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第百八十五話 その後の日常 其の二/十四歳の誕生日パーティー

 パティは熱心なサリ教信徒なので毎日のように近所の大聖堂へ通っているが、()()残念なサリ様本人に会ってからもそれはそれ、これはこれということで変わらず通い続けている。

 サリ様とはアイミを連れて来た時から会っていないけれど、ネイティシスばかりにかまっていられなく忙しいらしいので、用も無しに連絡は取っていない。

 でもきっと私の情事をニヤニヤと天界から覗いているに違いない。

 エリサレスについては監視してくれており、天界のどこかにいるらしいが動きは無いようだ。


 そしてある日のマカレーナ大聖堂にて。

 私は時々大聖堂に顔を出しているが、礼拝は形式としてマルセリナ様に会いに行くことが一番の目的だ。

 エリカさんの葬儀を行った礼拝室でサリ様と一緒にお祈りをする。


「さあマヤ様、女神サリ様にお祈りをしましょう。」


「「愛と慈母の女神サリよ。

 我らに大いなる愛と(いつく)しみを(はぐく)み給え。

 祝福と安らぎを与え給え。

 ダノス・アモール…」」


 この感じ、どこかで見たような…。

 マルセリナ様にプロポーズをしてからそれ以上の進展は無く、大司祭という立場上なかなか二人きりでデートなんて出来ない。

 だからフルリカバリーを勉強しに行っていた時のように、お昼や午後の休憩時間に会いに行っている。

 銀髪で白肌のとても美しいお顔は、眺めていて飽きない。

 美人は三日で飽きるなんて、そんなことがあるわけ無い。

 彼女がガルシア家に滞在していたとき、キスをしてベッドの上で下着だけの姿になって私の分身君を見て倒れたなんて、あれは夢だったのだろうか。(第五十八話参照)

