第二百九話 愛の形
ゆうべはジュリアさんと楽しい運動。
彼女は朝食を作る仕事があるので、夜のうちに自室へ帰っている。
私がマカレーナにいる間、夕食後の日課はパティの部屋でお茶を飲んで話をすることが多く、そうでない時はランジェリーのデザイン画を書いている。
そして就寝する頃にはよくジュリアさんが私の部屋へやって来て、夜の運動会。
ビビアナとエルミラさんは思っていたより性欲が控えめで週に一度あるかどうか、どんなに多いときでも二度くらいだ。
ルナちゃんの話(第二百四話)を元に最近エルミラさんに聞いた話では、夜はヴェロニカに呼ばれて彼女の部屋でスサナさんとお茶会をしているとのこと。
もっとも、ヴェロニカは自分でお茶を入れないのでスサナさんかエルミラさんが入れている。
だから昨日私と話したときはお茶も何も無かった。
女友達が出来てそういうことをするようになったから、マカレーナからあまり離れたくないのだろう。
ガルシア家周りでも若い女の子の間では派閥というかグループが出来ており、戦闘組のヴェロニカ、スサナさん、エルミラさん。
メイド組のビビアナ、ジュリアさん、ルナちゃん。
魔法組のパティ、カタリーナさん、マルセリナ様という具合にうまいこと三人ずつに分かれている。
まるでRPGのパーティー編成をするのにこの中から選ぶみたいだ。
パティはよく大聖堂へ通って魔法の勉強をしていて、カタリーナさんは父上の仕事を手伝いながら時々大聖堂へ顔を出してパティと一緒に勉強をしている。
強力な光魔法を覚えてくれたら頼もしい。
前置きが長くなったが、朝の話に戻る。
ルナちゃんが朝早く起こしに来るのは変わらずで、早朝訓練は六時台から始まるから前の晩に寝るのが遅くなったらルナちゃんが来る前に目覚めることが出来ず、たたき起こされる。
(ルナ視点)
――朝五時四十分。
コンコン マヤ様の部屋のドアをノックして、ゆっくり開ける。
「――おはようございますマヤ様」
ああ 今日も起きてないかあ……
「マーヤさま マヤ様!」
いつものように掛け布団をはぐった。
うぷっ この匂い……
――そうかあ ゆうべも誰かと一緒だったのね。
昨日、お風呂へ入るときにジュリアさんと脱衣所で鉢合わせたけれど、すごくセクシーな下着を着けていたから、たぶんそうなんだろうなあ。
前にマヤ様に急な用があって夜遅く部屋へお邪魔しようとしたら、ドア越しにジュリアさんのあの声が聞こえてた。
ジュリアさんはとても優しいし大好きなんだけれど、あの時のジュリアさんの声はショックで自分の部屋へ戻ってしまった。
それからマヤ様の部屋へは夜中に行かないようにした。
お世話をしていてマヤ様の裸は見慣れているけれど、私は全部脱いだことが無い。
女の人は皆、男の人とああいうことをすると、ジュリアさんみたいになっちゃうのかな。
私も……
何だか少し怖くなってきた。
(マヤ視点)
「マヤ様! もう起きて下さい!」
「うーん…… ああ…… おはよう」
ノンレム睡眠の時に起こされてしまったから、頭が重い……
グラグラしてしている。
ゆうべはジュリアさんと頑張ってしまったからなあ。
「やっと目が覚めましたね。
今日も訓練をして朝ご飯食べて、すぐに飛び立つんですから忙しいですよ。
さあ起きた起きた!」
今朝のルナちゃんはしかめっ面だけれど、よく見る顔だ。
ただ寝坊をしているだけだったらそんな顔はしていない。
最初に王宮で滞在していたときから知っている。
きっと、私がジュリアさんたちとお楽しみをしていることに気づいていると思う。
もっとも、ガルシア侯爵もアマリアさんとローサさんのどちらかとお楽しみで、私自身も声を偶然聞いてしまった立場であるが……
この国の人たちの性に対する感性には不思議なところがあるが、何人の女性と行為をしようが一夫多妻がもはや国民性になっており、結婚していなくてもお互いがよく知ってる範囲の相手ならば少なくとも表向きには干渉しないということだろうか。
パティと最初に会った日、あんな少女がお嫁さんが多いのも男の甲斐性ですよと言っていたのも納得だが、彼女が焼き餅焼きなのは個々の性格だろう。
六人の奥さんがいるグアハルド侯爵は皆で一緒にお風呂へ入るくらいだし(第四十四話)、奥さん同士の関係も良いんだろうな。
ルナちゃんに布団から追い出されるように起こされ、トイレに行って顔を洗った後はパジャマを引っ剥がすように脱がされて、普通のカーゴパンツとシャツに着替えさせられる。
お風呂が部屋と別になっているガルシア家なので、ルナちゃんがマカレーナに来てからお風呂で洗ってもらうことが無くなり当然私がルナちゃんの前で裸になることは無い。
慣れっこになって着替えは淡々と済んで、性的に興奮するような雰囲気も無い。
ルナちゃんの気持ちの変化があったのかちょっと寂しいけれど、主人と従者の関係としてこれが正しいのだろう。
マドリガルタまでの連日飛行テストがある時ぐらい早朝訓練を休みたいけれど、いつぞや訓練中にヴェロニカかは……
「おまえ、いつも王宮に滞在しているときは何もやってないだろう。
わかるぞ、鈍っているのが。少しは身体を動かせ」
だってさ。
彼女は体育会系思考で、帰宅部思考の私にとっては義務感と惰性で訓練をやってる意味合いが強いからたまには休みたい……
