第百八十四話 その後の日常 其の一/ビビアナの魔法
飛行機を初飛行させてからさらに二ヶ月、エリカさんが亡くなって三ヶ月が過ぎた。
エリサレスが現れる様子も無い。
あれから飛行機のジェットエンジンあたる風魔法の噴射口を精密検査するために解体したら、小さな亀裂が数カ所見つかった。
やはり強度が足りなかったのか、再設計をオイゲンさんたちにしてもらうことにした。
機体の方も骨組みが歪んでいないか点検し、やはり不具合が見つかったので大がかりな修理をしているところだ。
今は機体を組み上げている最中で、間もなく飛行テストが行われるだろう。
王都マドリガルタへは月に二度、女王とアリアドナサルダの用事を口実にしてシルビアさんに会いに行っている。
三日間から長くて一週間滞在し、長いときはインファンテ家とガルベス家を訪ね、女の子たちとお茶を楽しんだ。
ガルベス家ではとうとうエレオノールさんをデートへ誘い出すことに成功し、短いがとても充実した時間を過ごすことが出来た。
そのことはまたの機会に話すとしよう。
シルビアさんは妊娠六ヶ月が過ぎ、お腹の膨らみが目立ってきた。
自分に子供が出来た実感が会うたびに大きくなり、生まれるのが楽しみで仕方がない。
母子ともに健康で、ロシータちゃんと一緒に執事の仕事をこなしていた。
女王も変わらず、夜のおつとめはシルビアさんのために以前より遠慮しているが、エッチなプレイはエスカレートするばかり。
熟女の未亡人は性欲が際限なく湧き出ているようだ。
私は多少の義務感でやっているとはいえ、どちらかといえばMの気がある一国の長をこのときだけは征服している気分にさせてくれる。
近頃はお尻を愛撫されることがお好きなようで、お尻を振りながらせがんでいる様は淫靡であり滑稽だ。
アリアドナサルダでのロベルタ・ロサリオブランドの売り上げはとても順調で、男児・女児の下着は大好評だ。
レディースふんどしやその他のランジェリーも好調で、デザイン料とリベートだけで私の生活費とルナちゃんへの給金、それから貯金も出来るくらいになった。
子爵なのに自立せずいまだガルシア家にお世話になっているのは、私の都合よりもパティを初めガルシア家たっての希望もあり、夫妻には今も時々エステをやっている。
ガルシア侯爵には毎度のよう「むほぉー」を言われながら施術をして喜んでもらっている。
アマリアさんはもはやタオルで隠すようなことをせず、全裸でエステを行っている。
鼠径部リンパマッサージがお好みで、目前にパックリ開いた美しい一輪の花を拝みながら施術をするのは、美味しい料理を目の前にして食事制限で食べられない患者の気分。
獲物を前にした猛獣とは違う。私は理性が強いのだ。
ただアマリアさんのダイナマイトボディを見た後に分身君の憤りが収まるわけない。
だからその晩は、ベッドの上で一番エッチなジュリアさんに相手をしてもらっている。
ビビアナやエルミラさんはそこまで性欲が強くないので、週に一度あるかないか。
変身アーテルシアもあれで淡泊なのでたくさんは求めてこない。
パティとは毎日のように彼女の部屋でお茶会をしているが、その後に誰かとベッドの上で運動することは毎日というわけではないのだ。
ヴェロニカとは性的なスキンシップが無く、毎朝の訓練で取っ組み合いをしてたまたまおっぱいや股に挟まれたりすることもあるが、運動をしている範囲でのスキンシップで彼女は満足しているようだ。
さすがの私でもヴェロニカのパンチラは見たことがなく、セクシーイベントは彼女と一緒に骸骨巨人と戦った後に鎧を脱いだらおっぱいがぷりんと見えた時だけである。
どちらかと言えばお互いが同性の親友のような存在で、やはり拳で語るということは何よりも親睦が深められると思う。
ヴェロニカはどんなぱんつを履いているのだろう。
私がデザインしたレディースボクサーパンツかブリーフが似合うだろうに。
ヴェロニカは午後になると何もすることが無ければ一人で訓練することもあるし、エルミラさんと馬車使わず市街へ買い物に出かけることもあるという。
王女でも顔を知っている人は一握りなので悠々と動くことが出来、この前は一人で自由市場へ出かけたという。
その時はゴロツキ数人に絡まれたがやつらには相手が悪すぎた。
