第百九十五話 その後の日常 其の十二/モニカちゃんとの初デート
あれから半月余りが経った。
今回もまた月に二度のペースでマドリガルタへ出張である。
本来シルビアさんに会いに行ったり、アリアドナサルダのロレナさんに下着の新しいデザイン画を届けたりする目的なのだが、どうも女性のご機嫌取りのために行っている気がする。
到着した初日はシルビアさんの体調を伺い、アリアドナサルダで用事を済ませた。
そして今日はモニカちゃんとデートをする日で、彼女は今日が休み。
従って起こしに来てくれたのはフローラちゃんで、私がいない間にお掃除もやってくれる。
ヘラヘラとデートしてる最中に一生懸命やってくれるフローラちゃんには感謝しかない。
そしてモニカちゃんは前日からウキウキだったが、お風呂で洗ってくれるのはまだお預けらしい。
勿論一人で入ったが、何も考えずにゆっくり湯船に浸かるのは気楽で良い。
その晩は女王にエステをした後におつとめをし、シルビアさんの部屋で寝る。
王宮滞在中は、しばらくこのパターンになりそうだ。
エステをしてもお小遣いはくれないけれど、いろいろ良くしてもらっている身分なので文句は言えない。
翌朝、フローラちゃんに起こしてもらいそのまま部屋で朝食を食べる。
いつもはモニカちゃんの手作りサンドイッチだが、今朝はトーストに目玉焼き、野菜サラダでいずれもフローラちゃんの手作りだ。
「マヤ様、今日はモニカちゃんとデートなんですね。
彼女ったら朝早くからウキウキで大はしゃぎでしたよ」
「やあ…… 聞いたんだね」
「いえ、一人で大騒ぎしていましたから言われなくてもわかりますよ。ふふふ」
「そりゃ期待に応える責任が大きいなあ」
「あの子の昔の話をご存じかと思いますが、男性とのデートであまり良い思い出が無いみたいなので、どうか優しくしてあげて下さいね」
「ああ、勿論だとも」
なるほど。同じ歳で仲良しだからそういう話もするんだねえ。
執事代理になったロシータちゃんはちょっとわからなくなったけれど、将来的にあの子たちは私が雇って面倒を見ることになるだろうから、出来るだけ引き離さないようにしたい。
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少し時間を遡り、王宮内にある使用人の住居区画にて。
多くの使用人の朝は早い。
五時台にはもう起きなければいけないのだ。
(モニカ視点)
「ふわぁぁぁ!」
今日はお休みだけれど、楽しみすぎていつも通り早く起きちゃった。
さてと、顔を洗ってこようっと。
私たちの部屋はマヤ様が使っている部屋と違ってトイレも洗面台も無いので、使用人が使う共同の洗面所を使うんだ。
でも魔法でお湯が出るようになっているんだから、さすが王宮だよね。
(フローラ視点)
今日は私がマヤ様の当番だから、これから朝食を作りに厨房へ行くところです。
あら、モニカちゃんが洗面所から向こうへ歩いて行くのが見えます。
「マヤ様とでぇと! でぇと! ひゃっほう!」
あの子、今日はお休みなのに朝が早いんですね。
マヤ様とでぇと……
そうかあ。マヤ様がモニカちゃんをどこかへ連れて行ってくれるのかな。
いつも元気だけれど、あんなにはしゃいでいるのって珍しい。
よっぽど嬉しいんだね。クスッ
(マヤ視点)
九時に使用人の通用口前で待ち合わせと聞いたんだけれど……
こんなところに普段は貴族なんて来ないから、給仕さんたちや用務の人たちにチラッと見られてはびっくりして会釈や中には深々とお辞儀をする人もいるくらいで、こちらも偉そうなフリをして軽く挨拶をする。
どうも貧乏性というか、前世は長らく接客業をしていたから恐縮してしまうが……
未だに貴族になった実感が湧かないが、前にパティから貴族は堂々としていたほうが自然だからいいんですよと言われてしまった。
十分ほど待った後、モニカちゃんが通用口から出てきた。
うひょう!
ハイウエストの白いショートパンツに黒無地のシャツなんだけれど、白人系で白い肌のモニカちゃんだと完璧な白ギャルだな。
美味しそうな太股が眩しい。むふ
ただメイクが普段より濃いので、元の顔立ちが良いんだから薄い方がいい思う。
それだけ気合いを入れてきたと言うことか。
基本的にこの国の時代背景は中世ヨーロッパに近いが、こんな地球の現代的なギャルがいたりぱんつのデザインも洗練されているのに、貴族は中世風の服装だったり何だかよくわからない。
「おはようございまあす! あっ 待ちました?」
「いや、そんなに待っていないよ」
待ち合わせでお決まりのセリフを交わしたら、モニカちゃんはニヤニヤする。
「ええ? 私のことをジロジロ見て、そんなに可愛いですか?」
「うむ。実に若くはつらつとしているね」
「ぷっ 何ですか? そのお爺ちゃんみたいなセリフ。
それにしても……
どうしてそんな貴族の服を着てるんですか?
