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第百九十九話 その後の日常 其の十六/確執

 モニカちゃんとデート中に寄ってみたランジェリーショップ【アリアドナサルダ】の本店で偶然に鉢合わせたレイナちゃん、レティシアちゃん、エステラちゃん。

 テスト最終日で学校が早く終わり、彼女らもお店に寄ってみたそうだ。

 その三人が急に現れ、彼女らを知らないモニカちゃんはやや不満げな表情をしていた。


「まあ! 王宮の給仕さんだなんて素敵なお仕事ですね。

 私はレイナ・インファンテと申します。」


 レイナちゃんは礼儀正しく、給仕のモニカちゃんに対してもカーテシーで挨拶をした。

 たぶん私の連れということで敬意を示しているのだろう。

 さすが、この国指折りの大貴族令嬢だね。


「インファンテって、あの……

 お嬢様にそのようなご丁寧な挨拶を頂いて恐縮です。

 王宮の給仕をやっております、モニカ・ララサバルと申します」


 モニカちゃんは深々とお辞儀をする。

 王宮の給仕をしているだけあって、さすがにインファンテ家については承知しているようだ。

 だが特に感情を込めてではなく、丁寧だが事務的である。


「わ、私はレティシア・パルティダと申します!」


「エステラ・ポルラスよ」


 レティシアちゃんは相変わらず緊張してかオドオドしながらペコリと頭を下げ、エステラちゃんは堂々と直立不動だ。

 平民相手で、普通の貴族ならばエステラちゃんの態度が普通なのだろう。

 モニカちゃんも最低限のお辞儀をする。


「それにしてもマヤ様、平民のような格好でどうなさったんですか?

 お連れの方も珍しい服ですが……」


 エステラちゃんが質問をする。

 やっぱりモニカちゃんのヤンキーファッションは珍しいのか?


「ああ。いつも彼女にはお世話になってるし、たまには一緒に出掛けてみようってね」


「ふぅ~ん、それってデートですよね。

 私たちには未だにお誘いがありませんが」


 それを聞いてモニカちゃんは黙ってドヤ顔になる。

 モニカちゃんの表情を見たエステラちゃんは僅かに表情が険しくなった後、私の顔を見て微笑んだ。

 これから何かありそうな気がしてならない。


「それはそうと、マヤ様がこちらにいらっしゃるということはご視察ですか?」


「そういうわけではないけれど……」


「見たところ、ロベルタ・ロサリタブランドの新作が随分増えていますね。

 これなんてすごく可愛いわ」


 エステラちゃんは近くにあった薄いピンク色のぱんつを両手で掲げる。

 フルバックであるが、前の方は繊細な透かし彫り模様のレースで、私の自信作だ。

 草が隙間から飛び出るので、履くには草原をきちんと手入れしておく必要がある。

 ……エステラちゃんが履いているのを想像してしまった。


「さすがマヤ様のデザインね。これ、買っていこうかしら。私に似合う? うふふ」


 あちゃあ…… 言っちゃった。

 それを聞いてモニカちゃんはキョトンとした目をしている。


「あのマヤ様? 視察とかデザインって?」


「うっ それは……」


 モニカちゃんはエステラちゃんが言っていることについて訳がわからず、私の腕を(つか)んで何度も引っ張るように質問をした。


「あら、ご存じないのかしら。

 マヤ様がロベルタ・ロサリタブランドのデザイナーなんですよ。

 それにこのレイナのお母様がアリアドナサルダの経営者で、あるきっかけでマヤ様のデザイン画に見初められてしまってからという話よね? レイナ」


「えぇぇぇぇぇぇ!!??」


 当然モニカちゃんはびっくりしている。

 あるきっかけって…… レイナちゃんはエステラちゃんにどこまで話したんだ?