当然一蹴して片付けたが骨折させたり失神させてしまいやり過ぎてしまったので、警備兵に連れて行かれ詰め所で事情聴取を受けていた。
何故私がそれを知っているのかというと、身元保証人として私が呼びつけられたからだ。
困ったおてんば王女様である。
それで警備兵にヴェロニカの身分を告げたら、警備兵の方が失神してしまった。
「あのようなならず者をのさばらせておくとは、おまえらの目と手足は何のためについている!?」
と警備兵たちを叱咤し、震え上がらせてこの場について事なきを得た。
ヴェロニカはお忍びでこの街に滞在していることも釘を刺しておいた。
噂になったら面倒である。
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エルミラさんとスサナさんとも親友のような存在だ。
エルミラさんとはプライベートでエッチなことをする恋仲ではあるが、普段はベタベタすることが無い。
パティの目もあるし、そもそも彼女の性格がさっぱりしているので女の子らしい感覚が無いのだ。
その点はヴェロニカも同じだから、彼女とよく気が合うのだろう。
午後はたまにヴェロニカがエルミラさんを自分の部屋に呼んで何かをしているようだ。
私はゲスな妄想をしていまうが、彼女らの性格からそれはないだろう。
スサナさんは自由奔放な性格だが、ヴェロニカが来てからエルミラさんと二人の行動が減って少し寂しそうだ。
先月は珍しくスサナさんを買い物に誘ってみた。
二人で出歩くなんて私が初めてマカレーナへ来たとき以来で、スサナさんは喜んで受けてくれて市場の方へ出かけて屋台でおやつを食べたり、デートそのものだった。
市街では服を買ったがスサナさんも普段着はかなりラフで、今日も白いシャツとベージュのチノパンだ。
私も白いシャツとカーキのカーゴパンツだから似たようなものだ。
たまにはスカートなんてどう?と聞いたら、よく脚を開くからぱんつが見えて恥ずかしいそうで。
結局彼女が買ったのも替えで色違いのチノパン二着だった。
私が下着のデザインをしてることをスサナさんは知っているので、アリアドナサルダでぱんつを買ってあげようと言ったら怒られた。
でもぱんつは欲しいみたいで、自分で選んで買うからどっか行っててと言うので男性用下着売り場付近でぶらぶらしていたら、店長のミランダさんに見つかって店長室へ連れ込まれてしまった。
子供用下着の新商品について聞きたいというから素直に付いていったけれど、ソファーに座ると隣にミランダさんが密着して座り、手を引っ張っていろいろお触りさせられた。
歳を取った旦那だとよほど性的欲求が溜まるんだろうなあと思いつつも、スサナさんと買い物をしている途中なので丁重にお断りをした。
店長室から出るとちょうどスサナさんがレジで会計を済ませていたところだった。
どんなのを買ったの?と聞いても「ひ・み・つ!」と言って答えてくれない。
スキンシップ的なラッキースケベはあっても、視覚的なラッキースケベは意外に無いスサナさんだった。
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ビビアナも変わらず、厨房周りの仕事を中心に頑張っている。
せっかく魔女から魔法を使えるようにしてもらったのに、元々勉強嫌いだからなのかジュリアさんが教えてもなかなか覚えてくれない。
彼女は火・風・光属性の魔法が使えるはずだが、料理に役立つ程度の小規模な火の魔法、髪の毛を乾かせるくらいのそよ風魔法、光属性にいたってはいまだに使えない。
ある日、ジュリアさんが仕事の日に私とパティが屋敷の庭にあるテーブルで、ビビアナに魔法を教えることになった。
いつもエリカさんに教えてもらっていたガーデンテーブルである。
そんな日を思い出し懐かしみながらのつもりだったが、ビビアナはぐんにょりした表情で椅子に座る。
「回復魔法は難しすぎるニャ… 全然覚えられないニャ…」
「回復魔法を覚えたら、あなたのご家族がもし病気や怪我をしてもタダですぐ治せるんですのよ。頑張って下さいまし。」
「それはわかってるニャ… でもその時はマヤさんに頼むニャ…」
「マヤ様がいつもいらっしゃるとは限らないでしょう?
