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第百七十九話 女王へ報告/悲愴

2024.7.24 軽微な修正を行いました。

 大聖堂の一室でエリカさんの葬儀が行われた翌日、ラフエルの出来事について女王へ報告するために王都マドリガルタへやって来た。

 王宮の応接室にて、女王、執事のシルビアさん、執事見習いのロシータちゃんを前にガルシア侯爵からの手紙を女王に読んでもらっているところである。

 シルビアさんは手紙の内容をまだ知らないので、思いも寄らぬ私の訪問でとても機嫌が良さそうに見える。


「あなたの周りにはまるで災難のほうから集まってくるようね。

 そう…… エリカさんが……」


 女王は額を右手で押さえ、嘆き悲しむような、はたまた呆れられているようにも見えた。

 アーテルシアが現れてから私をターゲットにしていたので災難が集まってくるのは当然であるが、私を隔離して生活することを申し出たのもうやむやになっていた。

 そうしたところで今より結果が良くなるとは限らない。


「つまりラフエルで暴れていた邪神アーテルシアが貴方に触れたら無害化して、それに怒った母親の邪神エリサレスがやってきた。

 エリカさんが命をかけて禁呪を使い、エリサレスを追い払ったということでいいのね?」


「かみ砕いて言えば、そういうことです」


「じゃあもしエリサレスが再来したとき、貴方がエリサレスに触れることが出来たらそれも無害化出来るのかしら?」


 アーテルシアにキスをして無害化したことはただ触れたからということにしたが、エリサレスとキスをするなんて考えたくもないな。

 美人だけれど私の身体をブスブス刺した女にどうしてキスが出来ようか。

 あいや、それはアーテルシアも同じことだった。

 私はなんて節操無しなんだろうか。


「アーテルシアに触れられたのは偶然です。

 アーテルシアより遙かに強いエリサレスに触れられるのか至難の業ですし、そもそも触れられたところでエリサレスの場合はどういう条件が重なって無害化出来るのかわかりません」


「そう…… 何にしても次にエリサレスが襲来したときが問題ということね。

 でも、いつどこに現れるか見当が付かないと…」


「私が、結界がかかっているマドリガルタかマカレーナに閉じこもっていたら、アーテルシアの例のように私をおびき寄せるため、別の街に被害を負わせて来るかも知れません。

 嫌がらせをしてくるのであれば、私に縁のあるラミレス侯のセレス、グアハルド侯のラガを標的にするでしょう。

 どういう攻撃をしてくるのかわかりませんが、魔物を放つのであれば防衛を強化することに越したことは無いと思います」


「わかりました。セレスとラガの防衛については手配させます。

 それであなたはエリサレスに勝てる見込みがどれだけあるの?」


 はっきり言って全く無い。

 エリカさんが使った禁呪を私が使っても死ななくて済む方法と、もっと威力を大きくする方法を見つけるしか今のところ思い浮かばない。

 魔女アモールが禁呪を使って戦ってくれれば一番良いが、あまり人間のために動きたくないのは前にも聞いた。

 流れてきた魔物がアスモディアで悪さをしてもあっさり片付けられてしまったようだし、邪神との大戦が七百年くらい前でそれ以降は直接手を出してこないのも魔族が如何に力を持っているのか(うなず)ける。

