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第百九十三話 その後の日常 其の十/エレオノールさんと公園で

 城内の大階段でモニカちゃんと鉢合わせになり、別れ際にエレオノールさんも手を振ったら彼女は階段を踏み外してしまう。

 グラヴィティを使って急いで移動して受け止めたが、私の顔がエレオノールさんの豊乳に挟まってしまった。

 ぱ◯ぱ◯は最高だぜ!

 今思えばエレオノールさんにグラヴィティを掛けた方が早くて安全だったのだが、アホな私は咄嗟(とっさ)に思いつかなかった。

 エレオノールさんを受け止めたまま、グラヴィティで浮いて階段の一番下に降りた。

 モニカちゃんも一緒に降りてきた。幸いここには他に人通りがない。


「エレオノールさん、相手がマヤ様で良かったですねえ。」


「そうですね。うふふ」


「ところでマヤ様。そろそろエレオノールさんを降ろしてあげませんか?」


「モゴモゴ…… おおう、ふぉうだっふぁ(そうだった)」


 私は受け止めた体勢のまま階段の下に降りていた。

 ぱ◯ぱ◯は名残惜しいが、エレオノールさんを床に降ろした。


「あ…… ありがとうございます…… マヤ様」


「それにしてもマヤ様。

 いくらエレオノールさんのおっぱいが大きいからって、いつまでも顔に挟んでちゃダメでしょうに」


「ええ!?」


「おい何てことを言うんだ。人聞きが悪いぞ、モニカちゃん」


 モニカちゃんがどストレートに言うからエレオノールさんはびっくりしている。

 まったく……

 モニカちゃんの言うとおりなんだが、そこは黙ってて欲しかった……


「エレオノールさん。マヤ様はきっとあなたのことが大好きなんですよ。

 私はあんなにお世話をしているのに、一回もデートに誘ってくれないんだから……

 ベェー」


 モニカちゃんは舌を出して、階段を上がってどこかへ行ってしまった。

 意地悪を言ったのかフォローしたのか、わからん。


「あ…… あのぉ……」


 エレオノールさんは顔を赤くして、もじもじしていた。

 顔を胸に(うず)めたことについて怒っているのか、そうには見えないが……

 とりあえず外に出よう。


「エレオノールさん、もう出ましょうか」


「はい……」


 私はエレオノールさんの手を引っ張って王宮の玄関から外へ出た。

 手をつないでいることについて嫌がってはいないと思う。


「すぐ近くに大きな公園があるんです。そこへ行きましょう」


「はい……」


---


 私たちはそのまま歩いて正門を出て、王宮のすぐ西にある公園へ向かった。

 広い庭園のような公園で、自然がいっぱいだ。

 エレオノールさんは顔を赤くしたまま無言で歩いていたが、公園内にベンチを見つけたのでそこへ座ることにした。


「ふぅ、一息つきましたね。こんな街の中なのに、まるで森みたいだ」


「…………」


 エレオノールさんは変わらず無言のままだ。

 思い切ってあのことについて話を振るか……


「あの…… さっきはすみません。受け止めた拍子だったので……」


「いえ…… そのことはいいんです。

 不可抗力なんですから……」


「そうでしたか。気になっていたので…… あははは……」


 ホッ よかった……

 思うことはありそうだけれど、不可抗力ということで済ませてくれた。

 大抵のアニメだとその時点でビンタされるのがオチである。


「マヤ様。あの給仕さんが(おっしゃ)ってたことは本当なんですか?」

 その…… 私のことが好きなんですか?」


「はい。朗らかだし、料理は上手で食べるときもとても美味しそうにしているから、私も一緒にいて楽しいですよ」


 エレオノールさん、どこか自信が無さそうな気がしたからここは堂々と言っておく。

 女性は褒めた方がどんどん綺麗になる。


「私、そんなことを言われたのは初めてです」


 彼女はドキドキを抑えるように、右の手のひらで胸の上を押さえた。

 表情はやや困惑しているようだ。


「私はエレオノールさんをとても素敵だと思うんですが……

 何か事情があるなら…… 良かったら話してもらえますか?」


「……はい」


 エレオノールさんは胸を手のひらで押さえたまま、深呼吸をした。

 十数秒してから口を開く。


「私、エトワールでは男性とお付き合いしたことが無いんですけれど、何人かの方に食事へ誘われたりしたことがあったんです。

 でも…… つまらないとか、おまえは下品だと捨て台詞を言われてその場でフラれたり、また今度と言いながら連絡しても返事が無かったり、一日と続くことはありませんでした。

 下品というのは自覚があるんです。

 さっきもマスターに注意されたみたいに……」


 なるほどねえ。

 つまらないというのは彼女がシャイなところかも知れないし、下品と思われたのは相手がそれを許容できない人だったのだろう。

 だからって彼女の魅力に気づけないのはもったいない。

 その男たちはよほど女性に恵まれていたのか、細かいことを気にする人なのか。

 やっぱりおっぱいが目的で近づいてきたのか?