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早朝訓練と朝食を済ませ、ヴェロニカを飛行機に乗せるため一度ラウテンバッハに向かいガルシア家の庭まで持ってくることにする。
玄関前からサッと飛んで出掛けようとしていた時、ヴェロニカに呼び止められる。
「マヤ、一人でどこへ行こうとするんだ?」
「ラウテンバッハから飛行機をこっちへ運んでくるんだよ」
「何故そんな面倒なことをする?」
「王女様に手間を取らせるわけにはいかないだろう?」
「おまえはまだそんなことを言っているのか。
私の身分など気にする必要無い。
ラウテンバッハに連れて行け」
「それはわかったから、その軍服を着るのはやめていつものブラウスにしてくれ。
目立ちすぎてしょうがない」
「そっ そうか…… 王宮に着いたときのためにと思ったんだが……
では着替えてくる」
マドリガルタからマカレーナへ来るときに一応軍服を持って来ていたんだろうが、滞在中は着ているところなんて見たことなかった。
たぶん王宮へ帰ってきたときに格好を着けておきたかったかも知れないが、あっさり着替えてしまうのはどっちでも良かったのかね。
ヴェロニカは僅か十分ほどでブラウスとスーツパンツに着替えて戻ってきた。
きっとルナちゃんが手伝ってくれたんだろう。
着替えシーンはどういう風になってるんだろうなあと妄想しかけたが、顔に出てはいけないので強引に頭から消した。
「ではよろしく頼む」
ヴェロニカを背負うのはアーテルシアとエリサレス戦でラフエルへ向かったとき以来だ。
むにゅうぅ
うわっ 私も生地が薄いブラウスだから、おっぱいの感触が背中へふんわり柔らかく包まれるように伝わる。
気のせいか前よりしっかり抱きつかれている。
そして後から吐息が首筋に当たり、ムズムズして感じてしまいそう。
金髪くっころ美女を背負ってるというだけでもファンタジーだよね。
ああ…… 対面になって抱きしめてみたい。
(ヴェロニカ視点)
うわわわわわわ……
マヤの背中!?
私が後から抱きついているということになる。
ラフエルへ向かうときに背負ってもらった時は緊急事態だったうえにあんな猛スピードで飛んでいたから、何も考える余裕が無かった。
今こうして背負ってもらうと、こんなに緊張するとは思わなかった……
男の背中って大きいな。
父上におんぶしてもらったことを思い出す。懐かしい……
――んん?
はぁぁぁぁぁぁ!!??
私はマヤの背中に思いっきり胸を押しつけているぞ!?
マヤはそれに気づいているのだろうか?
だとしても、マヤは将来の夫になる男だ。
これくらいは許してやろう。うむ。
ハァ…… ハァ……
ドキドキが止まらない。
好きな男に抱かれたらドキドキすると、昔母上が言っていた。
抱いているのは私だが、このドキドキする緊張感は戦いと違って心地よいものだな……
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(マヤ視点)
そんなむにゅむにゅのお楽しみも、ラウテンバッハへはものの五分足らずで着いてしまったので終了。
朝八時は開店していないのでフロント通らず直接格納庫前の広場へ降りた。
格納庫には整備済みの飛行機があり、早出出勤してくれたオイゲンとテオドールさんが待機していた。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「おう! マヤさんおはよう。
ん? そのべっぴんなお嬢さんは?」
「前に王都から連れてきたとある貴族のご令嬢でね。
王都から出たことがないからいろいろ勉強したいということでマカレーナに滞在されてたんですが、せっかく飛行機があるのでちょっとの間だけ帰省をされるんですよ」
騒がれると面倒だから誤魔化したけれど、オイゲンさんとテオドールさんだけなら王女様だって言っても良かったかな。まあいいか。
「それはそれは。でもまだテスト中だし、客席はまだ取り付けてなくて乗り心地悪い操縦席しか無いのにいいのか?」
「本人は承知してますから大丈夫ですよ。
彼女はなかなか根性があって、精神が鍛えられてますから。ねえ?」
「そ、そうだな。私は鍛えているのだ。ハッハッハッ」
「ほおう、頼もしいお嬢さんだな。
俺はこの工場の責任者のオイゲンで、こっちはテオドールだ。
強い女は俺も好きだぞ」
「私はヴェロニカだ」
「おう、よろしくな。
うちの国の王女様と同じ名前だよなあ。
まあいいや。マヤさん、早速飛行機を格納庫から出してくれ」
あ、本名を言っちゃった。
オイゲンさんはまさか王女様本人が工場に来てるなんて思いもしないだろうし、ヴェロニカもいちいち身分を明かしていないからこのままにしておこう。
ひかえおろうと言うのも気が引ける。
私はグラヴィティで格納庫から工場の広場へ飛行機を動かした。
車輪がついているので、私がいないときは馬数頭を使って動かしているらしいが、そうしなくても何とか動かす動力源がないだろうか。
飛行機からタラップを引き出しヴェロニカを先に上がらせ、続いて私も上がる。
下から、意外に大きくプリッとしたヴェロニカのお尻を眺めるが……
脚を曲げてスーツパンツのお尻がピチッとした瞬間私は見た。
おお! パンティーラインがくっきり!!
