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第百九十八話 その後の日常 其の十五/ぱんつの買い物

 裏通りのファーストフード店から歩くこと十数分。

 さすがに王都だけあって商店街の広さはマカレーナやセレスとは別格だからお店の連なりが途切れない。

 飛んでいけば速いのだが、腹ごなしのためと食後のモニカちゃんが空酔いするかも知れないのでやめておく。

 私も飛行機に乗ったときは離着陸の時にちょっと気持ち悪かったからね。


 モニカちゃんは私の片腕を組んでくっつきながら歩き、私は腕に当たっているモニカちゃんの横乳の感触を楽しみながら歩き、とうとうアリアドナサルダの前に着いてしまった。

 私は店の前でボーッと立ち止まったが……


「私と一緒だから大丈夫ですよー

 そんなDTみたいな反応しなくていいですから。ふひ」


「ああ…… うん」


「男性の下着も売ってるんですから、男性一人のお客さんも見かけますよ。

 さあ入った入った」


 モニカちゃんは私を後押しして強引に店へ入れられてしまった。

 まあ、うん…… みんな知ってるんだけれどね。


 広い店内を見回すと客入りは上々のようで、貴婦人を中心に二十歳前後の可愛い女の子たちも見かける。

 おどおど挙動不審の貴族男性もいたので、女性中心の商品が多いこの店には男性にとってまだハードルが高いのかも知れない。

 男性向けの商品をもっと増やした方がいいのかな。

 レジにはいつもの女の子がいるけれど、私が平民っぽい格好をしているせいなのか幸い気づく様子は無さそうだ。

 会計をするときはモニカちゃん一人にさせよう。


「マヤ様、あっちへ行きましょう」


 モニカちゃんに手を引っ張られ連れて行かれたところは私のデザインではないアリアドナサルダブランドのブースであるが、日常用ではなく紐パンやTバックなどセクシーな下着が売れている。

 穴あきぱんつや完全なシースルーなどジョーク的な下着はそれ専用のブースがあるのだ。

 モニカちゃんは目をキラキラさせながら売り場を見渡し、専用ハンガーに掛かっている気に入った下着を手に取って見ている。


「キャー、これ可愛い! あっ これも可愛いかなあ」


 モニカちゃんが見ている下着は黒いレースのTバックで、どちらかと言えば可愛いというよりシャープに洗練された格好いいデザインなんだが、日本の女性も同様に何でも「可愛い」と言ってるのがよくわからない。

 まあ良い物を可愛いと表現しているだけだと思うので、深く考えるのはよそう。


「ねえマヤ様、これ私に似合う?」


 モニカちゃんが見せたのは、股間の部分が蝶をあしらったデザインのTバックで、色は白い。


「うーん、モニカちゃんは色白だからなあ。

 このデザインが目立つには、せめてこの薄いピンクか、濃い色や黒がいいかな」


「さっすがマヤ様! ぱんつの博士みたいじゃないですか。うっひっひ」


 しまった! いつもデザインを考えている調子で語ってしまったから早くもモニカちゃんに笑われた。

 自重しなければいけない。

 結局モニカちゃんはその蝶のぱんつの薄いピンクと黒を選んだ。


「はい、これ持ってて下さいね」


「ああっ」


 蝶のぱんつ二着を差し出されたので、私も自然に受け取ってしまった。

 女の子の買い物かごにされている私……


「あっ 今度あそこへ行きましょう。マヤ様のセクシーなぱんつを…… ふひひ」


「ええ? 今日は買わなくていいよ……」


「私が選びたいんです。にっしっし」


 モニカちゃんはどうしても私のぱんつを自分で選びたいようで、男性下着ブースへ強引に連れて行かれる。

 すっかりエリカさんの色に染められ、今の私より歳が三つ下なのに男に飢えたお姉さんのようだった。


 そして男性下着ブースに着いたが……

 私もたまにここで買い物をするので見慣れているから今更なんだが、素知らぬ顔でやっていこう。


「しゅ…… しゅごい。

 この売り場に来たのは初めてだけれど、女の子の下着売り場よりエッチだね……」


「そりゃ女の子の視点から見たらそうかもしれないけれど、男から見たら普通だよ」


「いやいや、あれ象さんですよ象さん!

 アレなんて紐と袋だけじゃないですか!

 こっちのは股間部分が膨らんでるだけの、レースのぱんつでしょ!

 マヤ様、アレが普通だなんて麻痺してませんか?」


 モニカちゃんは人差し指でエロ下着コーナーを指して驚いていた。

 確かにアレはエッチだけれど、それじゃない。


「あっちを見てたんかい!