 エレオノールさんは決して絶世の美女と言えるほどではないが、ややタレ目でそばかすがある顔は見ていても優しくてとても安心する。


「たまたまエレオノールさんと合わなかった人たちが続いただけですよ。

 或いは環境のせいか……」


「はい。私の周りは貴族や裕福な商家が多かったです。

 私の家も商売をやっていて、家の仕事をするのは兄たちがやっていましたから、私は好きなことをやらせてもらってこの国へ来てみたんです。

 家族以外では思い残すことが無かったので、元々料理は得意でしたから思い切って別の土地へ行ってみようとイスパルのマスターを訪ねてみました。

 それから忙しくなって、恋愛を考えている余裕が無くて今に至ります……」


 金を持ってる男たちばかりで、女はよりどりみどりか。

 エレオノールさんほどの女性を振るなんて、まったく贅沢だな。

 それともエトワールはおっぱいが大きい女性が多いのだろうか。

 はっ!? 男性と付き合った経験が無いということは、つまり純潔かも知れないと?

 ドキドキしてくるよ……


「それでエレオノールさんはイスパルに永住するつもりですか?」


「いつかは帰るつもりでしたが、ここが居心地良いと思うようになってから時々帰るだけでいいかなと……うふふ」


 おっ エレオノールさんが笑った。

 緊張が(ほぐ)れて良かったよ。


「そうかあ。ガルベス家とリーナ嬢のことが気に入っているんですね。

 あの子もエレオノールさんのことが大好きに見えますよ」


「この前、『今度お祖父様に頼んで、おまえを(わらわ)の専属料理人にする!』なんて(おっしゃ)ってましたから、なかなか帰れそうにないですね。ふふふ」


 なんでエレオノールさんはリーナ嬢のモノマネが上手いんだ?

 可笑しすぎて噴き出しそうだ。

 大人しい女性が時々こんな面白いことをすると、一緒にいて楽しい。


「リーナ嬢は私と結婚したいと言ってましたけれど、もし専属料理人になってリーナ嬢と私が結婚したら、エレオノールさんも一緒に住むことになりますよ。

 もっとも、今じゃガルシア家の居候貴族で屋敷すら無いですが」


「そっ それは…… まだ早いのでは……」


 エレオノールさんはまた顔を赤くしてもじもじしている。

 まだエレオノールさんと結婚するなんて一言も言っていないのに。


「リーナ嬢が結婚出来る歳になるまで四年。たった四年だ。

 あの子はいい子だし頭も良い。

 だが年の差もあって私には恋愛感情が無い。

 それに四年間でリーナ嬢の気持ちが変わるかも知れない。

 いくら他の男の子と接触を避けているとは言え、あの子は一途でいられるだろうか?」


「それはそうでしょう。

 多感な時期ですから気持ちが変わらないとは言い切れません。

 でもお嬢様はマヤ様のことが大好きなんです。

 あなたがいらっしゃるようになってから笑顔が多くなってきました。

 お願いです。これからも時々会ってあげてくれませんか?」


「勿論です。

 それに私もエレオノールさんに会いたいし……」


「は、はい……」


 エレオノールさんは照れっぱなしだ。

 彼女の事情はこれでわかった。

 このタイミングで、私の事情も話しておいた方が良いだろうか。

 リーナ嬢と結婚話の前に、ガルベス家と相対している王家とのことだ。

 そのヴェロニカが求婚してきたなんて、リーナ嬢が聞いたらひっくり返るかも知れない。

 あとパティとマルセリナ様とは正式にプロポーズしたし、私と結婚すると言ってきたビビアナやジュリアさんもいる。

 エルミラさんともいずれ……

 アイミもずっと居着いているし、もう誰がどうだかごちゃごちゃだ。


「あの…… エレオノールさんにまだ話していない大事なことがあるんですが……」


「はい、なんでしょう?」


 ああっ そんなニコニコしながら純粋な目で見ないで欲しい。

 しかしこの子は短い間に照れたり微笑んだり感情起伏が大きいのかな。


「私…… 二人の女性にプロポーズしてるんです……」


「え? あっ…… そ、そうなんですか……

 でもこの国の貴族の方ならば多重婚は不思議なことではないですからね……

 それでどんな方なんですか?」


 エレオノールさんは明らかに動揺している。

 だがこれからの付き合いのために、正直に話さなければいけない。


「ガルシア侯爵家の長女と、マカレーナ大聖堂の大司祭様です」


「お二人ともすごいご身分の方なんですね。

 結婚されたらいろいろ大変じゃないですか?」


「それはそうなんですが、実はまだいるんです。

 相手の方からプロポーズしてきたんですが……」


「はぁ……」


 エレオノールさんは少し呆れた表情になっている。

 今から話す人にはどういう反応をするんだろう。


「この国の王女です……」


「え? 今なんて??」


「ヴェロニカ王女です。

 今、マカレーナのお屋敷で一緒に暮らしているんです…… ハイ」


「…………。ええええええええええっっっっ!!??」


 当然の反応だったか。

 だがこれで終わりではない。


「まだ続きがあるんです。

 好意を持ってくれている女性が他にもいて、ガルシア家の給仕係三人、護衛係一人、あと居候してる魔法使いの子供、それからインファンテ家、ポルラス家、パルティダ家の各ご令嬢、さっき会った給仕の子もそうなんです……」