 そしてサリ様と過去の勇者が五百年くらい前に魔族と戦った歴史が有り、それから人間と敵対しなくなり今がある。


「ゼロです。本気で怒らせたらこの国が崩壊するでしょう。

 そこで、機械的技術革新のためブロイゼンへ。

 新たな武器を手に入れることと、剣術をさらに高めるため遠い東の国ヒノモトへ。

 魔女アモールに何か鍵があると思うので、魔族の国アスモディアへ行こうと思っています。

 そのためには空飛ぶ乗り物である飛行機の完成を待たなければいけません」


「この前渡したお金で費用は何とかなりそう?」


「順調に進めば足りると思いますが、テスト飛行をしてから直す必要が出てくるかも知れませんので、今は何とも……」


「ふーむ、その飛行機次第ね。

 あなたはまず飛行機の完成に全力を尽くしてちょうだい。

 エリカさんとあなたの功績に報いるため、何かしてあげたいの。

 二、三日待ってもらえるかしら?」


「今回はとんぼ返りのつもりでしたが、それくらいなら構いません」


「よろしくね。他に何か必要なことがあるかしら?」


「アーテルシア…… いや、アイミとエリサレスのことは引き続き秘密厳守にして下さい。

 アイミはガルシア侯爵の指示の元、私の監督で上手くやっていきますから」


「わかりました。レイナルドなら上手くやってくれると思うわ。

 諸悪の根源だった元邪神を許す許さないは別にしても、のうのうと目の前で生きていることは正直な気持ち、私は嫌よ。

 でもね、神様相手に私たち弱い人間ではどうしようもない。

 それなのに神様が一緒に居てくれるなんてあなたしか出来ないことだから、せいぜいちゃんと手綱(たづな)を握って私たちの利益になるようにしてちょうだいね」


「――はい」


 さすが女王やってるだけあって(したた)かである。

 アイミは悪さをしないだろうが、性格は変わっていなさそうだから上手く制御できるか少々不安だ。


「あと、私のこともあんまり英雄や勇者して名を広めないで欲しいです。

 私のガラじゃないし、いろいろ面倒になりますから」


「そう、残念ね。でもヴェロニカと結婚したら必然的に有名になるわよ。うふふ」


「顔がわからなければ大丈夫ですよ。

 ヴェロニカも、旅の途中で大衆飲食店に入っても全くバレませんでしたから」


「何だか手に取るように様子がわかるわ。おっほっほっほ」


 女王との話はそういうことで落ち着いた。

 あとの用事はアリアドナサルダへ寄るだけだし、三日ぐらい滞在するのでシルビアさんともゆっくり出来そうだ。


「ロシータ。今ここで話をしたことは特に口外厳禁よ。

 あなたの誠実さと勤勉なところを見込んでシルビアの代理をお願いするんですから」


「は、はい! 肝に銘じておきます!!」


 執事見習いのロシータちゃん。

 ルナちゃんたちと同じ十六歳で、最初に王宮へ来たときはエルミラさんのお付きメイドだった。

 あまり話したことは無いけれど、四人の中で唯一の貴族出身で兄弟姉妹の下の方だから、有って無いような家督を継ぐ権利を完全に放棄して王宮へ働きに来たそうだ。

 ブロンドの髪で可愛いというより美しく、真面目そうでキリッとした雰囲気の彼女はエルミラさんに好評だった。

 モニカちゃんとは正反対の性格と言えよう。


---


 女王との会談の後は、個室でシルビアさんと二人で昼食。

 お腹の子と共に身体の調子は良いそうで、安心した。

 彼女は事情を承知の上でずっとニコニコしており、不幸だった戦いを癒やしてくれているようだった。


 昼食後はアリアドナサルダ本店へ。

 今回はインファンテ家に寄らずお店だけ行くことにする。

 平日だしレイナちゃんも学校だろう。

 お店でロレナさんに取り次いでもらい、奥の部屋へ案内された。


「まあマヤ様!!

 もしかして私に会いにいらしてくれたんですか? 嬉しい!」


「あいや…… 陛下へ急ぎの用事が出来たので、せっかくだからマカレーナ店の企画書と少しばかりのデザイン画を持って来たんです…… あはは」


「あらそうなんですの?

 それでは早速デザイン画を拝見させて下さいまし」


 ミランダさんが作った渾身の企画書より、私が適当に描いたぱんつの絵が先かよ。

 ミランダさん報われないなあ。


「んまああ!! なんて可愛らしいの!!??

 これも絶対売れますわ!

 小さな女の子の下着は盲点でした。

 さすがマヤ様ですぅ!!」


「小さなレディの身体も大事ですからね」


 とうとう女児向けぱんつのデザインにまで手を出してしまった。

 この国で幼年学校、つまり小学生くらいの歳の女の子はかぼちゃぱんつを履くか、白い綿パンを履くのが普通だ。

 十一歳か十二歳くらいからだんだんと大人向けぱんつを履くらしい。

 私のデザインは、いやらしくない程度にピンクでひらひらレースが付いた少しだけ大人っぽいもの、王道のくまさんぱんつの他に動物や花柄、縞々ぱんつ。

 それから成長が早いの子のために、可愛いデザインのサニタリーショーツも用意した。

 ロベルタ・ロサリオブランドのぱんつは、可愛い且つ快適なことがモットーである。


「マヤ様は下着の革命家ですわ!

