第百九十四話 その後の日常 其の十一/シルビアさんと
デート中に王宮横の公園でエレオノールさんとお互いの事情を話し、結婚予定や希望をしている女の子が私の周りにたくさんいることについて彼女はたいそう驚く。
エレオノールさんは私との今後の付き合いをどうするか少し考える時間が欲しいというので、次に会うまで持ち越すことにした。
王宮の自室へ帰ると、部屋でモニカちゃんがぶすっとした表情で仁王立ち。
男の料理人と出かけていると思い込んでいた彼女だが、王宮の大階段でエトワール料理人のエレオノールさんと私に出くわし、頑張って尽くしているモニカちゃんを差し置いてエレオノールさんとデートしている私のことが気に入らないらしい。
モニカちゃんは私を強引にベッドへ押し倒し、腰に馬乗りになり濃厚なキスを始める。
まるで舌と唇が食べられてしまうように……
私もそれに呼応するようにキスをする。
ちゅい…… ちゅい…… ちゅうう……
吸い付く音が肉感的で卑猥だ。
お互いの口周りは唾液でベタベタで、今までに無いような熱烈なキスだった。
当然キスだけで私の分身君はむくむくと立ち上がり、爆発しそうだ。
「ぷわぁ…… ふぅ…… ふぅ……」
モニカちゃんはキスをやめて上半身を起こす。
彼女の体重が腰にのし掛かるので、分身君が押さえつけられて余計に苦しがっている。
「はぁ…… はぁ…… マヤ様……
今日はこれでおしまいよ。デートしてくれるまでこの先はお預け。
これは私からの罰なんだから」
「ええ? 我慢できないよ……」
モニカちゃんは私の上から降りて、右手を出したと思ったら分身君に思いっきり強くデコピンを食らわした。
「うっ!」
「ふふふ…… お風呂も一人で入って下さいね。
じゃあ私はすることがもう無いので、これで失礼します」
お風呂でも洗ってくれないなんて職務放棄だ……
……て、それはモニカちゃんが個人的にサービスをしているだけだ。
ルナちゃんもそうだった。
モニカちゃんは一礼して、スタスタと部屋を退出していった。
今のはまるでモニカちゃんの小悪魔的な本性を表していたみたいだな。
しかしこの高ぶった気持ちと分身君をどうやったら収められるんだ。
シルビアさんは妊娠でお腹が大きくなりかけているからあまり無理は出来ないし、やはり今晩は女王へのおつとめまで待つしかないか……
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夕食の時間、いつもの通り個室でシルビアさんと食事を共にする。
妊娠中のシルビアさんを考慮して、肉・野菜の栄養たっぷりなメニューだ。
食事中の話で今日の出来事を、他の女性と一緒だったことを私からわざわざ話すことはしなかったが、どうやらシルビアさんは王宮内で私とエレオノールさんを見かけていたようだ。
「それであの方はどちら様でいらっしゃいますか?」
「ええ…… ガルベス家でリーナお嬢様の料理を作っておられる調理係の女性と知り合いまして、エトワール人なんですよ。
それで王宮を見学されたいということで案内をしてあげたところでした」
シルビアさんはニコニコしながら聞いてきたが、彼女には逆らえない空気が漂ってきている。
その理由ばかりではないが、彼女とは未だに敬語で話してしまうのだ。
「まあ、そうだったんですか。
エトワールの料理は食べたことはありませんが、我が国より料理が発達していてとても美味しいと聞いています。
マヤ様はお召し上がりになったんですか?」
「ええ、最初にリーナお嬢様とパティとで食事をした時はとても美味しくて感激してしまいました。
ガルベス家ではあと何度かご馳走になったり……
今日はその女性の知り合いに当たる、マドリガルタの南にあるエトワールの大衆料理店へ行きまして、美味しい家庭料理を頂きました」
「そんなお店があったんですか。
私もいつか連れて行って下さいね。うふふ」
「そうですね。赤ちゃんが産まれた後がいいのかな」
何だか遠回しに絶対デートへ連れて行って欲しいと願っているようだ。
そう言えばシルビアさんとも二人きりでデートをしたことが無い。
シルビアさんだけじゃない。
立場上の問題もあるが、ヴェロニカやマルセリナ様だって二人きりで外へ出たことが無いのだ。
うーん、うーん…… あとは……
ジュリアさんもか!?
