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第百九十二話 その後の日常 其の九/王宮見学

 La Cabane にて食事を終え、エレオノールさんの希望で王宮を見学したいということで、すでに私の別荘と化している王宮の前へ降り立った。

 いつもは玄関前に降りたり自室の窓から飛び出ているが、今回は行儀良く正門から入る。

 正直言うと歴史ある古い王宮より、エレオノールさんが働いているガルベス家の屋敷の方がよほど立派で(きら)びやかだ。

 正門もガルベス家のほうは軍隊が通れるほど大きいが、そんな一度に大人数ゾロゾロと人が出入りするわけではないので、力を誇示したいだけなのだろう。

 今日の門番は若手とベテラン数人の他、ドミンゲス門番長も見えて敬礼している。


「まあ、立派ですごく古そうな門ですね」


「王宮は五百年くらい前に建てられたそうですよ。

 この感じだと正門も古そうですね」


 そのまま正門に進むと、ドミンゲス門番長が声を掛けてきた。


「お帰りなさいませ! マヤ様!

 こちらからお入りになるのは珍しいですね」


 王宮は飛んで出入りすることが多いから、ドミンゲス門番長の顔は久しぶりに見た。

 相変わらずの筋骨おっさんである。


「ご苦労様です。

 こちらのエトワール国の方が王宮を見学したいとのことで、案内するところなんですよ」


「それはそれは。

 どうぞ歴史あるマドリガルタ王宮をゆっくりご観覧下さいませ!」


「どうも」


 エレオノールさんは軽く会釈をする。

 このまま通り過ぎようと思ったが正門のことが気になったので、ドミンゲス門番長に質問してみよう。


「ドミンゲス門番長、この正門はいつごろ作られたものなんですか?」


「はい。この正門は五百七年前に作られました。

 実はこの正門は二代目で、魔族との戦いで王宮と一緒に作られた初代の正門は壊されてしまいました。

 初代の正門は十年も持たなかったというわけです」


「そうでしたか。ありがとうございます」


「どうしたしまして!」


 ドミンゲス門番長は再び敬礼して私たちが王宮へ向かうのを見送った。

 さすが門番長。門のことなら何でも聞いてござれだな。

 正門を過ぎると玄関までしばらく広場を歩く。


「マヤ様、すごいです。顔パスなんですね。

 観光で入ることが出来ませんし、平民は勿論貴族でも許可が無いと入れないと聞いてます」


「私は王宮の皆に顔が割れている上に、陛下のお使いで来ていますからね。

 もう家みたいなものですよ。ハッハッハッ」


「わあ、ますますすごいです!」


 エレオノールさんは私を羨望のまなざしで見つめているが、ここへ来る目的はシルビアさんのお腹の子の様子を見るためだし、女王のお使いの目的は私との夜伽(よとぎ)だからな……

