第百九十七話 その後の日常 其の十四/モニカちゃんと昼食
スケベ男爵に絡まれて少々嫌な思いをしたが、気を取り直してモニカちゃんに服を買ってあげてこれから食事をしようと思う。
「モニカちゃん、お昼にはちょっと早いけれど何か食べたいものあるのかな?」
「マヤ様、私もう決めているお店があるんです。そこへ行きましょう!」
「へぇ~ じゃあそうしようか」
通りを歩くこと五分余り。
モニカちゃんが案内してくれたのは本通りから一つ裏の通りにあるファーストフード店だった。
あまり庶民が使わない商店街でもこんなお店があるとは知らなかった。
「ここ、ここ! 私、たまに行くんですよ」
「デートなんだからもっといい店でもいいのに」
「王宮の賄い料理ってマヤ様たちが食べてる料理の余った材料で作ってることがよくあるから、私たちもそれなりにいい物を食べてるんですよ。
だからこういうチープなジャンクフードをたまに食べたくなっちゃってね」
「なるほどねえ。私も久しぶりに食べてみたいな」
「でしょー! 早く入ろう!」
モニカちゃんは私の手を引っ張って店の中へ入った。
王宮の給仕係は国の中でも最上級クラスの職種なので食事の待遇も良いのだろう。
女王の厚意とは言え、将来そういう子たちを私が引き取っていいのだろうか。
すでに第一号でルナちゃんを引き取っているが……
さて、時間が早いのでまだ混んでおらずカウンターですぐに注文をする。
カウンターの上には地球のファーストフード店のように、メニュー写真の代わりに絵が何枚も描かれており、とても美味しそうに見える。
主にパンに何かを挟んだものやフライドポテト、ジュースの絵である。
店員さんはブラウンの髪の毛でポニーテールをしている綺麗なお姉さんだ。
ニコッとスマイル0円に見とれてしまい、モニカちゃんがそれに気づいて肘で小突く。
私は顔に出やすいので気をつけねばならない。
「えっとじゃあねえ、5番と27番と89番を二つずつ、それから3番と8番と32番、あとー51番と53番、60番と72番も食べたいな」
「はい、ありがとうございます」
モニカちゃんは手慣れたようにどんどん番号を言い、お姉さんはその番号をサラサラッとメモをする。
カウンターにはメニューの表があり、なんと百種類以上のそれぞれに番号が振ってあり番号で注文するようだ。
パンに挟む物の種類がかなり豊富なんだが、それにしても……
「ねえ、そんなにたくさん頼んで食べられるの?」
「ここはですねー、小さめのパンなのでたくさん頼んで味わうんですよ。
すっごい美味しいのを私が適当に選んじゃいましたー てへ」
「そ、そうか……」
そんなことを言っている間に、前会計でお姉さんの計算が出来たようだ。
複雑な計算では無いが、電卓もそろばんも無いのにお姉さんの暗算が速いぞ。
「それではお会計ですが、銅貨五枚と賤貨三枚でございます」
「はーい」
モニカちゃんは薄いピンク色の小袋から言われたとおりのお金をスッと差し出す。
ジャンクフードを頼んで二人で銅貨五枚を超えるってけっこう高いな。(※五千円相当)
三枚で収まると思っていたが、さすが高級商店街だ。
「あの…… 私が払うよ」
「大丈夫ですっ 私のお給料はそんなに安いわけじゃないですから余裕ですよ。
いつもお世話になってるし」
「お世話はされてるけれど、私は何か世話をしたっけ?」
「そんなことどうでもいいじゃないですか。
さっ 早く席に着きましょう」
モニカちゃんは注文の番号札を受け取って、私を押し出すようにしてホールの席へ移動した。
日本では男が全額払って当たり前だとか割り勘にすべきだとかテレビやネットで日々論争が繰り返されていたが、こんな若い子が潔く払ってくれるのは心にずいぶん余裕があるんだろうね。
益々以てすげえいい子……
周りに見える客層は良く、貴婦人のグループが生ハムパンやフライドポテトをほおぱっているのがミスマッチで面白い。
あそこの太った貴族男性は唐揚げをつまみに昼間からビールで一杯やっている。
美味そうだな……
丸いテーブルの席について、モニカちゃんはニコニコしながら待っている。
改めて彼女の顔を見てみると、すごい金髪美少女なんだよなあ。
ギャルだろうがヤンキーだろうが何でも服が似合う。
「ん? 私の顔をじっと見てて、マヤ様は私のこと惚れすぎでしょう。にひひ」
「ああ、惚れすぎてチーズ生ハムサンドのようにとろけそうだ」
「あははっ なーにそれ!」
そんな他愛ない会話をしながら待っていると、さっきのお姉さんが食事を持って来た。
「飲み物と、先に出来上がった物をお持ちしました」
オレンジジュースとフライドポテトを二人分、それから予言したかのようにチーズ生ハムサンドと唐揚げ野菜サンド、すき焼きっぽいものが挟んであるものが来た。
給食のコッペパンより小さいが中身が結構ボリュームあって、後でもっと来るのに全部食べられるのかと心配になってきた。
「マヤ様、この店の甘ダレ肉サンドがすごく美味しいですから食べて下さいよ」
モニカちゃんに勧められるがままに、まず最初にそれを頬張った。
おお! 牛肉に甘酢みたいなタレが掛かっていて、日本で食べたことがあるような懐かしい味がする!