 今度は是非、男の子用の下着もお願いします!」


「はい…… わかりました」


 ロレナさんは興奮気味で握手をし、ぶんぶんと振り回す。

 男の子もブリーフとボクサーパンツの格好良くて可愛いのを描いておくか。

 帰るまでに何枚か描いて渡すことにしよう。


「今日はレイナには会って行かれませんか?

 歓迎いたしますわよ」


「申し訳ありません。

 王宮で他にもいろいろと用事があるものでそれからすぐにマカレーナへ帰りますから、次回ゆっくりお邪魔させて下さい」


「そうですかあ。残念ですぅ……」


 シルビアさんに会うため、月に一回は定期的にマドリガルタへ行くつもりなので今は無理して会う必要無いだろう。

 時間が短いのでシルビアさんと過ごす時間と、モニカちゃんにエリカさんのことを話すことが大事だ。

 とくにモニカちゃんのことは心配でたまらない。


---


 王宮に戻り、女王の寝室がある棟へ向かいいつもの部屋へ。

 もはや勝手知ったる他人の家であり、警備兵にも顔パスである。

 変装名人の大泥棒三世がいたらどうするんだ。

 夕食までずいぶん時間があるので、男の子用下着のデザインでも考えよう。


 二時間ぐらい経ったろうか。

 デスクで下着デザインのラフ画を数枚描き終えたところだった。


 コンコン


「マヤさまあ。失礼しますぅ」


「ありゃ、モニカちゃん」


「へへへ。給仕長に頼んでマヤ様の担当にさせてもらっちゃった」


「意外に自由だね」


「この先しばらくはお客様相手の仕事が無くて、掃除や配膳と案内ぐらいしかすることなかったんですよ。

 それなら誰でも出来ますからね」


「それで玄関ホールに出迎えで並んでいたんだね」


「そういうこと。ふふん」


 さて弱った。

 デザイン画を描くことに夢中で、モニカちゃんにどう話そうか心の準備が出来ていない。

 ぶっつけ本番で今言うか、それとも明日にしようか。

 ええい、同じことだ。


「モニカちゃん、急なんだけれど大事な話があるんだ」


「ええ? なんですかあ? そんな真剣な顔しちゃって。

 もしかして私にプロポーズですか?

 私たちまだ早いですよお。

 でもマヤ様だったら今でも歓迎かなあ。うひひ」


「ああ、モニカちゃん。違うんだ。真面目に聞いて欲しい」


「どうしたんですか? マヤ様、変ですよ」


「うーん…… 実はマカレーナの近くにあるラフエルという小さな街にとても強い敵が現れてね。

 それを倒すために私やエリカさんたち、ヴェロニカ王女も向かったんだ」


「え……」


 モニカちゃんはヘラヘラした表情から急に曇った表情に変わった。

 もう察してしまったかのようにも見える。


「その強敵と戦って、私はボロボロにやられてしまった。

 もう死ぬ一歩手前だった。

 そこへエリカさんが助けに来てくれたんだ」


「――」


「エリカさんは恐らく魔族の禁呪を、その強敵に使ったんだよ。

 そして見事強敵を追い払うことが出来た。

 だがエリカさんは禁呪を使ったことで身体が耐えきれず、霧のように消えてしまった……」


「それって……」


 モニカちゃんは身体を震わせ、口元もガチガチと歯の根が合わない。

 もうきちんと話すしかない。


「エリカさんは亡くなった」


「――」


 モニカちゃんは震えた身体をこわばらせ、座り込んだ。

 顔は蒼白になり、今にも失神しそうだ。

 だがスッと立ち上がり、両手で私の胸ぐらを(つか)んだ。


「ウソだ…… ウソだウソだ!!

 マヤ様はいつもみたいに私に冗談を言ってからかっているんだ!!」


「嘘じゃない」


 モニカちゃんが私の胸ぐらを掴んでぐらぐらと動かした拍子に、エリカさんから預かった緑色のペンダントがジャケットの内側からポロリと出てきた。


「は…… それはエリカ様のペンダント……」


「戦う前、私の代わりだと思って肌身離さずにと言って渡してくれたんだよ」


「ああ… ああああ!!

 うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 モニカちゃんは狂ったように泣き叫んだ。

 こうなると精神的に危険なのはわかっている。

 私は直ぐさまモニカちゃんをしっかり抱きしめた。

 この子にとってエリカさんはどれほど彼女の心に深く入りこんでいたのだろう。


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