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第二百話 その後の日常 其の十七/楽しいデートが終わると

 ランジェリーショップ【アリアドナサルダ】にてモニカちゃんと買い物中、レイナちゃんたち三人と偶然出会うが、エステラちゃんがモニカちゃんの態度を良しとせずつっかかる。

 だがモニカちゃんの衝撃的な発言で返り討ちに遭ってしまい、エステラちゃんは半泣き状態で他の二人に連れられて行ってしまった。

 エレオノールさんのことといい問題が増えてしまったが、彼女とまた話し合う必要があるだろう。

 そして私がロベルタ・ロサリタブランドのデザイナーということがモニカちゃんにバレてしまうが、笑うどころか憧れのデザイナーということで羨望のまなざしを受けてしまった。

 買い物が済み、レジで会計を済ませるところである。


「いらっしゃいませ。あら、マヤ様。先ほどお嬢様たちがいらっしゃってたんですが、ご一緒ではなかったのですか?」


「ああ、さっき向こうでばったり会って少し話しましたから」


「そうだったんですか。お友達の様子が少し変でしたが、でもマヤ様の可愛い商品をご購入されてましたね。

 私もロベルタ・ロサリタブランドが大好きで今日も着けているんですよ。うふふ」


「それは光栄ですね」


 レジ係のいつもの店員さんはカロリーナ・アセベドさんといって、明るいブラウンのウェーブボブヘアで目がぱっちり、色白の可愛い女性だ。

 すでに結婚しているが子供はまだいない。

 旦那さんのために私がデザインしたエッチな下着を身に着けているのだろうか。

 見せてくれとは言えないが、私のぱんつで子作りの助けになるならば本望である。


「じゃあこれだけ会計をお願いします」


 私はモニカちゃんが持っていた買い物かごをレジカウンターにどすんと置く。

 モニカちゃんはすでに財布を用意しており、ニコニコしながら自腹で払う気満々である。


「まあ、ずいぶんお買い求めなんですね。ありがとうございます」


「大好きなモノに、自分で働いてもらったお金を使うって気持ちいいですよね」


 ふむ。なかなか立派な心がけだ。

 好きな物に自分のお金を使う喜びは私もわかるぞ。

 すると、レジの後ろにあるドアが開いてロレナさんが現れた。


「あらまあ、聞いたような声がすると思ったらマヤ様だったのね。

 もう新作が出来たのかしら?」


「あっ ロレナさん。今日は連れの買い物に付き合っていたんですよ。

 彼女はモニカ。王宮の給仕係です。

 モニカちゃん、こちらはアリアドナサルダの代表でロレナ・インファンテ様です。

 さっきのレイナちゃんのお母さんだよ」


 私からお互いの自己紹介をする。

 そしてモニカちゃんは深々とお辞儀をした。


「お初にお目にかかります。モニカ・ララサバルと申します!

 私、前からアリアドナサルダのランジェリーの大ファンなんです!」


「まあ嬉しいわ。こんな可愛い子なら何でも似合いそうね。

 それでマヤ様、さっきのレイナって……」


「あれ? レイナちゃんたち三人もここへ買い物へ来てたんですが、気づきませんでした?

 連れの友達の買い物だけだったみたいですが」


「娘が来ていたんですか? 奥の執務室いたからわからなかったけれど、今し方裏の縫製室に来たばかりだったからマヤ様の声が聞こえたんですよ。

 そう、お友達の買い物だったのね。

 レイナだけだったら試作品を使うことが多いから、買い物はわざわざここですることが無いですからね。ふふふ」


 なるほど。試作品のエッチなぱんつも履いているのかな。むふふ

 レイナちゃんは私がデザインした、前には小さなフリルが縞々になっているとても可愛いピンクの紐パンを履いてくれたのだろうか。

 見た目が幼くて清楚ながらも大人に背伸びしたい彼女が似合いそうなぱんつもイメージしてデザインしているのだ。

 レティシアちゃんにも似合いそうだな。


「マヤ様、また一人でニヤニヤして変なことを考えてるでしょ。

 お会計しちゃいますからね」


「あらら、こんなにたくさん。

 そうだわ! これ全部プレゼントしちゃいましょう!

