第百八十話 幸せな時間
王宮で借りているいつもの部屋でデザイン画を描いている時、お世話係としてやってきた王宮給仕のモニカちゃん。
エリカさんが大好きな彼女に、躊躇しながらもエリカさんの死を伝えた。
それを聞いたモニカちゃんは号泣する。
「うわぁぁぁぁ!! エええリぃぃぃカぁさあぁまぁぁぁぁ!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「モニカちゃん!!」
号泣を越えて狂い泣きだろう。
暴れて頭を打ち付けたりして怪我をしないように、しっかりと彼女を抱きしめた。
アマリアさんやエリカさんが使っていたソーバーの魔法を使えば頭がスッキリして落ち着くのだけれど、私はまだ覚えていない。
私一人じゃ出来ないことばかりだ。
モニカちゃんはずっと泣き喚いているが、元々何かしら精神疾患があったのかもしれない。
過去にたくさんの男に玩ばれ捨てられていたという話で、自分でも想像出来ないほど心に深く傷を負っていたのだろうか。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何とも悲痛で、私も苦しくなってくる。
私は何もしてあげられず、ただ抱きしめる他なかった。
「うわぁぁぁ… あ… ぁ…」
モニカちゃんが急に泣くのをやめた。
どうしだんだろう?
「エリカ様がいる… どこ? ねえどこ?」
私は血の気がサーッと引くのがわかった。
幻が見えたのか?
モニカちゃんの心が危ない。
ピキーンッ
……ん? 私もエリカさんの魔力を微かに感じた。
どうして?
「モニカちゃん。俺もエリカさんの魔力を一瞬感じた。
モニカちゃんも魔法が使えるの?」
「いえ… 私は魔法を全然使えない…
でも何となくエリカ様がいる気配がした…
すごく気分が落ち着いたんです…」
私はモニカちゃんを抱きしめるのをやめて、ベッドに座らせた。
彼女は泣いて疲れ切った様子で、沈んだ表情をしていた。
私も彼女の隣に座る。
「ふぅむ… どうして亡くなったエリカさんの魔力が…
それに気配まで感じるなんて。」
モニカちゃんは虚ろな目で私の胸に視線を動かした。
その先には、先ほどモニカちゃんにグラグラと胸ぐらを動かされジャケットの内側からこぼれたエリカさんのペンダントがあった。
「マヤ様…、もしかしてそのペンダントが…」
「そうか。これがあったんだ。でも今は何も感じない。
エリカさんがこのペンダントを肌身離さずとか机の引き出しに入れたまま忘れちゃダメって、何か意味がありそうなんだけれどそれがわからないんだ。
だからお風呂に入るときでもいつでも着けているんだよ。」
「……私には何も無かった。嫉妬します…」
モニカちゃんはますます暗い表情になり、下を向いてしまった。
私がエリカさんと愛し合っていることを彼女は知っていたが、それはあくまで自分と平等という気持ちがあるのだろう。
だがエリカさんからもらった物はペンダントが初めてだ。
「うーん…」
エリカさんの物っていってもなあ。
部屋の中は魔法書の本棚だらけで殺風景だし、服の数は人並みでブラジャーとぱんつだけはコレクション並に持っていた。
「おっ 待てよ?」
私はジャケットの内ポケットにアレを入れていたのをふと思い出した。
エリカさんの部屋にあるベッドの上に脱ぎ捨てたままだった、アレである。
少し片付けるつもりで、ついハンカチをしまう感覚でポケットに入れたままだった。
ブラはデスクに置いたんだっけ…
私はそれをポケットからそろりと取り出し両手で広げた。
「あのぅ…、これがあったよ。」
「えっ? ピンクのぱんつ!? マヤ様… 変態?」
モニカちゃんはジト目で私を睨む。
確かにぱんつをポケットに入れているのはおかしいことだが、ズバリ言われてしまった。
モニカちゃんがいつもの調子に戻ってきているのは良いが…
「あいや… エリカさんの部屋を片付けようかと思って、ベッドに散らかっていたのをそのまま持って来てしまったんだよ…」
「エ… エ… エリカ様のですか!!??
