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第百八十二話 飛行テスト 其の一

2023.2.11 加筆修正しました。

 エリカさんが亡くなって一ヶ月が過ぎた。

 アイミはガルシア家の屋敷に住み着き、空いていた小さな部屋を与えられた。

 私の部屋みたいな大部屋がいいと不満を漏らしていたが、ヴェロニカが使っている部屋が最後に残っていた客間だったのでそこしか無かった。

 部屋の準備が間に合わなかったので私の部屋で一緒に寝ると言い出したが、アイミは六、七歳くらいの姿。

 それを聞いていたパティの顔が般若面のように変わった。

 そういうわけでアイミには小部屋を改装し終えるまで数日間私の部屋で寝てもらい、私は地下にあるエリカさんの部屋で寝た。

 シーツは取り替えられ、エリカさんの匂いはしない…

 その他はそのままにしており、本棚に置いてある大量の魔法書は貴重な物もあるので、書庫としてパティやジュリアさんにも自由に使ってもらうことにした。

 ビビアナも魔女によって魔法が使えるようになっており、ジュリアさんが魔法を教えているがサボりがちでなかなか上達しないようだ。


 アイミの処遇は、私やガルシア侯爵、女王からすると罪滅ぼしをさせるという目的であるが、正体を知らない民衆からの見かけでは()()()()()()()()()()()()()()()が有り余る魔力量で仕事の手伝いをするということになった。

 魔力と言ってもそもそも神なので、魔族が作った属性魔法という概念が無い。

 だから魔法ではなく神通力である。

 最初は道路工事や近郊の農地を耕したり水を撒く手伝い。

 街に居る害虫やねずみを一斉に退治したりと、地味ながら街の人々に喜ばれることをしてもらった。

 あまり派手にやると、元から働いている魔法使いの権益を損ねるからである。

 多くが私の付き添いでアイミは意外にもそれらの手伝いを楽しんでいたが、そろそろ飽きてきているように見えるので何か別のことを考えなければいけない。

 そこで飛行機製造の話になる。


---


 ラウテンバッハへは週に一、二度通い、オイゲンさんたちと話しながら図面と実物を見て調整し、作ってもらっている。

 ある日、初めてアイミを連れて行った。

 とうとう飛行機が完成して、初のテスト飛行をするのである。

 地球ではプライベートジェットやビジネスジェットと呼ばれる小さな飛行機を模した、謂わば大きな魔道具である。


 店内へ入ると、いつものように受付にはアンネマリーさんがいた。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは、アンネさん。今日もお綺麗で何よりです。」


