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第百九十一話 その後の日常 其の八/家族のように

 エレオノールさんのお父さんの友人であるセザールさんが【La Cabane (ラ・キャバーヌ)】というお店をやっていて、デートの昼食にそのお店にやってきた。

 美味しい食事を頂いて、他のお客がみんな帰ったところでセザールさんとその奥さんのミシュリーヌさん、そして娘のミシェルちゃんが私たちのテーブルまで来て挨拶をしていたところだ。

 ミシュリーヌさんが私に抱きついて頬ずりしてくるものだから、周りのみんなはやれやれという表情だが私は心の中でにやにやしながら金髪ツインテール童顔美熟女の感触を楽しんでいる。

 中身おっさんの私から見れば可愛いものだ。


「おいミシュリーヌ。そろそろ離れなさい」


「はあい」


 ミシュリーヌさんはセザールさんに言われて渋々私から離れた。

 旦那の前で人妻に抱っこされるというのはなかなか背徳感がある。


「いやあ、まひゅたーとみへりーにゅひゃんのひょくじがおいひくて、わたひはまでゃまでゃでふね」

(いやあ、マスターとミシュリーヌさんの食事が美味しくて、私はまだまだですね)


 私がミシュリーヌさんに抱っこされている間に、いつの間にか食事に戻っているエレオノールさん。

 また口の中にいっぱい頬張って喋ってる。


「何を言っているんだ。

 おまえがガルベス家の料理人になると聞いてびっくりしたし、今も続けられているということはすごいことなんだぞ。

 というか口の中の物をちゃんと食べてから話しなさい。

 いつも言っていたのに、そこは相変わらずだなあ……」


「ひゃい! ひゅみません……」


 とうとうエレオノールさんがセザールさんに怒られた。

 私が言うより効果があるだろうか。

 三人とも笑っていて、エレオノールさんにとって家族そのものなんだなあと感じた。

 私もつられて笑ったら、エレオノールさんは顔を赤くしながら苦笑いをしていた。


「ではマヤ様、私たちは仕込みと片付けがありますのでゆっくりして行って下さい。

 エレオノール、後で少し話をしたいから食事が終わったら厨房まで来てくれないか?」


「はい、マスター」


 セザールさんはそう言い、ミシェルちゃんは各テーブルの片付け、夫婦は厨房へ戻っていった。

 私たちは、まだ食事の途中なのでエレオノールさんと美味しく頂こう。


「あの…… マヤ様、すみません……

 私は料理を作ることは好きですが、食べることはもっと好きで食べ物を押し込んでいるとつい……」


「うーん、まあ行儀良く食べるにこしたことはないですよ。

 私は目くじら立てて言うことはしないし、私自身は最低限の食事マナーしか知らないからこういう大衆店や屋台で食べる方が気が楽でね」


「はい、私も気楽に食べる方が好きなんです。

 毎日のように高級料理を作っているのに変ですよね。うふふ」


「よくある話ですよ。

 私も値段が高い宿屋で仕事をしていた時があって偉い人が泊まりに来ていたけれど、私の生活は質素そのものでしたね」


「まあ、そうだったんですか。

 どうりで私とあまり歳が変わらないのに落ち着いてらっしゃると思いました」


 そういうわけではないのだけれどね。

 私が元おっさんで今までいろんなことがありすぎて、多少何かあっても気分が冷めているだけだと思う。

 つまり新鮮な気分になることが減る。

 いやいや、歳は取りたくないものだ。

 魔女は七百歳を超えているらしいが、落ち着きを通り越して感情があまり表れていない気がする。


「私よりお若いのに、いろいろな経験をお持ちなんですね」


「いやあ、学業がてらいろいろと。あはは……」


 社会人を三十年近くやってましたなんて、今は言えないなあ。

 私が違う世界からやって来たなんて限られた人たちにしか言っていないけれど、エレオノールさんにもいつか話すときが来るのだろうか。

 その後は他愛ない話をしながら、食事を終えた。


「それじゃあ、私は厨房へ行ってきますからね」


「はい、行ってらっしゃい」


 何の話なのか少し気になるが、マスターとは久しぶりだし積もる話もあるのだろう。

 エレオノールさんと入れ替わりに、ミシェルちゃんが金髪ツインテールを揺らしながらこちらへズカズカとやって来た。

 そしてエレオノールさんが座っていた席にドカッと座る。

 お客がいないと適当な子なんだな……、って私も客だぞ。


「わあ、綺麗に食べて下さってありがとうございます

 パパとママの料理、美味しかったでしょ。うふふ」


「うん。久しぶりのエトワール家庭料理は美味しかったよ。