「モニカちゃん、これすごく美味いよ! ハマるよこれ!」
「でしょう! 前にお店で頼んで私もハマっちゃってねー」
ジャンクフード大好きな団塊ジュニア世代のおっさんにはたまらないメニューだ。
日本食をずっと食べていないけれど、この世界の食べ物が何でも美味しすぎて口に合うから困っていない。
でもそろそろ白米、味噌汁、焼き鯖を食べたくなってくる……
モニカちゃんはチーズ生ハムサンドのとろけるチーズをびよーんと伸ばしながら頬張っていた。
「チーズがとろけるほど惚れているのはモニカちゃんのほうだったか」
「チーズと私、どっちがすごくとろける?」
「そりゃモニカちゃんの…… おっと、こんな場所で何を言わせるんだ」
このまま喋ってるとただのバカップルだ。
たしかにとろけるのはモニカちゃんとのキスだよなあ。うへへ
「マヤ様が変な顔をしてるぅ。
またむっつりスケベなことを考えてますね?」
「あいや、モニカちゃんとの食事がたのしいなーって……」
「いつものようにニヤニヤいやらしいことを考えている顔でしたよ」
「ああ……」
はあ…… 顔に出るのは本当に気をつけないとな。
ポーカーフェイスが出来るやつが羨ましい。
そんなしょーもないことを言っているうちに食が進み、残っていたメニューをお姉さんが持って来た。
「注文の品はこれで全てです。追加がございましたらカウンターでお願いします」
追加って……
テーブルの上は◯◯サンドの山になっているが、追加どころじゃない量だ。
モニカちゃん、調子に乗って頼みすぎだろ。
「さあさあドンと食べて下さいよぉ。みんな美味しいですから」
「うー、全部食べられるのかな」
グリルチキンサンド、ベーコンマヨサンド、チョリソーサンド、ニンニクポークサンド、ツナマヨトマトサンド…… どれも美味そうだな。
なんだこれ、クリームサンドクッキーをさらにピーナッツバターとパンで挟んでるぞ。
何だかんだで予想以上に美味くて腹の中にどんどん入り、モニカちゃんもガツガツ食うもんだから完食してしまった。
「ふぃー 食べた食べた。マヤ様、もっと何か食べます?」
「ううっ もういいよ。十分食べた
モニカちゃん、こんなに食べて太るの気にしないの?
すごいカロリーだよ」
「大丈夫でーす。私太らない体質ですから。
あっ マヤ様が大好きなここは大きくなるかもねー ふひ」
そう言いながらモニカちゃんは両手で自分のおっぱいをゆさゆさと揺らしていた。
お店がだんたん混んできて人目があるからそういうのはやめてくれ。
本当に、エリカさんそっくりだな……
「あっ」
「どうしたんですか?」
「今またこのペンダントからエリカさんの魔力が微かに感じたよ。
私も仲間に入れろって、そんなことを言ってる気がした」
「前にもそんなことがあったけれど……
今日は私には何も感じなかったなあ。
不思議なことがあるもんですねえ」
「エリカさんがアスモディアの魔女から貰ったらしいけれど、もう一度魔女に会ってこのペンダントがいったい何なのか尋ねてみたいね」
「……エリカさんに会いたいなあ」
「現実を話すと厳しいけれど、魔族の魔法にも人を生き返らせるものは存在しないってエリカさん自身から聞いたよ。
教会の大司祭様も、大けがを治すのが精一杯だそうだ」
「そうですか……」
暗い話になっちゃったな……
せっかくのデートだから明るく楽しくやっていきたい。
「そろそろ出ようか。次はどこへ行きたい?」
「腹ごなしに、ちょっと遠いけれど歩いて……
アリアドナサルダへ行きたい!」
「えっ ええ? そこは……」
「ええ? 何でですか? マヤ様はぱんつ大好きでしょ?
カップルで下着を買いにランジェリーショップへ入るなんて今時珍しくないですよ」
「うっ」
モニカちゃんは、私がアリアドナサルダでロベルタ・ロサリオブランドの下着をデザインしていることを知らない。
知られたら大笑いされてしまうだろうなあ。トホホ……