「あら、マヤ様。あなたもだんだん大人びて格好良いですよ。うふふ」


 いつもこの調子で挨拶を交わしている。

 ビシッとグレーのスーツでタイトスカートのお姉様は見ていて()()れする。

 シャキンとしたデザインのぱんつが似合うんだろうなと想像してしまった。

 今度アンネさんに似合うぱんつのデザインを考えてみたい。


『おまえはまた変なことを考えているな。まったく…』


「んー 何のことかな。」


 アイミからよくツッコミが来るが、私はいつもとぼける。

 これもいつもの調子である。


「その子、もしかして街中で噂の天才魔法少女なんですか?」


「ええ、アイミといいます。ほら、挨拶を。」


『うん? 私はおまえの娘じゃないぞ。

 そこの女、私はアイミという。お前も名を名乗れ。』


「え? ああ… 私はアンネマリー・ヘルツェンバインと申します。

 アンネとお呼び下さいませ。

 外国の大貴族のお嬢様とは存じませんで、大変失礼をいたしました。」


「アンネか。うむ。」


 アイミの態度がでかいものだから、アンネさんは外国の大貴族と思い込み深々とお辞儀をした。

 説明が面倒なのでそういうことにしておく。


---


 工場内は勝手知ったるので、アイミと二人で向かった。

 いつの頃からか紺色の魔女っ子服にとんがり帽子の姿に変わった小さなアイミは、トコトコと私の後を付いていく。

 しゃべらなければ可愛いのだが。


「こんにちは! オイゲンさん。」


「よぉ! 待ってたぜ! ん? その子は?」


「最近街で話題の、大魔法使いアイミを連れてきました。」


『おっさん、よろしくな。』


「お… おう… なんかすごい子だな。」


「まあこういう子なので気にしないで下さい。」


 アイミは片手を挙げて挨拶したが、オイゲンさんの名を聞こうとしないのでおっさんには興味が無いのか。


「準備は出来ている。早速テストを始めよう。」


 飛行機は工場から特設の格納庫へ移動されており、場内の外へすぐ出せるようになっていた。

 テオドールさんと幾人かのスタッフは格納庫内でスタンバイ。

 最初はオイゲンさんとテオドールさんの通常作業の合間に作る半分お遊びのようなものだったが、形が出来上がるにつれ関心を持つスタッフが増えていつの間にかラウテンバッハの一大プロジェクトになっていた。

 その中にはアンネさんの旦那さんもいる。

 無口な工員風であまりたくさん話したことはないけれど、真面目で技術力もバッチリだ。


 機内はまだ最低限の内装で、コクピットに二席分、客席は前に二席しかない。

 テスト飛行が成功した後、残った座席を追加する。

 そうしないと万一テストでバラバラに壊れてしまった場合、無駄が出るからだ。


 搭乗員は私とアイミ、オイゲンさんとテオドールさんの四人。

 グラヴィティを使うので墜落することは無いが、私がもし調子が悪くなったときのためにアイミは保険で連れてきたというわけだ。


 コクピットは先々週に座ってみてパイロットになった気分を味わってみた。

 歳がいくつになっても乗り物の操縦席に座るのはワクワクするものだ。


『おお! こういう物を私は見たことあるぞ!