魔物退治の関係で特にエリカさんと二人の時が多かったが、あれでもデートとは言えないからなあ。
私はとんだご都合主義の男になってしまったのか。
そもそも一夫多妻には向いていないかも知れないが、じゃああなたのことをやめますというわけにはいかないし、彼女らの気持ちに対して責任がある。
まあ、責任感や義務感でデートをしても楽しくないし、気楽にやっていこう。
食事が終わったとき、シルビアさんがハッと思い出すように口を開いた。
「一つ大事なことを言い忘れました。
今晩の陛下のおつとめは不要とのことです。
月のものが始まったようで……」
「えっ? そうですか……」
そりゃ困ったぞ。
分身君はいったん収まっているものの、気分的な憤りは収まっていない。
わかりやすく言えばムラムラだ。
そういう男たちがいるから娼館が商売になっている。
ベッドの上ではお互いが性欲の捌け口として自由にやっているが、今晩は捌け口が無い。
はぁ……
「どうかされました?」
「いや…… その……
今日はちょっとそういう気分だったので出来ないとなると、さてどうしたものかなと。
シルビアさんにこんなこと言うの、おかしいですよね」
「マヤ様、私は構いませんよ。
無理な体勢をしなければ問題ありませんわ」
「いや、妊娠中は出来ることならしない方が良いと聞いてますから……
私の性欲より、シルビアさんの身体の方がずっと大事です」
「私のことを気遣って下さりありがとうございます。
今日はもう何もありませんから、とりあえずこれから私の部屋へ参りましょう」
そうして私たちはシルビアさんの部屋へ向かった。
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私たちはシルビアさんの部屋に入ると、すぐに彼女はこう言う。
「私はいったん部屋着に着替えようと思いますが、少しだけ手伝って頂けますか?」
「はい、喜んで」
シルビアさんは公務で着ている紺色のマタニティーワンピースから、同じくワンピースのパジャマに着替える。
お風呂はもう少しお腹の消化が進んだら入るらしい。
私は先に一人で軽く入ったけれど、一緒に入ろうかな……
シルビアさんはパジャマを用意し、着ている紺色ワンピースのボタンを外す。
それから私は上から引っ張ってワンピースを脱がす。
彼女は上下下着姿になり、いつものように私がデザインしたゆったりふんどしショーツを履いている。
シルビアさんとは半月ぶりに会ったが、妊娠六ヶ月なのでお腹は明らかにぽっこりとせり出すように膨らんでいた。
「わあ、たった半月なのに少しずつ大きくなってきてますね。
触ってもいいですか?」
「うふふ、どうぞ」
私はニコニコしているシルビアさんのお腹を優しく回しながら触ってみた。
太っているのと違いぷよぷよではなく、生命が宿っている実感がする。
六ヶ月だとリンゴ以上の大きさに育ってるはずだ。
「おっと、身体を冷やしてはいけない。早く着ましょう」
私はベッドの上に用意してあったベージュのワンピースパジャマをシルビアさんに着せてあげた。
それから私たちはお茶を飲みながら語り合う。
女王の執事代理を任されているロシータちゃんは、シルビアさんの補助が無くても大概のことは独り立ちで仕事が出来るようになっているそうだ。
希にあるイレギュラーが発生すればまだシルビアさんの助けがいるようだが、徐々に成長していくだろう。
私からはヴェロニカ王女の様子や飛行機製造の進捗具合、その他マカレーナで起きたことのことについていろいろ話した。
「そろそろお風呂に入ります。私、お湯を入れてきますね。
マヤ様も一緒にいかがですか?」
シルビアさんがお風呂を勧めるので、私はいったん自室へ戻ってパジャマと替えの下着を取りに行った。
シルビアさんと一緒にお風呂だなんて初めてだなあ。
彼女の裸は見慣れているけれど、何となくニヤニヤしてくる。
いやいや、いくら自分の相手とは言え妊婦をいやらしい目で見るのは良くない。
微笑ましくあるべきだ。
シルビアさんの部屋へ戻り、お風呂にお湯が貯まったら彼女の服と下着を脱がす。
さっきも見たけれど下着を脱いだことでお腹のぽっこりがより目立っている。
うーん、シルビアさんと自分の子供があの中にいるんだよなあ。
まさしく愛の結晶だ。
シルビアさんは先にお風呂場へ行き、私もいそいそと服を脱いで全裸になった。
そして風呂場に入ると……
「まあ。お腹が大きい私でも興奮してくれるんですか? うふふ」
「ああ……」
いつの間にか分身君は元気になっていた。
私はなんて見境が無いのだろう。
気にしてもいられないので、シルビアさんを洗ってあげることにする。
「シルビアさん、背中を流しますよ」
「あら、ありがとうございます。それではお願いしますね」