私も王都やカタリーナ様のところへ行っている時がありましたから…」
「ニャ…」
ビビアナはますますぐんにょりしてしまった。
どんだけ勉強が嫌いなんだよ。
あれだけ料理が上手なんだからバカでは無いはずだ。
「頭で覚えようとするからいけないと思うんだよ。
歌を歌うとか、料理をするときのノリみたいな感じで覚える方法がないかなあ。」
「さすがですわマヤ様! それでいきましょう!」
「うん?」
「え? どうするニャ?」
「一つの魔法の中にあるそれぞれの構文をレシピに見立てて、料理の献立を見て作るように覚えていきますの。
リカバリーのような初歩の魔法なら出来ますわ!
早速魔法書からそのようにレシピを書き出してきます!」
パティは急いで自分の部屋に戻り、籠もってしまった。
私が適当なことを言っただけなのに、天才少女はすごいなあ。
でもパティは料理を全然しないんだよ。大丈夫なの?
「なんか不安だニャ… 私に魔法の才能は無いニャ…」
「きっとパティがわかりやすいようにしてくれるさ。」
「ニャ…」
時間はかかると思うので、その間はビビアナが出来る魔法でもっと出力を上げる練習をしてもらった。
わかりやすく言えば呼吸法のようなもので、目を閉じて呼吸を整え、手のひらに魔力が行く感覚があるので「火を出すぞ」というイメージで魔法を出力する。
上級になれば手のひらでなく睨むだけで出力出来るが、ビビアナにはそこまで求めない。
ジュリアさんも忙しいし、そこまで教えられなかったのかな。
ボォォォォォォォォォォ!!
「おお! マヤさんすごいニャ!
いつもより火が大きくなったニャ!」
前に見たことがある火より三倍の大きさになっていた。
あくまで生活魔法のレベルで攻撃には使えないが、ビビアナには自信を持ってもらいたかったので良かった良かった。
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結局翌日になり、パティの回復魔法レシピ本が完成した。
また庭で、それを見せてもらう。
「これ私だニャ! パティは絵がうまいニャ!」
「おおぅ! ビビアナが漫画の可愛いキャラになって説明してくれてる!」
「私も書いているうちに夢中になって時間が経つのを忘れてしまいましたわ。
傑作になったと思いますから、是非これでリカバリーを覚えて下さいまし。」
「パティ、ありがとうニャ!」
ビビアナはパティに抱きついてスリスリペロペロした。
なんと麗しい光景だろうか。
本来の魔法書は文字がズラズラと並んでいるだけで私でもウンザリするものだが、パティが書いた魔法書は構文を分解して図や漫画で説明している。
その一つの構文を一つの料理のレシピとして、それらをまとめた一冊の本がテーブルに並べられた料理に例えている。
レシピ本というより日本の小学校低学年の教科書のように見えた。
今まで何故こういう本が存在してなかったのか、これはもしかしたら魔法書の大革命になるかも知れない。
幼年学校魔法組の児童にも覚えやすくなるだろう。
パティにそのことを提案してみた。
「マヤ様! その考えは素敵です!
お母様やマカレーナ女学院の学院長先生にも見せてあげましょう!
子供たちに楽しく魔法の勉強が出来るようになればいいですね! うふふっ」
その結果、マカレーナ市内での幼年学校で採用が検討されることになり、パティは児童向けの魔法書作りに勤しむ毎日になった。