 確かお前の星にあった、もっともっとずーっと大きなものだ。

 それがたくさんあって、とてもうるさい音をたてて飛んでいきおった。

 人間のくせにすごいものを作るんだなと感心したぞ。』


「んん? このお嬢ちゃん何を言ってるんだ?」


「あいや、この前絵本で読んだ夢の国の話なんですよ。ハハハハ…」


 アイミは前に地球でエロ本を拾ったと言っていた。

 その時にどこかの空港も行っていたのか。

 私やアイミの正体は最低限の人しか知らせてないので、適当にボケておいた。


 格納庫から出すまで、私だけ飛行機に搭乗する

 本物のビジネスジェット同様、コクピットと客席は分かれている。

 操縦桿(そうじゅうかん)とペダル、レバーを動かし、主翼のエルロンやフラップ、垂直尾翼のラダーの動作確認をする。

 これらは魔道具になっており、動かす元になる魔力は部分完成したときからその都度魔力を込めていた。

 だから操縦桿(そうじゅうかん)やレバーから電気配線を必要としなく魔力でリモートコントロールをしているので、地球の飛行機よりずっと作りが簡素である。

 室内灯ももちろん魔道具だ。


 最初は格納庫から飛行機を工場内の外へ出す。

 車輪は付いており、グラヴィティでゆっくり動かした。

 工場内での移動は馬を使っていたそうで、これが初めての自走である。

 オイゲンさんたちや工場のスタッフたちから歓声が上がる。

 アイミも子供っぽくはしゃいでいるのが見えた。


 場内の広場に駐機し、一旦降りてジェットエンジンにあたる部分のテスト。

 勿論ジェット燃料で動くわけではなく、私がエンジン内に強力な風魔法のエネルギーを作り噴射させる。

 だから魔力量豊富な風属性の魔法使いしか出来ないので、他にパティやジュリアさん、あとは神通力でアイミだけが操作可能である。

 魔法の出力を上げ、噴射口から大きな音がゴォォォォォォ!!と唸る。

 機体を固定したまま、コクピットにいなくても外から私が直接風魔法を発動すれば良いのだ。

 低出力のテストは問題無し。


「おお、マヤさん。エンジンもこれで成功かね?」


「いえ。本当に飛ぶときはもっと強い風が必要なので、これからやってみます。」


 二度目のエンジンテスト。

 きちんと強固に作ってもらったので壊れることはないと思うが…

 私は、地球の飛行機が離陸する時ぐらいの出力で風魔法を強く発する。


 ゴオオオオオオオォォォォ…


『ほほう、すごいな。後はどうなっているんだ?』


「あっ 待てアイミ!」


『ううううわああああああああ!!!!』


 風魔法を出力し始めたタイミングでアイミが機体の後に行くもんだから、吹き出す風でお空へ吹っ飛んでしまった。

 本当のジェットエンジンみたいに熱が無いから火傷をすることはないが…

 あっ 空の彼方からもう飛んで戻ってきた。さすが神。


『ううう… まさか風がこんなに強力だとはな…』


「爆風を吹き出だして進むからそうなるんだよ。」


「マヤさんもすごいが、大魔法使いのお嬢ちゃんもとんでもないな。ははは…」


 オイゲンさんたちは私たちに呆れたような顔をしていた。

 空を飛ぶ魔法使いってこの辺では今は他にジュリアさんしかいないからな。

 さて、二度目のエンジンテストをもう一度する。

 エンジン内に再び魔法のエネルギーを点火し、ゆっくり風の出力を上げる。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ…


 かなり大きな音を立てているので、みんなが耳を塞いでいる。

 五分経っても壊れることがない。

 二回目のテストを終了し、三回目に入る。

 三回目は三十分間を高出力で噴射し耐久性を確認する。


『おい退屈だぞ。早く飛ばしてくれ。』


「これが成功したら飛ぶから我慢してくれ。」


 まったく、アイミは頭の中身までわがままな子供っぽくなってきた。

 だいたい本物の飛行機はたったこれだけのテストで飛べるわけがない、デタラメなことだ。

 電気も何も無いすべて魔力で動いていて、ある意味翼が付いた馬車のようなものだ。

 三十分が過ぎ、ジェットエンジンに当たる風魔法の噴射システムは壊れることなく耐えた。

 いよいよ飛行テストである。


 搭乗を開始する。

 コクピットは私とアイミ、客席にはオイゲンさんとテオドールさんに座ってもらった。

 三人にはシートベルトを着けてもらうが、アイミが文句をたれてきた。


「私はこんなものいらん! 例え山の高さから落ちても死なないぞ。」


「いやいや、衝撃があってアイミが飛び出したら飛行機のほうが壊れる。

 だから素直にベルトをしてくれ。」


『なんだ、案外(もろ)いものだな。』


 ……めんどくさいやつだ。

 私からアイミにシートベルトを着けてやった。

 天井に頭をぶつけたら天井のほうが壊れそうだぞ。

 私もシートベルトをして、操縦桿を握る。


「さて、離陸を開始する。」


 滑走路は必要無く、グラヴィティで浮かせてVTOLの戦闘機のようにゆっくり垂直上昇する。

 コクピット後ろのドアは開けてあるので、オイゲンさんとテオドールさんの驚く声が聞こえてきた。


「おお! おおおお!! 飛んでる! 飛んでるぞ!!

 俺たちは鳥になったんだ!」


「うおおお! 下のみんながどんどん小さくなっていくぞ!」


 初めて空を飛んだ人のテンプレートのようなセリフだ。

 アイミは自身の力で神通力のよくわからない理屈で飛べるので驚くこともなく大人しくしている。


『うるさいジジイたちだな。ま、冥土の土産にはなるだろう。』


 と、ボソッと言っていたが。


 飛行機は魔法で浮かせているだけなのでテストにはならない。

 グラヴィティの魔法単体で上げられる高さ二十メートルくらいのところで一旦停止。

 ここで風魔法を低出力で噴射させる。

 

 ゴオオオオオオオォォォォ…


 ゆっくり前進する。

 このまま街の外へ出るが、街中の通りから丸見えでずいぶん目立つ。

 一応ガルシア侯爵にお願いし、警備兵などにも通達してもらっている。

 私がどうにかならない限りは落ちることがないが、二十メートルより高い建物もあるので広い街路の上を中心に西へ進んだ。

 オイゲンさんたちは、子供のようにワクワクしながら窓の外を見ていた。

 アイミはまだ退屈そうにしているが、どうやったら面白がるのか。

 宙返りやきりもみ飛行は、初飛行の今日は勘弁して欲しいぞ。


 飛行機オタクではありませんので、細かいことはスルーして下さい。

 これ以上詳細に書くつもりもありません。


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