私とデートなんだからもっとラフな服を着て下さいよ」
「あ、ああ……
あんな普通の格好でいいのかい?
隣に歩く男が見栄え良くないといけないかと思ってね」
「チッチッ わかってないなあ。
貴族の男と私みたいな女が一緒に歩いていたら、私が買われた女に見えるかもしれないじゃないですか。
さあ着替え直すからマヤ様の部屋へ戻りますよ」
「ああ…… うん」
そうして私の部屋で、モニカちゃんの手伝いもあってスラックスとシャツに着替えた。
残念ながらエッチな展開は無い。
確かに彼女が言うように、貴族の服を着た男がギャルを連れていると彼女が商売女に見られるからも知れない。
モニカちゃんの過去の男のことがどんなやつらかというのは話に聞いていたし、そこは私の配慮が足らなかった。
もっとも彼女の私服を見るのは初めてだったからどんな服を着てくるのかも想像していなかったけれど、何も考えていなかったと言うのが正しいだろう。
前世はさほど女性との付き合いが多くなかったし、この世界においても私は女の子たちに振り回されっぱなしだな。やれやれ……
「よしっ 着替え終わりっと。
その格好の方がマヤ様って感じだよね」
「そりゃどういう意味かな」
私自身が派手では無いのは自覚していたが、やっぱりそういうふうに見られていたか。
「ねえねえ! 私もマヤ様と一緒に空を飛んでみたかったんだあ。
そのためにスカートじゃなくてパンツスタイルにしたの。
いつもみたいに窓から飛んでいきましょうよ!」
「そうか。じゃあ負ぶって行こう」
「はーい!」
背負わなくても手をつなぐだけでいいんだけれど、モニカちゃんの感触を楽しみたい。
モニカちゃんならいいだろうと、そこは私のスケベ心が勝る。
窓を開けてから、モニカちゃんがドサッと私の背にもたれ掛かり負んぶをする。
むほぉ~ この甘い香りはバニラ系の香水を着けているな。
これはきっと勝負のつもりだろう。
きっとぱんつもすごいのを履いているに違いない。
私たちは薄手のシャツなので、背中に当たるふにょんとしたおっぱいの感触がよくわかり心地よい。
もうエッチなことをしてしまった仲ではあるが、初めての完全なプライベートで楽しくしている時は実に新鮮だ。
「じゃあ出発するね」
「よろしくお願いしまあす!」
私は部屋の中でゆっくり浮かび上がり、ぬるりと窓から外に出る。
おっと、窓はちゃんと閉めておこう。
「ひゃあ! 本当に浮いてる! 真下に庭がある!」
なんて当たり前の反応をしているが、楽しんでくれそうだ。
そよ風でモニカちゃんのバニラ香水が鼻をくすぐり、美味しそうな匂いだからクンカクンカしたくなる。
「見慣れた王宮だけれど、空から見ると面白いだろうからちょっと周回してから出掛けようか」
「それいいですね! ゴーゴー!」
モニカちゃん、ノリノリだな。
彼女が身体を動かす度に二つのプリンがふにょふにょして…… うへへ。
おんぶしてよかったあ。
こうしているとエリカさんを思い出すが、今はモニカちゃんに集中しよう。
「うひょー! 兵隊さんたちがあんなに小さい!
あっ! あの窓から綺麗な貴婦人が着替えてるのが見える!」
「え!?」
「へへーん! ウッソでーす!
マヤ様ったら本当にむっつりスケベだよねえ」
「ああ……」
やられた…… うっかりつられて王宮の窓の方へ振り向いてしまった。
うげっ 着替えているのは時々見かける大臣のおっさんじゃないか……
ちょうどぱんつを履くところで尻が丸出しだ。
朝からつまらんものを見てしまった。
もう十時になるのにずいぶんゆっくりなんだな。
「王宮は一通りまわったから、外へ出るね」
「よっしゃー! 近くの商店街へ行きましょう!
お昼ご飯もそこらへんでいいですよ」
「そんなところでいいの? 劇場とかでもいいよ」
「観劇は私の柄じゃないしなあ~」
「それじゃあ商店街へ行って、いい物があれば何か買おう。
まだ時間が早いからあまり荷物になる物はダメだよ」
「わっかりましたあ!」
私は引き続きモニカちゃんを背負って商店街へ向かって飛んでいく。
あそこの通りにはアリアドナサルダがあるからモニカちゃんに連れて行かれそうだけれど、まあ黙っていれば私がデザインしたぱんつだとわからないよね。