 マルセリナ様は今日もニコニコ、彼女の私室で私と二人でお茶を飲んでいる。


「エリカさんが亡くなってもう一ヶ月が過ぎたんだなあ…」


「そうですね。寂しいですね…」


 私が上の空で急にそんなことを言うものだから、マルセリナ様は心配そうな顔をして私を見つめる。


「慣れっこの人たちの前では賑やかな人だったから、確かにぽっかりと空いたように寂しいですね…

 でも不思議なことがあったんですよ。

 最後にエリカさんからもらったこのペンダント、ほんの時々ですがエリカさんの気配や魔力を僅かに感じることがあるんですよ。」


「……そのペンダント、見せて頂いてよろしいですか?」


 私は首からペンダントを外し、マルセリナ様に渡した。

 両手で大切そうに持ち、じっくり眺めている。


「うーん… マジックエクスプロレーションを掛けてみたんですが、変わったところはないようですね。

 エリカ様がこれをどこで手に入れたのかご存じでしょうか?」


「アスモディアの魔女からもらったと聞きました。

 エリカさんの魔法の師匠です。」


「確か前に、ガルシア家のお屋敷に現れたという魔女ですね。

 魔族のペンダント……

 そう考えると、私の手には負えそうに無いです。

 ご期待に添えずごめんなさい。」


 そう言いながら、マルセリナ様はペンダントを返してくれた。

 闇属性の魔女、光属性のマルセリナ様とでは全く逆なので確かにわかり得ないかも知れない。


「いえ… とんでもないです。

 エリカさんは最後に、これを肌身離さずに、机の引き出しに入れ忘れたらダメなんて言ってました。

 これには何か意味があるんでしょうか?」


「そうですね… 一つ気になっているのですが、気配や魔力を感じたというのはどんな時だったのですか?」


「私ともう一人、エリカさんと親しかった人と感情的になった時にそうなりました。

 王宮のメイド、あとうちのメイドのビビアナとジュリアです。」


 モニカちゃんの時は彼女が泣き(わめ)いたときだったけれど、他の二人とはエッチなことをしてもペンダントが薄らと反応したとは、マルセリナ様には言えない。


「エリカ様と親しかった方ばかり…

 私の憶測ですが、エリカ様がその中の輪に入りたい、仲間になりたいからという気がしています。

 肌身離さずにというのは、マヤ様といつも一緒にいたい、マヤ様の魔力を感じていたいからなのかも知れませんね。

 まるでエリカ様の魂がペンダントに宿っているよう…

 マヤ様のことをとても愛していらしたのですね…」


「ああ… ううっ」


 私の胸はギュッと締め付けられ、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。

 マルセリナ様は何も言わず、私に寄り添い抱きしめてくれた。


---


 パティは十四歳になった。

 貴族が集まる恒例の誕生日パーティーが行われ、去年は平民として手伝いをしていた私も子爵になったのでこのパーティーに参加した。

 今回はジュリアさんやルナちゃんが手伝ってくれるので、楽をさせてもらう。


 話にはしていないが、ガルシア侯爵、アマリアさん、カルロス君、ローサさん、アベル君の誕生日パーティーもちゃんと行われている。

 ガルシア侯爵らのパーティーには貴族社会の面倒くさい付き合いの意味が大きく、カルロス君ら小さい子供たちには、早くも許嫁にしようと同じく小さな女の子を連れてくる若い貴族たちもいた。