 私が言ってるのは、こっちにある普通のブリーフやトランクスだよ」


「あー ははは。つい刺激的なものが先に目に入っちゃって……」


「はぁ…… で、モニカちゃんはどんなのがいいの?」


「象さん……」


「履かないよ。こっちの普通のやつがいい」


 モニカちゃんは口先を尖らせながらシュンとした表情で下を向く。

 アレはエロ下着というより、使用が限定的なジョーク商品だぞ。

 エッチの前に履き替えるだけの物だ。

 もし外へ出掛けたまま象さんパンツを履いていて、公衆浴場へ入ったり何かの事故でズボンを降ろさないといけない状況に(おちい)ったらお笑い(ぐさ)だ。

 モニカちゃんはめげずに普通の男性下着コーナーでモソモソと探し出す。

 おっ 何か見つけたようだ。


「じゃあこれ」


 あ… これは私がデザインしたボクサーブリーフだ。

 股間と尻の割れ目以外はメッシュになっていて通気性も良くセクシーである。

 ちゃんとロベルタ・ロサリタブランドのロゴも入っているぞ。


「まあ、それならいいかな」


「へへーん、決まりぃ。他にもっといいのが無いかなあ」


 まだ探すのか。

 しばらくボケーッとしながら待っていると、モニカちゃんが持って来たのは縞々メッシュのボクサーブリーフ。

 微妙に見え隠れしているように見えてこれもセクシーだ。

 それからもう一つは、股間だけガードするOバック。

 これはセクシーを売りにするよりスポーツ向けにデザインした物だ。

 恥ずかしかったら上にトランクスを履けばいい。

 トランクスだけだとブラブラ安定しないからな。

 どちらもロベルタ・ロサリタブランドだ。


「それもいいよ」


「へぇ! 意外。こんなエッチな下着なのにあっさりOKするなんて」


「それは戦闘向けのインナーだよ。騎士団の人たちに人気らしいね」


「え? 何でそんなこと詳しいんですか?」


「あ…… ああ…… ちょっとね。王宮で小耳に挟んだんだよ」


 ヤバいヤバい。またうっかり喋ってしまった。

 実際、王宮の訓練所で兵士同士が話していたのを偶然聞いてしまったんだよ。

 私の商品がこんなところで役に立っているなんて光栄だ。


「じゃあこれも持っていて下さいね」


 再びモニカちゃんからぱんつを受け取る。

 他にもビキニパンツやTバックなどセクシーな下着を手当たり次第持って来たようだ。

 トランクスはダサいと言って一切無く、私にはこんなぱんつを履いていて欲しいのか。

 彼女もなかなか男性の下半身に興味津々なのだな。

 私がデザインした男性用下着でも私自身全部が全部実物を持っているわけではないので、この機会に手に入れておくのもいいだろう。


「次は私の本命、ロベルタ・ロサリタのブースへ行きますよぉ」


 ああ…… とうとう行くのか。

 ルンルンで歩くモニカちゃんの後を、私はぱんつを買い物かごに入れて歩く。

 知ってる店員さんに見つからなければいいがなあ。


---


「わぁぁぁぁ!

 久しぶりに来てみたけれど、新作がずいぶん増えてるぅ!」


 モニカちゃんは目をキラキラさせて、展示されているロベルタ・ロサリタブランドのぱんつを眺めていた。

 そりゃ頑張ってデザインしましたよ。

 定期的な収入といえばこれしか無いし、ルナちゃんを養わなければいけないし、飛行機がテストで壊れちゃったし。

 モニカちゃんは夢中になって新作ぱんつを漁っている。


「へぇ~ 女の子の日でも安心のぱんつなんだね。これ何枚か買っとこっと」


 ふむ。これは地球でいうサニタリーショーツというやつだ。

 日本にいた時の彼女が持っていたんだが、じっくり観察したわけではない。

 デザインするには想像の部分が多かったが、ロレナさんが言うにはかなり好評らしい。


「あれ可愛い! これもいいなあ! うーん、これはエッチ過ぎるかなあ」


 もう手当たり次第、気に入ったのを私が持っている買い物かごへ放り込んでいる。

 おいおい…… 夕方までデートするのに大荷物になるじゃないか。

 ここへ預けておけばいいんだが、レジの子に顔バレしちゃうなあ。


 そんなところへ、きゃいきゃいと女の子たちの声が聞こえる。

 私のぱんつを買いに来てくれたのかな。嬉しいねえ。

 ……あれ? 聞き覚えがある声のような。


「あっ マヤ様ですよ!」


「はわわわっ」


「ふぅ~ん、デザイナーさんご本人が販促(はんそく)なのかしら。ふふふ」


 後の方からやって来たのは、レイナちゃん、レティシアちゃん、エステラちゃんの三人だった。

 あぁ…… 終わった。

 彼女らは可愛い制服を着ているが、今日は平日なのに学校が早く終わったのか?


「や、やあみんな。学校帰りにしては早いけれど、どうしたの?」


「ええ、今日はテストの最終日でお昼までだったんです。

 それでテスト開けの気晴らしにみんなでお店へ寄ってみたんですよ。

 まさかマヤ様が偶然にもいらっしゃるなんて、感激ですぅ!

 あら? こちらの方は?」


 レイナちゃんはあたふたと喋りながらモニカちゃんの存在に気づく。

 王宮のパーティーの時にでもお互い見かけているかも知れないが、直接では初顔あわせになる。


「ああ、紹介するよ。

 私が王宮で滞在中に専属でお世話をしてもらっている給仕係のモニカさんだ。

 今日は彼女のお休みなので食事や買い物に付き合っているところだよ」


 突然女の子が三人登場して、モニカちゃんはデートを中断されてしまったと思っているのか、やや不機嫌な表情をしている。

 今日はモニカちゃんのための時間なので、この子たちとは長居をするわけにはいかない。

 また日を改めてゆっくりお茶会でもしたい。


「その後の日常」が続いていますが、もう少しだけお付き合い下さい。

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