私はシルビアさんの背中からゆっくり優しく石鹸で洗う。
ルナちゃんやモニカちゃんがやってくれていたことなので、真似をしてやってみる。
「マヤ様、洗うのがとてもお上手ですね。
どこかでご経験がおありなんですか?」
ビクッ 気持ちよくなってもらおうという目的が仇になったか。
どうして女性は勘が鋭いのだろう。
それとも私が緩いだけなのか。
「いやあ、そういうわけじゃないんですが、マカレーナでは侯爵閣下にマッサージをよくして差し上げているので……」
「そうなんですか? 私もして頂こうかしら」
「それは構いませんけれど、シルビアさんは今うつ伏せに出来ませんから脚とか腕や顔だけならば大丈夫ですよ」
「それだけでも十分です。顔までして頂けるなんて、楽しみです。うふふ」
そういうことになってしまったが、私は続けてシルビアさんの身体を隅々まで洗う。
おっぱいや肝心なところも丁寧に洗い、時々艶めかしい声をあげられると分身君はますます元気になる。
シルビアさんを洗い終えると、代わりばんこで私がシルビアさんに洗ってもらう。
「こう見ると、マヤ様のお背中は大きいですね。
まだお若いのに、たくさんの魔物と戦ってきた経験がにじみ出ているように見えます。
あっ 本当は私よりずっと年上でしたね。ふふ」
魔物と戦うより、前の人生でクレーマーや泥酔者の対応をするほうが余程精神的にきつい。
だって魔物は倒すことが出来るが、クレーマーは一応客だからぶん殴れない。
そんなことより…… ああ……
シルビアさんに洗ってもらううちに、分身君が破裂しそうになる。
ううう……
「マヤ様、どうなさったんですか?」
「あの…… 我慢できなくなって……」
「あらあら。そうですわね…… じゃあ私の手で……」
シルビアさんが手を掛けてからものの数十秒で分身君は爆発してしまった。
人にやってもらうって、なんて爽快なのだろう。
思わず大きな声を出してしまって、シルビアさんはニヤニヤしていた。
彼女はプライベートの時だけはとてもエッチである。
賢者モードになって、私たちは対面で湯船に浸かる。
ラブホのカップル風呂みたいで良い気分だ。
私との子供を産んでくれる女性なんだなと改めて顔を見ると、彼女が誇らしく見えた。
お風呂から上がり、そのままベッドでマッサージを始める。
シルビアさんには仰向けに寝てもらい、身体を冷やさないようお腹や胸はタオルケットを掛けておく。
「じゃあ始めますね」
「お願いします。なんだかドキドキしますわ」
私はアマリアさんにエステをやっていたように施術をする。
まずはふくらはぎ、太股、鼠径部と……
彼女から時々色っぽい声が出ると、賢者モードになったばかりだというのに分身君が起き上がろうとしている。
あまり痛くない足裏と足指のマッサージもして、シルビアさんにはとても好評だった。
普段は立って仕事をしていることが多いから効果が大きいだろう。
そして上腕から前腕、手のひらのマッサージ。
「ふわあ…… 素敵です。
まるで身体がどんどん軽くなっていくようです」
こちらも好評で良かった。
エッチなことがあまり出来なくても、カップルや夫婦でマッサージとしてスキンシップをすることは良いことだと思う。
そしていよいよ顔である。
水属性の魔法を使ってミストを発生させ、顔を丁寧にマッサージした。
「まあ! なんてことでしょう!
肌がこんなに吸い付くようになるなんて!」
顔の施術が終わると、シルビアさんは手のひらでほっぺたを何度もペタペタとやって大喜びをしていた。
「これは陛下にも教えて差し上げないといけませんわね。
マヤ様、是非お願いします」
「え…… あ……」
しまったあああ!!
女王にだけは知らせまいと思っていたのに、また面倒なことが増えてしまう。
シルビアさんと女王は繋がりが深いから知らせてしまうのは当然なのに、お風呂で話していた時にそれが頭になかった。
かと言って妊娠中のシルビアさんにはマッサージをしてあげたかったし……
結果的にいつかこうなる運命だったのだな。
マッサージを終えて、私はそのままシルビアさんのベッドで一緒に寝た。
私は寝相が悪くないのだが、万一お腹に足でも当たったら大変なので離れて寝ることにしたのだが、ちょっと寂しい。
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そして翌日の晩、早速女王からお呼びが掛かりマッサージをした。
月のものが始まったばかりなのでエッチなことはしなかったが、案の定マッサージにハマってしまい、マドリガルタへ来る度に毎回しなければならない羽目になりそうだ。
特に顔のエステはシルビアさん同様に気に入ったようで、女王は大興奮しながら喜んでいた。
でもお小遣いはくれなかった……