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第百八十六話 その後の日常 其の三/今日の誕生日がまさかの

 公式的に行われたパティの誕生日パーティーの翌週、今年もガルシア家の若い者が集まって内輪のパーティーが開かれた。

 パティは勿論、去年参加したスサナさん、エルミラさん、ビビアナに加え、ジュリアさん、ルナちゃん、アイミ、ヴェロニカ、そして黒一点の私がパーティーのメンバーである。

 それからパティの周りで、おっぱいプリンの二匹がぷよぷよぽよんと動き回っている。 エリカさんはいなくなってしまったけれど、去年と比べてずいぶん賑やかになった。

 黒一点状態も慣れてきて、あまり気を遣わずに済んでいる。

 去年の今頃はエリカさんにしかエッチなことをしてなかったのに、今はスサナさんとヴェロニカ、パティ以外にはみんな分身君を見られた仲だからな。

 ルナちゃんには見られただけだが……


 去年と同じ小部屋で行われたがソファーは九人でいっぱいいっぱい。

 私の列の席はパティ、私、アイミ、ビビアナ、ジュリアさん。

 対向ヴェロニカ、エルミラさん、スサナさん、ルナちゃんと、主に仲良し同士が隣で人間関係の図が出来上がっている。

 ルナちゃんは少しだけ残念そうな表情をしていた。

 主人である私の隣が良いのだろうかと考えるのは、私は自意識過剰なのか。


 料理はビビアナ、ジュリアさん、ルナちゃんの三人で用意をしてくれた。

 手で摘まめるメニューが中心で、コカと呼ばれるスペイン風のチーズなしピザを主に、一口ケーキも用意されテーブルの上は色とりどりで美味しそう。

 コカの生地の上に乗っているのは、生ハムやウインナー、マリネなどいろいろな種類があり、飽きることはなさそうだ。


 皆で一斉にパティへおめでとうと言い、乾杯をする。

 お酒はエルミラさんとスサナさんだけだが、また酔っ払って変なことをしなければいいけれど。


「んー! おいひいですわぁ~ モグモグ」


 パティはコカを口いっぱいに頬張り、美味しそうに食べている。

 スサナさんはもう酔って顔が赤く、アイミはウインナーが乗ったコカが気に入ったのか、そればかり食べている。

 当たり前に幸せな顔が出来ることは、とても素晴らしいことだ。

 何故かヴェロニカがいつも以上に機嫌良さそうに食事をしている。

 おお、そうだ。


「ヴェロニカ。そういえば君の誕生日はいつなんだい?」


「ああ。今日だな。」


「……おい、今なんと?」


「だから今日と言っている。」


「「「「「えええええええっっっっ!!!!」」」」」


 皆がそれを聞いて驚愕している。

 おいおいちょっと待てよ。何も聞いてないぞ。


「あの…… ヴェロニカ。

 どうして今日が誕生日だということを言わなかったんだい?」


「マヤ、おまえも察しはつくだろう。

 王宮で行う私の誕生日パーティーは毎度貴族どもが集まって媚び(へつら)う場だ。

 しかも同席している母上やアウグスト兄様の方にだ。

 そんなパーティーに何の意味があるのか。

 王族である以上しないわけにはいかないが、今年はそんな面倒なことをしなくていいから清々している。」


「それにしたって、私たちに言ってくれればこうして祝ってあげられたのに。」


「そ…… それはだな……

 今まで友達がいなかったから…… 照れくさいじゃないか……」


 ヴェロニカは顔を赤くしてもじもじしている。

 ああ…… 彼女はそうだった。

 友達がいなくてそういうちやほやされる経験をしたことが無かったんだ。

 このところいろんなことがあって聞きそびれたが、もっと早く気づいて聞いてあげれば良かったな。

 だが今なら間に合う。


「じゃあこのパーティーはヴェロニカとパティの合同と行こうじゃないか。

 パティはそれでもいいかな?」


「勿論ですわ!」


 パティは笑顔で快諾してくれた。

 わがままお嬢様だと他人と合同は嫌かも知れないが、パティはそんな子ではない。


「それではみんなで、ヴェロニカの十九歳の誕生日を祝って、おめでとう!! 乾杯!!」


「「「「「ヴェロニカ様! おめでとうございます!!」」」」」


「あ…… ありがとう…… みんな…… うぅぅ……」


 ヴェロニカはますます照れて縮こまってしまった。