私に下さい!!」
まさかモニカちゃんがそこまで食いつくとは思わなかった。
麗しい百合ではなく、ただのエロおやじである。
「ああ… モニカちゃんが良ければ… どうぞ。」
モニカちゃんはピンクのTバックを両手で受け取り、掲げてジッと眺める。
「はわわわ… エリカ様のぱんつ… すごくセクシー」
モニカちゃんはしばらくぱんつを眺めた後、ぱんつを手の中へ包むようにして鼻に近づけた。
「スンスン… スゥー ハァー」
エリカさんのぱんつの匂いを嗅いでいる。
自分が言うのも何だが、可愛い女の子がぱんつの匂いを嗅いでいる姿を端から見ると、ちょっと退いてしまう。
「はぁぁぁぁ… 懐かしい。エリカ様の匂いだ…」
ぱんつの匂いを嗅いでエリカさんの匂いとわかるというのは、二人でどんなプレイをしていたのか、もはや何も言うまい。
エリカさんがエリサレスと戦っていた後に持ち帰ったぱんつとブラは服と一緒にロハス家へ帰してしまったけれど、私がそのまま持っていた方が良かったかな。
モニカちゃんはもう一度匂いを嗅いだ後、満足したようで朗らかな表情になった。
「エリカ様の匂い… 癒やされるうぅ。
これ本当に私がもらっていいんですか?
マヤ様は使わなくていいんですか?」
「使うって…。(おいおい)
まあ、君が欲しいなら持っていてあげたほうがエリカさんも嬉しいんじゃないかな。」
「本当!? ありがとうございます!!」
憧れのお姉様の形見であるぱんつをもらってはしゃぎ喜ぶ女の子。
変わった形見だけれど、本人が喜んでいるなら良かろう。
モニカちゃんはぱんつを給仕服のポケットへ、大事にしまい込んだ。
「ごめんなさい、マヤ様…
取り乱してしまいました…」
「愛する人が亡くなったんだ。仕方ないよ。
気分が優れないのなら、休んでいてもいいんだよ。」
「大丈夫です、マヤ様。
エリカ様のぱんつから元気をもらいました!」
「そ、そうか… ははは…」
「マヤ様。少し早いですけれど、長旅でお疲れでしょうからお風呂に入りましょうよ。」
「ああ、そうだね。よろしく頼むよ。」
モニカちゃんはお風呂にお湯を張った後、私の服を手際よく脱がす。
エリカさんのペンダントは首に掛けたまま…
先に私が風呂場に入り、モニカちゃんが素っ裸で入ってきた。
モニカちゃんは十六歳。この国での成人年齢は十五歳。
プライベートであれば男女の行為は成人してから認められているが、娼館など商売としての行いは十九歳からである。
当然違法で行う者もおり、取り締まりの対象となる。
だからモニカちゃんの職場であるここで彼女と行うことはややグレーであるが、あくまでプライベートだ。
私が女王へのおつとめをするのも、私が十九歳だから合法だ。
お風呂場ではモニカちゃんが淡々と身体を洗ってくれた。
白人金髪の可愛い女の子が裸で目の前にいるって、前世ではあり得なかったことだ。
私はエロいおじさんらしく、初見ではないがじっくりたっぷり観賞させてもらった。
お風呂上がり、ベッドの前に立ち裸のまま長く甘いキスをする。
ほのかな石けんの香りとモニカちゃんの身体の匂いがブレンドされ、とろけそうだ。
分身君は破裂しそうになる。
「あっ またですよ!」
「俺も感じたよ。」
ペンダントから一瞬、エリカさんの魔力を感じた。
エリカさんが肌身離さずといっていた理由がそこにあるのだろうか。
「うふふ。まるでエリカ様が私たちを羨ましがっているようですね。
もしエリカ様と三人でエッチなことが出来たら最高なのになあ。」
「こ、こら。そんなふしだらなこと言ってはダメだって。」
「え? 今やってることって十分ふしだらですよ。ふひひ」
「だんだんエリカさんに似てきているよね…」
「そう? 私はエリカ様に似ていると言われたら嬉しいなあ。」
そんなやりとりをした後、モニカちゃんとベッドの上で一生懸命運動をした。
何はともあれ元通り元気になって良かったよ。
カタリーナさんもエリカさんの大ファンだったけれど、彼女は魔法に興味津々だったので動機が違いすぎる。
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結局モニカちゃんの仕事は私の着替えと運動後のお茶入れだけで終わり、部屋を退出していった。
モニカちゃんにエリカさんが亡くなったことを知らせる壁を越えて、これで今回の王都行きの懸念は無くなった。
あとは女王からの処遇待ちである。
夕食から後はシルビアさんと水入らずで過ごすことになった。
食事の後はシルビアさんの私室でお茶を飲みながらゆっくり歓談する。
今日の事務的な仕事はもう無いので、ロシータちゃん一人に任せているそうだ。
「ロシータちゃんはあれからどんな感じですか?」
「ええ。頭が良くてしっかりしてる子だから、すごくよくやってくれていますわ。
元々王宮内でも知名度が高かったし、大臣たちにも評判いいですよ。」
「そうかあ。シルビアさんの産休が終わっても、仕事を取られちゃいそうですね。」
「あら。私もまだまだ頑張りますよ。
あと十年以内にはアウグスト王子が戴冠なさるでしょうから、その後は私の仕事も楽になるでしょう。
そもそもロシータたちはマヤ様が連れて行くことになっていたんでしたっけ?