 ロベルタ・ロサリタブランドの売れ行きが絶好調だから、還元するわ」


「そりゃすごい。モニカちゃん、貰っちゃいなよ」


 基本的にここは高級ランジェリーショップなので、全部合わせて銀貨五枚分はあるはず。

 だがモニカちゃんは少し考えた後、口を開いた。


「ありがとうございます。

 せっかくのお気持ちはありかたいのですが、私に全部払わせてください。

 自分で働いたお金を使って買い物をする喜びもありますし、この下着って職人さんが一つ一つ丁寧に作ってらっしゃるんですよね。

 どうせなら、職人さんのほうに還元してあげてくれませんか?」


「まあ素敵! 自分のお金で買い物したいという商品に対する思い、それから職人に対する心遣い。

 あなた、このお店の運営に向いているかも知れないわ。

 私のアシスタントになって勉強しながら働いてみるというのはどうかしら?」


 そうか! モニカちゃんならアリアドナサルダのスタッフにぴったりだ。

 私も、給仕をやるより向いてると思う。


「えぇ!? ああ…… ううん…… 私はそんな大それた者ではありません。

 せっかくの機会でごさいますが、今はマヤ様のお世話を一番したいと思っています。

 何年かして、気が変わったらまたお話しをさせて頂くというのは如何でしょうか?」


「わかりました。その気が少しはあるということね。

 私はここの店にいることが多いから、いつでも声を掛けて頂戴ね」


 ロレナさんは名刺を懐から出し、さらに自筆でサインをしてモニカちゃんに渡した。

 この国は日本のようにあまり名刺文化はないようだが、貴族の特に身分の高い人や大きな会社の経営者レベルの人からの証明書として存在している。

 徽章(きしょう)の代わりになるし、門番や警備隊なんかに見せてかしこまられてしまうアレだ。

 モニカちゃんが本当にランジェリー製作に関わりたい気持ちがあるなら応援してあげたいけれど、私の世話を一番したいだなんて嬉しいなあ。


「ありがとうございます。

 マヤ様がお屋敷を建てて、本当の立派な貴族になって見届けてからから考えさせて頂きます。

 今のマヤ様は心配で心配で……」


 モニカちゃんはドヤ顔でそんなことを言っている。

 私は貴族について意識が低いのは自覚しているから悔しくも何ともないうえに、モニカちゃんは王宮でしっかり教育されている給仕係だから教えてもらうことのほうが多い。

 今は名ばかりの子爵だから、本当の平和になったときのためにパティたちのためにも箔が付くようにしなければね。


「じゃあよろしくね。

 あなたに興味があるし、可愛いからランジェリーのモデルにもなれそう。

 お話だけでもいいから良かったら遊びに来てちょうだいね」


「はい!」


「デート中だったわね。お邪魔してはいけないから私は仕事に戻りますが、マヤ様とは改めてお話ししましょう。それでは…… うふふ」


 ロレナさんはレジカウンター後のドアを開けて執務室の方へ戻っていった。

 ニヤニヤと含み笑いをしていたのは今度来たときに何かありそうな気がするが……


「代表に目を付けられるなんて凄いですわね。

 本当、スタイルも良さそうだしモデルさんにもぴったりね」


「いやあ、モデルはさすがに恥ずかしいかな…… えへへ」


 レジのカロリーナさんもモニカちゃんを煽る。

 この世界にはまだ写真技術が無いので、ファッションショーとして舞台へ上がってランウェイを歩くモデルのことだ。

 観衆に見られるのはよほどのプライドを持ってやらないといけない。

 前にロレナさんから聞いた話では、ランジェリーのショーが行われることはまだ少ないが、販売促進のためにこれからどんどん展開して行きたいとのこと。

 もちろん男子禁制だし私自身がロベルタ・ロサリタという謎の女性デザイナー二人ということになっているので、ショーは見たことがない。

 ロレナさんが、機会があればこっそり見せてくれるそうで楽しみだ。むふふ


「ありがとうございます。またごひいきにどうぞ。うふふ」


 カロリーナさんまで含み笑いをしている。

 モニカちゃんはきちんと会計を済まし、お店を退出する。

 銀貨六枚と銅貨三枚も払っていた。

 日本円だと、六万円を超えている金額をランジェリーに使っていることになる。

 ブラとセットで銀貨二枚超の高級なものもあるが、モニカちゃんは「買っちゃった」感じのホクホク顔で紙の手提げ袋を持っている。


「お店に長居をしちゃったけれど、楽しかったあ!