 もしエステラちゃんが聞いていたら大笑いされそうな出来事だった。

 下半身裸をレイナちゃんたちに見られながらセクシーぱんつや象さんぱんつを試着させられて、私がそれらのデザインに納得いかなくて地球で見たことあるぱんつを思い出してデザイン画を描いたんだ。(第九十八話)

 女性向けのふんどしショーツもその時に描いたっけ。


「確かにお母様は、マヤ様のデザイン画に恋をしたかのようでしたわ。

 それでこんなに素晴らしくて、女性のことも考えてくれている下着がたくさん出来上がりました。

 マヤ様はこの国の下着の革命家なんです」


「革命家だなんてそんな大げさな……」


 まあ、シルビアさんを始めふんどしショーツはとても履き心地が楽だからという理由で、この国の女性にとても好評らしい。


「ひえぇぇ…… ロベルタ・ロサリタの正体がマヤ様だったなんて……

 どうして今まで教えてくれなかったんですか?」


「デザインを描き始めた頃にそのことをガルシア家のみんなに話したらエリカさんに大笑いされてしまってね。

 それだけが理由じゃないんだけれど、限られた人にしか私がデザイナーだということを教えていないんだよ」


「私は笑いませんよ! エリカ様も酷いですねえ……

 ロベルタ・ロサリタのランジェリーが可愛すぎて、私大ファンなんです!

 まさかこんな身近だったなんて…… ふぁぁぁぁ……」


 モニカちゃんは目を星のようにキラキラさせながら、両手で私の掴んで大きな胸を押しつけるようにひっついている。

 うひょひょ。何度も生で触っているとはいえ、薄いシャツだから柔らかい感触がよくわかるのは私の助平な心をくすぐる。

 それを見たエステラちゃんは本当に表情が険しくなり、ギロッとした目でモニカちゃんを見ていた。

 うわあ…… とうとう始まってしまうのか?


