ後、フッと微笑んだ。
「ふぅむ、まだまだだな」
「そりゃ残念だ」
「もっと修行するんだな」
と言いつつも、二口目を飲んでいる彼女を見たらホッとした。
最初に出会ったときは凶悪な印象だったのに、本質的には今の姿なんだろう。
女王はアレだけれど、聡明で誠実なアウグスト王子、マイペースなマルティン王子を見ればそう悪い性格にはならないはずだ。




