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第百八十七話 その後の日常 其の四/リーナの恋

 少し前に王都へ滞在していた時、エレオノールさんとデートした日のことを話すとしよう。

 この日は彼女の仕事がお昼前からオフになっており、私がガルベス家へ迎えに行く手筈(てはず)になっている。

 半月前にもマドリガルタへ行っており、その時にエレオノールさんと約束することが出来てデート当日の私はウキウキワクワクだ。


 エレオノールさんは朝食を作ってからリーナに栄養学の勉強を教えた後で、今日はこれでお休みになる。

 丸一日休みじゃないのがちょっとかわいそうだが、他にもちゃんと休みがあって今日はお昼前から特別休暇をもらったそうだ。

 私はいつものようにモニカちゃんに起こされ、ゆっくり準備をする。


「で、マヤ様。今日はどんな方とお出かけなんですか?」


「ああ…… ガルベス家のシェフでね。エトワール国の人なんだよ。

 前にエトワールの美味しい料理を食べさせてもらって、それで私も昔は母親に簡単なエトワール料理を作ってもらって食べたことを話したらはずんでしまってね。」


「へぇー いいなあ。私もエトワール料理食べたーい。

 シェフとお出かけって、周りが女の子だらけのマヤ様にしては珍しいですね」


 モニカちゃんはきっと相手のシェフを完全に男だと思っている。

 確か王宮のシェフは男性ばかりだったはず……

 実は女の子のシェフとデートするなんて言ったらうるさそうだから、このまま黙っていよう。


 服装はラフな格好にする。

 貴族の服なんて着ていったらエレオノールさんと並んで歩くと合わなくなる。

 私はベージュのスラックスに薄いグレーのシャツ、濃いグレーのジャケットというコーデにした。

 朝のシャワーを浴びた後にバスローブからそれに着替えたのだけれど、相変わらずモニカちゃんに着替えさせてもらっている。

 このくらい自分で着替えられるよと言っても……


「子爵様なんですから、私たちが着替えをお手伝いするのは当然です」


 だって。

 ガルシア侯爵だって一人で着替えているようだし、この国の貴族にメイドさんがべったりという印象は無いように思うがなあ。

 ラミレス家のメイドさんたちといい、私のぱんつを脱がしたがる理由はサリ様の力が関わっているようにしか思えない。


---


 なんやかんやで午前九時過ぎになってしまったのでガルベス家へ向かった。

 一応国で指折りの大貴族なので正式な訪問では礼儀正しく正門から入っていくが、玄関までは遠いのでそこから飛んでいく。

 ガルベス公爵の屋敷はリーナまでの部屋ならば勝手知ったるほどになり、玄関のメイドさんたちとも顔見知りになっていて案内も無しに一人で向かった。

 まだ九時半…… ちょっと早かったかな。


 コンコン「マヤです」


 しばらくすると、エレオノールさんがドアを開けてくれた。

 エレオノールさんはコックコートのままだが、とてもよく似合って格好いい。

 太股がぱつんぱつんで、挟まれたい気分になる。


「マヤ様、いらっしゃいませ。どうぞ中へお入り下さい。うふふ」


「エレオノールさん、今日はよろしくお願いします。

 いやあ、待ちきれなくて。ちょっと早かったですかね。あはは……」


「お嬢様の勉強があと三十分くらいありますので、掛けてお待ちくださいね」


「おー! マヤー! 会いたかったぞー! ぐふふ」


 私はリーナの部屋の中に入ると、テーブルで勉強中のリーナが駆け寄り飛びついてきた。

 背が伸びてきたけれどまだまだ子供だ。可愛いので頭を撫で撫でする。


「リーナ、勉強を頑張っているようだね」


「うむ。料理の方も時々エレオノールに教えてもらっておる。

 いつか美味しい料理をマヤにも食べさせてやるぞ」


「へぇー それは楽しみだ」


 栄養学だけ勉強していても理屈だけだから、やはり調理実習もしているのだな。

 大好物なオレンジのスイーツだらけになりそうな気がするが。


「マヤ…… 私もおまえたちと一緒に出掛けたいところだが、二人の邪魔をしたら悪いからな。うひひ」


 リーナ嬢もエリカさんやスサナさんみたいな変な笑い方をするようになったな。

 どうも男女関係の話になると女の子でも変な想像をする子がいる。


「さっ さあお嬢様。お勉強の続きをしますよっ」


「エレオノールよ。今朝から顔がほころんでいるのはわかっている。

 おまえも早く勉強を済ませたいところだろう。

 早く終わらせるぞ。あっはっはっ」


「おっ お嬢様! はうぅぅ……」


 エレオノールさんは顔を赤くして照れている。

 今日はリーナ嬢のほうが一枚上手(うわて)のようだ。

 エレオノールさんもよほどデートが楽しみなんだね。嬉しいなあ。

 リーナ嬢が勉強している間、私はリーナ嬢から適当な本を借りて姫系ソファーに掛けて読む。


 ふむ…… 意地悪な継母と姉がいて、再婚した父親の娘が主人公の話……

 この世界にも似たような話があるんだねえ。

 冒頭からいきなり、主人公と仲良しの男の子に姉がちょっかいを出すのか。

 そして姉が無理矢理男の子にキスをしているところに、偶然主人公が見てしまう。

 うわー ドロドロだねえ。


 読んでいるうちに、三十分はあっという間に過ぎた。

 続きは…… あまり気にならないからそっと本棚へ戻す。


「お嬢様、これで今日のお勉強はおしまいです。

 続きは来週ですから、予習をしておいて下さいね。

 あとポトフを作ってみましょう。」


「あい、わかった。」


 ポトフかぁ。美味しそうだなあ。

 私も仲間に入れてもらいたい。


「それではマヤ様。私は着替えて参りますので、それまでお嬢様の相手をしてあげて下さいますか?」


「勿論です。」


「わーい! ゆっくりでいいぞ、エレオノール」


「なるべく急いで戻りますね。うふふ」


「エレオノールは意地悪だのう……」


 リーナ嬢はしかめっ面をしつつ、エレオノールさんはニコニコ顔で部屋を退出していった。

 二人きりか……

 何か良からぬことを考えていなければ良いが。

 するとリーナ嬢がスタスタと私の方へやって来て、隣へちょこんと座った。

 大人が一人寝転ぶことが出来る姫系ソファーなのでイチャラブシチュエーションに適した椅子であるが、きっとリーナは誰も居ないときにここへ寝転んでさっきのような本を読んでいるに違いない。