 また今度連れて行ってくださいね」


「一緒じゃないとダメなのかい?」


「わかってないなあ、マヤ様は。

 勿論一人でも行くけれど、好きな人と買い物するから楽しいんですよ。

 それに私が選んでる時、マヤ様の顔をチラ見すると面白くって。アッハッハッハッ」


「ううっ やっぱり顔に出ていたのか……」


「一回洗ってからまた今度(下着を)着けているとこ見せてあげますね。にひひ」


「そりゃ楽しみだ」


---


 ヤンキー娘姿のモニカちゃんとシャツにスラックスという平凡な私は、商店会の通りを再び歩く。

 十九世紀ヨーロッパの街のような場所でこんな格好はミスマッチ過ぎると異世界転生アニメの視聴者が見ていたら怒られそうだが、ここはそういう世界である。

 現代ヨーロッパの古い街並みの観光地を想像してもらえばいいだろう。

 夕食にはまだ時間があるので目的は決まっていないが通りをぶらぶら歩く。

 途中、憲兵隊の詰め所があるので覗いてみたら、お昼前に絡んできたナントカ男爵はすでに釈放されており、先ほどのベテランおっさん憲兵隊員に聞いてみた。


「あの者はダリオ・サルダニャといいまして、後で調べましたところオリベラ侯爵の一門のようです。

 ご存じかと思いますがあまり良い噂を聞かない家系ですね」


「なるほど、わかりました。ご苦労様です」


 おっさん憲兵隊員は私に敬礼し、詰め所を後にした。

 未遂だったので事情聴取以外あいつはお咎め無しだが、貴族が問題を起こした場合は王宮にも情報が行くことになっているので当分は大人しくするだろう。

 サルダニャ男爵か…… ビビアナに喋らせたら面白いかも知れない。

 サルダニャだニャって言うのかな。


「その顔、今度はすごくつまんないことを考えてますね?

 わかりやすくて可笑しすぎますよ。ぷぷぷ」


「うう……」


「あいつのことが王宮で噂になると、そのうちオリベラ侯爵の耳にも入るんじゃないかなあ。

 恥さらしで粛正させるかも知れないけれど、貴族の間ではよくある話ですよ」


「へぇー、怖いねえ」


 シルビアさんを妊娠させてしまった自分なので背筋が凍る。

 それが周りに知られたらガルシア家とは縁を切られてしまうかも知れない。

 まとめてマカレーナのみんなとはさよならされてしまいそうだ。

 シルビアさんと女王との間での内輪で留めておかねばならないが、シルビアさんがシングルママということにして近いうちにパティたちには彼女と結婚することを話すつもりだ。

 その時は罪悪感に(さいな)むことだろうが、嘘も方便ということで乗り切ろう。


 夕食の時間まで丁度よさそうだから、商店街の通りにあってそれほど大きくない劇場であるが、喜劇ならモニカちゃんも良いということで行ってみる。

 な◯ばグランド◯月みたいなところで、役者さんが何人も出演しあまりセリフが無い身体を張ったギャグが多かったので頭を使うことがなく素直に楽しめた。

 ド◯フのコントを思い出したよ。懐かしいなあ。

 モニカちゃんも常に大笑いで、楽しんでくれたようだ。


 夕食は通りにあったルクレツィア料理のお店にした。

 ルクレツィア料理はセレスでサリ様とエリカさんとで食べて以来で、このお店でもラザニアはボロネーゼを美味しく食べることが出来た。

 モニカちゃんはルクレツィア料理を食べたことがなかったようで、目をキラキラさせながら食べていた。


「マヤ様ずるい! こんな美味しい料理を知っていたなんて。

 パスタのパエリアは王宮で食べたことがあるけれど、パスタの料理って本当はこんなふうに作っていたんだあ」


 モニカちゃんは大満足してくれて、いろいろあったけれど結果的に今日のデートは大成功だったと言えよう。

 お腹いっぱいになりモニカちゃんを背負って飛んで帰ったが、疲れてしまったのか飛んでいる間に私の背中で眠っていた。

 王宮の私の部屋へ戻り、モニカちゃんをそのままベッドへ寝かすが爆睡で全く起きようとしない。

 なので一人寂しくお風呂へ入る。

 お風呂から上がると、部屋にフローラちゃんが来ていた。

 私は一応ぱんつだけは履いて、バスローブの姿である。


「あっ マヤ様!

 ベッドでモニカちゃんが寝てるんですけれど、どうかしたんですか?」


「うん。疲れているだけだよ。それで彼女をどうしたらいいのかな?」


「この時間から寝ているんでしたら、朝早く起きると思います。

 このまま寝かせてあげて、明日の朝は早速仕事をしてもらいましょう。

 マヤ様。寝ている間、モニカちゃんにいたずらしちゃダメですよ」


「ああ…… うん、わかったよ」


 フローラちゃんは、私とモニカちゃんが身体の関係があるのを知っているのかどうかわからないが、寝ているところを無理してエッチなことをしても良くないからね。

 私を信用してくれているのならそれに応えなければなるまい。

 いや、フローラちゃんは私がいたずらしそうだからそんな注意をしたのか……

 まったく…… 私のことをよく見て研究しているよ。


 フローラちゃんは眠りに効果があるカモミールティーを入れてくれた。

 うーん、身体に浸みるように美味しい。


「それではマヤ様、私はこれで失礼します。

 モニカちゃんはとてもいい子ですから……

 おやすみなさいませ」


 フローラちゃんはそう言ってお辞儀をし、退室した。

 いい子ですから。この言葉を言った意味することとは何だろうか。

 少なくとも、友達だから大事だし心配していることは間違いない。


 シルビアさんからお呼びがかかり、モニカちゃんが寝ている間に女王へのお務めを果たしてきた。

 その後はシルビアさんの部屋でイチャラブを。

 自分の部屋に戻り、ベッドの上でスヤスヤと寝ているモニカちゃんを見ると、何とも言えない気持ちになった。

 さて、寝るか……


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