あれはきっとロベルタ・ロサリオブランドのレディースブリーフに違いない。
生地を厚めにしてあるから縁の部分も厚い。
レディースブリーフはあまりスーツパンツ向きではないんだが、ヴェロニカはそこまでわからないのかなあ。
私が直接言うと恥を掻かせそうだし、女王から言ってもらうしかないか……
ヴェロニカをコクピットに案内し、右の席へ座らせる。
また解体整備をするので、後の客席は取り付けていないのだ。
「マヤ、これはベルトなのか? どうやって着けるのだ?」
「ああ、やってあげるよ」
地球の旅客機同様、肩や股間にもかける五点式ベルトにしてあるので、装着は多少面倒になっている。
初めて見るヴェロニカにはわからないだろう。
体術訓練でヴェロニカの身体には散々触っているが、いつもエロい気持ちでやっているわけでなく本気でやらないと怪我をする。
だが今は緊張しながらベルトを装着しており、股間部分のベルトを引っ張ってるときは思いっきり股間を凝視してしまった。
肩の部分を取り付けるときは、腕がうっかりおっぱいに当たってしまった。
ヴェロニカの胸が出っ張りすぎるんだよっ
子供サイズのアイミにベルトを着けるときは何も気にならなかったがな。
(ヴェロニカ視点)
はあああっ そっ そこは!
マヤは一体どこを見ているんだ!?
――なっ 胸を触った!?
いや…… 正確には腕が擦れただけだが……
ぬぅぅぅぅ マヤはもっと気をつかえ!
私は一応女なのだぞ。
まさかマヤは私を女だと思っていないのではないか?
訓練の時にも…… ああっ 心当たりがあり過ぎだ!
(マヤ視点)
「じゃあ離陸…… いや、空に上がるけれど、リラックスしていてくれ」
「うむ…… わかった……」
それでもヴェロニカは緊張の糸が張り詰めている。
私は飛行機にグラヴィティを掛け、ゆっくり上昇する。
二十メートル上空で一旦停止し、風魔法を発動。
操縦桿を握り、旅客機並の加速でさらに上昇する。
一応神のアイミだけが乗ってるときならば遠慮無く戦闘機並みの加速をするんだが、最初は私も気持ち悪くなった。
「おお、マヤの背中よりは格段に楽ではないか。
もう(マヤの背中に)乗る必要は無いのだな。ハッハッハッ」
「いつも飛行機が側にあるとは限らないぞ。
何なら飛行機が長期整備中の時に王都まで三時間耐えてみるか?
ラフエルの時より風魔法を改良してあるから空気抵抗は楽になっているはずだがね」
「考えておく……」
ヴェロニカはあれがトラウマになっているのだろうか。
また理由を付けて乗せてやろう。うひひ
飛行機はあっという間に高度六百メートルほどの上空に到達した。
これより巡航航行に入る。
もっと高く飛ぶには機内の気圧と室温調整の対策をしなければならない。
風魔法の並列発動が大変なことになるし、研究が必要になる。
魔女に頼んだら作ってくれるのかねえ。
「ずいぶん高いところまで上がったな。
下に見える景色はまるで山に登っているようだ」
「へえ、ヴェロニカは登山をしたことがあるんだね」
「勿論だ。部隊の訓練で標高千五百メートルくらいの山なら登ったことがあるし、低い山ならいくつも登った。
崖上りはキツかったし時々猛獣が出てきたが、なかなか楽しかったぞ」
低い山だから大したことないと思っていたら、想像を超えていた。
日本の作られた道で登山するとは訳が違うってか。
彼女ならサバイバル生活になっても生きて行けそうだ。
昨日は一人で退屈だったフライトだったが、今日はヴェロニカとたくさん話せて有意義な時間になったと思う。
間もなく飛行機はマドリガルタの王宮へ着陸する。