「ああ…… あああああ……」


 さすがのエレオノールさんでも手のひらを額に当てて嘆いている。

 男のセシリアさんのことは言わなくても良かろう。

 言ったら本当に卒倒するかも知れない。


「マヤ様の周りには女性がたくさん集まってくるということでしょうか。

 そんな中で私とお出かけして下さったお気持ちを聞かせて頂けますか?」


「エレオノールさんのことは勿論好きです。

 他の女性も良いところ悪いところみんなわかっている上で好きです。

 誰が一番好きというのは考えたことがありません。

 私はエレオノールさんのことをもっと知りたいし、料理ももっと食べたい。

 一緒にいるこの時間も、とても有意義に思ってますよ」


「……わかりました。

 私もマヤ様とご一緒させて頂いている時間は尊いと思っています。

 ですが今日はびっくりしたので……

 気持ちの整理をしたいので、しばらく日にちを頂けますか?

 今度いらっしゃる時までで構いません」


「わかりました。

 そうですよね。びっくりしましたよね」


 すこし気まずい空気が漂い、無言の時間がしばらく続いた。

 夕食もしたかったけれど、今日のデートはこれで終わりかな。

 それでもお互い言いたいことを言えたことは良かった。

 あとはなるようになれだ。


「じゃあ、帰りましょうか」


「はい」


 私はエレオノールさんの手をつなぎ、空を飛んだ。

 彼女の温かい手……

 公園の森の上を飛んでいるとさっきまでの空気が嘘のように吹き飛び、エレオノールさんは「綺麗ですね~」とはしゃいでいた。

 彼女のそこにますます好感を持ってしまった。


---


 ガルベス家の屋敷使用人通用口前まで飛んで、そこでエレオノールさんを見送る。


「マヤ様、今日はありがとうございました。

 いろいろ楽しかったです」


「こちらこそありがとうございました。

 また La Cabane に行きましょう」


「ええ、喜んで」


 これが社交辞令の返事だったらどうしようと思うのは考えすぎか?

 どうも私はネガティブ思考になってしまう。


「じゃあ、今度は来月に」


「はい。お気を付けて」


 私は再び飛び立ち、エレオノールはニッコリして手を振ってくれた。

 彼女は純粋な女性だ。

 表情そのものが彼女の真意だと信じたい。


---


 王宮へ帰り、自室の窓から入る。

 窓を開けたらモニカちゃんが仁王立ちしていた。


「お か え り な さ い」


「……ただいま」


 まるで会社帰りに飲みに行って帰宅が遅くなったお父ちゃんと、鬼の顔になって玄関で迎えるお母ちゃんのようである。

 エレオノールさんとデートして、そんなに怒ることか?


「マヤ様……」


 モニカちゃんは私にズカズカと近寄り、そのまま私をベッドに押し倒した。

 そして私の腰の上で馬乗りになる。


「……どうしたんだい?」


「今日はあの女性とキスでもしたんですか?」


「してない。手をつないだだけだよ」


「そう。ならいいわ」


 モニカちゃんはそう言った後、馬乗り体勢のまま上半身を覆い被せ、強引にキスをし始めた。

 若いのに相変わらずキスが美味い。トロトロだ…… うう……

 何分か濃厚なキスをした後、彼女は上半身を起こす。


「ぷわぁぁ…… はぁ…… はぁ……

 私がマヤ様のことを誰よりも好き。一番好きなんだから!」


 言い終わるとまた濃厚なキスが始まる。

 避けると彼女が傷つくかも知れないので、私はそれを受け入れたが……

 嫉妬か。モニカちゃんを差し置いてエレオノールさんとデートしたことが悔しかったのか。

 それにしても、私の周りに女性がたくさんいるのは承知の上だろうに。


「ク…… んふ……」


 キスはまだ続く。息苦しいくらいだ。

 ?? 今かすかに魔力が?

 そうか! エリカさんのペンダント!

 だがこれだけの魔力でモニカちゃんの精神に作用するとは思えない。

 モニカちゃんの行為にただ反応しているだけなのか。

 彼女の激しいキス攻撃で、私の分身君は起立してしまった。

 だが今はモニカちゃんのしたいようにさせよう。


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