 馬に乗って魔物を討伐する指揮をしていた時の彼女と同一人物とは思えない様子だ。

 でもちょっと可愛い。

 隣にいる親友のエルミラさんは、そんなヴェロニカの手を握ってニコニコしている。

 エルミラさんは時々、夜にヴェロニカの部屋へ呼ばれて行っているようだが、別の意味で仲良しになっているのかなあと邪推する。


「マヤさぁ~ん、せっかく楽しい時間なんですからお酒飲みましょうよぉ。でへへへ」


 スサナさんはグラスにワインをついで私に勧めてきた。

 酒に強くないのにがぶがぶ飲むんだから、酔って絡んでくる。

 この国は十八歳からお酒を飲んで良いので合法ではあるが、身体が若くなってあまり酒に慣れていないので控えめに飲んでいた。


「ああ…… じゃあ頂きます。」


 最初の一口を。ゴク……

 たぶんスサナさんが買ってきた安い赤ワインだろうが、思っていたより美味しいな。

 ゴクゴク……

 ぶどうの味がしっかりしてて味わい深い。なかなかの逸品だ。


「おっ マヤさんいけますね。じゃあもう一杯。にひひ」


 スサナさんはすかさずおかわりのワインをついでくれた。

 調子に乗って飲み過ぎないようにしなければ…

 ゴクゴク…… こりゃうまい。


『おいズルいぞ。私にも飲ませろ。』


「あっ!」


 私の隣にいるアイミは、スサナさんがテーブルに置いたワインの瓶を瞬時に取り、ジュースを入れていた空のグラスになみなみと注いでガブッと飲み干した。


『ぷわぁぁ~ やっぱりオレンジジュースなんかより酒がうまいのう!』


 幼女姿なのにまるで酒飲みのおっさんのごとく、豪快にワインを飲んでしまう。

 酒を飲むなら自分の部屋で飲めとあれほど言っておいたのにっ


「キャー!! アイミちゃんったらどうして!?」


「あわわわわっ 子供がお酒をがぶ飲みした……」


「ええっ!?」


「ニギャーー!?」


 ルナちゃんとスサナさん、エルミラさん、ビビアナが次々に叫び声をあげ、隣にいたビビアナがグラスと瓶を取り上げてしまった。

 ラフエルへ行っていないこの四人は、アイミの正体をよく知らない……

 他の三人はどう反応していいのか困っている、というか知らんぷりしている。


『なんだ猫娘。これからというときに。』


 アイミは不機嫌そうな顔をして、ビビアナを幼女らしからぬ目でジロッと睨む。

 ビビアナはビクッとしたが、アイミが酒を飲んでも平然としていることに気づいたようだ。


「お…… おまえ…… ワインを飲んでも平気なのかニャ?」


「私はこれでもおまえよりずっと年上だぞ。

 酒を飲んでも何も問題は無い。」


「アイミちゃん…… 君は一体何歳なのかな?」


 ややっ エルミラさんがまずい質問をしている。こりゃいかん。


『私はごひゃく…… わぷっっ』


 私はすぐに右手でアイミの口を塞いだ。

 アイミの正確な年齢は私もよく知らないが、五百九十歳前後だと思う。

 神の中では若い方らしいし、サリ様の歳は知らない。


「あああー サリ様が連れてきた子だから、いろいろ事情があるだろうから察してね。

 あはははは……」


「そうですかあ。まあサリ様ですからね。」


「あー そっかあ。サリ様が連れてきたのを忘れてたあ~」


「そうだよね。サリ様の紹介だったら不思議じゃないよね。」


「ニャッハッハ。あのサリ様だったら何でもありだニャ。」


 サリ様の名を出したら、四人が四人とも素直に納得してしまった。

 彼女らが言うあのサリ様の意味を言わんとすることはわかる

 空気が凍り付いた時間だったが、パティたちもホッと胸をなで下ろした。


「さあマヤさんもアイミちゃんもどんどん行きましょう! いっひっひ」


『おお、スサナ。わかるやつだな。』


 まるで上司に酒をつぐ取り巻きの部下のような感じでスサナさんがアイミのグラスにワインをついでいる。

 それが二十歳の女の子と七歳くらいの幼女なんだから滑稽で仕方がない。


 パティが立ち上がり、ステージへ立つように私たちの前に出た。


(わたくし)、歌っちゃいます!

 歌は…… 『あなたを待ち続けて』です!」


「わーい! やんややんや!」


「うニャー!!」


 スサナさんとビビアナがはしゃぎ、みんなが拍手する。

 みんなの前でパティが歌うのは初めてか?