だったらロシータをそのままマヤ様の執事にするのが打って付けですよ。」
「なるほど。ロシータちゃんを執事にする方法も出来たってことですか。
普段の世話はルナちゃんでいいとして、執事役は頭脳明晰なパティを当てようかと思っていたんです。」
「ダメですよ、将来の奥さんを執事にしては。
パトリシア様にはマヤ様の補佐ではなく、もっと別の大きな目的を持って頂いたほうが為になりますわ。
むしろパトリシア様にも専属の執事をお付けになったほうがよろしいでしょう。」
「現職の国王陛下執事の意見はとても貴重です。ふふふ」
「ありがとうございます。うふふ」
私はどちらかと言えばバカな部類の人間だから、頭が良い人の話を聞くことは楽しい。
それで自分自身のレベルを上げていくことが出来るからだ。
周りの人間の程度次第で自分の人生の選択肢が増えていくことはよくある。
自分の世界が広がっていくことは素晴らしいことだと思う。
「一つ気になったことがあるんです。」
「何でしょう?」
「シルビアさんの例もあって… その…
ロシータちゃんは大丈夫なんですか? 陛下への夜のおつとめが…」
「うふふ そのことですか。
大丈夫ですよ。さすがに十六歳の子に手を出すわけにはいきませんよ。
陛下が法律を作ったんですから、ご本人が破っては大変です。ふふふ」
「え… 陛下が作ったんですか…」
十九歳の私にはめちゃくちゃエッチなことをして、そうなのかよ。
若い子を法律で守ることは大事だけれど、許される範囲ではやりたい放題なんだな。
「それに変なことをして、あんな優秀な子に逃げられてしまっては元も子もないですからね。」
「シルビアさんは逃げなかったんですね。」
「私は陛下のことが好きですし… いろいろ恩義がありますから…」
シルビアさんは顔を赤くしてぎこちなく答えた。
女王と三人ですべてをさらけ出した間だからこそ成り立つ会話で、恥ずかしいことでも気兼ねなく話せるのは嬉しい。
シルビアさんとはいまだに敬語を使って話しているが、私はシルビアさんをとても尊敬しているのでそうしたほうがかえって話しやすい。
それから、ラフエルで起こった経緯を事細かく話した。
勿論アーテルシアとのエッチなことは脚色した。
シルビアさんはエリカさんと直接話すようなことは無かったが、とても悲しんでくれ、知らぬとは言え女王との会見の時にニコニコしていたことを謝罪した。
知らなかったんだからそんなことをしなくても良いとなだめたが、それでもとまた謝った。
何て優しいんだろう。こういう女性だから私は尊敬するのだ。
きっとシルビアさんは生まれてくる子を良い子に育ててくれるんだろうな…
その子に自分が本当の父親だよと言えないのがとても心苦しい。
話が弾み夜が更け、そのままシルビアさんの部屋で一緒に寝ることにする。
ベッドの上に隣り合って座り、時間を掛けてキスをする。
エリカさんのペンダントをしたままなので何か見られている気分になったが、特に魔力を感じることは無かった。
服と一緒に側へ置いておくなら良かろうと、ペンダントを外して裸になった。
もう妊娠四ヶ月になろうとしている彼女なので、負担になる体勢を避けてゆっくり優しく愛し合う。
とても幸せな時間だった。
エリカさんが頭にふとよぎることがあったが、行為の最中に他の女性を考えることはシルビアさんにとても失礼なので、押し殺す。
ごめんね… エリカさん。