 当然彼女にそんなことは言えないし、純粋な子だから後ろめたく思う。


 玄関前を広場を歩いていると、近衛兵が巡回警備をしていたり、偉そうな貴族の豪華な馬車とすれ違う。

 近衛兵以外で歩いているのは私たちだけだ。

 玄関の戸を近衛兵に開けてもらい、中に入る。

 今日のお出迎えの給仕係は最低限の人数だが、それでも若い女の子が六人いる。


「「「おかえりなさいませ、マヤ様!」」」


「やあどうもどうも」


 幸い、モニカちゃんとフローラちゃんはこの中にいなかった。

 モニカちゃんが揶揄(からか)ってきて面倒くさいだけなので、エレオノールさんとデートしているのがバレてもたいしたことはない。


「すごいですね。ガルベス家でも私は正面玄関から入ることはないので、こういうお出迎えは初めてだから緊張しますよぉ」


 エレオノールさんは縮こまりながらキョロキョロしている。

 私がこの世界に降りたって初めてガルシア家へ来た時も緊張したからなあ。

 見学コースを頭の中で考え、舞踏会をする大広間やバルコニーなど無難な場所を見て回ることにする。

 出来れば王座の間を見せてあげたい。

 玄関ホールから少し長い階段を上がり、その階段を上がりきりホールから振り返るとマドリガルタ宮殿の大階段と呼ばれる両側二手に分かれた美しい階段がある。


「うわあ! オペラ座みたいですね。素敵!」


「エレオノールさんはオペラ座へ行ったことがあるんですか?」


「はい。エトワールで何年か前に一度だけ行ったことがあります。

 あまりに綺麗で圧倒されてしまいましたよ」


「オペラはイスパルよりエトワールが発達していると聞きました。

 私も本場のオペラを見てみたいですね」


「発祥はルクレツィア国ですから、もっとすごいそうですよ。

 私も見に行ってみたいです」


「飛行機が完成したら、もしかしたら連れて行ってあげられるかもしれませんよ。

 問題はルクレツィア国で飛行機を飛ばしたら大騒ぎになるかも知れませんが」


「うふふ、そうですね。

 ルクレツィア国でなくても、私も飛行機というものに乗せて頂けるのですか?」


「もちろんです。

 ずっと南のマカレーナまで日帰りが出来るようになりますから、お休みが一日だけでもお連れすることが出来ますよ」


 そんな会話をしながら、眺めが良いバルコニーやパーティーが出来る大広間を見に行ってエレオノールさんには喜んでもらえた。

 そして王座の間を覗いてみる。

 大広間を見に行く途中で偶然ビジャルレアル宰相とすれ違い、王座の間を見に行っても良いか一応聞いてみたら、今日は何も使うことが無いから構わないと許可を頂いた。

 但し王座には絶対に座らないことと強く注意された。

 それは常識だと思うが、宰相閣下には私がふざけた人間だと思われているのだろうか。

 ああ、もしかしたら窓から外へ出てるのがバレているのかも知れない。


「ふぁぁ…… 私がこんな雲の上のような場所にいるなんて信じられません……

 ここでいろんな儀式が行われるのですね」


「私もここで叙爵式をしましたよ。

 すごく緊張しましたね」


 赤い絨毯が王座の前まで続いており、その前まで歩いてみた。

 あの時は両側にたくさんの貴族たちが並んでいたが、今はガランとしている。

 ついこの前なのにずいぶん時が経ったようにも思える。

 それだけ日々が充実しているということか。

 長居してもいけないので、早々と退室する。


「ふぅ…… 誰もいらっしゃらないのに、緊張するばかりでした。

 貴重な体験です。ありがとうございます」


「いえいえ。かえって疲れちゃいましたかね」


 王宮内で見て面白そうな場所は案外少ないので、見学を終えて私たちは王座の間から大階段のほうまで戻ることにする。

 さすがに女王や私の寝室がある別棟に連れて行くことは出来ない。

 王宮内で許可された人しか入れず、給仕係も女王やシルビアさん担当や、モニカちゃんたちも私が居るときだけの期間限定で許されている。


 長い廊下を歩き、角を曲がろうとしたら女王と執事代理のロシータちゃんに出くわす。

 面倒くさいことを言われなきゃいいがなあ。


「あら、マヤさん。こんなところで珍しいわね」


「どうも、こんにちは」


「そちらの可愛い女性は? もしかしてデート? うふふ」


「あいや…… エトワールの方で、実はガルベス家の調理をやっておられるエレオノール・ブリュネルさんです」


「まあ、ガルベス家の……

 (わたくし)はこの国の王、マルティナです」


「あわわわっ ごごごごご紹介に(あずか)りましたええええエレオノールと申します!」


 ああ……

 いきなり国家の代表が目の前に現れると、こういう反応になるのも無理ないわな。

 私がもし日本の天皇陛下や総理大臣に突然会ったらこうなるのだろうか。