 だが二人ともあまり見向きせず、ママの大きなおっぱいの方が好きなようである。

 顔にぽよぽよの生クッションを(はさ)んでいて、つくづくうらやましかった。


 パティのパーティーに話を戻す。

 体裁のため、前回のパーティーでパティに強引にキスをしようとしたエステバン家のお坊ちゃんにもパティは招待状を出していた。

 面の皮は厚いようで今回もやってきていたが、隅の方で他の貴族の女の子たちと話しているだけで、ダンスにすら参加しようとしなかった。

 是非そうしていて欲しい。


 だが淑女に人気があるのは今年もやっぱり◯カラジェンヌのようなエルミラさん。

 女の子に取り囲まれ、ちやほやされて仕事がしにくそうで困っているようだ。

 今年はそれだけでは済まなかった。

 なんとヴェロニカも女の子に取り囲まれていた。

 身分は伏せて参加しており、髪型はいつもの通りお団子だが、ドレスではなく何故か男装の貴族服で参加していた。

 セレスでドレスを着ていたときは似合っていたのに、もったいない。

 どうやって誤魔化しているのかわからないが、女の子たちと楽しそうに話しているのが見えた。

 私たち以外ではぼっちなヴェロニカだが、珍しく知らない女の子たちと一緒にいられるのは身分を隠しているせいだと思うが、良い影響になればいいね。


 ダンスが始まる。

 女の子の多くはマカレーナ女学院のOGで、パティの同級生である。

 エリカさんと一緒に教壇へ立ったときに見たような顔の子もいる。

 勿論カタリーナさんもだ。

 男の子はパティと同年代が大半だが、中には十歳以下の子もいた。

 むしろアイミに似合いそうで、彼女もパーティーに参加し可愛いドレスを着ていた。

 アイミは絶対面倒くさがって参加しないと思っていたが、面白そうだと言ってパティのお古のドレスを着せてもらい、ここにいる。

 酒は絶対に飲むなと釘を刺しておいた。


 最初はパティ。

 白を基調としたピンク色のドレスはとても可愛らしかった。


「おめでとう、パティ。」


「うふふ。ありがとうございます。

 マヤ様、ダンスがお上手になりましたわね。」


「君のおかげだよ。いつも一緒に踊っていればね」


「うふふ…」


 この感じ、去年とは違う。どこかデジャヴュを感じる。

 彼女とダンスの練習は時々していたんだが… まあいいや。


「あと一年… 一年ですわ。一年待てばやっとマヤ様と結婚出来るんですよ。」


「そうだね。出会ってからあっという間だったね。」


「ううん、(わたくし)は待ちくたびれましたわ。」


「あははっ パティは意外にせっかちだったんだね。」


「むー」


 パティは私に揶揄(からか)われて少々不機嫌な顔をしたまま、次の相手に変わる。

 次の私の相手はカタリーナさんだ。

 彼女は薄い黄色のドレスで、主催のパティより派手な気がしないでも無い。


「やあカタリーナ様。こうしてあなたと踊るのは初めてかな。」


「あらマヤ様。パトリシア様にダンスを習ってらっしゃるだけあって、とてもお上手ですわ。」


「今日のカタリーナのドレスはとても(きら)びやかですよ。」


「うふふ。ありがとうございます。

 でも(わたくし)より、パトリシア様のほうをたくさんお褒めになって下さいまし。」


 パティの親友であるカタリーナさんは、とても彼女のことを思ってくれている。

 私もカタリーナさんのことを尊敬しているし、いつまでも仲良くあって欲しい。

 おっ 次はマカレーナ女学院で見かけた子だ。


「お久しぶりです、マヤ・モーリ子爵。

 私はサラゴサ男爵の長女、セレナと申します。

 どうぞお見知りおきを。」


「どうも。魔法講座以来ですね。」


 この子はめがねを掛けていて、真面目そうでいかにも風紀委員風の女の子だ。

 確かエリカさんの風魔法が失敗して、ぱんつを見てしまった。

 思い出した! この子は意外にも黒くてやや際どいセクシーぱんつだったからよく覚えている。

 シンプルで白基調の青いドレスが真面目そうな彼女によく似合っている。


「まあ。私のことを覚えていて下さってたのですね。

 あわわっ あの時わた… 私の… 下… 見てらした…」


「ん? 何のことでしょうか?」


「いいえ… 何でもありません…」


 彼女は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

 しばらく無言でダンスをしていたが…

 ぱんつを見たのバレてたかな?


「マヤ様。今日はありがとうございました。

 またお会いしとう存じます。それでは…」


 そう言って彼女とのダンスを終えて、離れていった。

 いずれ屋敷に訪ねてくるか私が呼ばれそうなんだが、何かありそうだな…

 次はヴェロニカだ。


「マヤ、おまえと二人で踊るのは初めてだな。

 いつもは手を取り合っても殴る蹴るばかりだったからな。ふふふ」


 そうなんだよ。

 訓練で取っ組み合って、ある意味ダンスより密着している。


「へぇ。意外にダンスが上手いんだな。」


「意外とは何だ。馬鹿にするな。

 子供の時に王宮でしっかり訓練… いや、稽古をしたんだぞ。」


 王族の(たしな)みとして、そりゃそうだよな。

 さすがにセレスでやっていたソードダンスは(たしな)みじゃないだろうが、あのキレッキレな動きはすごかった。

 ヴェロニカがノリに乗って踊るもんだから周りの注目を浴びてしまい、拍手と歓声が上がっていた。

 前世にテレビで見た社交ダンス競技会のようになってしまった。

 その後何人かの女の子と踊って、アイミの番が来た。


『はぁぁぁ ガキと踊るのはつまらんつまらん。』


「おまえも今はガキだろ。

 同じくらいの子供がいたし、背もちょうど良かったんじゃないか?」


『あいつは最初イキがっておったが、私がぐいぐいと踊るとおどおどしてきたヘタレだったわ。

 踊りもたいしたことはない。』


「ガキをいじめてやるなよ… 大人げない。」


 だが言うだけあって、元邪神なのにダンスが異様に上手い。

 どこで覚えたんだろうか…

 だが私と背丈の差がありすぎて、私の手元でくるくると回っている様がとても可愛らしい。

 これも周りに注目されて、拍手喝采だった。

 そしてダンスの最後の相手は、またパティだった。


「うふふ。マヤ様ったらすごいですわね。

 ダンスがあんなにお上手だったなんて。」


「いやあ、ヴェロニカとアイミのダンスが上手すぎただけだよ。」


「パーティーが終わった後、去年のようにまた二人だけで踊って頂けますか?」


「うん、勿論だよ。」


「嬉しいです…」


 パティはニコッとして、ダンスのフィナーレを飾った。

 今年のパーティーはトラブルも無く、いつものようにフェードアウトして終了した。

 片付けはジュリアさんのグラヴィティが大活躍で、瞬く間に皿がテーブルから洗い場へ運ばれて綺麗さっぱりになってしまった。

 おかげで早い時間に、バルコニーでパティーと二人きり。

 熱い熱いチークダンスを踊ることが出来て、彼女が少女から徐々に大人の女性へ変わっていくことを実感した。


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