「ちょっとあなた。王宮の給仕という立場をわきまえて欲しいわね。

 いくら仲良しでも人前でそんなにベタベタくっつくのは度が過ぎるわ」


「えー 今日は休みで自由にしていいし、私的な時間で好きな相手にこんなことをしても注意される決まりは王宮にありませーん。

 それに私たちは相思相愛なんですーぅ。

 あなたこそマヤ様の何なのですか?」


 そういうことか。だがお店の中でやめて欲しいから、適当なところで止めよう。

 それにしてもモニカちゃん、貴族令嬢相手に言うなあ。

 レイナちゃんとレティシアちゃんは、二人してはわわわわの状態でどうして良いのかわからないようだ。

 確かにモニカちゃんの言うとおりで、エステラちゃんはモニカちゃんの態度を見て当てつけているだけだ。


「私もマヤ様のことが好きよ。愛しているわ。

 気持ちだって伝えた。

 私の部屋で下着姿を見て頂いたことだってあるんですよ」


 うげっ なんてことを言ってるんだ。もう止めないと。


「ちょっとエステラちゃんったら…… いつの間に?」


「はわわわわ……」


 レイナちゃんとレティシアちゃんは止めようとせず、むしろ話の内容が気になっているようだ。

 ここの二人からも私に対して好意を寄せられており三人同士で妬いている様子は無いが、エステラちゃんの行動に動揺しているのだろう。

 一夫多妻制においてこの国の貴族女性は、仲間内で一人の男性を好きになるのはさほど問題にならないが、相手が知らない女性であれば酷く嫌がる傾向がある。

 今日のモニカちゃんとのデートの理由もエレオノールさんとのことだし、私がラウテンバッハのアンネさんと歩いている時の、パティの反応もそうだった。


「そう。私はもう何度もマヤ様に身体を捧げていますよ。

 お風呂でもマヤ様を洗って差し上げてますが」


「なっ…… ぐぬぬ」


「おっ お風呂ぉ!?」


「はわわわわ……」


 モニカちゃんは全くめげずに言い返す。

 露骨なエッチしちゃいました宣言はやめてくれ……


「モニカちゃん、もうやめなさい。大人げないぞ」


「はーい」


「エステラちゃんもお店の中でそういう話をするのは良くない。

 話はまた今度聞くからね」


 エステラちゃんは半泣き顔で歯を食いしばっており、それをレイナちゃんは察するようにエステラちゃんの手を繋ぐ。優しいなあ……

 女の子同士の親友って憧れるね。


「エステラちゃん、お二人はデート中なんだからお邪魔をしてはいけないわ。

 マヤ様がそう(おっしゃ)ってるからまたにしましょ。

 それではマヤ様、私たちはこれで失礼します」


 レイナちゃんとレティシアちゃんはペコリとお辞儀をして、半泣きのエステラちゃんを真ん中にレティシアちゃんも手を繋いでレジの方へ向かって行った。

 さっきエステラちゃんが手に取って持ったままの薄いピンクのぱんつを売り場に返さず、しっかりと精算するところがちゃっかりとしている。


 やれやれ…… また問題が出来てしまった。

 レイナちゃんに言ってお茶会を開いてもらうか、それともまた夜中にエステラちゃんの部屋へお邪魔するか……

 いずれにしても早い方がいいな。

 とにかく今日はモニカちゃん優先の日だからデートに集中しよう。


「ふん。マヤ様はたくさんの女の子と仲良くなり過ぎ」


「そう言われると耳が痛いが、私から声を掛けたわけではないのにどんどんと縁があるんだよ」


 それはサリ様の力のせいだとわかっている。

 基本的にきっかけを作ることがサリ様の力なので、その先は本当に私のことを好きでいてくれている女性ならば、サリ様の力と関係なく余程のことが無い限り離れていくことはないそうだ。

 みんなの心が真実だと信じたい。


「ふーん、そう。

 それはそうと、あの子はきっと自分で思っているより純情ですよ。

 背伸びしたいお年頃なんでしょうね」


 モニカちゃんはエステラちゃんの一つ上だけのはずだが……

 まあいろいろビッ◯な経験があるから言えるんだろう。


「……何か失礼なことを考えてませんか?」


「いや、何でもないよ。買い物の続きをしようか」


「むっふっふ。そうですよねえ。

 マヤ様がこんなに可愛いぱんつをデザインしてるなんて、すごく嬉しい。

 これなんて…… ふわわわ…… こんなに前が細くて…… 見えちゃいそう」


 モニカちゃんが手に取ったのは、色は黄色で一見レースで飾ったのTバックのようだが、前の方が細めのTフロントショーツである。

 Tフロントハーフバックというのも作ってみたぞ。

 前に女王が真っ赤なTフロントハーフバックを履いていてすごくエロかった。

 ちなみに男性用もあって、前は細めだがボールをきちんと覆うようになっている。

 ……私は履かない。


「うーん、これも可愛いなあ」


 次に手に取ったのは、薄いピンクで形は腰の部分が若干太めな普通のローライズショーツだが、肝心な部分以外はレースが薄いのでとてもセクシーだ。


「これはちょっとオバサンくさいかな」


 次はレースをふんだんにあしらった薄いベージュのローライズショーツだが、シルビアさんやアンネさんをイメージしてデザインしたので、モニカちゃんから見てオバサンくさいのは仕方がない。大人のぱんつである。

 だが私はこのようなぱんつが最も美しくセクシーだと思っている。

 ぱんつは丸出しで見せるものではないのだ。

 チラリズムと恥じらいを兼ね揃えたぱんつが最高なのだ。


 セクシーショーツばかりではない。

 下半身に優しいふんどしショーツを始め、ご老人向けの失禁対応下着もロベルタ・ロサリオブランドで販売を始めた。

 これも大当たりのようで、高齢の貴族は大喜びと聞いた。

 もっと安く作って、庶民にも普及させたい。

 あれよあれよという間にモニカちゃんが持っている買い物かごは、ぱんつと上下セットのブラがいっぱいになっていた。


「さてと、このくらいでいいかな。

 ロベルタ・ロサリタのぱんつをコレクションしたくなっちゃった。

 マヤ様、もっとたくさんデザインして下さいね。うっひっひ」


「じゃあモニカちゃんが一番似合いそうなデザインを考えてみるよ」


「本当ですかあ!? すごーい! うれしい!」


 モニカちゃんみたいなギャルっぽいぱんつはイメージしやすいので、サテンや豹柄虎縞、黒ピンクなど、実は既に彼女を参考にした物がいくつか商品化されている。


 レジで精算するときは隠れようと思ったけれど、もうモニカちゃんにバレてしまったのでその必要がなくなったから私も一緒にレジへ向かった。


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