 オペラが好きなだけあって会話の中で鼻歌のような歌は何度も聞いたことがあるが、ちゃんと歌うのはまだ聞いたことが無い。

 カラオケの機械なんて無いから、アカペラで歌うことになる。

 パティは深呼吸をした後、歌い始める。


 ねえ、あなたはどうして戦いに行くの?♪

 私を抱きしめるとあなたはこう言うの♪

 愛しているよ。いつも君のことを考えてる♪

 絶対に負けない。心配はいらないさ……と♪

 そしてあなたは私にキスをして、振り向かず出て行く♪

 あなたの後ろ姿をずっと見続ける……♪

 それがあなたを見た最後だった……♪

 あなたと約束したでしょ♪

 ずっと待っているのに……♪

 いつ帰ってくるの?♪

 会いたい……♪

 会いたいわ……♪


 まるで昭和の歌謡曲のようなメロディーで、歌詞の内容は愛する人が戦場へ出かけて帰ってこないから女の人がいつまでも待っているというやつか……

 アニメの挿入歌にもこういうのありそうだし、二番があれば気になるな。


 パティの歌唱力はしっかり音程が合って声の伸びが良く、CDが出せそうだった。

 声質も高く滑らかでアニソン向けだね。

 歌が終わると、みんなから盛大な拍手を送られた。


「パティ、びっくりしたよ。あんなに歌が上手かったなんて。」


「えへへ。マヤ様にそうおっしゃって頂けるなんて感激ですわ。」


 パティは両手で手を押さえてクネクネぷりぷりしている。

 次はルナちゃんが立ち上がって前に出た。


「つ…… 次は私がフラメンコを踊ります!!」


「ひゃっほううぅぅぅ!!」


「ニャーっはっはっっはっはっ」


 またスサナさんとビビアナがはしゃぎ、続いてみんなが拍手をする。

 アイミはグビグビと酒飲みが止まらない。

 ルナちゃんが踊れるなんて全然知らなかった。


「待って! 私がギターをするから。」


 そう申し出たのはエルミラさんで、何かやるつもりだったのか部屋の隅に置いてあったギターをおもむろに取り出した。

 ひえー エルミラさんがギターを弾けることも知らなかった。

 まだまだみんなの知らないことがたくさんだよ。


 エルミラさんは前で椅子に座ってギターを弾き始め、ルナちゃんはそれに合わせて給仕服のままフラメンコを踊る。

 スカートを裾を上げたりでちょっとセクシーで、とても迫力があった。

 私やみんなもはルナちゃんのいつもと違う様子に見とれてしまい、パタッと静かに固まる。。

 エルミラさんのギター演奏も格好良すぎる!

 踊りが終わるとみんな拍手喝采で大騒ぎ。


「いやあ、ルナちゃんとエルミラさんもすごく格好良かったよ。

 まさか二人にこんな特技があったなんて。」


「私はただ王宮で習っていただけなので…… えへへ。

 マヤ様に喜んで頂けて嬉しいです。ふふ」


「私は昔、趣味でギターをやっていたんだけれど久しぶりでね。

 上手く弾けるかちょっと不安だったけれど、ルナちゃんのダンスがすごかったから私も調子が出てきたよ。」


「それでエルミラさんは元々ギターで何をするつもりだったの?」


「うーん…… ギターを弾きながら歌うつもりだったけれど、パトリシア様の歌があまりにお上手だったから自信を無くしちゃってね。

 でも演奏が出来たからちょうど良かったよ。」


「えー もったいない。歌ってよ。」


「そうですわ。(わたくし)のことなどお気になさらずに。」


「じゃ…… じゃあこのまま一曲だけ……」


 エルミラさんの歌が始まったが、歌唱力は悪くないんだけれど歌詞が痛々しくてみんなはちょっと苦い顔をしていた。

 ギターを覚えたての中高生が女の子へ自作の愛の歌を歌っているような曲だ。

 それでも終わると、拍手が湧き上がる。


「その曲はエルミラさんが作ったの?」


「うん。若い頃にね。どうだったかな?」


「とても良かったよ。

 ”ボクはキミの横顔をずっと見ていると鼻血が出そうだ”のあたりがすごくいいね。」


「うわあ! わかってくれる人がマヤ君ですごく嬉しいよ。

 また今度別の曲を聴かせてあげるね。ふふふ」


 ああ…… エルミラさんに妙な自信を付けさせてしまったな。

 歌詞のセンスがどうかと思うが、まあ彼女が喜んでくれたのでいいや。

 さて次は誰が何をやってくれるのかな。

 おっ そうだ!


「ヴェロニカ。この前セレスでやってくれたソードダンスをまた見たい。

 あれは素晴らしかった。

 まだ見ていないスサナさんたちにも見せてあげてくれないかな。」


「そ…… そうか。わかった。剣を取ってくるから少し待て。」


 ヴェロニカが退出して屋敷の倉庫から剣を持ってくるまで五分を要した。

 その間にまたエルミラさんが歌おうとしていたが、ヴェロニカの方が早かった。


「では始める。危ないから近づくなよ。」


 ヴェロニカはセレスのラミレス家の広間でやった時と同じようにスゥッと上で剣を交差し構える。

 そしてコサックソードダンスが始まり、二本の剣をぶるんぶるんと振り回しながらクルクル回ったりしている。


「あっ」


 ヴェロニカがそう叫んだ瞬間、ヴェロニカの手から一本の剣が離れて私の目の前のテーブルに剣が突き刺さった。


「キャ!」


「ぎええええええっ!!」


「いやすまんすまん。手が滑った。ハッハッハッ!」


 くそー ヴェロニカは絶対悪いと思っていないぞ。

 パティもびっくりているじゃないか。

 そんなこんなで結局ヴェロニカのソードダンスでパーティーを締めくくり、無事(?)に終了した。


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