 王宮で滞在中の料理も美味しいけれど、堅苦しくてね」


「へぇー、勇者様は王宮で食事をしてるんだあ。すごーい」


「女王陛下のお使いでたまに来てるだけだから、普段お世話になってるマカレーナの侯爵家ではイスパルの家庭料理を食べているよ。

 私もだけれどそこの家の人たちは庶民派なんだ」


「ふーん、貴族様もいろんな方がいるんですねえ。

 ところで…… エレオノールさんとはどこまでいってるんですか?」


「ぶっ」


 いきなりその質問とは…… だが彼女にとって本題はそこか。

 姉みたいに慕ってる人のことなら気になるだろうね。


「ああ、エレオノールさんとは今日が初めてのお出かけだよ。

 だからどこまでも行ってないね」


「そうですかあ。

 じゃあなんでエレオノールさんに興味を持たれたんですか?

 やっぱりおっぱい大きいですからね。

 私はこれしかないからなあ~」


 と言いつつ、ミシェルちゃんは自分の胸を両手で揉み揉みしている。

 大胆だな…… この子は。

 貧乳ではなさそうだが、目測Cカップだな。十分じゃないか。

 漫画では金髪ツインテールキャラがいると大抵貧乳設定なのだが、十代後半ともなると安直ではないかと思う。

 確かにエレオノールさんのぱつんぱつんEカップは気になる。だが……


「エレオノールさんを気に入ったのは、ガルベス家へお邪魔した時に作ってくれたエトワール料理がとても美味しかったのと、謙虚なところかな。

 あとガルベス家の令嬢に…… 子供に好かれているのもね。

 子供に好かれる女性は間違いはないよ。」


「そっかあ。マヤ様はエレオノールさんのことをよく見ているんですね。うふふ」


 ミシェルちゃんは両手で頬杖をついてニコニコしながら話を聞いていた。

 同じツインテールでも黒髪のルナちゃんとは印象が違うが、それだけじゃなくミシェルちゃんのほうは腰が据わっていると思う。

 それはお母さん譲りかも知れないな。


「一番いいと思ったのは、食べ物を笑顔でとても美味しそうに食べるところだよ」


「……わ 何だか私の方が照れてしまいます……

 うう…… それ、エレオノールさんに言ってみたらどうですか?」


 ミシェルちゃんは顔を赤くして、頬杖をついていた両手でそのまま顔を隠した。

 ちょっと気取りすぎたかな。


「うーん、機会があればね。」


「マヤ様、エレオノールさんを大事にしてあげて下さいね。

 あっ いけない。早くしないとパパに怒られちゃうから食器を下げますね」


「うん、よろしく」


 ミシェルちゃんはテーブルの上の食器を片付けて厨房へ戻っていった。

 また入れ替わるようにエレオノールさんが帰ってきた。


「早かったですね。久しぶりならもう少しゆっくり話してても良かったんですよ。」


「ありがとうございます。

 私の仕事の様子はどうだとか、生活のこととか……

 まるでお父さんとお母さんみたいです。うふふ」


 何故か照れて顔を赤くしているエレオノールさん。

 まさか私のことでも冷やかされたのかな。それは考え過ぎか。


「じゃあそろそろお(いとま)しましょうか」


「はい。マスターたちに挨拶していきますね」


「私も行きます」


 私たちは厨房へ顔を覗かせ仕事中のセザールさんたちへ帰る挨拶をして、お店を後にした。

 いいお店だったなあ。

 マドリガルタへ行く度に毎回寄ってみたいよ。

 ちなみに食事代はエレオノールさんが厨房へ行ってる間に払ってくれていた。

 女性に(おご)られるなんて滅多に無かったから、高い食事では無いが彼女の心遣いがとても嬉しい。


「本当に美味しかったですよ。

 このお店の全メニューを食べてみたいから、何回か通わないとね。

 勿論エレオノールさんも一緒に」


「ええ。楽しみにしてます。うふふ」


 おお、それって次のデートもOKということか。

 見込みありと受け取っていいのかな。

 シャイなエレオノールさんだから、焦らないでゆっくり付き合っていきたい。


「次は王宮へ行ってみましょう。

 出かける時にエレオノールさんは王宮を見てみたいと言ってたのを覚えてますよ」


「わあ! 本当に連れて行ってくれるんですね!

 一度行ってみたかったんですが、外国人の料理人という立場だとなかなか機会がなかったんです。

 料理人がお嬢様のお供をするわけにもいきませんし……」


「私と一緒ならば何も問題はありません。それでは早速……」


 私はエレオノールさんの手をつなぎ、空を飛んで王宮へ向かった。

 彼女の手をつないでいる僅かなひとときも楽しみだ。


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