「いいですわねえ。ガルベス家では美味しいエトワールの料理が毎日食べられるなんて。

 だからあんなに太…… あら失言。

 私も一度だけエトワール国の王宮へ行きまして、美味しい料理を頂きました。

 マヤさん、飛行機が完成したらエトワールへ連れて行って下さるかしら?」


「ええ、まあ外交ということなら喜んで」


「うふふ、楽しみにしているわ。

 ではお二人さん、仲良くね。おほほほほ……」


 女王はそう言って、ロシータちゃんは軽く会釈をして立ち去った。

 私たちも会釈をする。

 はぁ…… エレオノールさんのことを隠しているわけではないが、あの笑いを聞くときっと今晩は夜伽(よとぎ)に呼ばれていじられそうだ。


「びびびっくりしました。

 まさか女王陛下と鉢合わせになるなんて…… はわわわわ……

 マヤ様は陛下と対等にお話が出来るんですね……

 それもびっくりです……」


「私も最初は緊張したけれど、気さくな方で話しやすいですよ。

 国を背負う資格は十分あると思います」


「へぇ~ そうなんですかあ。

 若々しいし、お声がとても可愛いんですね」


 エレオノールさんはあまり政治の深い話には関心が無さそうだったので、女王のことはそれだけにしておいた。

 食べ物の話だと大喜びで一生懸命話してくるのに。


 玄関手前の大階段付近を歩いていると、とうとうギャルメイドのモニカちゃんに見つかってしまった。

 何でこんなところにいるんだよ。


「あれれれ!? どうしてマヤ様は女の人と一緒にいるんですか?

 髭面のシェフじゃないんですか?」


「あの…… 別にシェフが髭面の男なんて一言も言ってないよ」


「ええ??

 そういうことはその方がシェフなんですかあ?

 なんだあ。マヤ様の周りってやっぱり女の人だらけだ。

 あっ すみません!

 私、マヤ様の専属給仕係のモニカと申します!」


「あっ あっ 私はエレオノールと申します。

 あの…… 私はシェフ(料理長)ってわけではないので……

 エトワール料理を作るときは確かに代表で指示をしますが……」


「ああっ ごめんなさい。

 何か思い違いをしていたようで…… ははは……」


 私が無知のアホだった。笑って誤魔化すしか無い。

 さて、モニカちゃんをどう(かわ)そうか……

 このまま立ち去ってもいいかな。


「じゃ、そういうことで」


「ああ!? ということはお二人で仲良くエトワールの料理を食べたんですよね?

 ずるーい!」


「いやエレオノールさんが作ったわけじゃなくて、エトワール料理のお店へ行って食べたんだよ。」


 ああもう…… 思った通り面倒くさいことになった。

 何か要求されそうだな。


「じゃあ今度そのお店に連れて行って下さいよぉ~

 私もエトワールの料理食べた~い!」


「ああ…… わかったよ。今度ね。」


「やったあ!」


 エトワールの料理を食べたいのを口実にデートしたいのか、あるいはその逆か。

 そんなことより今のやりとりをエレオノールさんはどう見てるのか。

 女ったらしに見られて嫌われたらいやだなあ。


「うふふ。まるで父娘(おやこ)みたいですね。

 マスターもお喜びになるから是非連れて行って上げて下さい」


「あ… はい」


「お姉さん、話わかるぅ~!」


 そっちかよ! エレオノールさんってすごく天然なんだな。

 ともあれこれで済みそうだ。


「じゃあモニカちゃん、また後でね」


「いってらっしゃーい! にひひ」


 モニカちゃんは手を振り、私たちを見送る。

 大階段を降りようとしたとき、エレオノールさんも手を振りながらモニカちゃんに向かってよそ見をしていたので、階段を踏み外してしまう。


「きゃあ!!」


 私はグラヴィティの魔法も使って瞬間的に動いてエレオノールさんを受け止めたが……

 体勢が悪く、ちょうどエレオノールさんの胸に私の顔が挟まってしまった。

 ぽよん ぱふん ぱふん

 ああ…… 目測Eカップのふんわりぷにょぷにょ感触…… 

 ちょっとミルクっぽいエレオノールさんの香り…… 最高だ……

 エレオノールさんにはトラブルになってしまったが、私は幸せの瞬間だ。

 出てきてくれてありがとう、モニカちゃん。


「ありゃりゃ! エレオノールさん大丈夫ですかあ!?」


「す、すみません! ありがとうございます……」


「うおーいたひまひて(どういたしまして)」


 エレオノールさん、ぱ◯ぱ◯状態になっていることを気にしていないのか、それとも意味がわかっていないのか、恥ずかしがっている様子ではない。

 やはり天然なのかもしれないが、彼女を大事にしてあげたい気持ちが大きくなった。


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