「のうマヤ。男と女が仲良くする時は、男の方から手を握るものかのう?」


 そう言いながらリーナ嬢は、ずりずりと寄り添って密着してきた。

 リーナはまだ十歳……、いやこの前十一歳になったんだ。

 つるペタだった胸も少し成長してきた気がする。

 もう思春期に入ったから、そういうことも考える時期なのか。


「うーん、女の方からでもいいんじゃないかな。

 気になった相手へ迫りたいならば効果あると思うよ」


「そうかそうか。ではこれでいいんだな」


 リーナ嬢はニコニコキラキラ純真な笑顔で私の右手を両手で握った。

 パティが十二歳だった頃と比べたら十一歳のリーナ嬢はずいぶん子供っぽいが、子供なりの可愛さはピカイチだ。

 ああ、子供と言えばアイミがいるが、確かに彼女も可愛いが態度がでかすぎるので()でたいという気持ちにはならない。

 大人に戻ったときは別の意味で()でたいが。


「リーナ。本当に私のことが好きなのかい?

 恋っていうのは好きな相手といつも一緒にいたいという意味の他にも、相手のことを理解したいとか大事にしたいとか、いろいろ意味があるんだよ。」


「も、勿論じゃ。(わらわ)はマヤのことをもっと知りたいし、大事にしたいぞ」


「そうかあ。わかったよ。

 私もリーナのことは好きだし、リーナことを知りたいし大事にしたいと思っているよ。

 でも私は大人でリーナはまだ子供なんだ。

 大人の恋と子供の恋は少し違っていて、十五歳になってから大人の恋が出来るんだ。

 それは知っているのかな?」


「この国では十五歳になったら結婚出来るという意味であろう?

 (わらわ)は十五になったらすぐマヤと結婚したい」


 リーナ嬢はどこか不安げな表情でその言葉を言った。

 この子から結婚したいという言葉を聞いたのは数ヶ月前のこれで二度目だ。

 この子は私に対して一直線の気持ちだろうが、一途な性格とは違って子供の経験の少なさから来ているものだ。

 もっといろんな人間を見てからきちんと判断してもらいたい。

 だがこの子は学校へも行かず大人の中で育って貴族の醜いものも見てきただろうに。


「リーナが十五になるまであと四年。

 それまでいろんな経験を積んで大人のレディになったら返事をするよ。

 子供の恋というのは友達以上に仲良くお互いが大事にすることなんだ。

 私もリーナに合わせて子供の恋をするから、それでいいかな?」


「わかったぞ。あと四年は長いが、パティに負けないくらい立派なレディになるぞ。

 でもパティはまだ十五ではないのに、マヤはどうして結婚すると決めておるのだ?」


 これは痛いところを突かれた。

 パティと結婚する意思を持ち始めたのは十三歳の時だった。

 初めてこの世界にやって来て路頭に迷うところをお世話になっているガルシア侯爵に対する義理もあるし、夫妻とももうその気だ。


「ああ…… それはパティのお父上と母上も推しているからだよ。

 リーナの方はまだお祖父様にしか会っていないし、リーナのお父上と母上にはお忙しくて未だにお目にかかれていないからね」


「ならば近いうちにマヤを父上と母上に紹介するぞ。

 そうじゃ! 今度は泊まっていくが良い!

 それならば会えるだろう。うんそうしよう!」


「ああ…… うん……」


 自分で話していて何だが、私はどうも相手のペースに乗せられやすい。

 しかも相手は十一歳の少女だ。

 リーナだけならいいんだ。

 問題は結婚したらガルベス家と関わりを持つことなんだ。

 ヴェロニカのこともあるし、仲が悪い王家とガルベス家からの娘と一緒に結婚することなんて出来るのだろうか。


「マヤ。何を難しい顔をしているのだ?」


「うーん、将来どうなるのかなってね。ははは……」


「そうか。では、子供の恋でもキスはしたいぞ」


 リーナ嬢は突然私の太股に(また)がり、両手を私の頬に当てた。

 そして…… むっちゅう~♥

 何という吸引力! 唇が痛い。君はタコの足か!!

 かと言ってこの子に大人のキスを教えるわけにはいかないからな……

 ああ…… 今度は何回もちゅぱっ ちゅぱっ と吸い付いている。

 そろそろエレオノールさんが戻ってくる頃だ。

 こんなのを見られたらフラれてしまうぞ。


 コンコン「エレオノールです」


 ぎゃーー!! 言ってるそばから!!

 えーい! こうだ!


「およよよよ!?」


「あら、お嬢様楽しそうですね。うふふ」


「お、おお。エレオノールか。

 高いところの眺めはいいものだな」


 私はリーナ嬢の両脇を持ち上げて赤ちゃんにやるような「たかいたかい」をし、さらにグラヴィティで手から離れ天井近くをふわふわと浮いている。

 彼女は察してくれたのか遊んでいるフリをしてくれている。

 ふぅ…… やれやれだ。


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